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116 要塞都市カトラリマス。

鉱山都市を出発してから5日目の正午、僕らはようやく目的地へと到着した。


「あれが要塞都市……」


高台から見ると、外壁が3重になっているようだった。

それも一つずつの壁が恐ろしく分厚い。

そして東西に一つずつある門は、堅く閉ざされている。


それを見たシルフィは地図を広げ、要塞都市よりさらに東を指差した。


「王国との戦争の名残とも聞きますね。ここよりさらに東にある帝都防衛の要だったとか」


さて、そうなると一筋縄ではいかないかもしれない。

実際壁の外にも陣が張られているし……


「……あれ? 公国兵に見えるのは気のせいかな」


良く見ると野営の準備まで整っている。

敵前野営……? それにしたって近すぎでは……。




公国兵が野営の設営を行っているところへ近づくと、妙に腰の低い騎士がこちらに気づき、僕らを一際大きい天幕へと案内した。


「入っていいのかな……お邪魔します」


「――あら、予定通りだったわね」


中で待っていたのは、武装したアンジェリカさんだった。

その手には資料らしきものが握られている。


「お久しぶり……ってほどでもないですね。こんなところで堂々と野営して大丈夫なんですか?」


「その理由は、お姉さまなら予想がつくんじゃないかしら?」


そう言って、アンジェリカはリズへと視線を向ける。


「それは要塞都市から人の気配を感じないのと関係しているのか?」


その返答が満足のいくものだったのか、アンジェリカはテーブルの上に資料を広げた。


これは……見取り図かな?


「さすがはお姉さま。偵察部隊の報告によると、要塞都市内部はもぬけの殻らしいわ」


アンジェリカは困り顔で肩を竦めた。

なるほど、とリズも納得する。


「タットの街と同じ状況ってことですか……」


「理由は大体察しがつくわね。いっそのこと、堂々と近くで野営したら何か出てこないかと思ったのだけど……」


特に何か起こるわけもなく……ということか。


「その割に門は閉まっているんですね」


「それなのよねぇ……これを見て頂戴」


アンジェリカは見取り図の一部を指差した。


「東西にある門は中からしか開閉ができないようになっているの」


そして指先は、なぞるように要塞本部らしき一際大きな建築物へ。


「となれば、考えられるのは隠し通路なのだけど……」


そこから図に描かれた通路は、円を描くように都市内部の至る所へ……


「あちこち繋がってますね」


「そうね、でも外へ通じる道はなかった」


アンジェリカさんの言うように、図には外へ伸びる道は描かれていない。


「隠し通路って地下ですよね? じゃあ普通に上から出て行ったんじゃないですか?」


わざわざ門を閉めて外壁の上から出る。

何のために? と聞かれたら僕だって意味不明だけど、もはやそれしかないのでは。


「普通って……」


アンジェリカさんは呆れた視線を僕に向けていた。


「……? どうかしました?」


「あのねぇ……普通の人があんな壁を上から超えていけたら、壁の意味ないでしょ」


……ごもっともです。

反省して大人しくしておこう。


すると、リズは見取り図を手に取った。


「無人で閉ざされた要塞都市か……入るだけならわけないが、何かあると考えたほうがいいのだろうな」


「十中八九何かある……そう考えて突入は控えてますの」


アンジェリカさんはそこまで言ったところで、視線を僕に向ける。


「でもこのままただ待機していてもしょうがないし、数百人規模での内部調査をしたいのだけど……」


行けとは言わないけど、わかるよね?

という意思を感じる視線だ。


「……実は鉱山都市でけっこうな出費があったのですが……」


その金額を、こそっとアンジェリカさんに耳打ちする。


「はぁ……わかったわ、経費扱いでいいわよ」


「へへっ、喜んで内部調査に行かせてもらいやす姉御」


無人の都市を調査してあの出費がチャラになるならお安い御用ですとも。


「……せめてお姉ちゃんと呼んで欲しいわね」


アンジェリカさんは金額より呼び方が気に食わなかったようだ。

そこは『お姉さま』じゃなくて『お姉ちゃん』なんだね……。


「それはちょっと恥ずかしいというか……本当の姉妹じゃないわけですし」


今だけの偽りの身分だからね。


そこでなぜかアンジェリカさんは真面目な表情になった。


「……まぁ帝国のことが片付いたら、色々と話しておくべきかもね」


この時は言っている意味がわからなくて、僕はただ首をかしげることしかできなかった。





翌朝、十数名の部隊がいくつか招集され、壁を登るロープを設置していた。


そうだよね、普通はこうしないと壁を登ったり降りたりできないよね。

昨日は僕が間違っていたよ。


だがもちろん僕たちはロープを使わない。

僕は飛行魔法、リズとシルフィは垂直な壁をものともせず駆け上がる。

そしてメイさんは……


「ほな、ウチは留守番しとくわ」


と言ってアンジェリカさんの天幕で何やら通信装置を弄っていた。


要塞都市に興味なかったんだろうなぁ……正直僕だって留守番していたいよ。

代わりにアゲハさんを貸してくれるらしいが、忍者らしく姿を隠しているので、いるのかどうかよくわからない。


そして肝心の都市内部はというと……


「ホントに全然人がいない……」


タットの街と同じ光景とはいえ、こちらはバリスタ等の兵器は残っている。


上空から都市内を観察していると、ようやく三つの壁を越えてきた先行部隊は、都市内部で小隊規模に別れ散開していった。

さて、僕らはどこから調査したものか……。


「リズ、シルフィ、僕らはどうします?」


「そうだな……とりあえず本部らしき場所を目指そう」


「エルさんはそのまま上空からお願いします」


リズは都市中心部を指差した。

そういうことなら、シルフィの言う通り僕は上空から、立体的に観察しながら進むとしよう。


速度は歩く程度……もはや浮遊と呼べる速度に調整する。

視点が高いと景色の変化が遅く感じるので、複写してもらった見取り図を見ながら進んだ。


(この辺の地下にも隠し通路があるのか……)


外壁の内側を沿うような円状の隠し通路……これだけでもかなりの距離がありそう。

さらにそこへ伸びるいくつもの通路、まるで蜘蛛の巣のようだ。


(これだと、出入り口もたくさんありそうだな)


たとえば、地下通路が交差している場所……あの建物なんか入口があってもおかしくない。

一見他と代わり映えのしない建物だが、だからこそまさか地下通路があるとは思わないだろう。


(秘密基地とかはロマンだけど、ここまで規模が大きいとあまりワクワクしないなぁ)


そして何事もなく、僕らは要塞都市中央へと辿り着いた……。



リズとシルフィは、一先ず周囲を観察しながら様子を伺っている。

全ての地下通路が集約する場所だ、きっと重要な建物なはず。


「……ん?」


ふと、中心から各方面へ伸びる地下通路を見ていて、何かに似ているような気がした。

色ペンでもあったなら、わかりやすく通路をなぞっていたのだが……。


「円を描いて線で繋いで……これってまるで――――」



――そう思った時だった。



地上が黒く、陰に染まっていく――――

それに呼応するかのように、空気は細かく振動し共鳴した。


「――なんだこの耳鳴り」


咄嗟に耳を抑える。

この感じ、どこかで……。


視界に映るのは、その場に倒れ込む公国兵たちの姿。


そして……


「リズ! シルフィ!」


耳を抑え膝をつく二人の姿があった。


これは……そうか、交易都市の鐘の音に似ているんだ。

それもかなり強力になっている気がする。


「――それならッ!」


神力を解放し、膜で包むように結界を張る。

それを要塞都市全域に広げ、地下から感じる異物感を拒絶していく……。


程なくして耳鳴りは収まり、地上を染めていた陰は徐々に薄れていった――――


「ふぅ……」


立ち上がりこちらへと手を振るリズとシルフィを見て、ホッと安堵する。

倒れていた公国兵たちも命に別状はないようだった。


これは……一旦退避したほうがいいな。


一応仮初とはいえ第2公女なので、いまここでその判断を下すのは僕の役目だ。

そう思い、口を開きかけた時だった――――



背筋が凍るような――――視線を感じた。



それはまるで、意識に直接潜り込むような……


『――あら、美味しそう』


耳元で囁かれたように――――女性の声が脳内に響き渡った。


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