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104 教会の神降ろし。

「アイギス様が……タッテル?」


目を覚ましたエマは、自分の足で立っているアイギスを見て驚愕していた。


「夢じゃない……ヨナ?」


そう言って、自分の頬を強く捻る。


「超イタイ……」


それもそのはずだろう。

先ほどアイギスに殴られた頬は、ひどく腫れ上がっていた。


だがそれでも、エマの表情は徐々に明るいものになっていく。


「立った……立った、立った! アイギス様が立ったゾ!」


「大声はやめんか恥ずかしい」


アイギスはやや照れながら、エマを軽く小突いた。


「アイギス様……またこうして元気なお姿を見ることができて、私は嬉しいです」


「シルフィーユ、あんたもかい? あたしゃ辛気臭いのは嫌いなんだよ」


涙を浮かべるシルフィに対し、アイギスは照れて目を逸らす。

だがその表情は満更でもなさそうだった。


「でもまぁ、この説明はしてもらわなきゃいかんね」


そう言って、アイギスはシルフィに目配せした。


「……そうですね、それはしっかり聞かせてもらいましょう」


それにはシルフィも、笑みを浮かべて同意する。

やがて二人の視線は、物陰から覗く人物へと向いた。


「……やっぱりそうなりますよね」


隠れても無駄だと悟り、エルリットはこそこそと物陰から姿を現すのだった……。


………………


…………


……


教会の一室、つい先日までアイギスさんが寝たきりだった部屋で、僕は正座させられていた。

それを見下ろすシルフィさんとアイギスさんはニッコリと笑っている、怖い。


エマさんも途中まで一緒だったのだが……


『あんたがいるとうるさいから、外を手伝ってきな』


とアイギスさんに言われ、渋々席を外した。

『お咎めがないだけ感謝しろ』とも言われていたが、何のこっちゃよくわからない。


外では今もリズさんとメイさんが主体で救助活動や氷の除去が行われている。

そちらの加勢に行けということだろう。


シルフィさんはエマさんに対し、少し不安そうな表情を見せる。

しかし街中で手を振るリズさんの姿を見ると……


『……心配無用でしたね』


と自己完結してしまった。


正直僕は肉体労働が嫌いだが、今は僕もそちらの加勢に向かいたい気分だ。


なんで僕正座させられてんの?

それに……笑顔という無言の圧力がとても怖いんです。



「アイギス様、こちらの方が……」


シルフィさんは、耳打ちでアイギスさんに何かを伝えていた。


目の前で内緒話されるのってすごくメンタルに来るからやめてほしい。

時折チラチラこちらを見てくるもんだから効果は抜群だ。


「やっぱりそうかい、この娘があの時の……。視力が戻るとただの小娘にしか見えないね」


視力が回復したことによって、アイギスさんから見た僕の姿は以前とはまったくの別物らしい。


でもそれは良かった……。

これでまだ眩しかったのなら僕もハゲの仲間入りだ。


「改めてご紹介します。こちらエルリットさんです……これでも一応男性ですよ」


シルフィさん……『これでも』とか『一応』は余計だよ。


「そりゃぁ……苦労してそうだねぇ」


そう言って、アイギスさんはこちらをまじまじと観察した。


こうやって間近で見ると、大分若返ったような印象を受ける。

一体どんな苦労を想像したのかはわかんないけど。



「それじゃあ本題に入ろうか。あの結界……ありゃあんたが張ったもんだね?」


そう聞いたアイギスさんの表情は真剣なものだった。

ここはごまかすような空気ではないな。


「そうですね、張り方はわからないので上書きしたような形ですが……」


そう答えると、アイギスは少し考える素振りを見せる。

そして、自身の手を握ったり開いたりと、何かを確かめるように眺め口を開いた。


「……元々そこにあった力を私に戻したのはどうしてだい?」


あぁ、やっぱりあれはアイギスさんのもので良かったんだ。


「それは……僕の神力と上手く混ざらなかったので。これに関しては僕がむしろお聞きしたいです。あの結界の神力……本当に純粋な神力なのですか?」


その言葉に、アイギスの眉がピクリと反応する。


「……どういう意味だい?」


そう尋ねるアイギスの顔は、少し強張っていた。

それに応えるため、僕もただ正直に……感じたことをありのまま話す。


「そのままの意味です。純粋な神力とは違うというか、それを模したもの……そんな感じがしました」


そんな僕の感想に初めに反応したのは、シルフィさんだった。


「通常の神力であればその感想は間違いじゃないです。でも神降ろしで授かる神力は創造神ナーサティヤ様のお力……純粋な神力のはずですよ」


僕もそう思ったんだけどね。

実際に触れて神力を流してみると、どうしても僕の神力とは違ったんだ。


そしてそんな僕の答えが、アイギスさんにとっては望んだ答えだったようで……


「こいつは驚いた……シルフィーユ、あんたとんでもないもん連れてきてくれたね」


「……? アイギス様、それはどういう意味ですか?」


シルフィの問いに、アイギスは少し頭を悩ませた。


「うーんそうさねぇ……それを説明するなら、まずは神降ろしについて話をしようかね」





そもそも神力は努力で会得できるものではなく、生まれ持った資質がものをいう。

そんな選ばれし者が命を懸けて行う秘術――――それが神降ろしである。


依り代を介して、己の肉体に創造神ナーサティヤの力を宿す。

その力はあまりにも強大で、人の身に余る……故に良くて廃人、最悪その力を振るう前に死に至る。


「――っと、手法の詳細は私もくわしくは存じませんが、これが神降ろしということで間違いないですよね?」


シルフィが復習のように神降ろしについて己が知っていることを話した。

それをアイギスは最後まで黙って聞いていたのだが……


「そうさね…………それが全部間違い、って言ったらどうするよ」


アイギスは不敵な笑みを浮かべながらそう言い放つ。

これにはシルフィも困惑する。


「……仰っている意味がわかりかねます」


と言いつつも、シルフィの手には緊張からかギュッと力が入る。

聞けば何か歯車が狂い始めるような――――そんな予感がしていた。



「そもそもおかしいと思わないかい? そんな危険な手法でナーサティヤ様が力を貸すだなんてさ」



疑念として自覚しないよう、無意識の内に蓋をしたもの――――。



「あれはたしかに神力には違いない。しかしナーサティヤ様のものとは違う……」



ただの綻びが、広がっていく――――。



「あれはね……生命力を代償に強大な神力を作り出しているだけさ。だからこそ、ナーサティヤ様のような純粋な神力には決してなりえない」



でもこれは――――おそらくきっかけに過ぎない。

もっと踏み込めば、もう戻れなくなるだろう。


過去の――――アイギス破門の謎が頭をよぎる。



だからこそ、シルフィは一歩踏み出すことを選んだ。



戻るべき道は必要ない。

必要なのは、進むべき道を照らすことだと――――


「なぜ教会は……わざわざそれを偽っているんですか?」


真剣な眼差しで、シルフィはアイギスの眼を見据える。

そこには強い意志があった。



私にも、あなたが背負ったものを――――



そう、訴えるかのように……。


アイギスはその眼差しを真っ向から受け止める。


「私も同じ疑問を大司教にぶつけたことがある。その結果は……まぁ言うまでもないだろ」


そう言ってアイギスは肩を竦めた。

異端審問会による破門……だがそれだけではない。



「そして知っちまったのさ。邪神像の製法が……神降ろしと呼ばれるものとまったく同じだった」



アイギスの言葉に、シルフィは時が止まったかのように錯覚した。


「……神降ろしで……邪神像が…………」


「もう少しで核心に迫れたんだけどねぇ……私も焼きが回ったもんさ。後は追手から逃れるうちに一人で放浪していたエマを拾ったり……まぁこれはまた別の話か」


追手の話も、シルフィは初耳だった。

さらに核心ということは、まだこれ以上に何かあるということだ。


「でもまぁ、エルリット……だったね。彼のおかげで確信したよ」



――――シルフィには、アイギスの声が遠く感じた。


そこから先を聞く覚悟は――――まだできていない。

だがアイギスの言葉は、容赦なく紡がれた。



「教会は――――敵だ」



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