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心霊探偵はエレガントに〜karma〜  作者: 明智 颯茄
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血塗られた夜の宴/4

 止まっていた戦況が再び動き出した。まわりに幾重にも群がる悪霊たち。両手で分身させたダガーを巧みに使いこなしながら、さけては壁などに向かって短剣を突き放す。

 磔にしてゆく敵の数が多く、紺の長い髪があちこちに揺れ乱れる。冷静な水色の瞳は氷河期を感じさせるほど冷たかった。

(こちらでは対応し切れない。そうですね……?)

 全てを記憶する頭脳に膨大な量のデータを流し始めて、勝つ可能性が一番高いものを選び取った。

 崇剛は優雅に微笑んで、両腕を大きく振り払い、悪霊が怯んだ隙に背後へ一気に振り返った。

 利き手の人差し指と中指に挟んだダガーを、神経質な左頬へ持ってゆく。左手でダガーの分身を作る仕草をしたが、いつもと違い、いく枚もあるカードを開き持ちするように、弓なり状にゆっくり動かした。

 右腕を体の前面で左から右横へ、勢いよく振り滑らせながら、絶妙な指の力加減で幾重にも分身したダガーが、時間差で一本ずつ放たれてゆく。マシンガン銃から連続発射される銃弾のように、次々と悪霊に突き刺さり始めた。

「ギャアァ!!」

「ウワァ〜!!」

「ウギャァ〜!!」

 左から右へと順番に、幽霊たちが屋敷の壁へ向かって横滑りして、次々とそこに磔となった。

 それでも、右腕をがっちりと別の悪霊につかまれてしまい、片手の動きを封じられた。

 冷静な策略家は焦りもせず状況を打破する。崇剛は左手に持っていたダガーで、悪霊の手を引き裂こうとした。

 相手がそれに気づき、神父の腕から手を離そうとしたが、それは崇剛の罠だった。聖霊師は青白い手を素早くつかんで、重力十五分の一をフル活用する。

 左手に右手を軽く添え、悪霊の体を両腕で引き上げると、地面と平行にしたまま、ハンマー投げをするようにくるくると回り出した。他の敵たちの悲鳴が上がる。

「ギャァ〜!!」

「グフッ!」

「ウワァ〜!!」

 悪霊ひとりの体を打撃物にして、舞踏会でワルツを踊るように、崇剛は優雅に回り続ける。

 神父の体の内側で流れている曲は、最後の盛り上がりを迎えようとしていた。スピード感のあるリズムがまるで性的な絶頂を迎えるように繰り返される。


 Hac in hora/さあ、今この時に。

 Sine mora/遅れるな。

 Corde pulsum tangite/心の弦をかき鳴らせ。

 Quod per sortem/女神に与えられし宿命。

 Sternit fortem/強者も打ち倒し。


 まだまだ早くなっていき、全ての感覚を目覚めさせるようなシンバルの強打の間隔は短くなり、


 Mecum omnes plangite/私とともに、悪を嘆き悲しめ。


 フィナーレにとうとうたどり着いた。伸びきっていた音が居残り、余韻を残していたが去り際美しくすうっと消えた。

 両手でつかんでいた武器代わりの悪霊を離し、屋敷の壁に向かって土煙を上げながら、幽霊は滑って派手に激突した。

 ズシャン!

 壁からリバウンドし、一度戻りそうになったが、気を失っていて地面へ砂袋のようにどさっと落ちた。

 悪霊たちはひとりもいなくなり、体の内側で鳴っていた音楽も止んだ。久しく静寂が戻ってきた。崇剛は死装束の女を仰ぎ見ようと、


 その時――

 ビュッ!


 左上から右下へ向かって、鋭い光の線が素早く描かれた。崇剛は反射的に体をねじり、鋭利な風圧をさけ、ダガーを持つ手を右下から左上へ上げると、


 ガシャガシャガシャーンッッッ!!!!


 金属がすれ合う、不気味な音が割れたガラスのようにあたりに鋭く刺さった。雲にまた隠れてしまった月明かりのない闇に、摩擦ででき上がった火花が、オレンジ色の花火のように飛び散った。

 ダガーを持つ右腕が伸びきったところで、相手と崇剛の動きがピタリと止まる。


 一触即発――


 冷静な水色の瞳の端に映ったのは、神経質な頬にあと数ミリで触れる位置で、闇夜から浮かび上がった大きな刃物だった。

 三日月型をして、崇剛の顔が余裕で映り込むほどの幅を持っていて、ダガーでかろうじて食い止めている、その鋭利なものの正体を、聖霊師は見極めた。


(大鎌――武器を持っている。おかしいみたいです。今まで、そのような霊体に出会ったことはありません)


 聖なるダガーでさえ、敵と戦うためというよりは、浄化の手助けとなるものだ。違和感の原因を探りながら、今目の前にいる敵との対峙方法も模索する。

 死神が持つような大鎌と、ダガーの小さな刃とが力の競り合いを起こす。優雅な神父が左上に押し上げようとする。悪霊が右下へ向かっておろそうとする。お互いの腕を震わせたまま、ガッチリと動かなくなった。

 フードが深くかぶられている上に、月明かりのない薄闇では、相手の顔を見ることは叶わなかった。


 私は短剣です。

 間合いが違いすぎます。

 すなわち、私が相手を倒せるという可能性は限りなくゼロに近いです。

 ですから、こちらの可能性の数値を上げましょう。

 そうですね、こうしましょうか。


 冷静な水色の瞳がついっと細められると、今まで見てきた映画や小説などから、今必要なアクションを引っ張り出してきた。

 左足と大鎌の一番奥で突っ掛かったままになっているダガーの二点を軸にする。右足を地面から自分の体へ引き上げ、敵の腹めがけて力強く蹴り――ミドルキックを放った。

「っ!」

「ぐっ!」 

 敵の力が緩んだところで、大鎌の刃先をダガーでさけるように擦りながら、


 ズリズリズリッッ!!

 

 聖なるダガーを抜き取る。鉄同士がすれ合う火花が、闇にまた鋭くバチバチと浮かび上がった。

 大鎌の間合いから抜けたした、崇剛は戻した右足を地面につけざまに、強く蹴って手を使わず、両腕を胸の前でクロスさせたまま、バク転するように悪霊の頭上を超え始めた。

 線の細い体は真っ直ぐだが、傾いているコマのようにくるくると空中を回転して、敵の背後に回り込もうとする。

 紺の長い髪は遠心力で、下に落ちることもなく、崇剛のまわりで垂直に円を艶やかに描いた。

 聖霊師は大鎌を持つ敵の眼前から一瞬にして消え、次に現れると、背後の地面に線の細い背中を見せた体勢でストンと、芝生の上に優雅にロングブーツの足で降り立っていた。

 髪を縛っていたターコイズブルーのリボンが外れ、雰囲気は一気に女性的に。

 神父が素早く悪霊へ振り返ると、頭にかけられたベールのように長い髪が広がる。両手に持っていたダガーを、大鎌を持つ幽霊の背中に向かって、容赦なく次々と放った。


 しかし――


 大鎌を持った悪霊の体は揺れ消えるどころか、無傷のままだった。崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められ、霊界のルールを紐解く。


(倒せない……。すなわち、相手の方が霊層が上ということです)


 暗い夜が一瞬にして真っ白になった――。タイミングを待っていたかのように、大量の敵が現れ、神父の両腕や体をつかんだ。そのまま後ろへ無理やり引っ張っていき、樫の木に崇剛の背中は押しつけられた。

「っ!」

 聖霊師は思わず、衝撃で声をもらしたが、それを消し去るように、悪霊が次々と同じ言葉を浴びせてくる。

「返して……」

「返して……」

 逃げようとするが、そのまま我先にと悪霊たちが神父の上に乗ってきて、崇剛は木の幹を背にしたまま、幽霊たちの重さに耐えられず、ずるずると滑り落ちてゆく。

「っ……っ!」

 そうしてとうとう、芝生の上に仰向けに倒され、両腕を体と水平に持っていかれた。ちょうど十字架のような形で、優雅な神父は地面に磔にされてしまった。

 屋敷の主人の紺色をした長い髪が四方八方へ淫らに流れ落ちた。体中を拘束され、女性がけがされそうな光景ができ上がった。

 死という恍惚とさせるものと重なる不浄が、自宅の庭で繰り広げられることとなってしまった。

 未だに雲がかかったままの月。夜空ににじみ出ている光を、冷静な水色の瞳に映しながら、崇剛は自身が見逃したミスがどれだけ重大なことだったのか今頃気づいた。


 いけませんね。

 私は感情に流され、間違った可能性を導き出したみたいです。

 四月十八日、月曜日。二十時四分五十七秒以前の、瑠璃の言葉――。


「他にも、除霊の札を二百作れと申しておったわ――!」


 こちらから導き出せること、そちらは……。


 二百もの霊を支配下に置くには、それなりの地位――霊層が必要です。

 すなわち、相手は天使のランク以上が関係しているのかもしれません。


 漆黒のサラサラとした髪を持ち、若草色の瞳を持つ少女を守れるナイトは、自身ではなかったのだと、崇剛は思った。


 本当のナイトは、お遊び言葉を口にしながら、金の長い髪を女性的に揺らし、白いローブに身を包んだ男――天使で、邪悪なサファイアブルーの瞳がはっきりと蘇った。


 同じレベルである、ラジュ天使でないと倒せない。

 私ひとりでは太刀打ちできない……かもしれない。


 打つ手立てがなくても、冷静な頭脳はまだあきらめずに稼働し続けるが、地面に近くなった神父の耳へ、最後の審判を下すように、


 ズズーッ、ズズーッ!

 

 重い鉄が地面を削りながら引きずられてくる音が大きくなってゆく。さっきの大鎌を持った幽霊が、崇剛の体の横へ立った。

 逆光する月明かりとフードの影で相変わらず相手の顔を見ることは叶わない。不気味に光る鋭い三日月形をした鉄の塊を存分に振るうために、肩へと持ち上げられた。

 

 地面に十字を描くように磔にされた神父。

 邪神界に魂を売り飛ばした大鎌の悪霊。


 それでも、崇剛は泣くこともせず、争い続ける。神の元で生きる人間として、ここで天に召されるのか。それとも生きていられるのか。


 まだ可能性はゼロではない――。


 何の躊躇もなく、大鎌の刃は半円を描くように降ろされ、崇剛の右側から地面ギリギリを通り過ぎて、神父の首を確実に狙って勢いよく迫ってきた。

「っ!」


 負ける――死ぬ可能性が上がってゆく――。


 そうして、神に選ばれし者――千里眼の保有者が最期さいごに、敵の背後にある夜空を見上げた。


 千里眼のメシア――。

 見えないものがひとつだけあります。

 そちらは、自身の未来です。

 ですから、自分自身の死期は見えることはできません。

 こちらの場で、私は死ぬ……かもしれない――


 秒読み段階へ入ってしまった、本当の死という恐怖の音は、断崖絶壁の合間を吹き抜ける風の響きにやけに似ていた。


 ビューッ!


 崇剛の首をギロチンする形で、鋭い大鎌の刃が忍び寄る。それでも、冷静な頭脳はまだ健在で、水色の瞳はうれいに染まることなく、誇り高く開けたまま、死という事実と静かに対峙した。


 私は今天に召されるかもしれない。

 霊界は霊層ごとに、生きる世界が違う。

 従って、死ぬことによって、私は彼女とはぐれてしまう……。

 手の届かないところへ、彼女はいってしまう……。


 大鎌は崇剛の首を右から左へと、雲を切るように横切ってゆく。霊体にかけてあったロザリオの鎖は砕け散り、

「ぅっ!」

 口からではなく、自分の声がのどもとから聞こえた。血しぶきが上がることはなかったが、神父の体と首は別の塊となった。

 死はとても静かなものだった。誰に知られることなく、滅んでゆく運命に崇剛は身を任せるしかなかった。


 敬虔な神父には、神から救いの手はこなかった。その代わりに、


 ――いつの間にか、血のように赤い目がふたつ真正面からのぞき込んでいた。こんな深刻な場なのに、街角でナンパするような軽薄な声が言う。


「そう。魂の切断ってさ、放置すると消滅すんの。どこの世界からもいなくなる。本当の死ね。神様も戻せない。本当の死。輪廻転生も叶わないの。お前これで終わりね」


 砂嵐が広がるように景気が霞むと、プツリと意識が途切れ、真っ暗になった。

 誰なのか確かめることはできなかったが、この声の言う通りならば、あの百年の重みを感じさせる少女の響きは、もう二度と聞くことが――


「――急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう! 悪霊退散!!」

 浮上な闇夜に、澄んだ少女の声が響き渡った。

(瑠璃……)

 崇剛は名を呼ぼうとしたが、もう声も出なかった。

 切断された神父のまわりを、緑色の光を帯びた白い紙が空中を、上へ向かう螺旋階段のように飛び舞う。

 急に逆回転して、崇剛のまわりに聖なる光を帯びたお札が次々と悪霊の額に張りつき、

「グオォォォーッッ!!!!」

 雄叫びを上げながら消え始めた。月にずっとかかっていた雲が取れ、月明かりが屋敷の庭へ戻ってきたが、それを見ることは崇剛には叶わなかった。

 もうまぶたはぴくりとも動かない。仰向けに倒れた長い付き合いの人間のそばへ、巫女服を着た瑠璃は駆け寄った。

「崇剛、大事ないかっっ!?」

 まだ音だけは聞こえる。これで最期になるかもしれない、愛しい少女の声に何か応えたかったが、

「…………」

 どうやら遅かったようだ。崇剛がひとりで磔にした大量の悪霊たちを、瑠璃は見渡す。

何故なにゆえ、我を呼ばなかった!? お主がひとりで戦えるはずがなかろう! 何故、我は気づかなかったのじゃ! いつものお主なら、すぐに我を呼ぶであろう!」

 この少女が憤慨している姿を見て楽しむことはもうできない。最期に自身で怒らせてしまうとは、本当に愛していたのだろうかと、崇剛は薄れてゆく意識の中で後悔する。

 同じ年頃だった時はあっという間に過ぎ去り、崇剛だけが大人になって、聖女はいつまでも少女のまま。生まれ変わって、まためぐり合う運命もあるかと望んでいたが、それももう叶わないのだ。


 守護霊の瑠璃――崇剛を守る者。

 人である崇剛――守られる者。


 感情に流され、冷静な判断を下せず、バランスをかいた結果だった。崇剛と違って、気持ちを素直に表す瑠璃だ。慌てている姿が見えなくても、手に取るようにわかる。

 崇剛は最期に届かなくても、自身に正直でいようと、心の中でそっとつぶやいた。


(私はあなたを守りたかった……。だから、呼ばなかった。あなたを悲しませたことを許してください)


 身も心も神へと捧げた神父は人を愛してしまった。しかも、相手は触れることのできない存在。瑠璃と神への懺悔を終えると、全ての感覚から崇剛は解放された。


    *


「崇剛っ!? 崇剛っ!?」

 瑠璃の悲痛の叫びが、夜更の庭に響き渡っているところへ、金の光が空から降ってきた。

 天使の証である光る輪っかを頭に乗せ、立派な翼を持つ、ラジュが白いローブに身を包み立っていた。

「おや〜? 魂も壊れるんですね〜」

「お主、知っておって放っておいたであろう! 天界から見ておったであろう!」

 消滅するかもしれない崇剛を前にして、瑠璃は本気で怒っていた。いつもニコニコの笑みをしているラジュは、今は真顔だった。


「私も今しがた気づいたんです」


 瑠璃はラジュのローブへ詰め寄ったが、寒気がするほどの冷たい声でさえぎられた。

戯言ざれごとを申している――」

「物には限度というものがあります。魂をひとつ消滅させることは、私たち天使には許されていません」

「じゃが――」

「話している時間はありません。すぐに修復します」

 神の守護を受けている証のロザリオが粉々に砕け散っているのを、ラジュは見つけた。それを手に取り、小さな光が宿ると、元どおりになった。

 屋根の上をふと見上げるが、誰もそこにはいなかった。天使の力を使って、ラジュは時間を巻き戻す。

 すると、血のように赤い目ふたつを持つ、白い服を着た男が崇剛をずっとうかがっていたことに気づいた。

 大鎌を手に持って、ボブ髪をサラサラとかき上げる、翼も輪っかもない男。神殿に来いと数日前にそばへやって来た存在。

 サファイアブルーの瞳の邪悪さが色を増す。

「おや〜? そういうことでしたか〜?」

「どうしたんじゃ?」

 瑠璃が問いかけると、ラジュはいつものニコニコの笑みに戻って、おどけた感じでこう言った。

「こちらのままにしておきましょうか〜?」

「お主! やはり邪神界側であろう!」

 憤慨している瑠璃の前で、ラジュは不気味に含み笑いをする。

「うふふふっ。冗談です〜。神に叱られてしまいますからね〜?」

 金髪天使が見上げた空には銀の三日月が止まっていた。戯言天使はさておいて、瑠璃は崇剛の体に触れようとする。

「崇剛がこんなむちゃをするとは、ちとおかしいの」

 いいところに切り込んできた少女に、天使は大人の男として、話をはぐらかそうとした。

「人それぞれ想いがありますからね」

 ラジュはそう言いながら、心の中で守護下のふたりの関係をたどる。

(守護天使の私には結界内での、崇剛の心も筒抜けです。愛ゆえに隠しておきたいみたいですからね〜)

 当の本人だけが知らず、瑠璃は不思議そうな顔をする。

「何の話じゃ? 想い、どやつのじゃ?」

 天使としての慈悲や役目は、ラジュにももちろんある。だからこそ、今は密かに聖女に聞かせておいて、ここはいつものお遊び言葉で巻いてしまうのが、得策だった。

「今日はお姫様抱っこで、文字通り、瑠璃さんを手中に収めようかと思いましてね?」

 霊体の首が切られ、魂が壊れている崇剛を置いて、展開され続ける会話。瑠璃は地団駄を踏んだ。

「お主、戯言を申しておる場合ではなかろう! 早く、崇剛の魂の修復をせぬか! 消滅してしまうであろう!」

 真剣味が感じられない、天使と守護霊。目の前で繰り広げられる、無慈悲な会話の数々。

 耐えきれなくなって、崇剛はうっすらとまぶたを開け、くすくす笑い出した。


 おかしな人たち……ですね。

 助けに来ていただけるという可能性が99.99%だと、最初から思っていましたよ。

 ですから、困ったふりをしていただけです。

 敵を撹乱させるためでもありました。

 しかしながら、首を切られるとは思いませんでした。


 くりっとした若草色の瞳が横からのぞき込んだ。

「崇剛、今元通りにするからの」

「悪戯が過ぎますから、崇剛にはこのまま放置ということで、魂を消滅させるという方法でお仕置きしましょうか〜?」

 殺そうとしている、手厳しい天使の女性的な声が楽しげに響く。

 普段やり慣れない戦闘の数々。霊体の首を切断されるという事態。大量の悪霊が除霊された余波。それらに耐えられず、崇剛の意識は本当に遠のき始めた。

「崇剛っ! 崇剛っ!! 崇剛っっっ!!!!」

 聖女の悲鳴にも似た呼び声が、何度も繰り返される中、神父の意識はぷつりと途切れた――――

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