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133 王国誕生。

それはあまり現実味のない光景だった――――

なぜか自分は、仲間であるはずの二人に剣を向けていた。


アゲハの動きはやはり卓越している。

しかし追いつけないほどでは……と思ったときには、その腕を掴んでいた。


予想以上に強力な一撃を放つシルフィに、胸が躍る。

これは一度受けてみるのも一興か……と思ったときには、つい槍を掴んでしまった。


では、次はこちらの番だな――――




「――そこでふと目が覚めたんだ」


リズの表情は至って真面目だった。


「えっと……それって夢の話ですか?」


「そうだが?」


その返答に、僕とシルフィは顔を見合わせた。


半分意識があるような状態だったと考えられる。

ある意味説明は楽かもしれない。


その役目は……当事者に任せよう。


シルフィは実際に起こった出来事として、ここまでの経緯をリズに説明し始めた……。




「つまり、アレは夢ではなかったと?」


「そういうことになりますね」


リズは自分の手を睨みつけ、ギュッと握りしめる。


「不覚……力に溺れるなど……」


そしてシルフィとアゲハに向かって頭を下げた。


「謝って許されることではない。二人とも、気が済むまで私を殴ってくれ」


リズの言葉にシルフィは困惑した。

僕としてもリズの意志は尊重したいけど、同じこと言われたら絶対に困る。

でもどう答えるのが正解か難しい。


しかしアゲハさんは素直に答えた。


「殴ったこちらが怪我しそうなのでやめておきます」


だよね、僕なら一発で腕を痛める自信がある。


リズは困った顔でシルフィを見るが、苦笑いでごまかされる。

多分、似たような理由なのだろう。


僕はというと、困ってるリズが珍しいので眺めておいた。



結局申し訳なさそうにリズが折れる形になったところで、アンジェリカさんが話の流れを変えた。


「ところでお姉さま、原因に心当たりとかありませんか?」


「原因か……そういえば、妙な気配の男に魔石らしきものを渡されたな。もちろん受け取ったわけではないが、その後魔力を抑えきれなくなった」


リズの口から出た魔石という言葉に、遺跡の核が脳裏をよぎる。

たしかにあの時感じたのは、魔神化したアンジェリカさんに似た気配だった。


「まさか遺跡の核……? でも公国に残ってるのは未踏破の遺跡だし……。かといって他国の遺跡は魔神の力とは別物、核なんて存在していないはず」


アンジェリカさんは一人ぶつぶつと呟き始めた。


「他の国にも遺跡ってあるのか……」


「えぇありますよ。ただ遺跡の核があるわけではなく、古い建造物に魔物が住み着いているだけですが」


僕の疑問にシルフィが答えてくれた。

公国の遺跡は特別らしい。


「たしか最高傑作……とも言っていた気がする。それに真っ黒な魔石だったな」


リズの言葉に、アンジェリカさんは腕を組んで考え込んだ。


「最高傑作……? 人の手で魔神化レベルの魔石なんて作れるのかしら」


そんな物が作れるなら、とっくに師匠が作ってそうだ。

仮に作った人間がいるならさぞご高名な人だろう。


「その妙な気配の男というのは、どんなヤツだったんです?」


「それなんだがな。なんとなく既視感があって、それでいてホントにそこにいるのかどうかあやふやな気配の男だった。いや、今にして思えば男かどうかも怪しいかもしれん」


正体はわからない、ということがわかった。



結局何もわからず仕舞いで場が静かになった頃、一人の兵が報告へやってくる。


「アンジェリカ様、使用人の部屋にて皇帝を発見。身柄を拘束しました」


「使用人の部屋で……? わかったわ。聞いての通りよ、私は行くけど、あなたたちはしばらく休んでてもらっていいわ」


そう言ってアンジェリカさんは部屋を後にする。

残された僕たちは、お言葉に甘えてもうしばらく昼寝することにした。



◇   ◇   ◇   ◇



戦いから数日が経過し、僕は帝都の外壁の上で街並みを眺めながら物思いに耽っていた。


帝国の領土はすでにほとんどが公国の手に落ちており、東側を支配していた魔帝国はワーミィという旗印を失って機能していない。

そしてお飾りの皇帝すら失った今、帝国は声明一つで消える存在になっている。


「これで僕らの役目も終わりか」


もう僕が表舞台で公女役なんてする必要もないだろう。

なにせ本物の公女であるアンジェリカさんがいるし。



孤児院の子たちも無事保護されていた。

だがこちらは何かと時間のかかる問題がある。


帰る家がある子は帰してあげたいところだが、無気力症状を治療してあげないといけない。

これにはメッサー公爵が協力的だった。

ついでに本来の用途での孤児院も新たに設立するらしい。


「あっさりアンジェリカさんの下についたよなぁ……」


メッサー公爵があっさりアンジェリカさんにしっぽを振ったので、戦後の流れは非常にスムーズだった。

でも僕と目が合ったら苦笑いだった……謀反の企てを台無しにしてごめんなさい。



ダン、ニコル、ミモザの3人もてっきり孤児院にと思ったが、最後まで魔帝国の支配に抗っていた彼らのことを、メッサー公爵は偉く気に入っていた。


「公国兵に、俺はなる!」


ダンは目を輝かせてそう宣言した。

せっかく公爵の後ろ盾があるんだから、もう少し高い目標があってもいいのに。


「僕は公爵家で色々学ばせていただこうと思ってます」


ニコルはメッサー公爵家で使用人見習いの道を選んだ。

彼は大人びてるし、一番心配いらないだろう。


「みんなやりたいことあっていいな……」


ミモザは指をくわえてこちらを見ている。

僕にどうしろと言うんだ……。

まぁ彼女のことは公爵に任せておけば、きっと悪いようにはしないはずだ。



帝国だった領地が公国として機能していくには、まだまだ時間がかかるかもしれない。

しかしこれで公国の領土はかなり広くなる。

東側の魔帝国に残党は残ってるかもしれないが、それも時間の問題だ。


そんな折、僕の偽公女としての最後の仕事がやってくる。

といってもアンジェリカさんの隣に立っておくだけの簡単なお仕事だ。

正式に帝国との戦いが終わり、これから公国になることを宣言するのだろう。



「戦いは終わった。カトル帝国という国はもはや存在しない――――」


民衆の視線が集まる中、アンジェリカさんは高らかに宣言する。


この内容は帝国だけでなく、世界に向けても発信される。

他国にはあくまでも書状で伝わることになるが、前もって根回ししてあったのか、見知らぬお偉いさん方の姿もチラホラ見かけた。


(お、マーカス侯爵も来てるな。じゃあシルフィの師匠、アイギスさんも伯爵として……)


……そちらは来ていなかった。


こういうお堅い場は苦手そうだもんな。

正直僕も、立ってるだけでいいとは言われたものの居心地はあまり良くない。


そんな中アンジェリカさんの声が一際強くなる。

おそらくこれで終わりになるはず。


「――――よってここに、エルラド王国の樹立を宣言する!」


一瞬の静寂の後、大きな喝采が湧いた。


(王国……? 今王国って言ったよね? そうかそうか、これから王国になるのか……)


アンジェリカさん、けっこうすごいことしてるのでは?

と他人事のようにその光景を見ていた。


後にそれが――――自身にとって大きな影響を及ぼすとは知らずに……。



◇   ◇   ◇   ◇



中央都市エルヴィン内にあるエルラド城内で、深い眠りについていた男の瞼がそっと開く。

そして見覚えのある天井に、開口一番悪態をついた。


「天国ってのは案外普通なんだな……いや、地獄か?」


視線を動かすと、そこが自身の寝室なのがわかる。

そして自分が生きている、と理解した。


「死に損なったか……」


とはいえ、まだ頭がボーっとしている。

一体どれだけの時間眠っていたのか。

体を起こそうにも気だるさが邪魔をする。

誰か人はいないものか……。


そう思った矢先、扉の開く音が聞こえた。

丁度良くメイドがやってきたようだ。


「朝なのかどうかもわからんが、おはようと言うべきかな」


エルラド公の言葉に、メイドは目を丸くして固まった。

まるで時間が止まったかのようだ。


そして次に聞こえてきたのは、城内に響き渡るほどの大きな悲鳴だった。


「まるで化け物でも見たかのような反応じゃないか……ちょっと傷つくぞ」

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