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101 帝国の大魔導士。

鉱山都市上空に突如発生した魔力反応。

その気配に――――ゾクリと背筋に寒気が走る。


「誰か……いる?」


魔力反応を視線で追うと、上空に浮く何者かの姿がそこにはあった。

目を凝らしてみるが、ローブを羽織っているのと、フードで顔が隠れていることしかわからない。


人……だとは思うが、まるで魔力の塊が人の形を成しているようにも感じる。


などと観察していると、人の形をしたそれは一瞬消えたかと思えば、いつのまにか結界内へと侵入していった。

それを見て少し安堵し、こちらも飛行して距離を詰めていく。


(一瞬消えたように見えたけど、結界内に入れたなら敵ではない……よね?)



だが――――すぐにその考えが間違いだと明らかになる。



魔力の塊は街に向かって手をかざし、声を発した――――


『――アブソリュート フローズン』


女性の声で紡がれた言葉は――――雪景色を一瞬で凍り付かせた。


それはあまりにも広範囲で強力な魔法……。

つまりこいつは――――敵だ!


そう理解すると同時に、僕は女性に向けてスタンテーザーを放つ。


だが完全に相手の虚を突いたはずの見えない弾丸は、音もなく軌道を変え標的より上空で消失した。

それによって女性はこちらに気づき、まるでゴミを見るような視線を向ける。


「……? なにアンタ、今私を攻撃したの?」


「あなたこそ、なぜ急にあんな魔法を――――」


と僕が尋ねたところで、女性は「はぁ…」とため息をついた。


「あーめんどくさ、簡単なゴミ掃除のはずだったのに……ゴミが抵抗しないでくれる?」


そう言って女性は、スッとこちらに手を向け無詠唱の魔法を放った。


「――ッ!」


眼で見るよりも早く――――直感に従い顔を逸らす。

そこを、シュッと空気を裂く音と共に、氷の矢が通過していった。


「へぇ……意外と場慣れしてるタイプ?」


こちらが避けたにも関わらず、余裕の笑みを浮かべる女性。


冗談じゃない、今の当たったらシャレになってないぞ……。


「あなたは一体何者なんですか。どうやって結界の中に……」


尋ねながら、街の様子をチラリと窺う。

外で凍り付いた者や、建物内に閉じ込められてる者……街は混乱に陥っていた。


「そうね……帝国最高の大魔導士、そう言えばわかるかしら?」


そう言って女性は、長く赤黒い髪と共にフードから顔を出した。

歳は……若作りの努力が窺えるのでよくわからない。


「帝国最高の大魔導士……そんなのがいるんだ……」


最高の魔導士か……たしかに固定砲台ムボウとは存在感がまるで違う。


だが僕の言葉が気に食わなかったのか、女性の声に怒気が表れ始める。


「チッ、これだから田舎は嫌いなのよ……。光栄に思いなさい、帝国の叡智マリオンとは私のことさ」


人を見下した目と、強気な表情でそう言い放った。

……自分で叡智とか言っちゃうのか。


「それにこんな結界、私からしたらあってないようなものよ。中に転移すればいいだけなんだから」


なるほど、一瞬見失ったのは転移魔法か……師匠以外にも使える人がいたんだな。

でも一つ疑問なのは……


「なぜ今になって……?」


そんなことができるなら今頃この鉱山都市は滅んでいただろうに。


「ふん、結界のせいで中の座標がわかりにくかっただけさ。まぁ運良く範囲外で助かっただけの凡人には、到底理解できないでしょうけど」


……たしかにわかりません。


しかしよく喋る人だ。

おかげで聞きたいことが聞けた。

あとはこの状況をなんとかしないと……


「それで……帝国のえっちなマリオンさんは鉱山都市に何の恨みがあるんですか」


こちらの言葉に、マリオンのこめかみがピクリと動いた。


「――死にたいようね」


そう冷たく言い放つと、周囲の空気が変わる。

それは比喩ではなく、物理的に――――


「――ッ!?」


咄嗟に上昇すると、先ほどまで自分のいた場所を青い線が通過していった。

少し大袈裟に躱したはずだが、ほんのりと冷気を感じる……。


これは……当たるとやばそうだ。

だがマリオンのヘイトをこちらへ向けるのには成功した。

これ以上街へ被害を出すわけにはいかないからね。


「いいわ、先にあなたを氷漬けにしてあげる」


マリオンの周囲に、6つの小さな魔法陣が現れる。

それは完全にこちらをロックオンしていた。


「ほら、踊りなさいよ!」


マリオンがそう言い放つと、6つの魔法陣全てから先ほどと同じ青い閃光が放たれる。


しかし結局は直線的な攻撃でしかない。

それなら――――


「――アーちゃんッ!」


人工精霊アーちゃんの分体を6体生成し、その全てからレイバレットを放つ。



青と白の閃光は衝突し――――周囲に衝撃の波紋が広がる。



互いの閃光が消失すると、そこではマリオンが不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。


威力は互角……だがレイバレットはその威力をまだ上げることができる。

それに相手の魔法陣と違って、アーちゃんはそれこそ縦横無尽な機動性が……


「それは人工精霊……? チッ、嫌なヤツを思い出したわ」


舌打ちしたマリオンは手を広げこちらへ向ける。

すると、小さな魔法陣は散開しこちらを包囲するように動き始めた。


「あっ、それ動くんだ……」


誰か手伝ってくれないかな……っと切に願った。



◇   ◇   ◇   ◇



凍り付いた工房の扉が、内側からバラバラに切断され崩れ落ちる。

解放され屋外へと出てきたのはリズだった。


「まったく、妙な気配がしたと思えばなんだというんだ」


その後ろから、メイがひょっこり顔を覗かせ外の様子を伺う。


「気配とかウチはようわからんけど……ってなんやねんこれ」


辺りは一面凍り付いており、まるで別世界に来たようだった。


「急な大寒波……はさすがにありえへんか」


「そうだな、おそらくこれの原因は……あれだろう」


リズの視線は、空を向いている。

そこでは、青と白の閃光がいくつも空を飛び交っていた。


「凄まじい魔力反応だ……」


さらにリズの視線を追うと、飛び交う閃光の中を舞うように飛行する人の姿が二つ。

一人は見覚えがない、そしてもう一人は……


「ってエルやないか。加勢したほうがええんとちゃうの?」


メイの意見に、リズは少しだけ思い悩む。

たしかに相手の魔力反応は桁違いだ。

普通に考えたら不利なのだが……


「……いや、エルなら大丈夫だろう」


リズの中でエルの評価は、本人の願いも虚しく異様に高かった。

それこそ自身の方が見劣りするとさえ思っているぐらいに……。


「それより私たちは凍った住民の救出を優先しよう」


「さよか、ほなら氷溶かすもんあったほうがええな」


こうして、リズとメイの二人は凍てつく鉱山都市を駆け回るのだった。



◇   ◇   ◇   ◇



「まぁ……あんな結界で、いつまでも守れるもんじゃないさね」


街の中心にある教会の一室で、アイギスは天井を眺めそう呟いた。


「なんて魔力……一体どうやって……?」


付き添っていたシルフィも、同じように上を見つめていた。

そこへ、エマが慌てた表情でアイギスの元へ駆けつける。


「アイギス様大変ダ! 街が氷漬けになっちまっタ!」


それを聞いたシルフィは、そっとカーテンを開ける。

窓から差し込む光は、分厚い氷によって遮られていた。


「まさか結界が……?」


目の前にあるものが事実……だがシルフィはそれが信じられなかった。

ただの魔法が、神力の結界を打ち破るのは到底不可能なことなのだ。


アイギスはそっと目を閉じ、意識を外へ向ける。


「結界は無事……突然内側に現れたね。しかしこれは……人というよりは魔力の塊みたいな気配だ」


「突然内側に……」


シルフィはそれに心当たりがあった。

自身も経験したことのある、転移魔法であれば……と。

だがあれは魔法を極めた者が辿り着く領域。

星天の魔女ルーンと同格の魔法使いなど、そういるものではない。


「……エマさん、アイギス様をお願いします」


シルフィは師に代わって……師のためにも、この街を守るため行動に移す。

槍を手に、その場をエマに任せ……



――――直後、シルフィの首筋に衝撃が走る



「それは困る、このままここでジッとしていてクレ」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最近のストリーにオチャラケ感をかんじます、ちょと真面目お願いします。面白い作品なので。 ギャグっぽい節は飛ばしています。
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