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129 聖なる流れ星。

『――――舐めんじゃないよ小娘共が』



そう、聞こえたと思った時には遅かった。

足元に――大きな魔法陣が突如現れる。


これにはアゲハも驚愕した。


「――なッ!? こんなものさっきまで視えな――――」


言葉はそこで途切れ、周囲は青白い光に飲み込まれる。


「これは――ッ!」


シルフィは光に視界を奪われながらも、必死に魔力抵抗を高めた――――



徐々に光が収まっていき、周囲の異変がはっきりとしていく。

時間にしてものの数秒の出来事だったが、帝都の一区画はガラリと風景が変わる。

まるでそこだけ切り取ったように、氷漬けの世界が広がっていた。


「ったく、後処理がめんどうになっちゃったじゃない」


豹変した背景の中に、ゆっくりとマリオンは着地した。

すると一瞬よろめき、流血した頭を抑える。


「あーくそッ、あの小娘思いっきりやってくれたわね」


しかし頭から手を離すと、すでに血は止まり傷は消えていた。

そして視線は一際大きい氷へと向けられる。


そこには氷漬けになったアゲハの姿があった。


「さすがに躱せなかったようね。さて、後はこれをクソ魔女に送りつけて――――」


マリオンは背後に気配を感じ、咄嗟に防御魔法を展開する。

そこへ1本の槍が襲い掛かった。


「――手応えが違う!?」


シルフィの攻撃は魔力の壁に阻まれその場で静止する。

それをマリオンは涼しい表情で見下していた。


「あら、こっちが無事だったの……意外だわ」


「くッ……」


シルフィは一旦後方へ跳び退き構えなおした。


「さきほどまでは本気ではなかった……ということですか」


「あぁん? んなわけないでしょ」


そう答えたマリオンの魔力反応は、限界を知らないかのように膨れ上がっていく――――


「――まだ本気なんか出しちゃいないよ!」


向けられた手から青白い光が放たれる。


今度も耐えられる保証はない。

そう即座に判断し回避に徹した。

アゲハほどではないが、シルフィの素早さも十分常人離れしている。

それこそ大袈裟なぐらいに躱せば当たることは――――


「――がッ!?」


シルフィは背後からの鋭い衝撃に、前のめりに倒れた。

遅れてやってくる痛みに視線を向けると、左肩に氷の槍が突き刺さっている。


「こんな……一体どこから……」


当然敵の援軍がいるわけでもない。

背後からの奇襲に困惑するシルフィを見て、マリオンは笑みを浮かべた。


「心臓に風穴開けるつもりだったんだけど、運が良かったわねぇ」


「……日頃の行いですかね」


シルフィは弱味を見せないように立ち上がると、肩に刺さった氷を抜く。


(良し……これぐらいの傷なら問題ない)


患部に触れることなく治癒魔法で傷を癒すと、再び槍をマリオンへ向ける。


「あら、治癒が使えるのね……それもかなり上位の……ふーん」


マリオンは面白くなさそうに、再び青白い魔法を放った――――。


シルフィは先ほど同様、大きく回避行動を取る。

そして――――さらに身を捻り上体を逸らした。


「――ッ!」


シルフィは目にした。

ついさっきまで自分の上半身があった場所を、氷の槍が空を切って突き抜けていく。

それともう一つ……視界の端に、一瞬魔法陣を捉えていた。


無理な回避行動を取ったため、地に手をついて立ち上がる。


「何もないところから魔法陣が……?」


それこそ突然現れたように感じた。

思い出すように凍り付いたアゲハへ視線を向ける。


(あの時も突然足元に……)


あれはその時構築されたわけじゃない……。

なら前もって用意されていた?

しかしそれならアゲハさんが気づいていたはず……。


「……もしかして……」


シルフィは一つの可能性に気づく。

しかし気づいたところで、どう対処していいのかわからずにいた。


「器用な避け方するじゃない。無駄な抵抗だと思うけど」


マリオンは口では余裕がありそうだが、すぐに追撃はしてこない。


(してこないんじゃなくて、できない……?)


一か八か……物は試しと、シルフィは正面から駆ける。

それを迎え撃つようにマリオンの魔法が襲い掛かるが、先ほど同様に横へ跳び回避した。


「何度やったって同じさ」


マリオンの言葉通り、シルフィは回避した先で背後から魔法による攻撃を受ける。

咄嗟に身を捻るが、氷の槍は脇腹を掠め裂いていく。

――――が、シルフィは体勢を崩しながらも、再びマリオンへ向けて加速していった。


「――チッ!」


マリオンは即座に、威力より手数優先で迎え撃つ。

細い青白い閃光がいくつもシルフィへと伸びるが、その身が凍り付くよりも速く――――槍による突きが放たれた。


「これはちょっと割に合いませんね……」


槍そのものは防御魔法に阻まれ静止していた。

しかし防いだはずのマリオンは肩を抑え膝を付く。


「よく突っ込んでくる気になったね……後ろが怖くなかったの?」


「怖かったですよ。でも転移魔法って、そんな簡単な魔法じゃないですよね?」


もっと簡単にポンポン使えていたなら、今頃シルフィの攻撃は届かずに倒れていたことだろう。


「ふふっ、魔法を転移させる……我ながら天才的な発想だと思ったんだけどねぇ。狙いは多少ずれるし、連発はさすがの私でも無理ってもんだわ」


マリオンは正面から高威力の魔法を放ち、相手が回避した先に別の魔法を転移させ攻撃していた。

しかし狙いに誤差が生じやすいし、転移魔法は構築する時間がどうしても必要になる。

なので回避の度に背後から……と相手の頭に印象付けるため、即座に追撃せずインターバルを置いて攻撃していたのだ。


とはいえ、それがわかっても背後から突然現れる魔法を無視して突っ込める人間がどれだけいるだろうか。


「認めてあげるわ。あんたは強い……でも相手が悪かったわね」


マリオンはそう言って立ち上がり、逆にシルフィはその場に倒れこむ。

強引な突撃をしたことで、すでに満身創痍だった。


「さぁ……出番ですよ」


それは誰にも聞き取れないほどの小さな囁きだった。

しかしその声に――――漆黒の影が答える。


「――斬り捨て御免ッ!」


二人の間に、黒髪をなびかせた忍び装束が割って入った。

マリオンの反応は間に合わず、その肉体に横薙ぎの一閃が走る。


「な……ッ!」


なすすべもなく、マリオンは血飛沫と共に崩れ落ちた。


「韋駄天アゲハ、復活!」


「お前……どうやって……」


氷漬けになっていたはず……そう思い視線を動かすと、そこには未だ氷漬けになっているアゲハの姿があった。


「分身身代わりの術、あれは囮です」


元より本体は無事だった、ということらしい。


「分身……? そう……魔力の凝縮体だったってわけね。その歳でその域に達してるなんてまぁまぁやるじゃない」


「え? いや、魔力ではなく忍法……」


相変らず勘違いしつつも、マリオンはすぐに傷を癒し立ち上がる。

一見元通りのようではあるが、その表情には余裕がなかった。


アゲハはシルフィを抱え、サッと後方へ跳び退く。


「助かりましたアゲハさん」


「いえ……ですが、私は時間稼ぎしかできません」


その表情は申し訳なさそうだった。

そこでシルフィは、アゲハが眼鏡をかけていないことに気づく。


「実は……こちらが分身体です」





「このッ……相変わらずちょこまかと」


マリオンの魔法を、アゲハは目にも止まらぬ速さで回避していく。

背後からの転移魔法を警戒し、無駄に動き続けていた。


その様子を見ながら、シルフィは機会を伺う。


『シルフィ殿は今できる最高の一撃をお願いしたい。そのタイミングで、私が相手の動きを止めてみせます』


それがアゲハの提案した作戦だった。


(今できる最高の一撃……でも、きっとそれじゃ足りない)


シルフィは今までの自分を超える一撃でないと無理だと理解していた。


「ふぅ……」


まずは冷静に、自分の持てる力を確認する。


体は問題ない。

疲労はあるが、傷はすでに治癒魔法で治している。

魔力も問題はない……しかしシルフィは攻撃用の魔法を持っていなかった。

あと使えるものがあるとしたら……


(……最近、妙に神力の巡りがいいんですよね)


その心当たりは――――もちろんあった。


昔の自分ならそれを攻撃手段として使うなど考えもしなかった。

しかし今はイメージが持てる。

実際に使っている人物をよく知っているから――――


「――参ります」


大地を砕き、シルフィは空高く跳躍した。


重力に引かれる寸前、一瞬フワリと静止する。

そっと目を閉じ、体内の神力を具現化していく。


イメージしろ……雷よりもこの身に宿したいのは……。


「――光ッ!」


シルフィの体は淡く発光し、その手に持った槍は神々しい光を放った。

同時に、虚空を蹴って重力よりも重く、速く、地上を目指す――――


「ちょっ、あれはさすがにやば――


「逃がしません! 忍法影結び!」


マリオンはその場から逃れようとするが、アゲハの影がマリオンの影に絡みつくと身動きが取れなくなった。


「うそでしょ……」


空から降ってくる光に、マリオンの表情は引きつった。



――――聖槍流星ホーリーダイブ



光の星が――――帝都に堕ちた。


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