ミーティング
サヨさんの説得がなったことで、次はミーティングを行う。
場所は僕の部屋で、参加者は僕・リサ・サクヤ・ミント・ノアさん・サヨさん・イエリスさんの7人。
会議の進行役はイエリスさんである。
だが、イエリスさんは基本口数が少なく、この手の会議を仕切るようなタイプではない。だから、サクヤが質問し、それにイエリスさんが答えるという形式で進む。
「それでまず確認しておきたいのだけど、『魔神王の呪縛』は通常の『解呪』とかは出来ないのよね?」
「ええ……たとえ神の力を借りても無理……かつて勇者だった魂は転生を重ねるうちに『魔神王の呪縛』も自分の魂の一部として取り込んでしまっている……だから、『魔神王の呪縛』をそのまま『解呪』するのは危険。サヨにどんな影響が出るかわからない……」
「なるほど。だから、サヨさんに勇者の力を取り戻させると……」
「サヨが勇者の力を取り戻せば、取り込んだ『魔神王の呪縛』も制御できるようになる……はず……」
「そのためにダンジョンに行く必要があると……」
「かつて魔神たちが拠点とした古城……そこに勇者が残した武器がある。それには勇者の力が込められているから、それに触れれば、サヨの中で眠っている勇者の魂も目覚める……」
「それならその武器を回収してくればいいんじゃないの?」
「勇者の武器……魔神たちが現れた『異界の門』を封じている……勇者の武器を持ってくると、魔神たちが出てくる……かも……」
「ああ、持ち出しは厳禁なのね……」
「それに、あの武器……勇者にしか抜けない……勇者の言う事しか聞かないから……」
「そう。やっぱりサヨさんを連れて行くしかないのね」
サクヤが最初に確かめたのはそんなところであるが、これはサヨさんをダンジョンに連れて行かないで済む方法がないのか確かめたのだろう。
かつての勇者の魂を引き継いでいるサヨさんであるが、戦闘能力はほぼ皆無。
耐久力や抵抗力は勇者の加護のおかげで常人よりも高いらしいが、力の大半を無くしている状態であるので、それもそこまで高いわけではない。
連れて行かないで済むのなら、その方がいいに決まっている。
「それじゃあ、その魔神たちの城というのはどの程度の危険性があるの?」
「冒険者ランクでいえばBランクくらいの魔物が大半だけど、たまにAランクのもいる……今、貴方たちが『神層世界』で攻略しているエリアより少し低いくらい?」
「なるほど。攻略だけならそこまで難しくはないけど、サヨさんを守りながらとなると気は抜けないわね」
「あと、厄介なのは……あそこ、ごくまれに魔神が生まれることがある……そいつらはそれなりに強い……まあ、あくまで『眷属』レベルだから、Sランクには届かないけど……」
「それ、貴方の基準でそれなりって事で、私たちからすれば十分強敵なんだけど……」
イエリスさんの言葉にため息をつくサクヤ。
Sランクというのは冒険者でいえば英雄クラスに該当するわけであるし、邪竜だった頃のニーズがA(+)の強さだった事を考えると、『Sランクに届かない……』なんていうのは、何の気休めにもならない。
しかも、そんな困難なミッションにも関わらず、報酬は皆無。
サクヤがため息をつくのも仕方がない。
(な、なんか、ごめん……)
(まあ、いいわよ。るーの決めた事だし……話を聞いてしまった以上、見て見ぬ振りも出来ないしね……それよりも―――)
「そうなると、フォーメーションが重要になるわね。まあ、サヨさんの中央は決定として、護衛はミントとノアさん。私は遊撃で―――」
「前衛は私がやる……ルドナ君は最後尾で守りについてもらう……」
「イエリスさんは案内役でもありますし、それが妥当ですね」
それからいくつかの事を話し合うが、特に語るべきものはない。
しいていうならサヨさんの挙動であるが―――これも一見すると普通に見えた。
冒険者でないサヨさんは、終始、所在なさげにしていたものの、それはそこまでおかしなことではないと思う。
ただ……イエリスさんに多少なりとも話しかけていたというところが少し気になる。
もっとも、これは先のイエリスさんの話があったからであるが―――
(己を滅びに導く最悪の毒……か……)
(イエリスさん程の人が警告してくるぐらいだもんね。準備できることはちゃんと準備しておこうね)
(そうですね。プランBも考慮して、ここは―――)
冒険者にとって、事前の準備は大切な物。
準備を怠り依頼を失敗するなど三流以下の仕事であるし、それが原因で犠牲者でも出そうものならそれこそ目も当てられない。
僕たちは普段以上に念入りに準備を整えることにした。
◆◆◆
ダンジョン攻略に関してのミーティングを終えた僕は、サヨさんと個人的に話し合う。
その理由は単純で、偽りの恋人関係をこのまま続けるか確かめる為である。
「ええと、それで―――このまま続けます?」
「そ、それは……」
「うちあけるなら早い方がいいと思いますよ。これまでのイエリスさんの様子から見ても、それで大きく態度が変わるという事はないと思いますし……」
「う、うん……それもわかっているんだけど―――」
とはいえ、そう簡単に決められるものでもない。
単純に関係改善を求めるだけなら問題はなかったのだろうが、イエリスさんがサヨさんに好意を持っている事も、サヨさんがそれを受け入れられないでいるという事も、基本的には変わっていないのである。
むしろ、自分を助けてもらうためにイエリスさんの力を借りるのに、そのイエリスさんの想いに応えられないという事で、気に病んでいるフシもある。
まあ、だからこそ、偽りの恋人関係を続ける意味もあるのだが……
「そうですね……イエリスさんは信じられる人だと思いますが、独特の感性を持っているヒトみたいですし、今回の事が終わるまでくらいは今のままというのもいいのかもしれませんね。サヨさんの問題が解決した後で、じっくり考えればいいんじゃないですか?」
「え……?あ、そ、そうですね。でも、いいのですか?ルドナ君たちにもかなり迷惑をかけていると思うのですが……」
「まあ、嘘でも彼氏と名乗った以上、その責任は取らないといけないですし……サヨさんみたいな可愛いコの彼氏役ですからね。僕は楽しんでやっていますよ」
サヨさんの心の負担を少しでも軽くするために、おどけた感じで告げて、話を終える。
(……またナンパですか、ルドナ様)
(い、いや、違うって……エド……)
(……ホントですか……?)
そのおかげで、エドを中心とした精霊たちに若干せめられもしたが、それもいつもの事と言えばいつもの事。
6章終了までは毎日更新していく予定です。