夜のお楽しみ
バカンス中の僕たちがあるが、それでもやるべきことはやらなくちゃいけない。
「こんな日でも修行はあるんだよね」
「こればっかりは仕方がないね~」
毎夜0時になると発動する『神層世界』への転移は、今日も変わらず発動していた。
ただ―――
「あら、今日のるーはテンション低めね。そんな事で大丈夫なのかしら?」
「うん?」
「これが終われば、後はお楽しみの時間でしょ?なのに、肝心のるーがそんな調子だと心配なんだけど。今日は皆、ずいぶんと張り切っているみたいし♪」
「えっ、あ~、えっと―――」
サクヤの明け透けな物言いに同意をする者はいなかったが、その場にいた全員がやる気に満ちていたのは本当。
ちなみに、ここで言う全員の中にはノアさんも含まれている。
ノアさんは『試練の加護』を授かっていないのだが、僕が『一時神化』させたことで、サリアやリフスたちと似た扱いになったらしく、本人の同意を得る事で『召喚』することが可能となっていたからだ。
「人数が人数だし、仕方がないんだけど、昼間アピールできなかった分をここで……と考えているんでしょ♪」
「………」
「あ、ミントは例外ね。あのコはお仕置きされるのが決定しているし♪」
「はぅあっ!」
唯一大人しいのはミント。ただし、理由が理由なので、これは本当に例外。
そんなわけで―――この日のダンジョン探索は過去最高の戦果を叩きだしたのだが、それも些末な事。
◆◆◆
旅の恥はかき捨て……ではないが、旅行先でテンションが上がってハメを外すというのはよくある事。
なので、この日の『夢』が特に酷かったのは、わりとどうしようもないというか……
「ええと……なんで、ビーチなの?」
「せっかく海に来ているのだから、こういうのも悪くないでしょ?」
「それじゃあ、その格好は……?」
「せっかくビーチを再現したのに、水着でしない方がおかしくない?」
夏の太陽の下、水着姿の8人の女のコに誘われて、理性が持つはずがない。
そもそも『何をしても、所詮は夢』という最強の言い訳があるので、ブレーキが効かなくなるとホント止まらない。
というか、僕だけの責任ではないと思うのだ。
実際、僕の彼女たちは積極的なコが多いし……
サキュバスに覚醒したサクヤは言うに及ばず、サリアやリフスは自分から迫ってくるタイプだし、リサも系統としてはそちら側。
ミントやヌーモは一見大人しいけど、むっつりさんなので、Hが嫌いというわけではない。
ノアさんも奥手ではあるが、負けず嫌いな面もあるし―――実は攻める方も嫌いじゃないようなフシがある。年上という矜持もあってか、意外とリードしたがるタイプなのだ。
あとはネインであるが……こちらはまだよくわからない。
見た目通り、大人しいのは確かだが、積極性がないわけでもないというか……今回も普通に混じっていたからね。『人化』した状態でするのは初めてなはずなのに……しかも『夢』の中とはいえ、一応、外なんだけど、そのあたりは良かったのだろうか?いや、散々しておいて言う事ではないと思うけど。
結局のところ、どれだけ言い訳を重ねても、拒めない僕の方に問題があるのは間違いない。
ただ、それでも言い訳をさせてもらうと―――魂を繋ぐ『ライン』が形成されている時点で、『嘘』など通用しない。
僕とノアさんの間に形成された『ライン』であるが、これはノアさんだけに限られたものではなく、この場にいる全員が共有しているもの。僕とノアさんの間に『ライン』が生まれたのは、僕がノアさんを『(一時)神化』させたからであるが、僕がノアさんに分け与えた『マナ』も、もともとはリサから譲り受けたものなので、『リサ⇔僕⇔ノアさん』という『ライン』が出来たというのが本当は正しい。
そして、リサの『マナ』を元に『神化』したというのは、この場の全員に当てはまる。
これはリサを中心とした魂の『ネットワーク』が築かれたと考えてもらえば分かり易いかもしれない。
もっとも、この『ネットワーク』は、相手の考えている事がなんとなく感じるという程度のものでしかなく、『心話』や『解析』でも行わない限り、相手の思考が全て伝わるというものではない。
ないのだが―――なんとなく相手の考えが伝わるという時点で、十分、アウトなんだよね。相手が嫌がってないとわかるだけで、強気で押すことが出来るんだから……
いや、まあ、これも、僕が言えた事ではないんだけど……
◆◆◆
僕たちがそんな大人の時間を過ごしていた頃……
ベッドで眠るリサとネインの間で、ニーズが目を覚ましていた。
「……リサもネインも『夢の中』みたい……」
これは普段ならまずない事。
寝つきの良いニーズは、一度眠ると朝までグッスリというタイプで、夜中に目を覚ますなんてことは今まで一度もなかったのだ。
だが、それが偶然かというと―――そうでもない。
ニーズはもともと邪竜……リサの『マナ』から生まれた存在である。
『神化』していないとはいえ、その魂はリサのそれと限りなく近い。
故に、『ライン』に似た感覚で『夢の中』にいる僕たちの魂を感じ取ったとしても不思議ではないのだ。
更に言えば―――
「むぅ……皆、ズルいのだ。にーもるーと遊びたいのに……」
今のニーズは人との交流を経て成長している。
人の心を学んでいる。
だから―――『誰かを羨む』という感情に目覚めたとしても、それは仕方がないことなのだ。
5章が終わるまでは毎日投稿していく予定です。