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106 新たな領主。

「なるほどねぇ。まぁ公国も黙って守りに徹するわけにもいかんだろうし、帝国に侵攻するのも頷ける」


僕とシルフィさんは、旅の目的と僕らの役割を説明した。

それを聞いたアイギスさんは、少し考える素振りを見せる


「……公国ならあるいは……いや、このまま王国が黙っているとも……」


どうしたんだろうね? という顔で、僕とシルフィさんは顔を見合わせる。

しばらく待っていると、アイギスさんは何かを決断したようだった。


「……今の帝国は実質魔帝国みたいなもんだ。その支配から逃れているのはここぐらいのもんだろう。こんな状況だ、公国にしっぽを振るのも悪かない……ただ、領主不在だからねぇ」


そう言って、アイギスは不敵な笑みを浮かべた。


「つまり、新しい領主が必要なのさ。だから――――



◇   ◇   ◇   ◇



「さすがに範囲広すぎやわ、リズーどないする?」


メイは屋根の上から街を眺め、リズに声をかける。

すると、リズはサッと軽く屋根へと跳び乗った。


「人命救助は概ね完了だな、後は自然解凍に任せることにしよう。空の戦いも決着がついたようだし、一旦エルたちと合流するか」


先ほど見た空を抉るような巨大な閃光……あれはエルが放ったものだろう。

同時に消失した強大な魔力反応が、エルの勝利を物語っていた。


「しっかしエルの魔法どえらい威力やったなー」


「そうだな、あの規模の閃光を放つのは私も初めて見た」


私も成長しているつもりだが、エルはさらに底が見えない。

そう思うと、リズは自然と口角が上がる。


「相手もけっこうな手練れやったとちゃうん? 派手な撃ち合いやったし」


「かもしれんな、だがエルの敵ではないさ」


今度は、フッと明確に笑みを零す。


「あいつは謙虚なところがあるが、ちょっと本気を出せばこんなものだ」


「ほー……ちなみに夜の営みの方はどないなん?」


そう言ってメイはニヤッと笑みを浮かべた。

本人の前ではなかなかできない会話だ。


「そうだな……最近あまり機会がなくて――」


そこでリズは、メイをジロッと睨んだ。


「――って、何を言わせるんだ」


「い、いやぁ……ちょっとした好奇心やん、堪忍してや」


ハハハッ、と気まずそうにメイは笑ってごまかした。


するとその時、街中に魔力を通した声が響き渡った――――


「――――教会のアイギスだ。待たせちまったね……この街を襲った脅威は既に去った。もしこの声が届いているなら、街の中央広場に集まってほしい。そこで鉱山都市の現状と、これからのことを話したいと思う。言っとくが話し合いをするわけじゃない、すでに結論は出ている。異論があるやつも来な、私が相手になってやるよ、完全復活した私がね」


そう一方的に告げ、声は聞こえなくなった。

代わりに、街中から徐々に歓声が沸き始める。


「偽物……じゃないよな?」

「じゃあ相手してもらうか? あのアイギス様に」

「間違いない、今のはアイギス様の声だ……!」

「この街の救世主が、復活したんだ!」

「だから言ったダロ! アイギス様完全復活ダ!」


歓声の中には、エマも混じっていた。


「アイギスはん体調ようなったんやろか」


「完全復活と言っていたな……ま、行けばわかるだろう」


そう言って、二人は屋根から屋根へと飛び移りながら中央広場を目指した。





中央広場の中心には5メートル程度の時計台が建っている。

その上で、アイギスは腕を組み待ち構えていた。


「大方集まったみたいだね」


その周囲には、復活したアイギスの姿を一目見ようと人が押しかける。

広場だけではスペースが足りないので、屋根に上る者さえいた。

当然これだけの人が集まれば、騒がしくてとてもアイギスの話など聞こえないのだが……。



「――静かにしなッ! ケツから串刺しにするよッ――!」



アイギスの喝で――――大地は小刻みに揺れた。

ただの一声で、場が静寂に包まれる。


だが人々は小声で喜びを噛み締めていた。


「これは……アイギス様だな」

「間違いなく本物だ……」

「へへっ、ケツが疼くぜ」


外部の者からは暴君のように思えるその発言も、アイギスを良く知る者にとってはそうではない。

むしろこれぞアイギス様だ……と、歓喜に震えた。


概ね静かになったところで、アイギスが先ほど同様、魔力で声量を増幅させ口を開き始める。


「さて、皆も知っている通り、我々は帝国でも孤立している存在だ。先ほどの襲撃も帝国からの刺客によるものさ、それもかなりの大物だった。その名は……帝国の叡智マリオン、名前ぐらいは皆も聞いたことぐらいあるだろ?」


それを聞いた人々は、その名に驚愕を隠せなかった。


「帝国の叡智……帝国将軍の一人じゃないか」

「帝国一の大魔導士……」

「アイギス様の結界を超えてきたのも納得だ」

「なんで同じ帝国の人間が……クソッ!」


ざわつくものの、先ほどまでの歓声と違い場の雰囲気は暗かった。


皆理解してしまったのだ。

魔帝国どころか、味方のはずの帝国が本気で潰しに来たのだと……。


「魔帝国どころか、帝国からも牙を向けられちまった。よほど自分らに尻尾振らないのが気に食わないらしい」


そんな状況で、領地の舵を取る領主もいない。

仮にいたとしても、おそらく待っているのは破滅……。


「……どいつもこいつも辛気臭い顔してるね。新しい領主追い出した時の威勢はどうしたんだい?」


そう言って、アイギスは焚きつけるように挑発的な笑みを浮かべる。

すると、下を向いていた者は顔を上げた。


「そうだよ……俺達はこの街と運命を共にすると決めてんだ」

「どうせ鉄叩く以外に脳がないしな」

「ま、覚悟だけは決めてたし……」


誰もこの街を出るという考えは持っていなかった。

それを見て、アイギスはホッとする。


「良かったよ、今まで守ってた甲斐があるってもんだ。せっかくなら、この鉱山都市……私に預けて見ないかい?」


アイギスの言葉に、人々は一瞬困惑した。

預ける、とは一体どういう意味なのか……。


「私が――――この鉱山都市ミスティアの領主となろう」


アイギスは槍を掲げそう宣言した。

そしてなおも言葉を続ける。


「無論、領主と言っても私は貴族じゃないし、何の後ろ盾もない……そこでだ」


そこでアイギスは手招きをする。

満を持して出番が回って来たのは――――


「――――み、皆さん初めまして、エルラド公国第2公女、エルリット・ヴァ・エルラドでしゅッ!」


エルリットは出番待ちで緊張が最高潮に達したのか、ここぞという場面で噛んでしまった……。



◇   ◇   ◇   ◇



「んー、今日のはなかなか……やっぱり若い子の生き血が一番よね」


女は真っ赤な血をワイングラスで転がしながら、その味わいに酔いしれていた。

その傍には、意識を失った顔色の悪い少年が倒れている。


「これ以上行方不明者を増やさんでくれよ」


同じ部屋で窓から外を眺めていた男は、やれやれ……と呆れていた。


「失敬ね、ちゃんと返すわよ」


そう言って女は、指先でテーブルをトントンと2回叩く。

すると、倒れていた少年はスッと姿を消した。


「それより聞いた? マリオンが魔法戦で後れを取ったんですって」


「らしいな……」


女の話題に、男はあまり興味を示していないようだった。

視線は未だ窓の外を眺めている。


「帝国一の大魔導士も大したことないのね」


「……マリオンの魔法は世界基準で見てもトップクラスだ。この場合、単純に相手のほうが一枚上手だった……というだけだろう」


ふーん、と女は面白くなさそうに相槌を打つ。


「……トップクラスより一枚上手って……どんな相手よ」


その問いに、男はようやく視線を女の方へと向ける。


「……魔女」


男がぼそりと零した単語に、女は鋭い眼差しを向けた。


「魔女って、星天の……? 戦争に関わってくるタイプじゃないと思うけど」


女の言葉に対し、男は顎に手をあて考える素振りを見せる。

そして静かに言葉を綴った。


「あるいは……別の魔女か」

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