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神様たちの冒険  作者: くずす
6章 Cランク冒険者、来訪者の偽装彼氏になる
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探り合い

 イエリスさんがサヨさんを訪ねてきた日から3日が過ぎた。

 この間、特に大きな動きはない。

 もともと僕たちは様子を見るという方針であったし、イエリスさんの方から何か仕掛けてこない限り、動きようがなかったのだ。


 イエリスさんはあれから毎日、『銀のゆりかご亭』にやって来るようになった。

 もちろんその目的は、サヨさんの様子をうかがう事にある。

 ただ、僕に交際を申し込んだ形でもあるので、僕に会いに来ているという側面もないわけではない。

 いや、一応表向きは、僕たちの自作したアイテムを買いに来ているというもっともらしい名目で来店しているわけだが……


「……ポーション、五個……」

「はい」

「ありがとう……」


 まあ、普通に買い物に来たお客様を邪険にはできない。


「ちょっと他の品も見ていい……?」

「はい……」


 欠片も興味がなさそうな目で、カウンターの横に並べられたアイテムを手に取るイエリスさん。

 だが、品物を見ていないわけではない。


「この解析ツール……昨日のとは別のもの……?」

「それは今日卸したばかりの新作ですね。若干ですが魔力探知の性能が上がっているという話です」

「……うん……それに魔力耐性もあがっている……この性能でCランクは……ちょっと破格……」

「あ、ありがとうございます……」


 実際に売れるかどうかは別としても、真剣に商品を品定めしてくれている以上、それを無碍にもできない。


「……サヨは……どうしている……?」

「ええと……今は子供たちの世話をしていますね……」

「そう……」


 まあ、それ以外の話を振ってくることもあるが、それも常識の範囲内。

 イエリスさんはこちらの仕事を邪魔するようなことは一切せず、世間話をする程度で帰っていく。

 それ故に、こちらとしても手の出しようがないのだ。

 それに―――


「それじゃあ……貴方の方はどう……?」

「……え……?」

「私と付き合う気になった……?」

「い、いや、流石にそう簡単には―――」

「でも……いろいろ聞きたいんじゃないの?」

「……うぐっ……そ、それはそうですけど―――」


 一応、僕たちも何もしていないわけではない。

 ないのだが……それらも全て裏目に出てしまっている。


宝珠(オーブ)の事もトリーシャの事も……貴方が付き合ってくれるのなら……全部、話す……」

「情報と交換で付き合うとか、流石に勘弁して欲しいんだけど……」

「……まだ……対価、足りない……?」

「だから、そうじゃなくてね……」

「じゃあ……付き合ってくれたら……この身体を好きにしてもいいよ……」

「……え……?い、いや……だから、そういう事じゃないんだって……」

「……でも……今、少し、悩んだ……よね?」

「それは……男なんだし、仕方がないでしょ。でも、そういうのはダメだからね。サヨさんを裏切ることになっちゃうし……」

「ん……?ああ……そうか。今の段階で私の誘惑に負けると……貴方はサヨを裏切ることになるのね……」


 駆け引きの相手としてみると、イエリスさんは恐ろしく難敵であった。

 基本無表情で何を考えているのかわからない上に、思考が突拍子すぎて、どう対処していいのかわからなくなるのだ。

 そのくせ、知能そのものは高いので、話ができないわけではない。

 もともと様子見という消極策しか持っていない僕たちが押され気味になるのも当然であった。

 というか―――僕たちはこの時すでにイエリスさんの思考を盛大に読み間違えている。

 それ故、何をしても自分たちの思惑を外すのだが……


「それじゃあ……もうひとつ聞いてもいい?」

「な、なんですか……?」

「サヨと付き合っているのなら……何故、貴方はサヨを『神化』させないの……?貴方、世界樹(ユグドラシル)のパートナーなんでしょ……?」

「え―――っ」


 予想外の問いかけに、僕は思わず固まる。

 だが、イエリスさんとしては何を今更という話なのだろう。

 なので、少し首を傾げながら、僕に忠告をくれた。


「あれ……?貴方たちはトリーシャの正体を聞いてないの……?」

「……え?」

「トリーシャは神代から生きる邪神の1人。当然、貴方たちの事も知っているわ。だから……あのコには気をつけなさい」

「あっ……」


 言われて気付いた……というか、何故、言われるまで気が付かなかったのか……という感じであるが、トリーシャさんはアバン様から天敵認定されるほどの邪神である。僕たちの正体くらい見抜いていてもおかしくはない。

 そして、そんなトリーシャさんとイエリスさんは繋がっている。

 それがどんな繋がりかなのかまでは、僕たちにはわからないが―――イエリスさんも只者ではないという憶測は容易に立つ。


「……イエリスさん、あなたは一体―――」

「……ちょっとは興味が出てきた……?」

「ええ、悔しいですけどね……」

「じゃあ……私の秘密をかけて勝負をしない……?私が負けたら、私の正体を教えてあげる……でも、私が勝ったら、私のお願いをひとつ聞いてもらう……とか……どう……?」

「……悪くはないですけど、それで『サヨさんから手を引け』とか、『付き合え』とかはナシですよ?」

「ええ、わかっている……私のお願いはとあるダンジョンの攻略に手を貸して欲しいだけよ」

「なるほど、そういう事なら構わないですよ」


 故に、僕はイエリスさんの誘いに乗る。

 正体の掴めない相手とだらだらと駆け引きを続けても泥沼に陥るだけであるし、今まで動かなかったイエリスさんの方から仕掛けてきてくれたのだから、この機会を逃すことは出来ないという判断である。

 もちろん、それなりのリスクもあるが―――


(よろしかったのですか、ルドナ様)

(うっ、何か問題あったかな、エド……)

(いえ……ルドナ様の決めた事に口出しするつもりはありませんが……この方のやり口は私と同じですよ?情報を小出ししながら、思わせぶりな態度で相手を焦らし、そう動かざる得ない状況を作り出して、相手をコントロールするんです)

(……い、いや、まあ、それはわかっているけど、今の状況だと他に手がないし……というか、そういうやり方を自分から暴露するのはどうなの……?)

(ウフフッ♪問題ありませんわ。だって、その方がルドナ様も期待しちゃうでしょう?)

(………)


 エドから『心話』による忠告が入り、一気に『早まったかな……?』という不安に襲われる。

 だが、賽は既に投げられた。

 そして―――僕はこの判断を滅茶苦茶後悔することになる。





6章終了までは毎日更新していく予定です。

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