010 冒険者になりました。
早朝、徐々に外に活気が出始める頃に、目が覚める。
カーテンを開けると、気持ちの良い日差しが体に朝を教えてくれる。
裏庭にある井戸から水をくみ、顔を洗う。
そして髪を後ろで結いながら1階の食堂に顔を出すと、女将さんから声をかけられる。
「おっ、早起きだね。もうちょっと待っててくんな、焼きたてが食えるよ」
「焼きたて……」
今日もカウンターに座る。
なぜならここが一番良い香りがしてくるから。
夕食どころか、朝食も期待できそうだ。
(あとはお風呂があれば最高だったのに)
もっと高い宿ならあるのかな?
「はいお待たせ」
カウンターに朝食が出てくる。
(これは……ガレットかな? 黒い飲み物はコーヒー?)
小鉢のような小さな容器に、ミルクも入っている。
ブラック派ではないので、ミルクは全部入れて飲んでみた。
……コーヒーっぽい何かだね。
これは…うん……いいや。
気を取り直してガレットを口へ運ぶ。
「――ッ!」
ザクザクとした心地よい食感、じゃがいもとチーズの奏でる二重奏に舌は踊り――――
「ま、美味そうに食ってくれるから別にいいけどね」
女将さんに呆れられた。
まただらしない顔になっていたらしい。
「ここが冒険者ギルドかぁ……」
街の中心近くにあり、人通りも多い。
大きな大剣を持つ者、身軽そうな格好をした者、ローブに身を包む者、きっと皆冒険者なのだ。
まず登録をするために受付へ向かう。
「あのー、冒険者登録ってここでいいんですよね?」
「はい、登録料は青銅貨1枚になります」
知的な雰囲気のある受付嬢に、銀貨を1枚渡し、青銅貨9枚が返ってくる。
「それでは、こちらにお名前と年齢、それと職業をお書きください。文字が書けないなら代筆もいたしますが……」
「文字は書けますんで、大丈夫です」
エルリット、15歳……職業?
今現在でいうなら無職? ……いや、魔法使いって書けばいいのかな。
「あっ、魔法使いなんですね、誰かのお弟子さんとかですか?」
「はい、師匠に――――」
そこでハッと気づいてしまった。
(師匠の名前……知らん)
ずっと師匠って呼んでたし、今までそれで困ったことがなかったので、気にもしていなかった。
だって師匠は師匠だもの。
「……? どうかしました?」
「いえ、なんでも……」
「それではこちらが冒険者カードになります」
木製の札を渡される。
そこには名前と冒険者ランクが記載されている。
「身分証としても使えるので、なくさないようにしてくださいね。再発行にもお金かかりますので」
「なんか……ショボ」
「最初は皆そんなものですよ、一番下のFランクからになります」
受付嬢さんの解説が始まる。
要約するとこうだ。
冒険者ランクはA、B、C、D、E、Fランクと別れており、依頼の達成状況に応じてランクアップが認められる。
その辺りの情報は、常にギルド間でやりとりが行われてるそうだ。
そして、ランクに応じて冒険者カードも変わる。
Aは金。
B、Cは銀。
D、Eは鉄。
Fは木製の仮登録のようなものだそうだ。
「あと新人にはあまり関係はないですけど、Aランクの上にSランク冒険者なんて方もいますよ。
私も基準はよくわかりませんが、よほどのことがないとなれないそうです」
「へー、どんな人がいるんですか?」
「私も名前しか知りませんけど――――」
-剣神- ヤマト
-武神- オルトロ
-蒼天- ジェイク
-戦女神- ヴィクトリア
-星天の魔女- ルーン
-神殺し- ユーリ
-冒険王- ロイド
「――――の7人しかこの世界にはいません」
なんだか物騒な呼ばれ方が混じってるな……。
「Sランクになるとすごいですよぉ、もう何もかもが別格って感じで、何事にも縛られない存在ですね。その昔、星天の魔女様を怒らせて王様が土下座した、なんて話もあるぐらい別格です」
師匠以外にも魔女なんて呼ばれてる人がいるのかぁ……師匠じゃないよね?
「ていうかその二つ名みたいなのってなんですか?」
「なんですかと言われましても、その通り二つ名ですよ。いつの間にかそう呼ばれてたりするものです」
なにそれ恥ずかしい。
「まぁ、たまにたいしたことないのに二つ名を自称するような人もいますけどね」
なにそれもっと恥ずかしい。
「ランクに関する説明は以上です、次に依頼に関してですが――――」
依頼には3種類あるそうな。
-受注型-
受付を通さないと受注できない依頼。
主に討伐や護衛、運搬等。
-常駐型-
受付を通さなくていい依頼。
主に採取等。
-指名型-
指名された者のみ受注できる依頼。
「どれも達成証明品が必要ですので気を付けてくださいね。あと各ギルドで素材の買取もしてますよ。魔物の死体も、解体料金を差し引きますけど買い取ってます」
解体かぁ……できる気がしないな。
「でもFランクは採取系の依頼しかないので、まずは地道にEランクを目指してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
常駐型の採取の依頼しか受けられないそうなので、掲示板で依頼内容の確認だけして冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「どうしてこうなった」
冒険者ギルドを出たときは、銀貨が7枚、青銅貨が9枚あった。
30分後には、銀貨3枚と青銅貨1枚になってしまっていた。
「い、いや……これはきっと必要経費だったんだよ、うん」
腰のベルトにナイフが一本。これが銀貨1枚と青銅貨4枚
フード付きの黒いローブ。これが銀貨3枚と青銅貨4枚
魔法があるとはいえ、ナイフぐらいはあったほうがいい。これはしょうがない。
魔法使いだからそれっぽいローブがほしい。これもしょうがない。
「そう、しょうがないんだ……あっ、肉串焼き2本ください」
おっと、屋台があったのでつい。
「あいよ、銅貨6枚ね」
青銅貨を1枚渡して、銅貨が4枚返ってくる。
(安いだけあって薄味だな……って違うし! お金を使うことで市場価値を学んでるだけだし!)
……成長期なんで、許してください。
参考までに
銅貨10枚=青銅貨1枚
青銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨10枚=金貨1枚
金貨10枚=白金貨1枚