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神様たちの冒険  作者: くずす
6章 Cランク冒険者、来訪者の偽装彼氏になる
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死闘・その2

 一応、会話が出来るようになったサヨさんであるが、だからといって、話が通じるとは限らない。


「焼き尽くせっ!!」


 サヨさんが大型の戦斧に姿を変えた『フェネクス』を振るうと、炎が渦を巻いてイエリスさんに襲いかかる。


「温い……」


 その炎を手にした刀で捌くイエリスさんであるが、切り裂かれた炎の影から戦斧を振り上げたサヨさんが飛び出してくる。

 だが、イエリスさんは慌てず騒がずそれを避け―――


「同じ手は二度も受けないわっ!【フレイム・プリズン】っ!!」


 突如として、サヨさんの背後に炎の檻が出現。檻に捕らわれた虹色スライムは獄炎に焼かれ消滅する。

 更に、回避行動をとるもう一体の虹色スライムに戦斧を―――神器『フェネクス』を向けるサヨさん。


「貫けっ!」


 その言葉と共に炎に包まれた戦斧が炎の長槍となり、イエリスさんを串刺しにする。

 もっともそれは見かけだけ。


「だから、温いって言っているの……あっちにいる間に腕がなまったんじゃない……?」


 スライムであるイエリスさんは身体をドーナツ状に変化させ、槍を器用に避けていた。

 そして、そのままの状態でサヨさんとの距離を逆に詰める。


「これで二回目……」


 イエリスさんの刀がサヨさんの首を刎ねる。



 ―――と、そんな人外な戦いを見守る僕たちであるが……もちろんただ傍観しているわけではない。


(るー……どうするの……?今はイエリスさんの方が押しているようだけど……)

(今はイエリスさんに任せるしかないよ。下手に参戦しても、被害を増やすだけだと思うし……そのかわり―――)

(―――情報の分析は引き続き行うとして……いざって時の準備もしておくわ……)

(お願い)


 サクヤとの『心話』による会話を打ち切り、意識を再びサヨさんに向ける。

 首を刎ねられたサヨさんであるが、神器『フェネクス』の【自動蘇生(オートリザレクション)】により、何も問題もなく立ち上がっている。

 いや、何度でも復活するところが問題なわけだが―――


(ヤバイッスね……あの神器、周囲のマナを炎に変換して取り込んいでるみたいッスよ……)

「え?どういう事……?」

(あんなふうに大技を連発していたら、すぐにエネルギー切れで動けなくなると思っていたんっスけど……あの神器がそれを補っているッス。戦闘で消費されたマナ―――意思から解き放たれたマナを収束し、自分のエネルギーにする感じッスかね……)

(マナのリサイクルですね……だからイエリスさんもマナの消耗を出来るだけ抑えているんだと思います。大技を発動すれば、それだけサヨさんにエネルギーを与えることになりますし……)

「……あのさ、それって、もう無敵なんじゃ―――」

(一応、マナの回収にも限界はあると思うっスけど……)

(あくまでリサイクルですからね。吸収できるのは意思に染まってない純化したマナだけのようですし、必要最低限のマナでダメージを与え続ければ倒せるはずです……あまり現実的ではありませんが……)

(サヨさんの戦闘スタイルもあの神器があればこそッスね……防がれても避けられても、マナを回収すればそこまで問題ナシっス。むしろ、防御させてマナを消費させるっていうのも計算の内じゃないっスかね?)

「………」


 なんとか対策を見出そうとするも、知れば知るほど状況の難しさが先にたつ。


「つ……つまり、あの神器をどうにかしないとダメって事……?」

(いえ、それも現実的ではないです……)

(ルシウスの分析だと、神器『フェネクス』の所有権及び、神獣『フェニックス』の契約は維持しているって言っていたッスからね。あれの制御を奪うっていうのは、『完全支配』の領域っスよ……)

(今のるー様から私たちやサリアちゃんの制御を奪うのとかわりませんからね……たとえアバン様やマリサ様でも、そんなことはできません)

(この場の全てのマナを支配下に置く方がまだ可能性があるっスよ……)

「……そうなのか……あ、でも、それなら―――」

(マスター!状況が動きそうよ!)


 なにより、今の僕たちは戦闘中。

 一騎打ちを続ける二人から距離をとっているとはいえ、状況が変われば動かざるを得ない。




◆◆◆




 サリアの警告が飛んだのはサヨさんがもう一度倒された直後。


「流石はイエリス……()の戦い方は熟知しているわね。でも―――これならどうかしらっ!!」


 そう口にしたサヨさんは神器『フェネクス』の形状を再び変化させる。

 それは丸い大型の筒―――大砲のようにも見える銃器であるが……


「【ガトリング・フレアバード】」


 複数の銃身が回転しながら一斉に火を噴く。

 それは比喩とかではなく、撃ち出されるのは弾丸サイズの無数の火の鳥である。

 もちろん、それを向けられたイエリスさんは当然のように射線から外れるのだが―――火の鳥たちは一匹一匹に自我があるのか、高速で突撃しながらもイエリスさんを追い軌道を変える。


 バシュッ!バシュッ!バシュッ!


 ついには、イエリスさんの身体を捉え、炎の弾丸がその身を貫いていく。

 もっとも―――


「……今のは少し驚いた……こんな形状変化、前はなかったよね……」


 身体を貫かれるだけなら、スライムであるイエリスさんにはたいしたダメージとならない。


「でも、貫通力が高すぎたわね。スライムの私には物理攻撃はほとんど意味がないわよ」


 ただし、それはサヨさんも重々承知。


「うん。そこは失敗した。でも―――次はどうかしら?」


 ニヤリと口元を吊り上げて、サヨさんは神器『フェネクス』を振るう。

 次の形態変化は長い槍のような柄を持つドリル。

 その先端をイエリスさんに向けたサヨさんは、


「イグニッション!」


 そんな掛け声とともにイエリスさんへと突撃する。

 もちろん普通の突撃ではない。

 槍でいえば石突に当たる部分から炎を吹き出し、ロケットのように加速する。

 同時に槍の先端部分も炎を生み出し、螺旋状の炎がサヨさんの身体を包む。

 それは巨大な炎のドリルそのもの。

 流石にそれを受ける気にはなれなかったのか、イエリスさんは当然のように回避行動に移る。

 いくら超高速で突っ込んでくるとはいえ、その動きは直線的。

 避けるだけなら、そう難しくない―――と、思われたのだが……


「そこぉっ!」


 サヨさんは超加速で突撃をしかける最中に、左手に隠し持っていた短い柄のドリルを投擲するという離れ業を披露。回避行動中のイエリスさんの身体にドリルが突き刺さる。

 当然、炎の螺旋がイエリスさんのスライムの身体を穿ち、焼き―――最後に爆散する。


「イエリスさんっ!」

「……心配しないで……この程度じゃ私は死なない……まあ、それなりにダメージは受けたけどね……これで3対1……いや、奪われたエネルギーの分を考えるとポイントは2対1ってところね……」

「ええ、でも―――」


 爆散するイエリスさんを見て、僕は慌てて飛び出した。

 だが、その行動はわりと悪手。


「―――この場に彼らを連れてきたのはマズかったですね。これで1対2です」


 サヨさんの手にしたドリルランスが僕の胸を貫き、炎が僕の身体を焼く。


「この場に居合わせたのが不幸でしたね……まあ、巻き込んだ私が言えた事ではありませんが―――」


 とはいえ、僕は神人である。

 ぶっちゃけ、一度や二度死んだところで問題はないわけで……


「【ディメンション・ブレード】っ!」


 【即時復活】からの【ディメンション・ブレード】で即座にやり返す。


「な……なぜ……?」

「……サヨには言っていなかったけど、このコたち神人よ……一度や二度、肉体を滅ぼしたくらいじゃ死なないわ」

「……は?神……人……?何を、馬鹿な―――」

「力を無くしていたサヨは気が付かなかったのでしょうけど、このコたち、皆、神人なの。だから、貴方に勝ち目なんてないのよ」


 そう―――僕たちはサヨさんに自分の正体を隠していた。

 もともとは恋人偽装をするだけの依頼であったし、流石にそんなことまで話せるわけがない。

 一応、勇者の力を取り戻した今のサヨさんであれば気が付いてもおかしくはないのだが、イエリスさんとの戦闘の最中に他事に気を向けるというのも無理がある。

 僕たちが『神人』であるというのは、とっておきの『切り札』となりえたわけだ。

 だが、この『切り札』は少々諸刃の剣でもある。


「ククッ……信じがたい事ではあるけれど、そう言われればいろいろと納得もできますね。そして、そうであれば、手加減する必要もなくなりますね。なにしろ、今の私は魔神……神は私が打ち滅ぼさねばならない最大の敵です」


 異世界からやってきた魔神たちにとって、この世界の神々は討ち滅ぼすべき敵であり、魔神王の呪いに感化された今のサヨさんにとってもそれは同じ。

 あるいは、それ以上の憎悪がサヨさんにはあったのかもしれない。

 なにしろサヨさんの孤独を生み出した要因のひとつは『神』にある。

 神々の尖兵(ゆうしゃ)として魔神王と戦った事がサヨさんの孤独の始まりであるのだが、かつての勇者と魔神王は自分という存在の中にある。サヨさんが自分以外のものに原因を見出すとすれば、自分を受け入れない『世界』か、過酷な運命を背負わせた『神』しかいない。

 まあ、その『神』は僕たちではないのだが……


「そう……まだやめないのね」

「やめられるはずもないでしょう!私にはもうこれしかないのよ!」


 イエリスさんの言葉にそう返し、サヨさんはドリルランスとなった神器『フェネクス』を天に掲げる。


「来るわよ、ルドナ君……」

「神器解放っ!フェネクス顕現っ!!」


 そして、現れたのは青い炎を纏った鳥形の魔神―――魔神化した『神獣』フェネクス。

 それに伴い、サヨさんの身体を取り巻く炎も赤から青に変わっている。

 もちろん、単純に色が変わっただけではない。


(ヤバイッスね……エネルギーの量が今までの2倍以上ッス……)

(明らかに人の限界を超えていますよ……)


 推定されるエネルギー量だけでも今までの2倍以上という事で、いよいよサヨさんも勝負をつけに来た感じである。

 だが―――


(―――それなら、こちらも奥の手を出すだけよ。いいわよね、るー)

(出来れば使いたくはありませんでしたが、そうも言っていられないようですね……仕方がありません……)


 そのタイミングで、サクヤとミントから準備が整ったという『心話』が入る。


(ああ、期待しているよ、二人共―――)


 先に動いたのはサクヤ。


「【クリエイト・ゴーレム】発動!『デビル・コア』及び『アームズパーツ』顕現っ!」


 サクヤの前に巨大な魔法陣が描かれ、身長3mほどの武装したゴーレムが現れる。


「【サモン・エンジェル】」


 次はミント。

 手にした杖で床を叩くと、漆黒よりも暗い穴が生まれ、そこから武器を携えた4体の天使が飛び出してくる。


(るーくん、いよいよ正念場だね)

(うん……そっちには極力向かわせないつもりだけど……リサも気を付けてね)

(大丈夫、大丈夫。こっちにはノアさんもミントちゃんもいるんだから。それよりも―――)

(―――ここまでしたんだ。絶対に救ってみせるよ)


 そして―――サヨさんとの戦いも最終ラウンドに突入する。





6章終了までは毎日更新していく予定です。

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