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155 宿場町マトン。

(あれが閃光か……)


赤髪の剣士と一緒にいるフードを被った冒険者……聞いていた特徴と一致している。

人数が一人多いようだが、ギルド内で見た他冒険者の反応を見る限り彼女達で間違いないようだ。


(人通りが多いと尾行しやすくて助かるな)


我ながら上手く後を尾けれていると思う。

しかし彼女達の向かった先が少々まずかった。


(教会か……)


今はあまりナーサティヤ教に関わりたくない……というよりも、個人的には敵視している存在だ。

もし彼女達が教会の手先であるなら、今後の対策を考えねばなるまい。


(中に入ったのは一人だけ……)


閃光と壊し屋の二人は外で待機している。


声をかけるには絶好のタイミングだが場所が悪い。

せめてもう少し教会から離れてくれれば……。


(それにしても、閃光だけ素顔を見せようとしないのはなぜだ?)


時折ちらつく白くて長い髪、たしかに街中では目立つ……か?

しかし珍しいというだけで隠すほどではないはず……。


(……いや、女性が素顔を隠すのは消えない傷跡を隠すため……だな)


と一人で納得していると、彼女達は教会から移動し始めていた。

待機していた時間的には軽く祈りを捧げた程度だろうか。


(中に入ったのが一人だけというのもよくわからんな。教会との関係性に関しては保留にしておこう)


今度こそ彼女達は王都の南門へと向かって行った。


最悪こちらの正体を明かすことも考えると、できるだけ人気のない場所での接触が好ましい。

下町を抜ければ、自然と人気は少なくなってくる。

そのタイミングでなんとか声をかけたいところだ。



門を出て下町へ移ると、隠れられる場所は多いが人通りが減ってしまった。

なんとかまだ一定の距離を保てているものの、気づかれるのは時間の問題かもしれない。


(馬車は使わないのか……?)


であれば、彼女達の目的地はそれほど遠くはないのだろう。

案外接触するのは簡単かもしれないな。

あとはどうやって情報を引き出すかになってくる。

素直に口を割ってくれればいいが……。


「よし、そろそろいいだろう」


下町を抜け街道に出ると、彼女達は近くの森へ入って行った。

なんてお誂え向きなんだ。


こちらも急いで森へと入った。

あまり奥へ入られると探すのが難しくなる。


時は満ちた――――今すぐに声をかけよう。


「突然すまない、少し尋ねたいことがあるのだが――


「ギギャッ?」


そこには一匹のゴブリンが立っているだけだった……。





「まさか森に入ってすぐに見失うとは……」


おまけに群れからはぐれたと思われるゴブリンに出くわすとは思わなかった。

一匹程度どうということはないが、声をかけた相手が魔物とは自分がマヌケに思えてくる。


「護身用に一応帯剣しておいて正解だった」


彼女達が今日中に戻ってくる保証はないので、今日は出直すことにして帰路についた。


(……下町をこうしてゆっくり歩くのは初めてだが、思ったより活気があるな)


自身の周囲の人間はあまり下町に良い印象を持っていない。

しかしこうして屋台の並ぶ道を歩くと……なかなかにやっかいな匂いがする。


「……彼女は辛い物が好きだったな」


なのに親しい友人は甘い物が好きだった。

そんな彼女との思い出を振り返ると自然と笑みが零れてくる。


だから私は――――彼女を取り戻すまで決して歩みを止めることはないだろう。


「おい、止まれ! 身分証はどうした」


「……え?」


南門を戻ろうとすると、武装した門番が立ち塞がった

しまった……入るときには必要だったか。


「なぜ身分証を出さない……怪しいな」


「い、いや、決して怪しい者では……」


門番がちゃんと仕事をしているのは感心だが、悪目立ちするのはまずい。


「……こ、これでいいだろうか」


身分証は持ってないので、代わりに紋章の彫られた指輪を見せる。

これがダメだったら不審者として拘置所行きか。


「なんだそれは。身分証では……な……え?」


門番の表情が固まり、青ざめた顔になる。

良かった、どうやらわかってもらえたらしい。


「これは王家の……って! あなたは殿――――


「シーッ! こんなところで騒ぎを起こす気か」


慌てて門番の口を手で塞ぎ黙らせる。

すでに周りの目を引いているが、これ以上はまずい。


「いいか? 私は今日ここには来ていない……いいな?」


戸惑っている門番に、そっと金貨を握らせる。

すると、門番の表情が一瞬で真顔へと変化した。


「うむ、問題ないようだな。通っていいぞ」


恐ろしく現金な奴だ……先ほど感心したのは間違いだった。

今は助かるが、王都の治安を考えるとこの門番は問題があるだろう。


「あっ、誰でも通すわけじゃないですからね?」


こちらの考えていることがわかっているかのように、門番は小声でそう付け足した。



◇   ◇   ◇   ◇



案の定リズとシルフィの走る速度は恐ろしく速かった。

それでいて二人とも涼しい顔をしている。


対して、こちらは何の障害物もない空を飛行。

なんとか付いていけたが、ものすごく疲れました……。


僕が呼吸を整えている間、リズとシルフィは尾行犯のことを話していた。


「どこまで付いて来るかと思ったが、下町を抜けたらあっさり諦めたな」


「最後まで雑な尾行でしたし、何が目的だったんでしょうね」


尾行犯にはとても追えない速さだっただけだと思います。



「ふぅ……とりあえず昼食にしましょうか」


本来なら馬車で丸1日かかるところだが、ホントに丁度お昼時に着いてしまった。

おかげでいろんな所から香ばしい匂いがしてくる。

宿場町というだけあって宿が多いが、同じように食堂や屋台も多く立ち並んでいた。


「それにしても冒険者が多いですね」


「目的は私たちと同じだろうな」


リズが指を差した方角には【マトン湖のマットン】と書かれた看板が立てられていた。

謎の四足歩行のシルエットまで描かれており、見事討ち取った者には金貨50枚とも書かれている。


「これ依頼っていうか……」


「えぇ、エルさんの思っている通りでしょうね」


シルフィも少し困ったような表情をしていた。


あの依頼は、単なる広告のようなものだったのかもしれない。

マトン湖のマットン……もはやご当地キャラクターのような扱いだ。

そしてそれは、屋台の商品としても売り出されていた。


「マトン名物マットン焼き……?」


焼き立てなのか良い匂いする。


「おう、嬢ちゃんたちどうだい」


「いや僕は嬢ちゃんじゃ……まぁいいか。じゃあ3つください」


屋台のおじさんに渡された熱々のマットン焼きは、タイ焼きに手足を加えたような見た目だった。


「マットンってこんな見た目なんですか?」


だとしたらちょっときもぃ。


「どうだろうなぁ、何せはっきりとその姿を見たことある人がいないからな」


「……どういうことです?」


おじさんの話を聞きながらマットン焼きを一口……中には特に何も入っていない。

生地だけのタイ焼きを食べてる気分だ。


「どうもこうも、恐ろしい速さで動くからな、水飛沫でまともに捉えられんのさ。それでも目の良い奴や魚影を確認した奴の情報をまとめた結果、こういう姿になったわけだ。」


「なるほどねぇ……」


リズとシルフィも、マットン焼きの見た目に怪訝な表情をしていた。


「エル、まさかこれが昼食か……?」


「いやいや、もちろんちゃんとした食堂に行きますよ」


さすがにちょっと味気ないからね。


「嬢ちゃんたち、食堂なら湖の畔がおすすめだよ」


ちょっと失礼だったかもしれないが、屋台のおじさんは嫌な顔一つしていなかった。

情報提供、ありがとうございます。



しばし歩くと、町とさほど変わらぬ規模の大きな湖へと辿り着いた。

さすがに畔まで来ると宿はないが、開放感のある食堂や屋台が立ち並んでいる。


(まるで海の家だな……)


湖のこんな近くで食事って……ホントに討伐対象はいるんだろうか。

呑気に釣りをしている人の姿も見かける。


あまり期待はできないが、一先ず適当な食堂へ入る。

メニューも何かと変な名前のものが多い。


「……じゃあ僕はこのマトン湖名物マードルで」


「私も同じ物でいい」


「名前が変わっていて何が何なのかさっぱりですね。私も同じ物でお願いします」


結局3人共同じメニューになった。

そして程なくしてやってきたのは――


「……焼きそばじゃん」


味は……普通だった。




昼食を終えた僕たちは、まず情報収集に動いた。


聞くところによると、この湖には主以外の魔物らしい魔物がいない。

だからなのか冒険者の中には、薄着になって湖に潜っていく者もいる。


(これで姿をはっきり捉えた人がいないって……実は町興しにおけるプロバガンダなのでは?)


ここ宿場町自体、数年前はもっと寂れていたらしい。

理由としては、王都が近い上に街道が整ったので立ち寄る者が減っていったそうな。


それが今では一攫千金を夢見た冒険者がやってくるようになったと……。


「どうする? 一応まだ日暮れ前には帰れると思うが……」


リズの言うように諦めて帰るというのも一つの手だ。

この依頼には失敗時の違約金も設定されてないし。


「せっかくなんで一泊ぐらいしていきましょうか」


何せ二人の足に付いて行くのは気合が要りますんで。


「エルさん、宿を取るなら早くしたほうがいいですよ。冒険者が多いと手頃な部屋はすぐに埋まってしまいますから」


たしかに……大部屋で雑魚寝とかはちょっと遠慮したい。



しかし……その心配は杞憂だった。

なぜなら、この町には一攫千金を夢見る冒険者が多いからだ。

そういった者ほど金を持っていない。


「つまり、高いところしか空いてないわけですね……」


そこそこ良い部屋程度で良かったのだが、一人金貨1枚の高級宿に泊まることになってしまった……。

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