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119 厄介な協力者。

本日は朝早くから要塞都市東部の外壁の上で、帝都カトルをただ眺めるだけの簡単なお仕事をこなしていた。


「朝日が気持ちいいな……」


以前のような視線も感じないし、平和そのものだ。

この分なら今日は僕の出番もないだろう。


「向こうは忙しそうだが……私たちが行っても邪魔になるだけか」


リズは手に入れた聖剣を磨きながら都市内部を眺めていた。

あちらは今なお制圧中……といっても無人なので、各施設の掌握などがメインとなっている。


シルフィは神官として都市内の教会を調査中。

といっても形だけの小さな支部があるだけなので、それほど時間はかからないだろうとのこと。


そして、アゲハさんは鉱山都市から帰ってくるなり泥のように眠ってしまった。

死にそうな顔してたし……無理して朝までに帰って来なくてもよかったのに。

ちなみに、どこで寝ているのかは知らない……。


メイさんは今日も留守番するのかと思いきや、僕らと一緒に帝都監視の任に就いていた。

……監視してるの僕だけで全然仕事してないけど。



「ほれエル、できたで」


そう言ってメイさんは、リストバンドのようなものをこちらに差し出してきた。

さっきからずっと何かを組み立てているようだったのは、これを作っていたのか。


「……なんですかこれ」


持ってみると少し重い……アンクルウェイト的なものだろうか。

これを付けてもっと鍛えろってことかな?


「なんで微妙そうな顔すんねん、エルが欲しい言うたんやないか」


「たしかに……細マッチョが欲しいです」


そして汗を流しながら、首からタオルを下げスポーツドリンクをおもむろに飲みたい。


「細マッチョ……? エル、諦めが肝心やで?」


試合を諦めろと諭された。


「そうやのぉて、これやこれ」


そう言ってメイさんが手首をクイッと捻ると、勢いよくワイヤーが飛び出してきた。

そしてもう一度捻ると、それは巻き戻り収納されていく。


「あぁ……交易都市で見たアレですか」


男心をくすぐるクールなロマン装備だ。

空を飛べたらいらない気がするけど……そういうことじゃないんだよなぁ。


「せや、ほれ付けてみぃ」


メイさんに促され、左手首に装着する。

付けてみると重さはほとんど気にならなかった。


「あとは手首を……こう?」


「ちゃうちゃう、ちょっとコツがいるんや」


その後メイさんにワイヤー射出のコツを学び、実際石壁に向かって放つと突き刺さる感触があった。


「あとはワイヤーを巻き取って……」


何の懸念もなく、クイッと手首を捻る――――これが間違いだった。


「――いッ!」


自身の体重と引く力が、全て手首に襲い掛かった。


そのまま派手にずっこける。

壁に衝突までしなかったのは不幸中の幸いだった。


「言うの忘れとったけど、手首に負担全部いくさかい気ぃつけてや」


「……それを早く言ってください」


手首から先が吹っ飛んだかと思ったよ……。



ワイヤーの練習をしていると、アンジェリカさんがこちらへ顔を出した。


「人が働いているときに呑気なものね」


どうやら僕が遊んでいるように見えたらしい。

たしかにちょっと楽しくなってきたとこだった。


「ちゃ、ちゃんと帝都の様子も見てますよ。そちらはもう終わったんですか?」


「まぁひと段落はついたわね。あまり物が残ってないから楽だったわ」


となると気になるのはこれからのことだ。

はたして帝都に攻め込むつもりなのだろうか。


「それで……帝都はどうするつもりです?」


戦争だから仕方ないのかもしれないけど、あまり民間人を巻き込みたくはない。


「そうねぇ……いっそのこと向こうから攻めてきてくれたら、悩まなくていいんだけどね」


そう言ってアンジェリカさんは都市内へと視線を向ける。


「要塞都市がこの様子じゃ、取り返しには来ないでしょ。かといって帝都に引きこもられてもねぇ……あそこにはまだ民間人が多いようだし」


どうやらアンジェリカさんも同じ考えだったようだ。

ここで民間人の血が多く流れるようなら、ここまでに得た支持を失う可能性だってありえる。


「そうなると、こっそり内部に侵入する……とかですか?」


僕の言葉に、アンジェリカさんは笑顔を向けた。


「あら、行ってくれるの? 助かるわぁ。半端な戦力じゃ送り込んでも不安なだけだし、あなたなら適任よねぇ」


勝手に適任扱いされた。

僕はすごく不安なんですが……。


「ふむ、帝都の内情はわからんが、実質的な支配者を落とせば勝ちなのだろう?」


リズはやる気だった。


「さすがお姉さま、そういうことです」


「ほな、ウチは留守番やな」


……閃いた!


「なるほど、じゃあ僕も公女らしく吉報を待――――


ガシッとアンジェリカさんに肩を掴まれる。


「呪術に対抗できる人が行かないでどうするの?」


優しい口調なのに目は笑っていない。


「じょ、冗談っすよ……」


こうして、明日の予定は帝都スパイミッションに決定した……。



◇   ◇   ◇   ◇



帝都へは、僕、リズ、シルフィ、アゲハさんの4人で侵入することが決定した。

帝都内には協力者もいるそうなので、その者と協力して帝都中枢を調査することになる。

なのでできるだけこっそり侵入するのはわかるのだが……


「ひどい臭い……」


結果、帝都の下水を通ることになった。

帝国で下水があるのは帝都だけらしいが、公国中央都市の下水と違って衛生管理が行き届いていない。

浄化が目的ではなく、ただ汚水を垂れ流しているだけだ。


「できるだけ呪術の気配から遠い道を選んだ結果なのですが……」


アゲハさんは申し訳なさそうにそう答える。


他にも裏口や商人に紛れて、という手段もあるにはあったのだが、アゲハさん曰くそこには何かしらの備えがしてあったらしい。

つまり罠が張り巡らせてあったわけだ。


「下水にだけ罠を張ってないというのも、それはそれで誘導されている気がしますね」


考えすぎかな? と思ったが、僕の心配もあながち間違いではなかったようだ。


「実際それらしい痕跡もあります。避けた結果どんどん環境が悪くなっていってますが……」


よりひどい道を選んでいるように思えたのはそのせいか。




しばらく進むと、ようやく下水から帝都内へ出ることができたのだが、そこもあまり良い環境とは言えなかった。

都と呼ぶにはあまりにも荒れ果てている……ホントに帝都内に出たのだろうか。


「ここは……スラム街か」


リズの言葉で、この場所がそういう場所なんだとはっきりした。

どんな街にも寂れた場所はあるが、都は貧富の差が顕著らしい。


「これはひどい……」


シルフィは周囲を見回し、眉をひそめる。

その声には悲しみよりも、怒気の方が勝っているような気がした。


なんとかしてあげたいけど、ここでは僕らの身なりは目立ってしまうようだ。


「ともかく、協力者と合流しましょうか」


協力者は、とある雑貨店で都の情報を集めているらしい。

位置的にもここと違いスラム街ではないようだ。



スラム街を抜け、都の中心付近を目指し足を進める。


時折人とすれ違うが、あまり活気があるようには見えない。

しかし中心に近づくにつれ、建物自体は立派なものが増えて行った。

この辺はさすが都ということなのか。


「印象としては交易都市に似てるかな」


本来はもっと活気があり華やかな街なのだろう。

はたしてこんな状況の雑貨店で情報なんて集まるのか?


「ん、ここじゃないか?」


リズはとある建物の前で足を止めた。


視線の先にはたしかにそれらしき店はあるが、繁盛している様子はない。

しかし店自体は小綺麗にしているようだった。


さて、協力者の特徴だが……。


「会えばわかるってどういうことだろ」


アンジェリカさんにはそう言われていた。

僕らの知り合いなのか……?


「……ごめんください」


そっと扉を開き中を覗くと、店の奥から声が聞こえてきた。


「はいはーい、久々のお客さんですぅ」


この間延びした声……聞き覚えがある。


「おやおやぁ、お久しぶりですねぇ」


店の奥から顔を出したのは、ビビリなくせに危機意識の低いチロルさんだった。


「すいません、間違えました」


僕はそっと扉を閉めた。

これはさすがになんかの間違いだよ。


引き返そうとすると、チロルさんは不機嫌そうに扉から顔を出した。


「ちょっとぉ、あまり目立つのはよくないですよぉ? なんで中に入らないんですかぁ」


もしかしなくてもチロルさんが協力者なのか……厄介者の間違いでは?

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