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神様たちの冒険  作者: くずす
6章 Cランク冒険者、来訪者の偽装彼氏になる
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最終ラウンド

 サヨさんとの闘いにおける最終ラウンド。

 そこで投入された『切り札』が普通のゴーレムや天使であるはずがない。


 サクヤによって組み上げられたゴーレムは、『神層世界』で集めたアイテムを元に作られた『アームズパーツ』と、その中核ユニットとなる『デビル・コア』からなる汎用決戦兵器。

 一見すると鈍重そうな見た目であるが、魔力ブースターによるホバークラフトで地面を滑るように移動するので、機動力はかなり高く、旋回性能も地味に侮れない。

 全身に搭載された様々な武装により、距離を選ばず戦えるという点も強み。

 ちなみに、『アームズパーツ』は頭部・胴体部・脚部・腕部・背部という各部位で別れており、状況に応じて換装が可能。まあ、制作を始めてからそれほど日にちが立っていないので、『アームズパーツ』の数はそこまで多くはないし、今回のゴーレムは『基本フレーム』という名のオーソドックスなパーツで組み上げられていたが……


(試作品の『アンチ・マジック・シールド』はこの状況だと出番はなさそうね。でも、『ディスペル・ミサイル』は地味に効いているみたい)

(サヨさんの身に纏っている炎も、『フェネクス』が生み出した付与魔法の一種という事なんだろうね)

(まあ、費用対効果を考えるととても釣り合いわないし、そもそもあれの搭載数はそこまで多くないんだけど……)


 基本フレームで組み上げられたゴーレムの主な武装は、その巨体に合わせた専用のランスと、前面に強力な『アンチ・マジック・フィールド』を展開する『アンチ・マジック・シールド』、両肩に備え付けられた迎撃用の『マジックミサイルランチャー』に、背部につけられた可動式の『魔法増幅キャノン』、両脚部につけられた『四連奏ミサイルポッド』といったところ。

 だが、このゴーレムの本質は『アームズパーツ』や武装ではなく、中核ユニットになる『デビル・コア』にある。

 それというのも―――


「なかなか楽しい玩具じゃない!気に入ったわ!」

「お褒めに預かり恐悦至極。では、こういう趣向はいかがでしょうか?」


 このゴーレムには意思がある。

 強き魂がある。

 何故なら中核ユニットである『デビル・コア』は、サクヤにより『マキナ』という名前と神としての力を与えられていた。

 だからこそ、炎のドリルと化したサヨさんの一撃をランスで受け止める事も出来る。

 いや、受け止めたランスはくの字にひしゃげていたし、接触部分は融解もしていたが……

 マキナはランスで受け止めたサヨさんを盾で殴りにいく。

 正確には『アンチ・マジック・シールド』に取り付けられた隠し武器で殴りつけたのだが―――


 ドゴッ!


 鈍い音と共にサヨさんの身体が吹き飛ばされる。

 もっとも、それくらいで終わるサヨさんではない。


「まさか、パイルバンカーまで装備しているなんてね……ホント、ロボそのものじゃない」


 立ち上がったサヨさんはそんな台詞と共に口元を吊り上げる。

 だが、サヨさんが対峙しているのはマキナだけではない。


「あらあら。せっかく出てきたのですから、私たちの相手もなさってくださいな」


 そんなふうに声をかけたのは、ミントが呼び出した4人の天使の1人。

 赤い髪を持つその天使は燃える炎の剣を構え、サヨさんを挑発する。


「へぇ……次は貴方が相手をしてくれるの?」

「火を司る天使としては、貴方の(ちから)は無視できませんの」

「ああ、なるほど……神の従者である天使様が精霊や幻獣に負けたとあっては示しがつかないものね」

「ええ、そういう事ですわ」


 赤髪の天使はそう言うと、僕たち―――というか、サーマにチラリと視線を向け、フッと笑う。


「なっ!?ご、ご主人様、アイツ―――」

「どうどう、落ち着いて、サーマ」


 火を司る天使はサーマの事もライバル視しているのだろう。

 なにしろこの天使たちはミントの眷属。

 ミントの手で『一時神化』していても、おかしくはないわけで……


「でも、たかが神の眷属にすぎない天使に私が止められるとでも……?」

「ええ、私は私を生み出した御方から神となるべく力を与えられました。故に―――火の神として、あらゆる炎を御する使命があるのです」

「アハッ、アハハッ!神から力を……使命を与えられたかっ!くだらないっ!くだらないわねっ!天使っ!私の前でそんなたわ言を吐くなんて!お前は―――キエロっ!!」


 神に力を与えられたという言葉が心の傷を抉ったのか、天使の言葉に激昂するサヨさん。

 赫怒の感情のまま、神器『フェネクス』を突き出し、青黒い炎の螺旋を放つ。

 しかし―――


「神の前に聖も邪も、光も闇もありません。あるのは『絶対』の理のみ」


 赤髪の天使は手にした剣を振るうことで、それを正面から叩き伏せる。


「なに……?」

「……何を驚いているのですか。神の眷属である天使がその神から力を与えられたのです。私に炎は効きませんよ」


 それが可能だったのは、天使が火属性に対する『完全無効化』の能力を有していたからである。


「マ、マジッスか……」

「あっ、なるほど。あれは相性だね」

「え?相性?」


 そんな天使を見て驚くサーマであるが、僕はそのカラクリに気づき、サーマをフォローする。


「いや、天使って、もともと防御よりの能力が高いでしょ。それに闇属性以外の耐性も高いし……サーマとあのコは同じ火の神だけど、方向性が違うというか、防御特化のあのコに同じ属性をぶつける事自体が悪手なんだよ」

「精霊であった私たちは、基本、元となった属性の力に特化しています。でも、あの天使さんたちは自分が司る属性に対する『完全無効化』能力を持っているのだと思います。だとすれば、他の属性の攻撃で戦わないといけなくなるわけですが―――」

「―――天使であった私たちは光属性や聖属性の攻撃も得意だし、武器による戦闘もそれなりに出来るからね~」


 僕の後に続いたネインの解説。

 それにかぶせる様に、いつの間にか隣に移動していた青髪の天使がしれっと話に交じってくる。


「ええと―――」

「あ、私はグエル。あっちの黄色の髪がウルで、緑色の髪がファウ。サヨ様と戦っている赤髪がミカね」

「う、うん、ありがとう……」


 戦闘中であるし、完全に警戒を解いていたわけではないのだろうが、グエルと名乗った青髪の天使は、やたらと気安い感じで、自分たちの名を伝えてきた。

 まあ、一緒に戦う上で、お互いの名前も知らないというのは不便であるし、それが悪いわけではないが……


「……でも、いいの?その……あのコ1人に任せて……」

「う~ん、本当は良くないんだけど、ミカが一人で戦うって聞かないんだもん。それに、私たち3人じゃ、フォローぐらいしか出来ないしね~」

「ああ、火に対する『完全無効化』を持つのはあのコだけなのか……」

「マリサ様が最初の世界を創世した時に生み出された『四大天使』が私たちのモデルだからね。それに倣って、ミント様も私たちに火・水・風・土と属性を与えたんだよ~」

「そうだとすると、そこまで長くはもたないね……」

「だね~。確かにあの神器は破格の性能を持っていると思うけど、サヨ様は魔神王を倒した勇者の転生体。火属性以外の力も当然使えるよね~」

「うん。それに今は魔神化もしているし―――」


 火属性の攻撃を『完全無効化』するミカは、神器『フェネクス』を扱うサヨさんにとって戦い辛い相手ではあると思う。

 だが、神器『フェネクス』の力だけが、サヨさんの全てではないだろうし、そもそも今のサヨさんは魔神化もしている。

 この世界群の外からやってきた魔神たちの『力』は、本来、この世界の『理』の外にあるもの。この世界で力を発揮する為に、ある程度はこちらの世界の法則(システム)に合わせる必要はあるとは思うが、こちらの世界の法則が必ずしも当てはまるものでもない。

 そもそも『完全無効化』という能力がこの世界の『理』において施行されるものであるので、その仕組みを作った真の神クラスの存在に対してはわりとあっさり覆される。

 そんなわけで―――



「ネイン、サリア、行くよ!【ウォーター・ブレード】!!」


 ミカが押され始めたところで、僕たちもサヨさんと刃を交える。

 もちろん、グエルたちやマキナも後に続いたし、イエリスさんやサクヤもいる。

 数の暴力ではないが、1人で戦うサヨさんに勝ち目なんてあるはずがない。

 単純に敵として戦っていたのならば、決着はとうについていた……と思う。

 だが、僕たちの目的はサヨさんを倒す事ではない。

 あくまでサヨさんを救うために僕たちは動いているわけで―――


「【インフェルノ・フレイム】っ!」

「【フリージング・シールド】っ!」


 サヨさんの放った黒い炎がグエルの生み出した氷の盾に防がれる。

 そして、その死角からマキナが飛び出し、その巨体でもって体当たりをしかける。

 多人数と戦う必要があるサヨさんは、神器『フェネクス』を速射性の高い銃器に変化させていたのだが、結果としてはそれがあだとなった。まあ、自身を炎のドリルと化す形態は、攻防一体の優れたものではあるものの、多人数を相手にするには向かないので、判断としては間違っていないのだが……


「【ホワイト・デスサイズ】っ!」


 吹き飛ばされたサヨさんに、サクヤが容赦なく追撃を入れる。

 白い冷気をまとった死神の鎌が、サヨさんの身体を大きく切り裂いていく。


「くっ、まだまだ―――」


 それでもサヨさんは立ち上がる。

 神器『フェネクス』の【自動蘇生(オートリザレクション)】がある限り、彼女が止まることはない―――


「サーマっ!いまだっ!」


 ―――なんていうのは間違いである。


「了解っス!【フレイム・シール】!!」


 僕の号令で魔法を発動させるサーマ。

 発動させた魔法は、周囲の火の精霊に働きかけ、その力を弱らせるというもの。精霊使い(エレメンタラー)であれば誰でも使えるような初歩的な魔法である。

 だが、効果は絶大。

 神器『フェネクス』の【自動蘇生(オートリザレクション)】は周囲のマナを炎として取り込む事で成り立っている。火の精霊たちがまともに働かない状況下では、その効果が著しく減退するのだ。

 ただし、これはサーマと神器『フェネクス』の力比べ―――火の精霊に対する干渉力の勝負となる。

 だからこそ、僕はサーマにできるだけ多くのマナを譲渡していた。

 マキナやミカたちが戦っている間、サーマやネインと話していたのも、別にサボっていたわけではないのだ。

 それに―――今は全ての準備が整っている。


「サヨ……あなたの負け、よ」

「な、舐めないで……私はまだ―――」

「―――いいえ、これで終わり……」


 サヨさんに最後の一撃を与えたのはイエリスさん。

 飛び掛かってきたサヨさんを、どこからともなく取り出した大剣で、容赦なく叩き伏せる。

 そして、吹き飛ばされたサヨさんは―――


「『妄想の果て』」


 ―――ミントの生み出した漆黒よりも暗い穴に落ちていく。

 こうして、サヨさんとの『戦い』は終わった。

 あとは……


「それじゃあ行ってくるね……」

「大丈夫だとは思うけど、もしもの時はお願いね」


 周りのみんなに声をかけた後、イエリスさんと僕はサヨさんの消えた暗い穴に飛び込んだ。





6章終了までは毎日更新していく予定です。

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