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外の世界

「おおっ…………」


目の前の光景に感嘆の声が漏れる。中世のヨーロッパのような街並みで雑多な広場には露店がそこらかしこにあり、人々の喧騒が広がる。何より龍斗が驚いたのは、動物の耳としっぽを生やした人や耳の長い人、頭に角を生やした人が平然とその中に混じっていたことだ。

そんな外見をしているのは龍斗の常識では物語の中ぐらいにしか存在しない。龍斗自身、まだ目の前の光景が信じられなかった。


「どうかしたんですか、リュートさん?」

「ごめんなさい。すごくいっぱい人がいて驚いてちゃって」

「確かに、私だって初めて見た時は驚きましたしリュージさんは余計にそうかもしれませんね」

「ちょっと感動してます。……本当に異世界に来たんだ」

「……ほら、しっかり被らないとばれてしまうぞ」


その場で立ち止まってキョロキョロと、あちこちを見る龍斗の姿に苦笑しながらジェニファーが少し上にずれていた外套のフードを直す。今の龍斗の恰好は全身を外套で覆い隠した不審者なのだが、町の住人が気にした様子はない。元の世界とは違い、こういう格好も珍しくないようだ。


「どこに向かってるんですか」

「……そうだな、まずは冒険者ギルドという組織の拠点に行って今回の件を報告と魔石の換金をする、と言いたいところだが……君がいるからな、先に私たちの所属しているクランの拠点、私たちの家だな、そこに行ってクランのメンバーと君の処遇を話し合わねばならん」

「ふぇ?ギルドに行かないんですか?」

「はぁ、リュートなら分かるが、ティファ、何故お前が状況を理解出来ていないんだ……」

「……ううっ、すみません」

「い、いや、別に責めているわけではないからそんなに落ち込む必要はないぞ」

「……はい」


ジェニファーが眉間を揉みながらため息をつくと、ティファはしゅんとした表情をして落ち込んだ。慌ててジェニファーがフォローするが、ティファは沈んだ声音で返事をする。


「あ、ティファさん、あれは何ですか?」

「……ふぇ?えーと、あれはですね……ムルルという果物ですよ」

「へぇ、どんな味がするんですか」

「ちょっと酸味がありますけど甘くておいしんです」

「……なるほど、じゃあ、あっちのは……」


今まで元気が良かったティファが落ち込み、空気が少し暗くなったのを感じた龍斗は話をそらすために、目についた露店に売られていた果物らしきものについて質問する。その果物は真っ青な色をしていて、前世の世界で売られていても怪しくて買おうともしなさそうな色だった。

しかし、この世界では普通の食べ物のようで、ティファ曰く美味しいらしい。

暫くの間、龍斗があれこれと質問している内に調子を取り戻したティファは、意気揚々とそれに答えていく。

ティファが知り合いを見つけたらしく、先に行くように言うと人ごみをかき分けながら龍斗たちから離れていく。すると、ジェニファーが声をかけてくる。


「……すまん、助かった」

「いや、僕も外について知りたかったですし、気にしないでください」

「それでも君の機転であの子が元気になったんだ。ありがとう」

「……大したことはしてませんよ。それよりも、ティファさんは放っておいていいんですか?」

「まあ、ティファも子供ではないしな。危ないところには行かないだろう。一人で帰ってくるぐらいできるさ」


ジェニファーはそう言うが、龍斗としてはどこか抜けている雰囲気があるティファが心配になる。


「心配なのは分かる。何せ、あの子はどこか抜けているからな」

「あれ?顔に出てましたか?」

「……ふ、ふふっ、い、いや、雰囲気で何となくな。それに私にはリザードマンの表情の変化は分からないぞ、ふふふっ」

「わ、笑わないで下さい」

「すまん、面白くてな」


ジェニファーはからかったつもりはないかもしれないが、龍斗は自分でも自身の発言がおかしかったのに気が付いて恥ずかしくなり、フードをさらに深くかぶる。


「そう拗ねるな。ほら、あれを見てみろ」

「……わぁ、凄いですね」

「ああ、凄いな、旅の芸人の一団だろうがかなりの腕だ。これは当たりかもしれんな、これほどの芸人たちは、なかなかいないぞ。しばらく見ていくか?」

「はい!」


際どい格好をした踊り子が踊り、それに合わせて彼女の服の一部である布がひらひらと舞う。厚化粧をした道化師が大きな球に乗りながらジャグリングをし、大男が天に向かって火を噴く。多彩な芸で観客を魅了する。

踊り子が空中に身を躍らせ、他の芸人たちに向けてナイフを放つ。突然の事態に龍斗含め、観客の誰もが動けない中、芸人たちだけは冷静だった。道化師はジャグリング用のボールでナイフを迎撃し、大男は腰に提げた肉厚な刀身をした片手剣を鞘から抜き放ち、ナイフを打ち落とす。他の芸人たちも何かしらの方法でナイフを防いでいた。

踊り子が着地したのに合わせて芸人たちが観客の方を向き、一礼する。その行動に呆然としていた観客は漸く演出の一部だったことに気付き、そしてどっと歓声が上がる。


「……本当に凄かったですね」

「……ああ、凄かったな。あの芸人たち、並みの冒険者よりも腕が立ちそうだ」


この日の公演は終わったようで芸人たちが片付けを開始すると、観客だった人々が帰り始めた。その流れに逆らわず龍斗たちも公演の感想を話しながらジェニファーたちの拠点へ向けての歩みを再開した。


「拠点ってどんなところなんですか」

「着いてからのお楽しみだ。着いたら驚くぞ?」

「楽しみです」


龍斗そう言って笑うと、まだ見ぬ彼女たちの拠点に思いを馳せた。

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