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127/222

127 変化する力。

「報告します! 帝都の空に閃光を確認!」


アンジェリカは兵の報告を受け立ち上がる。


「予想より展開が早いわね」


エルリットと事前に合図を決めていたわけではない。

しかしそんな露骨なサインを逃すわけにもいくまい。


「帝都へ進軍する! 全軍、40秒で支度なさい!」


「それはさすがに無理です……」


まぁ……そうだよね、なんか恥ずかし……。

アンジェリカは照れながらも、なるべく早く出撃準備を整えるよう全軍に指示を出した。



◇   ◇   ◇   ◇



様子のおかしい男は、敵味方の区別なく大剣を振り回した。


「力は大したものだが、それだけだな」


実際リズは少し間合いをとるだけで回避している。

しかし帝国兵はただ困惑し、すでに統率を失っていた。


「死にたくない者は離れていろ、帝国と共に滅びたいというのなら無理に止めはしないが……」


リズの言葉に、一人…また一人と、剣を捨て戦線を離脱していく。

逆に逃げなかったものは、暴走する男の大剣によって肉塊と化していった。


「遺跡の核がこんなところにあるとは思えんし……さて、これは誰の差し金だ?」


あの公爵か……? とも思ったが、その考えはすぐに否定される。


「――加勢いたします」


公爵邸にいた執事が短剣を2本構え、リズの隣へと姿を現した。


「どういうつもりだ? アレはお宅の護衛だろう」


「こちらが知りたいぐらいですよ。あなた方が飛び出していった後、急に苦しみ出して――――」


執事の言葉を遮るように、大剣が地面に叩きつけられ衝撃が走る。

二人はほぼ同じタイミングで後方へと跳んだ。


「良い動きだな。ただの執事ではなかったか」


「それはどうも。ところで彼……ゲオルグの異変に心当たりはありませんか? あれでも長年同じ主に仕えている同僚なんですよ、できれば正気に戻したい」


一思いにバッサリ斬っておかなくて良かった、とリズは思った。

しかし簡単に執事の言うことを信じることもできない。


「正気にね……アレが公爵の差し金ではないという証明はできるのか?」


「……できません。ですが、もしこちらの要望を叶えていただけるのであれば、メッサー公爵家はあなた方への助力を惜しまないと誓いましょう」


そう言って執事は、2本のうち片方の短剣をリズに差し出した。

そこには公爵家のものと思われる家紋が入っている。


「……それは公爵の判断か?」


「そう思ってもらって構いません」


それを聞いて、リズは短剣を受け取った。

どうやらこの執事は、よほど公爵に信頼されているらしい。


(まぁそれも、全部でまかせでなければだが……)


それはそれでさほど困らないだろう。

遅からずアンジェも帝都へ侵攻してくるだろうし……。


「ま、その時公爵家に力が残っていればいいな。お前は下がっていろ、アレの相手はスピードだけではどうにもならん」


リズは魔剣ブルートノワールを構え、前へ出る。


「お見通しでしたか」


この執事は決して弱くない。

しかしそれは一般的な強さと比較した場合であって、速度以外に秀でている部分はなかった。


「なに、時間はそうかからん」


前へ出たリズに対し、ゲオルグは上段から大きく剣を振りかぶった。

それをリズは正面から受け止める。


「くっ……やはり威力だけはかなりのものだ」


おそらくゲオルグは元よりパワータイプの剣士。

それが暴走によりさらに強化されていた。


「だが――――力で勝てぬと思われるのは癪だな」


リズは強引に1歩前へと踏み出した。


脳裏に父の言葉が浮かぶ。



――剣とは力で振るうものに非ず。



それは剣を極め、剣神と呼ばれた父の教え。

だがリズの剣は違う道を進もうとしていた。


その先に、あるいは別の選択に……更なる高みへ至る何かがある。

漠然とそう感じていたのだ。



だから――――



「――己自身を剣と化す」


リズの言葉に応えるように、ブルートノワールが薄暗く発光した。

それを意に介さないかのように、ゲオルグは再び雄叫びを上げながら剣を叩きつける。


「オオオォォォォォッ!」


しかしその衝撃は、大地へ伝わる前にピタリと静止していた。


リズの右手に握られた魔剣は微動だにしていない。

代わりに、左手がゲオルグの剣を掴んでいた。


「ぅ……うぅ……」


怯えた表情で、ゲオルグはそのままその場から動かなくなった――否、動けなくなったのだ。

リズの指が剣へとめりこみ、押すも引くも許されない状態だった。


「なんだその情けない顔は……ったく、興が醒めるではないか」


残念そうにリズは剣ごと引き寄せ、魔剣を軽く振るった。

それはゲオルグの体を、抵抗もなく通過する。


「ちょッ! 約束が違――」


見ていた執事は驚愕した。

しかし駆け寄ったものの、ゲオルグの体からは血の一滴も流れていないことに気づく。


「これは一体どういう……」


「なに、斬りたいものだけ斬った……それだけだ」


そう言ってリズは空を見上げた。


(何か掴みかけた気がしたのだが、まだ足りないな……)



◇   ◇   ◇   ◇



「はははッ! どこを狙ってるのかしら」


ワーミィは人工精霊から放たれる六つの閃光を、全て最低限の動きで躱していた。


「どうなってんのこれ……」


最初の一撃こそ頬を掠めたものの、それ以降はまるで当たる気がしなかった。

死角から……背後から、あるいは自身を囮に使っても、決して素早くはない動きで回避されてしまう。


「ごめんなさいねぇ、私ってば魔力の流れに敏感だから」


たしかに目で追っているようには見えない。

しかし当たりさえすれば……


「じゃあ物理的に避けられなくなったらどうします?」


僕はアーちゃんの分体をさらに2体――――放出した。

6体でさえようやく慣れてきたから扱えていたものの、8体となると脳の処理が追いつかない。


「あら、まだ増えるの? でも動きが雑になってるわよ」


ワーミィの言う通り、アーちゃんの動きは先ほどまでより繊細さに欠ける。



頭痛がひどい――頭が割れそうだ。

でも一瞬だけでいい……一瞬だけ、避けようのない必中の攻撃を――――



「な――ッ!」



ワーミィの顔が苦痛に歪む。

閃光が、回避行動をとったはずの彼女の脇腹を捉えていた。


「このッ……ぐぅッ!」


反撃しようとした彼女の、肩へ足へと閃光が突き抜けていく。

一つ当たれば脆い物だった。

浮力を失い、ワーミィは地上へと落ちる。


「はぁ…はぁ……やっと当たったか」


8体操作はあまり長持ちしそうにないな……でも上手くいって良かった。


地上へ落ち、動かないワーミィへと近づく。

彼女には聞きたいことがあるのだけど、運が悪ければ助からない高さだ。


生死の確認をしようと顔を覗き込んだ、その時だった――――



「――――古典的な手法に引っかかるのね」



微かに聞こえたその声に、咄嗟に後方へと跳んだ。

だがブレーカーが落ちたように、突如世界は暗闇に包まれる。


「なんだ……? 突然暗く……」


例え月明りすらない夜でも、ここまで真っ暗にはならないはず。

そんな中、ワーミィの声だけが耳に入る。


「両腕に続いて、両目が使い物にならなくなった気分はどうかしら」


顔は見えないが、その口調から彼女が嬉しそうな笑みを浮かべているのがわかる。


「あー……そういうことか。不用意に近づいたのは間違いだったな」


それどころか、僕の魔法を躱していたのは、当たりさえすれば効果があると思わせるためだったわけだ。

まんまと踊らされていたのか……。


「……気に食わないわね。腕が使えない、目が見えない、魔法も効かない。ここまでわかってなぜ動じていないのかしら」


今度はとても不機嫌そうな声だ。

僕の反応が思っていたものと違ったらしい。

これでもけっこう困ってるんだけどな……。


「命乞いでもしたほうが良かったですか?」


「……あぁそう、まだ足りてないってこと……」


話せば話すほど機嫌が悪くなってるような気がする。


「でもこういうタイプは……そういえばあなたにはお仲間がいたわね」


仲間……その言葉に、一瞬ピクリと反応する。

ワーミィはそれを見逃さなかった。


「ふふっ、そうねぇ……あなたの視力を戻してあげようかしら。四肢の自由を奪って目の前で……いや、あえて悲鳴だけ聞かせて――――」


こいつ程度じゃそんなことは無理。

そうわかってはいても……案外腹が立つものだな。



どうせ周囲に味方はいない――――なら少し派手にやってやろう。



神力を解放し、自身の周囲を囲うイメージで雷を形成する。


「ちょ――ッ、何よこれ――」


ワーミィはあきらかに狼狽え始める。


あぁ……ちょっと嫌だな。

こいつの顔が恐怖に歪んだところをちょっと見たいと思ってしまった。

あとで自己嫌悪に陥りそうだ……。


だからせめて、この神々しささえ感じる純白の雷で終わりに――――


「――――何なのよッ、この黒い雷は!」


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