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015 空飛ぶガンマン。

「平和だなぁ……」


ダイカサの街を目指して、馬車に揺られながら空をみていた。

ミストの街から北側は、魔物もあまり出ないためすごく平和だった。


「たしかに北側の街道は滅多に魔物も出ない。だがまったく出ないわけじゃないぞ?」


隣に座っているリズさんが、剣の手入れをしながら注意を促す。

柄がややひしゃげているようだ……そりゃあんな怪力じゃあそうなるよね。


「エルと出会う前にも、北側の森にある浅い洞窟でゴブリンを数匹見かけたぐらいだ」


「……見かけてギルドに報告を?」


「安心しろ、私なら瞬きしている間に数匹ぐらい切れる」


つまりそういうことだ、と言いたげな顔だった。

そういうことじゃないんですけどね。


「だが不思議なことがあってな。焼くなり埋めるなりするのを忘れていて、翌日様子を見に行ったら処理してあったんだ」


「……不思議なこともあるもんですね」


討伐に行った人ごめんなさい。

犯人この人です。


「この剣ももうもたないな」


……も?

一体何本の剣が犠牲になったのやら……。


「中央都市に行くのはもっと良い剣がほしい、とかですかね?」


「良い剣、というよりは頑丈な剣がほしいな」


普通は切れ味とかを追求するものじゃないのかな。




「そろそろお昼ですし、女将さんにもらったお弁当をいただきましょう」


ポーチから包みを取り出して、リズさんに渡す。


「まだ温かい……便利なポーチだな」


「そうですね、高いらしいので内緒ですよ」


包みの中にはライ麦パンのホットサンド。

チーズの香りが食欲をそそる。


「――ッ!」


外はカリカリ、中はふわふわ、そしてパンと融合するかのようなベーコンとチーズの最強タッグ。

そしてマスタードの酸味がくどさを抑え、レタスの潤いが次の一口を誘い――――


「ふふっ」


……なぜ笑うんだい?




「今日はこの辺までですねぇ」


チロルさんが街道を少しはずれ、馬を止める。

日が落ちてきたので野営の準備、テントと焚火の準備に取り掛かる。


「リズさんはテントをお願いします。僕は火を起こしますんで」


ポーチからテント一式と焚火用の薪、麻の繊維のようなものを取り出す。


「良いマジックポーチを持ってますねぇ、羨ましいですぅ」


「あっ……」


チロルさんに見られていたのか、あるいは道中のリズさんとの会話でも聞かれていたのか……。


「言いふらしたりしませんよぉ、商人は信用第一ですからねぇ」


「……でもほしいとか思ったりしないんです?」


「行商人がそんなの持ってたらぁ、格好の的ですよぉ」


「そうなんです?」


「そうですよぉ、持ち運びが楽ってことはぁ、盗む方も楽ってことですぅ」


言われてみればたしかに。

強い行商人なら抵抗できるんだろうけど……強い行商人ってなんだよ。


でも時間遅延も組み込んであるなんて知ったら、話は変わるだろうな……黙っとこ。



気を取り直して焚火の準備に取り掛かる。


「枯草はその辺で集めて、そして大事なのがコレ」


松ぼっくりを取り出す。

薬草採取の際に拾っておいたのだ。


「まさかこの世界にも松ぼっくりがあるとはね」


まずは麻の繊維っぽいものに……


「威力を抑えて……ライトニング」


術式をちょっとだけいじり、静電気程度の電気を起こし、繊維で火を起こす。

そしてそこに枯草と立てかけるように薪を、枯草が勢いよく燃えだしたところで松ぼっくりを投入。

パチパチと音を立てながら火の勢いはさらに強くなり、薪が燃え始める。


「ほー、器用な魔法の使い方をするんだな」


「使える魔法の数は少ないですけどね」


覚えるだけでも大変なんやで!




周囲は真っ暗になり。チロルさんは荷台で寝床の準備をしている。


そしてこちらは、夜は交代で見張りをするため、遅めの夕飯にする。

ライ麦パンを取り出し、ナイフで切り口を入れる。

あとは燻製肉と焚火で軽く炙ったチーズを挟む。


「さぁ、おあがりよ!」


「あ、あぁ……それにしてもそのポーチは便利だな。バッグだと私は戦闘の時に邪魔になるかもしれんが、そのポーチぐらいの大きさならそれもないだろう」


たしかに、いくらぐらいするかわからないけど。

リズさん用にもほしいね。


「色々物資も入ってますんで、僕が寝るときはリズさんに預けますね」


「いいのか? 高価なものなんだろう?」


「中に入っているものはパーティの共有財産ですから、気にしないでください」


実際個人的なものはほとんど入っていないし。


「そうか……ありがとう」


焚火に照らされるリズさんの優しい横顔に、ドキッとしてしまった。


(……美人はずるいよ)


照れをごまかすように食事をし始めた。


……うん、パンに燻製肉と炙ったチーズを挟んだ味がする。

それ以外に例えようがない、普通の味だった。



◇   ◇   ◇   ◇



翌日、手早く片付けを済ませ、再びダイカサを目指し荷馬車は進み始めた。


「なぁエル、共有財産というからポーチの中を色々確認したんだが……なぜ胡椒が? 高いのではないか?」


そこに気づくとはお目が高い。


「もし長旅になったら食に刺激がほしくなるじゃないですか」


ちょっとリズさん?

あきれた顔をしないでください。


「その気持ちわかりますよぉ、私も胡椒を扱うときはぁ、つい自分用にちょっと使ってしまうぐらいですぅ」


チロルさんがこちらを振り返りながら助け船を出してくれる。

でも商人としてそれはどうなんだ。


これでも昨晩は我慢して使わなかったんだ。

でも……


「僕もいつか自分を抑えられなくなる……そんな気がするんだ」


遠い目で空を見上げる。


「いや、使いたいなら使ってもいいが」


あ、そうですか。




「しかし今日も平和ですね」


「たしかに、暇だな……」


魔物がまったくいないわけではない、極少数の気配はたまに感じる。

だが襲い掛かってくるわけでもないので、こちらからも手は出さない。


「そうですねぇ、でもこれだけ魔物が出ないとなるとぉ、代わりに野盗が出る可能性はありますねぇ」


チロルさんの口から物騒な言葉が出てくる。


「この辺に野盗って出るんですか?」


「ダイカサの街でぇ、指名手配されてるのはぁ、見たことありますぅ」


「ほう……」


リズさんが興味を持ってしまった。

人間が真っ二つになる瞬間はちょっと見たくないな。



◇   ◇   ◇   ◇



翌日、もう少しでダイカサが遠目に見えてくる……という辺りで、荷馬車は取り囲まれていた。


「野盗の話なんてするからホントに出ちゃったじゃないですか」


「なに? じゃあもっと早めにしておくんだったな」


どうしてそうなるの?


荷馬車の前方に僕が、後方をリズさんが守る。

野盗は前方と後方に2人ずつ。


「お頭ぁ、女3人みたいですぜぇ」


「チッ、男はいないのか」


この野盗、違う意味で怖いんですが。

そしてチロルさんは、荷台で外套にくるまって丸くなって震えている。


「あとはお二方におまかせしますぅ、私がケガしたらお二方を恨みますぅ」


そこは野盗を恨んで欲しい。

でもこれなら……


「リズさんは前回ぎゃくさ……活躍したので、ここは僕が全部いただきますよ」


飛行魔法で、荷馬車のちょうど真上に飛翔し滞空する。


「エル、それはまさか……」


リズさんに知られる分には構わない、そう思ったからの行動だ。

あとこうしたほうがきっと野盗のためだ。

人間のスプラッタ映像は見たくないからね。


(うん、ここからなら全員狙える)


指先からスタンテーザーを放つ――――


「あばばばばばッ!」

「ギッ――――!」

「あにゃぁぁんッ!」

「んごッ――――!」


痙攣とともに奇声を上げながら、次々と野盗は倒れていく。

合計4名、痺れてもらった。おかしな悲鳴が混じってた気もするけど……


(うーん、やっぱり射程距離だけ長くしても反動が強くなるなぁ)


マナバレット、及びそれが元になっているレイバレットとスタンテーザーは、射程距離や威力を上げるほど反動が強くなる。

今後の課題だね。


「チロルさん、もう大丈夫ですよ。縛るロープとかってあります?」


地面に降りて、丸くなって震えるチロルさんに声をかける。


「えっ? ありますけどぉ……もう終わったんですかぁ?」


「あぁ、エルが全部片づけた……ひょっとして私は、とんでもない魔法使いとパーティを組んだのかもしれないな」


僕もとんでもない剣士とパーティ組んだと思ってますよ。



ダイカサで警備隊に引き渡すため、野盗たちをロープでぐるぐる巻きにし、荷台に敷き詰め移動を再開する。


「見えてきましたよぉ、あれがダイカサですぅ」


チロルさんが指差した方向に、小さく見える街と、広い小麦畑が見えた。

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