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011 もう一人の新人冒険者。

北門にて、仮の通行証を返却し、街の外へ出る。

振り返ると、門の上の方に【ミスト】と書かれていた。


(街の名前かな?)


昨日、この街に入るときに通った南門に対し、そこそこ人の出入りがあるようだ。


「さて、稼がないとね」


早速近場の森に入って行く。

採取するのは、回復薬や解毒薬の材料になるミミ草とゾナ草。

師匠の家で山菜採りしてた頃にもよく見かけたことがある。


「5本1束で銅貨2枚……けっこう集めないとだなぁ」


雑草の中から目的のものを採取しつつ、少しずつ森の奥へと進んで行った……。


………………


…………


……


「ふぅ、こんなものでいいかな」


けっこうな数を集めたけど、マジックポーチのおかげで手ぶらだ。

道中、同じ採取目的らしい冒険者と出くわすこともあったが、取り合いになるのは面倒なので大分人気のない森の奥へと来てしまった。


「うん……なんかいるね」


体内の人工精霊ことアーちゃんが何かに反応する。

会話ができるわけではないし姿も見えないけど、何となくそう感じた。


周囲の茂みから、ガサガサと何かの音がする。

距離は5m程度。


音のする方に指先を向ける。

――その時二つの影が飛び出してきた。


(速いッ! けどアーちゃんに比べたらなんてことない)


両手を使うまでもなく、右手人差し指だけで、マナバレットを二発放つ。


声をあげることもなく、二つの影は動かなくなった。


(角の生えた……ネズミ?)


おそらく魔物だと思われるが……。


(思ったより冷静に対応できたなぁ……)


師匠との修行に比べたら、初の魔物との戦闘は思ったほど恐怖を感じなかった。


「これ……売れるのかな?」


一応、ポーチに入れて帰った。





「すいません、常駐依頼のミミ草とゾナ草の査定をお願いします」


冒険者ギルドで、カードを提出し採取したものを査定してもらう。

常駐型の依頼は、ギルドで買い取ってもらうことで、そのまま達成証明扱いになる。


「えっ……これ全部ですか? 雑草でごまかしてませんよね?」


「そんなことしませんよ」


たしかにちょっと採りすぎたかなとは思うけど。

ちゃんと場所は変えながら、同じ場所で採りすぎないように配慮もした。


(それに、これぐらい集めないと大した金額にならないしなぁ)


お金稼ぐって大変だよね。



「たしかにミミ草30束、ゾナ草25束、変なものも混ざってませんし、どれも品質に問題ありませんでした」


査定が終わったようだ。


「こちら報酬になります」


銀貨1枚と青銅貨1枚を受け取る。

宿2泊分と考えると十分な稼ぎだと思うが、今日の出費を考えるとやや物足りない。


「あとこちら新しいギルドカードになりますね」


返ってきたギルドカードは木製から鉄製に変わっていた。


「Eランクになってる……いいんですか?」


「Fランクの採取依頼は通過儀礼のようなものですからね。冒険者は野営することも多いので、薬草の見分けぐらいできないとってことです」


なるほど、たしかに食用にも使えるし、理にかなっている。


「大体累計で、5束ずつ集められたらランクアップなんですけどね。登録した初日にいきなりこれだけ集めて即日ランクアップは珍しいですよ」


よせやい、あんまり褒めると調子に乗っちゃうよ。


「次からは討伐依頼とかもがんばってくださいね」


そっか、Eランクからは討伐依頼もあるんだよね……危ないのは嫌だな。


「あっ、そだ。魔物の買取はあっちのカウンターでいいんですよね?」


「はい、あちらでお願いします。それでは次の方どうぞ」



素材の買取カウンターへ移動する。

こちらの受付は女性ではなく、筋骨隆々のおっさんだった。

はたして角の生えたネズミなんて買い取ってもらえるんだろうか。


「すいません、解体してないんですけどお願いします」


ポーチから出すところをローブで見えないようにして、魔物の死体を2体カウンターに出す。


「角ネズミか……解体費用差し引くと銅貨1枚にしかならんぞ?」


「……安いんですね」


「まぁな、こいつらすばしっこいだけで弱いからな。ほれ、角も先が丸くなってる上に体重も軽いから、突っ込んで来ても何の危険もない」


マジか……弱いくせに襲い掛かってきて、しかも安いとか傍迷惑な。


「おまけに取れる素材も少ないからな、こっちも新人の解体練習用に使ったりすんだ」


練習用かよ、哀れ角ネズミ……。

持っててもしょうがないし、こっちとしては引き取ってもらった上に、銅貨1枚でももらえるなら十分ではあるけど。

次はもっとお金になりそうな魔物を――――


「なに!? ほ、ほとんど雑草!?」


先ほど採取の報酬を受け取った受付から、大きな声が聞こえてきた。


「そうですね、なんとか一束分はありましたので報酬は銅貨2枚になります」


「私の……今日の努力が……銅貨2枚……」


見れば赤髪を後ろで結った、剣士っぽい女性が魂の抜けた顔をしていた。


「ま、初心者の最初の壁だからな。普通は採取すらまともにできなくてああなる」


っと、解体のおっさんがやれやれと言った顔で話す。

初心者ということはおそらく僕と同じ、採取の査定だったのだろう。


「……声を荒げてすまない、また明日来る……」


剣士らしき女性は、踵を返し冒険者ギルドを後にしていった。


「あそこで暴れないなら上出来だな」


「暴れるような人もいるんですか?」


「おうよ、まぁ初心者冒険者なんか、この筋肉ですぐにおとなしくさせちまうけどな」


解体のおっさんは筋肉をピクピクさせはじめる。


……別に羨ましくなんてないし。



◇   ◇   ◇   ◇



翌日、宿の宿泊日数を2日延長したのち、早速受注型の依頼で調査の依頼を受けていた。

Eランクでも受けられる調査依頼なんて、きっと楽に違いないという寸法だ。


北門から出て、昨日採取を行った森をさらに奥に進むと浅い洞窟がある。

この洞窟にゴブリンが数匹住み着き始めていたそうだが、討伐の依頼を受けた冒険者が洞窟にきたときには、すべて倒されてしまっていたらしい。


誰が倒したのかは謎だが、もし魔物同士の争いであるなら別の魔物が住み着く可能性もあるので、それを確認してくるという調査依頼だ。


「つまり単なる事後確認、見てくるだけの簡単なお仕事なんて、素敵やん?」


ただし報酬は青銅貨5枚。

これだけだと少ないので、行きと帰りに薬草採取での小遣い稼ぎも忘れない。





「うん、ホント浅い洞窟だったね」


10mもなさそうな洞窟で、あっさり調査は終わってしまった。

結果はもぬけの殻、本当に何もない浅い洞窟だった。

ゴブリンとか気持ち悪そうだし、何も無いのは良い事だね。


「今日は角ネズミも出ないし、ただのピクニックみたいだ」


帰路につきながら目に付いた薬草を採取する。

あくまでもついでなのでほどほどに……


っと、そこで、昨日ギルドで見た赤い髪の剣士が目に入る。

カゴを背に今日も採取に勤しんでいるようだ。


がんばってくださいね、っと心の中でエールを送り、その場を去る……つもりだったのに声をかけてしまった。

だって悲しいものが見えてしまったんだもの。


「あの、カゴの中身……全部雑草ですよ?」

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