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神様たちの冒険  作者: くずす
5章 Cランク冒険者、バカンスに行く
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芽生え

「え~っ!るーは一緒じゃないの~っ!?」

「ごめんね、ニーズちゃん。るーくんはノアさんたちとご飯食べに行っちゃったから」

「う~っ!」

「この人数で入れるお店を探すとなると大変なのよ」

「晩御飯は皆一緒だから、それで勘弁してあげてね」

「むぅ……わかったのだぁ……」


 僕たちが海の家でご飯を食べていた頃、ニーズがちょっとした不満を口にした。

 だが、それはすぐに収まったので、その場にいたほとんどの者がそれほど気にはしなかった。

 いや、微妙に不貞腐れたニーズの事は気にしてはいたのだが、いわゆる『子供のワガママ』であると判断し、そのうち機嫌も直るだろうと軽く考えていたのだ。

 しかし―――そんな中で微妙な違和感をもった者が一人。

 水の精霊(ウンディーネ)から水の神に一時神化したネインだけが、ニーズの内面に起こっている変化の兆しを朧気ながら感じ取っていた。


 一時神化したネインは、見た目こそ子供であるが、中身はちゃんとした大人である。

 性格的に幼い部分もないわけではないが、中位以下の精霊の精神はそこまで育たない(精神が成熟すると、そのまま上位精霊になる)ものなので、これは考慮しない。

 大事なのは大人であるということ。

 だから、ネインにも不満があった。

 せっかく一時神化し、人の姿を手に入れたのだ。出来るだけ多くの時間を恋人(ルドナ)と一緒に過ごしたかった。

 なのに……見た目が子供っぽいという理由だけで、ニーズの相手を任されてしまった。

 もちろん無理やり押し付けられたわけではないし、自分だけが相手をしているわけでもない。そもそもニーズの相手をすることが嫌というわけじゃない。ただ、せっかくのバカンスである。恋人(ルドナ)との距離をもっと縮めたいと考えるのは自然な事。

 大人だから不満を口にしていないだけで、ネインもニーズと似たような想いは抱いていたのである。

 いや、その場にいた全員が大なり小なり同じ想いは抱いていたが―――つい先日、一時神化したばかりのネインは、その分だけ想いが強い。

 だからこそ、ニーズの想いに一番に気がつく事になるのだが……



 ネインは結局、リサ・ミント・ニーズの三人と、ホテルのシーサイドカフェで昼食をとる事となった。

 ただ、この時点では然したる問題はなかった。

 最初は微妙に不貞腐れていたニーズであるが、美味しい食事―――特に食後に出たアイスの効果で、すっかり機嫌を直していたからだ。

 だから、食事前の騒ぎもほとんどなかった事になっていたのだが……


「あっ!る―――」


 食事から戻ると、パラソルの下でルドナがサクヤやサリアと話をしていた。

 それを見て、ニーズは一瞬、駆け出そうとして……それを止めた。


「……?」


 そんなニーズの反応にリサやミントは首を傾げる。

 だが―――


「ネイン、あっちで遊ぼ」

「え?」

「砂のお城作っるて約束だよ?」

「え、ええ、そうですけど……るー様はいいのですか?」

「るーは他のコと遊ぶので忙しいみたいだし、にーはちゃんと我慢できるもん」

「そ、そうですか。それならいいのですが……」


 ニーズが自分からそう口にしたので、その場はそのとおりに進む。

 ネインはリサたちと別れ、ニーズと一緒に砂浜まで移動する。


「ええと、ホントに良かったのですか?」


 場所を移したところで、ネインは改めて問うのだが、


「にーはもうお姉ちゃんだもん。それに恋人同士の時間は邪魔しちゃいけないんだよ?」

「あ、そ、そうですね……ニーズちゃんは偉いですね」


 ニーズがそんなふうに答えたので、それ以上のことは踏み込まない。


(当たり前ですけど、ニーズちゃんも成長しているんですよね)


 ニーズが『銀のゆりかご亭』で暮らすようになって三ヶ月余り。

 『誰かと一緒に遊びたい』―――そんな欲求しか持っていなかった元・邪竜のニーズも、人の輪の中で成長を重ねている。

 ただし、大抵の変化は得るものと失うものを併せ持つ。

 同様に、良い面もあれば悪い面もある。

 もとより、清濁併せ持つのが人間であるので、善性だけが成長するなどありえないわけで―――


「あ、でも、ネインは良かったの?」

「え?」

「恋人同士の時間は邪魔しちゃいけないけど、ネインもるーの恋人でしょ?」

「え、ええ、まあ、そうですけど……」

「るーの恋人でも、やっぱり恋人同士の時間は邪魔しちゃダメなの?」

「そ、そうですね。極力しない方がいいでしょうね。自分が邪魔してしまったら、他の人が邪魔してきた時も文句が言えなくなってしまいますし……」

「そっかー。恋人でもダメなのかー」


 玩具のシャベルで砂の山を作りながら、ニーズが抑揚のない声で告げる。

 そんなニーズの様子に、ネインはゾクリとした悪寒を覚えた。


(あ、あれ……?なんか、今、ニーズちゃんから殺気のようなものを感じたような……)


「ニ、ニーズちゃん?」

「ん?何?」


 しかし、それは一瞬だけ。

 ネインが改めて呼びかけた時には、ニーズはキョトンとした顔を向けていた。


「あ、ううん。なんでもないよ」


 だから、この時のネインは気が付かない。

 ニーズは確かに成長していた。

 そしてそれは、周りの人の影響が大きい。

 ただ、子供の世界というものは、やはり同じ年ごろの子供が占める割合が大きい。ニーズの周りには、ルドナを始めとした大人もそれなりにいたが、それ以上に子供たちが大勢いたのだ。

 特に最近、『魔王』という破格の力をもつ女のコがその輪の中に加わったわけで―――


(リーヴァちゃんは、恋人同士になれば好きな人といつでも一緒にいられるって言っていたけど、恋人がいっぱいいる時はそうじゃないのかぁ~)


 13歳にして、好きな男のコ(カズキ)の為に、国さえも飛び出してみせた超行動派な魔王陛下(リーヴァ)の影響力を甘く見てはいけない。

 その影響はニーズにも確実に出ていたのだ。





というわけで、この章のメインヒロインはニーズちゃんです。

まあ、この章自体が幕間的なお話なので、そこまでヒロインムーブはしませんが……


5章が終わるまでは毎日投稿していく予定です。

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