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拠点

「あっ!もう、遅いですよ、二人とも!どこで寄り道してたんですか!?」


町を歩いていると、ティファが合流し、龍斗たちが遅かったことを咎める。どうやら、友人と別れた後、わざわざ二人を待っていたらしい。


「ああ、すまない。途中で芸人たちが公演をしていたのでな。少し観てみたが、かなりの腕だったぞ。なあ、リュート」

「はい、凄かったですね」

「ええっ!そんなに凄かったんですか!?何かやってるのは気付いてましたけど……私も見れば良かったです」


ティファの様子にジェニファーは少し申し訳なさそうな表情をして、公演のこと話すとティファはがっくりと肩を落とす。


「公演は今日以外にもやるだろうから、まだ観る機会はあると思うぞ」

「そうですよね!では、早く帰りましょう!」


ジェニファーが苦笑してまた公演をやる可能性を教えると、さっきまでの落ち込み具合は何だったのかと言いたくなるほど元気になり、龍斗たちの先頭に立ってずんずん前に進んでいく。ティファの豹変ぶりに二人は顔を見合わせて同時に苦笑してその後を付いていく。



「……ほ、本当にここ何ですか」

「そうですよ!ここがクラン酒吞の本拠地です!立派でしょう?」

「た、確かに立派ですけど………」

「だから驚くと言っただろう?」

「いや、言ってましたけど……」


龍斗がティファたちが所属しているクラン、酒吞の本拠地の門の前で呆然としていると、ジェニファーが悪戯が成功したというような笑みを浮かべる。目の前にあるのは豪邸だ、そこまではまだ良い。だが、それの外見が日本の武家屋敷なのだ。周囲は中世ヨーロッパ風の街並みで、勿論建っているのも中世ヨーロッパ風の建造物だ。その街中に急に武家屋敷が現れるのだ、そこだけがまるで異世界のようだった。

いや、現実を直視しよう。端的に言えば、超浮いていた。龍斗もこの全く周囲に溶け込む気を感じられない武家屋敷を前に困惑していた。


「………おや、帰ってきましたか」

「……っ!」

「なかなか良い反応ですが、遅い上に判断としては間違いです」

「ぐっ!?」


背後から突然声をかけられ、同時に殺気が放たれる。咄嗟に振り返りながら拳を出すが、あっさりと往なされ、組み敷かれる。


「……モンスターですか………」

(この人、全く気配を感じなかった)

「………」


声の高さからして女のようだが、外套の上から頭を押さえ付けられている龍斗からは顔が見えなかった。頭上から女が龍斗が人間ではないと気付き、小さく驚く。二人の間で緊張が高まっていく。その緊張を打ち破ったのはティファの声だった。


「ちょ、ちょっと落ち着いてください、リゼさん。その人は悪い人じゃありません」

「人?明らかに爬虫類系のモンスターにしか見えないのですが……」

「……ええっとだな、クラウンリーダー……実は………」


ティファにリゼと呼ばれた女は龍斗を組み敷いたままジェニファーの説明を聞く。


「……なるほど。リュート様、クラウンメンバーの恩人とは知らず、失礼しました」

「い、いえ、大丈夫です」

(動きに無駄がない……道理であっという間に組み伏せられるわけだよ………)


押さえつけられていた体が軽くなり、起き上がると、ティファとジェニファーの間に立つメイド服を着た若い女が丁寧に頭を下げて謝罪する。おそらく彼女がリゼなのだろう。その所作は洗練されていて無駄な動きがない。種類は違うが、祖父と同じように無駄のない動きをするリゼに龍斗は眼を見開く。


「……こちらは私たちが所属しているクランのリーダーをしているリゼさんだ」

「ご紹介に与りました、私はリゼ・リズラインと申します。以後、お見知り置きを」

「……あ、はい、僕はリュート・ミズシマといいます。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。……立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」


リゼはそう言うと立派な木製の門の片方の扉を開けて屋敷に入っていく。彼女の後に続いて門を潜ると、そこは門の外とは違う景色が広がっていた。完全に和式の庭は手入れが行き届いており、思わず感嘆の声が漏れる。


「……凄い」

「そこまで評価してくださるとは、手入れしている身としては……恐縮するばかりです」

「……えっ?」

「やっぱり驚きますよね。……この庭は全部リゼさんが手入れしてるんですよ」


龍斗が懐かしさに少しの感慨に浸っている中、衝撃の事実が彼の耳に入る。つい、聞き返すが、ティファが裏付けする。


「えっ、いや、だってリゼさんってクランのリーダーなんですよね?」

「はい、そうですが?」

「あははっ、リゼさんってやっぱりおかしいですよね。普通、クラウンリーダーがやることじゃないですもん」

「……おい、ティファ………」

「あっ……」


口が滑って思っていること口にしたティファが、若干青ざめた表情をしたジェニファーに声をかけられて慌ててリゼの方を見て、サッと顔から血の気が引く。


「なるほど………正直は美徳ではありますが、ティファ、後で覚悟しなさい」

「ううっ、ジェニファーさん……」

「……すまない」

「……リ、リュートさぁん、助けてください」

「えーと………」


絶対零度の眼光にさらされたティファがジェニファーに目を向ければ、リゼの視線も一緒に向けられたジェニファーが逃げるように顔を逸らす。ジェニファーが駄目だと悟ったティファは龍斗に助けを求めるが、龍斗はどうすればいいか分からず目を逸らして頬を掻く。


「はあ、ティファ、リュート様の足を拭くための布と水の入った桶を持って来なさい」

「は、はい!ただいま!」


そんなティファに溜め息をついて、リゼが指示を出す。ティファはリゼに敬礼すると逃げるように屋敷の中へ走り去っていった。


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