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100 忍び寄る破滅。

鉱山都市にいた元々の領主は、あっさりと自分の領地を捨てた。

突如として現れた新領主に、保身のため快くその権限を譲ったのだ。


だが鉱山都市の民は違う。


男は屈強な体格の者が多く、女はそんな男を尻に敷くほどに逞しかった。

故に、新領主の存在は認められず、あっさりと力で捻じ伏せ追い出すことに成功する。


だが――――悪魔や邪教徒が相手ではそうもいかなかった。


魔帝国は、屈することのない鉱山都市をあっさり切り捨て、支配から殲滅へと切り替える。

それでもなお鉱山都市の民は、誇りを捨てて逃げ出すより誇りと共に滅びる道を選んだ。


そして終焉の日はやってくる。


空を覆いつくすほどの悪魔と、波のように押し寄せる邪教に魅入られた者たち。

その光景に、誰もが覚悟を決めた。



そんな時だ、一人の神官が眩い光を放ち、鉱山都市を悪魔や邪教から守って見せたのだ。



元々この地は信仰心が薄く、唯一ある小さな教会の神官など、誰もその名すら知らなかった。


だがこの日、皆がその名を心に刻むことになる。

鉱山都市の救世主、アイギスの名を……


………………


…………


……


「とまぁ、こうして現状に至っているわけダ。最近はめっきり襲撃もなくなった、多分あきらめたんダロ」


僕らは場所を移し、エマさんと共に街の酒場へとやってきていた。

外部から人が訪れない地でありながら、思いのほかそこは賑わっている。


交易都市のように物流は止まっているはずだが、この地は元々自給自足で成り立っている部分が多かったようだ。

それでもさすがに、香辛料の類はほとんど外部に頼っていたらしく……スープはただの塩味だった。


なお、シスター姿のエマさんは堂々と酒を……ええんか?


「この鉱山都市でアイギス様の名を知らない者はイナイ。できることなら、今度は私たちがアイギス様をお救いしたいんだがナ……」


「私も出来る限りのことはしたいですが……」


そう言ったシルフィの表情は暗かった。


神降ろしで廃人になった者を救う手立てか……。

過去の実例がない上に、ここには十分な資料もない。

シルフィさんの恩師ということだし、どうにかしてあげたいけど……。



「……ところで、あんたらは何しに鉱山都市に来たんダ? 女ばかりというのも珍しいし……観光って情勢でもないよナ」


エマさんから、なんとも答えにくい質問がきてしまった。


交易都市の時とは状況が違うのだ。

今、侵略に来ましたなんて言ってしまえば、僕らは魔帝国の邪教徒たちと何一つ変わらない。


さてどう答えたものか……


「んなもん決まっとるやん。鉱山都市言うたら珍しい鉱石の一つや二つあるんやないの?」


それまで静観していたメイさんは、ここにきて口を開いた。


ここまで空気を読んで黙っていたけど、そろそろ限界だったんだろうな……。

というかそれが目的なのメイさんだけだよ。


「そりゃ鉱石はいくらでもあるケド……あぁでも、今は供給過多で採掘は休止してんダ」


外との繋がりが途絶えてしまえば、当然需要は減る。

となれば必要以上に掘る必要もなくなる、ということか。


「ん……まぁそらしゃーないな。せやかて工房は動いとるんやろ?」


そういえばそれらしい煙は上がってた気がするな。


「一応動いてはいるナ。あいつら常に鉄打ってないと落ち着かないようダシ。……というか、あんたらの目的そんなことなのカヨ」


とりあえずメイさんのおかげで、エマさんは勝手に勘違いしてくれている。

今しばらくはそういうことにしておいたほうが良いだろう。




その後は、一先ずエマさんに宿を紹介してもらった。

当然どこも空き部屋だらけだし、一人一部屋で構わないのだが……。


「ベッドが4つ……」


まぁ……僕はいいんだけどね。

なぜみんな抵抗がないのだろうか。


なお、アゲハさんのベッドはないのだが……


「忍者はベッドなど使わない。常識ですよ?」


とだけ言い残して、再び姿を消した。




「さて、宿もとって一息つけたわけですが……これからどうしましょう」


当然この鉱山都市も公国の領土にしたいわけだが、交易都市のようなやり方はできない。

わかりやすい悪役でもいてくれたら簡単だった。

しかしこの地には領主すらいない。


「魔帝国の脅威がない領地か……下手に公国が手を出しても印象が悪いな」


リズさんの言うように、それでは民衆から反感を買うだけだろう。


「せやけど放っておいてもジリ貧とちゃう? 農業が盛んな国っちゅうわけやないし」


メイさんの言うこともごもっとも。

生産力が決して高い国ではないし、外界との繋がりがなければいつか限界がやってくる。


「私は……アイギス様の容態が気になります……」


シルフィさんは未だ浮かない表情だった。

あの女性との関係性を僕は知らないが、その表情を見るにかなり親しい人なのかもしれない。



「うーん……とりあえず様子見というか、情報収集……ですかね?」


みんなの意見をまとめた結果、今行動を起こすのは難しいのでこうするしかなかった。


「ほな、明日はとりあえず自由行動みたいなもんか? ウチは工房見て回りたいわ」


「それなら私も興味あるな、同行しよう」


まぁ……情報収集といっても何をどうしたらいいかわからないし、メイさんはそれでいいかな。

リズさんまでついて行くのは意外……でもないか、剣マニアみたいなとこあるし。


「では私は、アイギス様の様子が気になるのでそちらに」


シルフィさんはやはりアイギスさんのことが心配なようだ。

僕も何か助けになれたらいいけど……。


「それじゃあ僕は……色々見て回ろうかな」


結界の様子とか、鉱山都市の食事情辺りを中心に、色々と見て回るとしよう。


うん、これで各々明日の予定は決まったな。



しかし――――なぜ僕らは湯舟につかってこんな会議をしているのだろうか。



シルフィさんも流されるまま、あれよあれよという間に結局混浴になってしまった。

ちゃっかり一人だけバスタオル巻いている辺りはしっかりしているが……。


ちょっと透けてるんで、結局目のやり場には困ることになった。



◇   ◇   ◇   ◇



翌日、僕は一人で商店を見て回っていた。

思った通り香辛料の類はあまり出回っていない。


「ふむ……岩塩はあるのか」


値段もそれほど高くないし、塩は問題なく使えるようだ。


食材は売ってはあるものの、あまり選択肢は多くない。

これは仕方ないのかもしれないな……。


「あとは……お酒が多いなぁ」


それも蒸留酒がメインだ。


……遊びに来たわけじゃないけど、一応買っておこう。



「だいたいお店はこんなものか」


もっと武具とか銀細工のような金属製品が多く並んでるものかと思ったが、思いのほかそうでもなかった。

外から人が来ないのだから、当たり前と言えば当たり前か。

日常的に消費するものがメインになるのは必然だった。


「この分だと、リズさんはガッカリしてるだろうな」


魔道具店も見かけたが、日常的なもの以外は基本在庫限り。

その他は全てオーダーメイドでの受付となっていた。


一通り見て思ったのは、たしかにこの街は活気がある。

でも本来の鉱山都市の姿とは違う……そんな印象を受けた。


(ジリ貧か……たしかにそうなのかもしれない)



そして僕は最後に、都市のはずれ……結界の境目へとやってきた。


こうしてマジマジと見ると、交易都市カザールで僕とシルフィさんが張った結界と見た目は同じだ。

たしかに同じなのだが……


「僕の使う神力とちょっと違う……かな?」


神力に何か別の力が混ざっているように感じた。


僕の使う神力はおそらく創造神のものだと思う。

そして神降ろしはその名の通り、その身に創造神を憑依させることのはずだ。

なのに使う神力に違いがあるものなのだろうか。


「……これさすがに勝手に触って弄ったら怒られるよね」


結界に触れようとした手を引っ込める。

結界内に入ったとき、エマさんが反応が云々言っていたことを思い出す。

触れるなら一度その辺りの話も聞いてからの方がいいだろう。


そう思い、街へと踵を返す。



――その時、雪のちらつく空に、大きな魔力反応を感じた。



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