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102/222

102 救いとは。

「それは困る、このままここでジッとしていてクレ」


エマの手刀が、正確にシルフィの首筋を薙ぎ払う。

シルフィの体は脱力し、そのまま意識を刈り取られ――――


「――ッ、いたたっ……急に何をするんですか」


体は一瞬ふらついたものの、倒れることなく踏みとどまった。


完全に油断していたところへの一撃。

それに耐えたシルフィに、エマは動揺する。


「うそダロ、けっこう強くやったはずナノニ……」


ちょっと躓いた程度の反応には、さすがに苦笑いするしかなかった。


そんなエマに対し、シルフィは槍を構える。


「一体何のつもりか、説明していただけますよね?」


「……言ったろ? このまま表には出ないクレ」


同じようにエマも徒手空拳で構える。

二人の視線が重なると、シルフィは扉の方へ視線を移した。


「ここではアイギス様のお体に障ります。場所を変えましょう」


「……いいダロウ」


エマも同意し、二人は礼拝堂へと移動する。

その場には、寝たきりのアイギスのみが残された。


「……困った子だねぇ」





礼拝堂に移動した二人は再び対峙し、間合いをとる。


「本来なら神聖な場での荒事は避けたいのですが……」


それでもアイギス様を巻き込むぐらいなら……とシルフィは判断した。


その考えをエマは鼻で笑う。


「ふんっ、お堅いネ。模範的な考えダ」


そしてエマは確信する。


出会い頭に自身を床に沈めた赤髪の剣士は、あまりにも規格外な存在だった。

だが目の前の女にはそれほどの脅威を感じない。

先ほどは仕留められなかったが、あれは手加減しすぎただけだろう。


武器を向けた相手に殺気すら向けられない甘ったれなど、自分の敵ではない……と。


(だが私はチガウ――ッ!)


エマは倒れ込むかと思うほどに、前のめりに加速する。


槍の使い手に素手で正面からなんて無謀?

問題ない、私の拳は常人の域を疾うに超えて――――


「……ぇ」


エマの強く握られた拳は、シルフィの手に包まれるように受け止められていた。

そしてシルフィは淡々と告げる。


「槍の使い手に正面から向かってくるなんて、あまり褒められたものではありませんよ」


……これ槍関係ないだろ、とエマは思った。

だがそれを口にする前に、体が宙を舞う。


自分が投げられたと気づいた時には、床に組み伏せられていた。


「こんなはずジャ……」


腕は背に回され、きつく締めあげられる。

これを解くのはまず無理だろうと、エマは悟った。


「……なんなんだよオマエ」


完全に誤算だった。

こんな簡単に抑え込まれてしまうほど力量の差があるとは……。


「さて、こちらの質問に答えていただけますね?」


シルフィは腕をさらにきつく締め上げる。

エマは苦痛に顔を歪め口を開いた。


「ぐっ……、アイギス様を……救うためダヨ」


アイギス様を救うため……その言葉に、シルフィの眉がピクリと動く。


「……話が見えませんね」


「わからナイカ? この地はアイギス様の犠牲の上で成り立っているんダ。もう……解放されたっていいダロウ」


そこまで聞くと、なんとなくシルフィは察した。


「つまり……」


「そう、いっそのことミスティアが滅びてシマエバ……」


エマにとっては、この地を守るために寝たきりとなったアイギスが見ていられなかった。

結界の維持で悪化し続けるアイギスの姿が痛々しかったのだ。


「……では、この外の状況もあなたが何か手引きを?」


「それは知らん……でもいつかこんな日が来るんじゃないかと思ってイタ」


鉱山都市を終わらせる丁度良い機会……エマはそう判断したのだろう。


「解放……それがあなたの考える救いですか」


「だってそうダロウ? なぜアイギス様だけがあんな辛い思いをしないといけないんダ」


シルフィとてそれは理解できる。

理解はできるのだが……


「――――それでは報われませんね」


そんなことをしてアイギス様が喜ぶはずもない。

だがそこに悪意がないこともわかった。


シルフィは、組み伏せていたエマを解放する。


「これは……わかってもらえたと思っていいノカ?」


「いいえ? 外の決着がついたようなので……残念でしたね」



◇   ◇   ◇   ◇



「――このッ! すばしっこい小娘だね!」


マリオンの放つ青い閃光は、未だ一発も掠りすらしない。

それに引き換え白い閃光は……


「実体がないってずるくない?」


マリオンを幾度となく捉えてはいるものの、まるで手応えがなかった。

当たったと思えば、霧のように霧散しすぐに元通り。


(これが幻覚だったとしたらどれだけ楽か……)


凍り付いた街をチラッと見る。

うん……少なくとも幻ではない。

つまり向こうは当たっても支障ないが、こちらは当たったらヤバイってことだ。


(その割には、向こうもまったく避けないわけじゃないのはなんでだろう……)


おかげで、ついついこちらもレイバレットでの射撃をやめられない。

僕の燃費効率がいかに優れていようと、これではいつか打ち止めになる。


(考えろ……そして周囲の状況や相手をよく観察するんだ)


こういうときのセオリーで言えば、本体がどこかで見ていたりするのだろうか……。


「あぁん? 何をキョロキョロと……ははーん、そういうこと?」


突如マリオンの攻撃が止んだ。

そして、ニヤリと笑みを浮かべた。


「私の本体でも探しているのかしら? 残念だったわね、少なくともここから見えるところにはいないわよ」


どうやらこちらのアテが外れたことに笑みを浮かべていたようだ。

嫌な性格してるな……。


さらにマリオンは、勝ち誇ったような顔で言葉を続ける。


「だって私がいるのは、帝都カトルだからね」


ご丁寧に帝都のある方角まで指差してくれている。

色々とよく喋ってくれる人だ。

だが本体が予想以上に遠かった。

帝国最高の大魔導士というのも伊達ではないらしい。


……ついでにもうちょっとヒントがもらえないだろうか。


「そんな……じゃあいくら攻撃しても無駄だってのか……」


もちろんここは真剣な表情で、かつ露骨に絶望感は出し過ぎない程度にしておく。


「そうねぇ、この体は魔力を凝縮して作ったものだから、多少散ったとしてもすぐ元通りよ」


ドヤッとマリオンは胸を張って答えた。


これが叡智名乗ってんのか……帝国も大変だな。


しかしそうか、多少散っても元通り戻ってしまうのか。

これまでレイバレットが命中したときに霧散していたのは、体を構成している魔力だったわけだ。



なら――――多少じゃなければいいんだな?



「ま、私ぐらい世界最高峰の魔導士になると、これぐらい簡単なわけよ。それに比べて、あなたはそろそろ魔力的にも限界かしら? もう終わりにしてあげるわ」


マリオンの周囲で再び魔法陣が動き出す。


正直魔力的にはまだまだ余裕はある。

でもこれから放つ魔法は、魔力効率が悪いのでそう何度も撃ちたくない。


牽制はアーちゃんからのレイバレットを使い、確実なタイミングを窺う。


旋回し、マリオンの青い閃光を躱していく。


(どこか……確実に狙えそうな場所は……)


その時、高台にある炭鉱の入口が目に入った。


(ここなら……!)


飛行魔法のまま、坑道へと突っ込んでいく。

採掘は休止中なので、おあつらえ向きだった。


「見苦しいわねぇ……袋のネズミじゃない」


マリオンは炭鉱の入口から中を窺う。

このまま中の坑道ごと、すべて凍らせてしまおうとしたその時だった――――


「――最大出力だッ!」


エルリットの声が、坑道を反響する。

あきらかに坑道のサイズを超えた白い閃光が、マリオンの体を覆った――――


「……ぁ?」


――――マリオンの体を構成する魔力は、閃光に飲み込まれ消失する。

それも散ることなく、全て……




「久々に全力で撃ったな……」


炭鉱の中で、エルリットは自身の指を見つめていた。

威力、範囲、どちらも今撃てる最大出力だったが、昔よりあきらかに威力が上がっていたのだ。


元々低燃費な魔法ではある。

だが、上がった魔力と効率無視で放つと、予想以上に凄まじい威力だ。

どれぐらい予想を超えたかというと……


「反動やっば……」


予想以上の反動で、体が壁にめり込んでしまうほどだった……。

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