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013 実は狂戦士なのでは?

今、僕の目の前には、ゴブリンの死体がいくつも転がっている。

胸に穴が開いていたり、上半身と下半身が分かれていたり、首から上がなかったり、人型であるはずのゴブリンが箱型に変形していたり。

どれも見るに堪えない無残な姿に……。


「お願い、戦わないで逃げて……ゴブリンさん」





時は少しだけ遡り、今朝の出来事である。


「パーティ名ですか?」


今日は朝から、冒険者ギルドでパーティ登録を行いに来た。

パーティ登録をしないで依頼を達成しても、報告した個人の功績になってしまうからだ。


「はい、パーティ名をカードに刻みますので」


今日も知的な受付嬢さんは、丁寧に説明してくれる。


とはいってもだよ。

あくまでお試しなわけだから、今そこまでする必要はないと思うのだが……


「ふむ……紅白、なんてどうだろう?」


リズさんはノリノリだった。

しかしネーミングセンスがちょっと……。


「それ髪色だけで決めてません?」


僕の白い髪と、リズさんの赤い髪で紅白?

元日本人としては、縁起の良い名前なのはわかるけど遠慮したい名前だ。


「むぅ、じゃあエルが決めてくれ」


「ゴリラギャング団とかでいいんじゃないですか?」


「ゴリラ……? 何か知らんがカッコイイじゃないか」


「嘘です、ちょっと考えるんで待ってください」


てきとうなこと言ったら危うく決まってしまうとこだった。


しかし名前か……たしかに髪の色は特徴として大きいよなぁ。


「……ローズクオーツとかどうですか?」


「ふむ、装飾品によく使われる鉱石だったか」


良かったこっちの世界にもあった。


「いいんじゃないか? 私はさっきのゴリラなんとかのほうでもいいが」


「ローズクォーツでお願いします!」




「それではローズクォーツで登録しました」


受付でギルドカードを出すと、ローズクォーツの名が刻まれていた。


(ホント、名刺みたいだ)


さて、あとは依頼を受けて……


「エル、これにしよう」


リズさんが持ってきた依頼書には、ゴブリン討伐と書かれていた。



◇   ◇   ◇   ◇



ゴブリン討伐は、ゴブリンの右耳が討伐証明になり、討伐数×青銅貨2枚になる。


これなら常駐依頼でいいのでは? とも思ったが、受注型にしておかないと、勝手に討伐に行って帰って来なくなる冒険者がいるからだ。

受注型にしておけば、何かあっても早期発見が期待できるということらしい。




(やっぱりゴブリンって緑色なんだね)


僕は今、ゴブリンの右耳を無心で切り取っている。


そして、リズさんはというと……


「遅い! 脆い! そんなものか!」


右手の剣でゴブリンを真っ二つにしながら、左手でゴブリンの頭を握りつぶしていた。


「なんで……なんで向かって行くのゴブリンさん」


彼らは皆、戦士の顔をしていた。

そしてリズさんは楽しそうな顔をしていた。



「グギャーッ!」


たまにこちらに向かってくるのもいるので、眉間にマナバレットを撃ちこんだ。


「ごめんね……」


もはやゴブリンが哀れに思えてくる。


………………


…………


……


「全部で10体ぐらいか? 思ったよりあっさり終わったな」


「そ、そうですね……」


僕は2体しか倒してないんですけどね。


魔物とはいえ、人型の生き物の命を奪うのは躊躇する自分がいるのではないか……なんて思ってた。


だがあまりにも狂気的なものを見たせいで、そういう考えは吹っ飛んでしまった。

もはや剣士というより狂戦士だよ。


「エルの魔法は変わっているな、無駄がない。オリジナルなのか?」


「えぇ、まぁ……」


――――その時、10mほど先に、もう1体魔物の存在を感じた。


「リズさん」


「あぁ、わかってる」


岩陰から、緑色のゴブリンとは違う、人間に近い肌色、でっぷりとした腹、豚鼻の魔物――――


(もしかして、これはオークなのでは?)


オークの討伐依頼はCランクからなので僕たちでは受けられない。

つまり格上なのだ。


「なんだ? 変わったゴブリンだな」


リズさんは無造作に近づいていく。


「ちょっ! リズさん! どう見てもそれゴブリンじゃないから!」


「ハハハッ、何を言っている。こんなに弱いんだ、きっとゴブリンだろ」


オークらしき魔物の目の前で、こちらを振り返り返事をするリズさん。


危なッ――――

と思った矢先に、ズシンと音を立てて魔物は倒れた。

その土手っ腹には風穴が開いていた。


……実は前世ゴリラなのでは?




「これ絶対ゴブリンじゃないですよ……」


「しかしな、手応え的にはあれらと同じだったぞ?」


リズさんの指差す方には、大量の肉片がある。

どんな判断基準なの。


「絶対ゴブリンじゃないですよ。こっちは耳取っても討伐証明にはならないでしょうし……リズさんって解体とかできます?」


「素材として、という意味なら難しいな。バラすだけなら得意なんだがな」


でしょうね。

周囲の惨状だけでそれはわかります。


「じゃあそのまま持って帰るしかありませんね」


中が血塗れにならないことを祈って、ポーチに仕舞う。

時間遅延がどれぐらいのものかわからないから不安だ。


「ほう、マジックバッグか? その大きさのものが入るのか……」


「あっ……」


そういえばリズさんには、ポーチのこと言ってなかった。

パーティを組むのなら言っても良かったのかもしれない。


「内緒にするつもりではなかったんですけど……」


「いや、高価なものというのは知っている。昨日今日知り合ったばかりの者に話さないのは当然だ」


先ほどまで暴れていた人とは思えないほど理解がある人だ。


「そう言ってもらえると……っと、そういえばゴブリンの死体はどうしましょう。そのままってわけにもいかないですよね」


死体そのままなんて衛生的にちょっとね。


「普通なら燃やすなり埋めるなりするのだろうな。だがこの辺りにはブラックウルフも出るからな、道中やつらの痕跡もあったし、放っておけば胃袋に収めるだろう」


痕跡なんてあったんだ、全然気づかなかったよ。



◇   ◇   ◇   ◇



「はい、ゴブリン10体討伐たしかに確認しました。こちら報酬の銀貨2枚です」


ギルドの受付で報告をし、報酬をもらった。


「ホントに取り分は均等でいいんですか? ほとんどリズさんの成果ですよ?」


「パーティとはそういうものだろう? それに、適材適所というものがある。今回はそれが私だっただけだ」


一々考え方がカッコイイ人だな。

姉御って呼んでしまいそう。


「まぁ、たしかに揉める原因にはなりそうですね。じゃあ今後も均等割りで」


今度はリズさんに楽してもらおう。


「じゃあ次は素材買取のほうですね、オークを買い取ってもらわないと」


「あれはゴブリンだと思うんだがなぁ」


まだ言ってるよ。



「お、今日はどうした? また角ネズミじゃねーだろーな」


どうやら、こちらの顔を解体のマッチョのおっさんは覚えていたようだ。


「違いますよ、でもここだと邪魔になるので……」


さすがにあのサイズを、ここでポーチから出すのはなぁ。


「んー? あぁ、じゃあ作業場のほうに頼むわ」


何かを察してくれたらしい。

この筋肉は空気も読めるようだ。




作業場には、作業中の従業員が数名いたが、とくにこちらを気にしている様子はなかった。


(みんな作業に集中してる、職人って感じだなぁ)


これならこっちも気にしなくていいよね。


「この台に出していいですか?」


「おう、これでゴブリンだったら許さねーぞ」


「おいエル、謝っておいたほうがいいのでは……」


リズさんが心配し始める。

えっ? 僕の方が認識おかしいとかじゃないよね?

これ絶対オークだよね?


ポーチから、腹に風穴の空いたオーク(仮)を台に取り出す。


「おいおい、こりゃお前……」


うん、やっぱり何度見てもゴブリンではないよ。


「オークか、この辺じゃ珍しいな」


「あ、やっぱりオークだったんですね。1匹だけゴブリンの群れの近くにいたんですよ」


「あー、じゃあこいつは、はぐれだろうな。大方ゴブリンでも狙ってたんだろう」


なるほど、お食事予定だったんですね。

はぐれってのは群れからはぐれたってことだよね?


「はぐれかぁ、こういうのってギルドに報告したほうがいいんですか?」


「ん? 珍しいといってもまったくないわけじゃねぇ、心配すんな。まぁ一応俺が報告書は上げるがな」


この筋肉は書類仕事もできるのか、さすがだな。


そしてリズさんはというと……


「あんな弱かったのにゴブリンじゃないのか……」


不服そうだった。

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