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神様たちの冒険  作者: くずす
6章 Cランク冒険者、来訪者の偽装彼氏になる
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それぞれの報酬

「それで……これからどうするの……?」


 場が少し落ち着き始めたタイミングで、イエリスさんがそんな疑問を口にした。

 真っ暗な闇が一面に広がる隔離空間には出入り口のようなものが一切なく、ここからどうやって外にでるのか気になったのだろう。


「ああ、それはミントに連絡して出してもらうしかないんだけど―――」


 そんなイエリスさんの疑問に、僕は頬を掻きながら答える。


「―――だけど……?」

「あっちはあっちで『異界の門』の封印をしているから、代わりをよこすって……」

「代わり……?」

「あ、うん……ここを管理しているミントの分身みたいな存在がいるんだけどね―――」

「―――すみません、少し遅れました」


 話題に出たからというわけではないのだろうが、ミントのよこした代理がそのタイミングで登場する。

 それはミントと同じ顔をした黒い翼の堕天使で、ククルから『夢幻の神』と呼ばれていた存在である。

 まあ、あの時と違い、翼は一対であったし、服装も普通のものとなっていたが……


「……このコがミントちゃんの代理……?」

「私の名はウラハッカ。ミント様の『眷属』で、この地の管理をまかされている『妄想の神』です。どうぞ、よろしくお願いします」

「……よろしく……」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」


 ウラハッカと名乗った『妄想の神』は、イエリスさんたちに軽く挨拶すると、僕の方へと顔を向ける。


「ルドナ様もこうしてお話をするのは初めてでしたね」

「……うん、まあ、そうだね……あんまりそんな気はしないけど……」

「ウフフッ。それもそうですね」


 この時の僕はとてもおかしな反応をしていたのだろうが、それは仕方がない。

 なにしろウラハッカという存在自体がかなり特異な存在なのだ。

 というのも―――もともとウラハッカはミントの妄想の副産物であり、ミントの妄想が生み出したもう一人の自分と言える存在である。ただし、その生まれ方を考慮すると、ミントとウラハッカは全く同じ存在とは言い難く、ミントの魂から生まれた別の存在となる。魂の在り方としてはリサとニーズの関係と同じであり、一応は別々の存在なのだ。

 だが、ミントの妄想から生まれたウラハッカは、ミントの()といっていいくらい存在が近い。

 ミントの『眷属』として、ミントの過度な妄想を制御する役目を担っているぐらいなので、もう一人のミントという扱いもあながち間違いではないのだ。

 そして―――そんなウラハッカであるから、僕としては微妙な反応にならざるを得ない。

 いや、だって……()の事があるからね……

 ミントが作り出す夢はミントの妄想がもとになっている。そして、その妄想を制御しているのはウラハッカである。そこに繋がりがないとは考えにくい。

 むしろ、繋がっていないと考える方が不自然である。

 というか……そうでもなくても、ウラハッカの存在はいろいろと危うい。

 なにしろ、ミントの普段抑えている妄想を具現化した存在がウラハッカなのだ。

 まともに対面したのはこれが初めてであるが、僕の本能が『コイツはヤバイ』と告げていた。

 まあ、何が『ヤバイ』のかは、この段階では定かではないのだが……



「―――それでは、この()()()を通常空間に戻せばよろしいのですか?」

「うん、お願いできる?」

「もちろん、お安い御用です」


 僕のお願いをウラハッカは二つ返事で承諾する。

 ミントの『眷属』であるウラハッカは基本的には勤勉で実直。このあたりはもととなったミントの性格をそのまま引き継いだ感じである。

 だが、そんなウラハッカの言葉にサヨさんは首を傾げた。


「え?二人……ですか?」

「はい?どうかしましたか?」

「いや、戻るのは三人じゃ……?」


 いや、サヨさんの疑問も別におかしなものではない。

 普通に考えたら、三人一緒に脱出するという流れである。

 しかし―――


「あ~……僕は少しやらなくちゃいけないことがあるから……」


 僕は少しばかり言葉を選びながらそう告げる。

 だが、そんな態度がかえってサヨさんの興味を引く事となった。


「やらなくちゃいけない事……ですか?」

「うん、ちょっと野暮用が―――」

「それは何です……?」

「あ、いや、それは―――」


 とはいえ、それを口にするのが躊躇われたから、僕もとっさに誤魔化したわけで……そう簡単には明かすことは出来ない。

 出来ないが……こういう誤魔化しは相手に気づかれた時点でわりとどうにもならない。

 それに、そこまで秘密にしなくてはいけないものというわけでもない。

 変に拗れるくらいなら、正直に話してしまう方が正解だと自分でも思うのだ。

 だが、話しにくいことであるのは間違いないわけで……


「あの、ルドナ様……ひょっとしてお二人にはまだお話になっていないのですか?」

「うっ……」

「話してない……?」

「う~ん……それはどうなのでしょ?お二人もルドナ様の恋人になられたのですよね?」

「い、いや、そうだけど……いきなり話すような事ではないというか―――」

「でも、秘密にしておくというのも問題があると思いますが?」

「い、いや、それはわかっているけど、流石に―――」

「ええと……どういう事です?」

「話はそれほど難しくないですよ。ルドナ様に協力した見返りを頂くというだけですし―――」


 思わぬ事態に困り果てる僕であったが、そんな僕にかわり、ウラハッカが事情を話しはじめる。


「見返り……ですか?」

「普段であれば、ミント様たちもそんな事は要求しない―――事もないのですが、今回は少しばかり特殊でしたからね。協力の見返りを求められても、仕方ないと思いますよ。金銭的な報酬は期待できませんし……」

「あっ、それって―――」

「とはいえ、金銭で払われても困ることではあるんですけどね」

「え……?」

「これが単なる人助けであったのなら、報酬はナシでも良かったんですよ。ですが―――」

「―――ルドナ君は私たちを助けるためにミントちゃんたちにも協力を要請した……その結果、私たちはルドナ君と付き合うことになった……ミントちゃんたちからすれば、ルドナ君のお願いで、新しい彼女を作る協力をしたって事だもの。それは見返りの一つや二つは要求するでしょうね……」

「あっ……」

「―――そういう事ですので、サヨ様が心配すような事ではありませんから安心してください。ルドナ様がこの場に残られるのは、皆さんとの時間を作る為ですし……」

「な、なるほど……」


 話を聞き終えたサヨさんは相槌を打つ。

 だが、一つの事に納得したために、次なる疑問が口に出る。


「あ、でも……それならなんで、それを隠そうとしたんです?」

「……いや、別に隠そうとしたわけじゃないんだよ……ただ、少し伝えづらい事だったから……」

「まあ、ルドナ様の反応もわからなくはないですよ。つい今しがた彼女となった女性に対し、今から他のコとイチャイチャしますとはなかなか言い辛いでしょう?」

「それは……確かに……」

「だからといって、一緒に……というのも問題がありますからね。いや、ミント様たちであれば、そのあたりの事も気にしないのですが、今回ばかりは少しハードルが高いと思いますし……」

「……ハードルが高い……?」

「この隔離空間は『妄想の果て』という名の通り、本来はミント様の過度な妄想を隔離しておくための空間なのです。普段であれば、口にすることを憚られるような願望が集う場所であり、人様にお見せするようなものでもございません。ですが、それがミント様の望むものというのもひとつの真実であり、愛する相手に知ってもらいたいという想いもございます。まあ、中には全く逆のモノというのもないわけではありませんが……そういう特異な場所ですので、普段の『入場』には厳しい制限が取られているのですよ」

「……は、はぁ……」


 サヨさんの疑問に答えるウラハッカは、やや唐突にこの隔離空間について説明を始めたが、それが今回の問題の()であるので仕方がない。


「まあ、ざっくり言うとね。この隔離空間の中では、その人の願望が晒される……らしいんだよ……」

「え……?」

「ミント様からすれば、自分の恥ずかしい願望だけを一方的に知られるというのは耐えられないのでしょうが……この空間は取り込んだものの願望を読み取り、それを公開してしまうのです。だからこそ、本当に心を許せる相手しか『入場』できないわけですが……」


 そこまで口にしたウラハッカがパチンと指を鳴らす。

 すると、それまで何もなかった空間に巨大なスクリーンが現れる。


「えっ……」


 そこに映し出されたのは全身をリボンで拘束されたミント。

 最初に僕の夢と繋がったミントの妄想が映像として映し出されていたのだが……


「……こんな感じで皆に自分の願望を見られてしまうわけですが、それでも良ければ残ってもらっても構いませんよ。サヨ様やイエリス様もルドナ様の恋人なのは同じですし、リスクを承知で参加なされるのでしたら、私も止められませんから」

「………」


 ウラハッカがそんな事を告げるが、サヨさんは半ば固まった状態で言葉もない。

 かわりに口を開いたのはイエリスさん。


「なるほど……これは確かにハードルが高いかも……でも、その前にひとついい?」

「はい?なんでしょうか?」

「……ルドナ君はどうして欲しいの……?」

「―――はっ?」


 そして、その質問は完全に爆弾である。


「まあ、それは聞くまでもないことだとは思いますが―――」

「ちょっ、まっ―――」


 再び手を掲げたウラハッカに待ったをかけるが、パチンという音が無慈悲に鳴り響き、空間に新たなスクリーンが開く。

 そこに映し出された光景など、もはや言うまでもない。

 男がこの状況で思い描く願望など、それこそ()()()しかないのだ。


「………」

「……健康的な若い男なら、そうなるわよね……」

「一応、フォローを入れておきますと、この映像はあくまで読み取った願望の一部ですので、それだけが全てというわけではありませんよ?理性から切り離された願望のみを映し出していますので、どうしても過激なものになりがちですし……まあ、だからこそ()()とも言えますが―――」


 イエリスさんやウラハッカはそれを目にしても平然としていたが、この場合の問題はサヨさんである。

 サヨさんは先程からずっと黙ったままで、顔も俯けていた。

 だが、流石にこのままというわけにもいかない。


「え、えっと―――」

「………」


 正直、どう声をかけていいのか、自分の中でもまとまっていなかったが、それでも僕はなんとか声をかけ―――


「……ッチ……」

「……え?」

「エッチ!スケベ!変態っ!」


 顔を真っ赤にしたサヨさんから罵倒される。

 いや、それだけではなく―――


「え?ちょっ!サ、サヨさんっ!?」

「死んで反省しろぉおおおおおお~!」


 ―――いつの間にか手にしていた神器『フェネクス』を、巨大な炎のハンマーに変化させ、殴りかかってくる。

 

「いや、あの、流石にそれは―――うぎゃああああああっ!」

「死ねっ!変態っ!死ねっ!変態っ!死ねっ!変態っ!」


 そんな僕たちをはた目に、イエリスさんとウラハッカがのんびりと語り合う。


「……仕方がないと思うけど、あそこはサヨだけを登場させるべきだったよね……」

「それならまだ言い訳もできたでしょうが、それはそれで問題だと思いますよ。ハーレムの主としては、あれで正解なわけですし……」


 ……今度の説得は今まで以上に骨が折れるものになりそうであった。





6章終了までは毎日更新していく予定です。

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