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神様たちの冒険  作者: くずす
4章 Dランク冒険者、勇者と魔王の仲を取り持つために策を弄する
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星の盾

「あ、あれ……?」

「ええと……何ともないわよね……?」

精神抵抗(レジスト)には成功したようですが……あれは……?」


 赤黒い禍々しい波動が駆け抜けた後、僕たちは首を傾げていた。

 僕たちの後方にいたノアさんやカズキ君なども似たような反応であるし、結界内のドレクさんたちも同様。

 しいて言うと、リサの反応だけが少し違う。


「え?なんで『支配』なの?」


 いろいろと困惑しているという点では僕らと大差はないが、リサが疑問に思ったのは、何故、ここで『支配』という手段を相手が選んだのかである。

 というのも……


(リサ。今、アイツが何をしたのかわかる?)

(う、うん……宝珠(オーブ)の力を借りて、私たちを『支配』しようとしたんだよ……そんなこと絶対無理なのに……)

(え?絶対無理?)

(そ、そうだよ……だって、私たちは神人だし、カズキ君には勇者の加護があるもの。精神支配とか効くはずがないよ。特にさっきのような『完全支配』とか絶対に無理。それをするためには、相手の持つ魂の全てを自分の力で支配しなくちゃならないわけだし……いくら魔神王の力を借りたとしても、エネルギーが足りるはずないもの)

(そ、そうなの……?)

(いや、これって、魔法の基礎知識だと思うんだけど……精神操作系の魔法って、基本的に効率が悪いんだよね……?)

(ああ、なるほど。そういう事なのね)


 精神操作系の魔法というのは、一般的に効率が悪い魔法とされている。

 相手の精神を思い通りに出来るという効果は非常に便利ではあるのだが、魔法の成功率が極端に低く、よほど格下の相手か、そもそも抵抗する気がない相手でもないと、まともに効果を発揮しない。

 更に言うと、効果の大きさに比例して消費魔力が跳ね上がる。

 これは条件が難しくなるほど乗算されていくので、『完全支配』のような最高難易度の魔法となると、人間に扱える魔力の量をあっさりと超えてしまう。


(魔神王って、神にギリギリ届くかどうかという程度の力しかもってなかったから、神を『支配』するとか絶対に無理なんだよ。多分、加護を受けた勇者とかでも無理。なんの力も持ってないような普通の人が相手なら出来なくはないだろうけど、それも魔神王本人ならって話で―――)

(ドレクさんたちにも効果がなかったみたいだし、アイツはその程度の力しか引き出せてないってこと?)

(あ、いや、それはちょっと違って……今のドレクさんたちはミントちゃんの魔法で守られているでしょ。その守りを突破する為にはもっとエネルギーが必要って話で……抵抗(レジスト)されちゃうと、効果が一切現れないのが精神操作系の欠点だし……)

(ええと……何にしても、アイツの作戦は失敗したって事だよね?それなら―――)


 圧倒的な力の奔流からの何の効果もナシという結末に、その場にいた全員が大きく戸惑っていたが、今は戦闘の最中である。

 相手の男も予想外の事態に混乱しているようであるし、畳み掛けるなら今なのだ。

 しかし―――


(あ!待って!それは危ないよ!)


 飛び出そうとした僕をリサが止める。

 その理由は簡単。


(確かにあの人は使い方を間違えたけど、あの宝珠(オーブ)が危険な事は変わってないよ)

(え……?)

(あの宝珠(オーブ)に蓄えられたマナは神に匹敵するクラスだし、さっきの魔法で放たれたエネルギーの総量はサリアちゃんの全力攻撃と同じくらいだったから……普通に攻撃とかされると、私たちはともかく、ドレクさんたちが―――)

(……お、おぅ……)


 語られた内容に思わず頭を抱えたくなる。


(え、ええと……ミント……?)

(サリアちゃんクラスの攻撃となると、【セイフティー・ドーム】でも厳しいでしょうね。かといって、あれだけの人数を守るとなると……)

(とはいえ、このままってわけにもいかないでしょ?それこそ、普通に攻撃されたらヤバイわけだし……)


 アサシン・リーダーは支配の力が及ばなかったことが信じられないのか、再度、宝珠(オーブ)を発動させていた。

 しかし、それは何の効果も発揮しない。

 だが、だからこそ男は混乱する。

 なにしろ、宝珠(オーブ)から放たれるエネルギーは桁外れ。

 貴族抱えの暗殺者(アサシン)として、長年、裏の仕事に従事してきた冷徹な悪魔の目から見ても、明らかに異常な力なのだ。それが偽物であるはずがない。間違いなく本物の『異様』な『力』。

 その力を目のあたりにして、男は冷静な判断力を失っていた。

 それ故に、『使い方が間違っている』という初歩的なミスにも気付かない。

 しかし―――手にしているのは、超ド級の危険物。

 こっちが手を出せば、反射的に攻撃に転じるかもしれない。

 そう考えると、迂闊には動けない。

 だから―――


(ええと……ノアさんにお願いしたらどうかな?)

(え……?)


 突然のリサの提案。


(ノアさんを『一時神化』させたるーくんならわかっていると思うけど、ノアさんの神としての力は防御特化でしょ?安全第一でいくなら、ノアさんの力を使うのが一番だと思うけど……)

(なるほど。その手があったわね)

(あっ、確かにそうですね)

(ええっ、でも、アレって―――いや、そんな事を言っている場合じゃないか……)


 僕は一瞬反論しかけたが、それを思いなおし、リサの提案を受け入れる。

 今の状況で手段を選んでいるような余裕はないからだ。


(ノアさん、お願いがあります)

(え?え?え?)

(慌てるのもわかります。でも、今は緊急事態、説明は後でします。だから―――僕を信じて、力を貸してください!)


 ノアさんからすれば、突然の『心話』。

 更に、何の説明もナシに『力を貸せ』という無茶な要求。

 状況が状況だけに、断られるようなことはないのかもしれないが、即座に受け入れられるようなものでもないと思う。

 しかし―――


(わ、わかったよ、ルドナ君を信じる)

(え?)

(よくわからないけど、私の力が必要なんだよね?それならいくらでも力を貸すよ)

(……ありがとうございます)


 ノアさんは驚くぐらいあっさりと受け入れてくれた。


(じゃあ、さっそく使わせてもらいます!)


 承諾を得た以上、迷っている暇はない。

 僕は『心話』の為に繋いでいた『ライン』から、ノアさんの『マナ』―――魂の一部を『回収』する。

 今のノアさんは、僕が『一時神化』させたことで神人となっている。

 そして、それを成しているのは、僕が分け与えた『マナ』である。

 もちろん、一度与えた以上、その『マナ』の所有権はノアさんにあるし、ノアさんに取り込まれた『マナ』は、ノアさんの意志で染められ、ノアさんの魂の一部となっている。だが―――元が僕の分け与えた『マナ』なので、僕との相性も非常にいい。

 そして……


 僕は回収したノアさんの魂に自身の力を送り込むことで―――


「【スター・シールド】展開っ!モード、セブン・コメット!」


 ―――七枚の星の盾を呼び出す。


「なっ!なにっ!なんだ、それはっ!」


 それを目の当たりにしたアサシン・リーダーは思わず驚愕の声をあげる。

 だが、それも仕方がない。

 『一時神化』したノアさんは『盾の神』。

 防御方面に特化しているが、その能力はサリアに匹敵する。

 つまり―――魔神王の呪血宝珠(ブラッドオーブ)と同等以上の力を持つ武具が突然現れたようなもの。


 ちなみに、呼び出した七枚の盾は僕が何かするまでもなく自在に動く。

 『モード:セブン・コメット』は、七つの盾が彗星のように自在に宙を舞い、自動的に相手の攻撃を防いでくれるという、ノアさんらしい能力を有する形態であった。

 まあ、ノアさんの魂が宿っているのだから、当然と言えば当然なのだが……


「くそっ!そんなものっ!」


 その力に恐慌状態に陥ったアサシン・リーダーは、半ばやけになり、魔法を放つ。

 放たれた魔力弾は宝珠(オーブ)の影響で禍々しい血の礫と化すが―――星の盾の前にあっさりと弾かれる。

 冷静さを欠いた状態で放たれた魔法など、いくら強化されようとたかが知れている。

 ただ、だからこそ思ってしまうのだが……


(ねえ、これ……サリアの力を全開にしたら良かったんじゃ……?)

(サ、サリアちゃんは攻撃が主体だから……)


 ま、まあ、万が一の事を考えて安全策をとったわけであるし、リサの言う事もわかる。

 サリアの力は攻撃が主体であるし、能力を全開で発動するとなると、『マナ』をチャージする為の時間がどうしても必要となる。

 それに比べ、防御が主体となるノアさんの力は、能力を発動するまでの時間がかなり短い。

 これはおそらくノアさんの盾に対するイメージが色濃く反映されているからで―――ノアさんにとって、盾とは『自分の身の守るもの』というよりも、『守りたいと思った人たちを守るためのもの』……いざという時に力を発揮できないのでは、意味がないものなのだ。


「え、ええと……あれって……」

「兄ちゃんがまた何かしたの?」

「う、うん、まあ、そうなんだけど―――」


 ちなみに、【スター・シールド】展開中でも、ノアさんは普通に行動できる。

 星の盾の起動にはノアさんの魂が必要となるが、それはあくまで一部。

 神人としてみれば大きく弱体化していて、人であった頃とほとんど変わらない程度までその力を落としていたが―――もともと神人となった自覚が薄かったノアさんからすると、そんな実感がそもそもない。

 一応、星の盾が『自分の力で生み出されたもの』という感覚はあるはずだが、だからこそ、戸惑いも大きいのだろう。

 いや、まあ、事前説明ナシで能力使用に踏み切った僕が悪いのだが……今はそれを気にしている時ではない。


(ねえ、いろいろと気になるのもわかるけど、さっさとアイツ倒した方がいいんじゃない?今更ないとは思うけど、おかしな切り札を更に持っている可能性も0ではないんだし……)

(倒せる敵は倒せる時に倒しておくのがベストだもんね)

(あ、うん。そうだ―――ねっ?)


 サクヤやミントの忠告にしたがい、決着をつけるべく、剣を握る手に力を込めた僕であるが―――


(え?)

(なに?)

(っ!何か来るっ!)


 その瞬間、宝珠(オーブ)の力が発動した時以上の危機感が身体に走り、反射的に空を―――空から急降下してくる『ソレ』に目を向ける。

 『ソレ』は人の姿をしていた。

 青味の帯びた銀色の髪を二つ結びにした小柄な少女が、その身よりも巨大な剣を掲げた状態で、地面を目指して突っ込んでくる。

 それは少し前にリフスが見せた、遥か上空からの風の刃による遠距離攻撃によく似ていて―――


 ザシュッ!!


 宝珠(オーブ)を持つ男の手が宙を舞う。


「……は……?」

「……これはお前たちには過ぎた玩具。私が回収させてもらう……」


 少女の口から紡がれた抑揚のない声。

 突然の奇襲にアサシン・リーダーは何が起こったのかまったく理解できていない。

 一応はそれなりの力を持つ悪魔であっただけに、腕の一本を失ったところで、痛みを感じないというのもあるが……


「なっ!なんだ!貴様はっ!一体どこから現れたっ!」

「……答える義理はない。どうせ、お前らは死ぬ……」

「なっ!なんだとっ!」

「……恨むのなら、愚かな主を止められなかった自分を恨め……」


 それだけ言うと、宝珠(オーブ)を奪った少女は大地を蹴る。

 現れた時と同様に、一瞬のうちに上空に舞い上がる少女。

 こちらは声をかける暇もない。

 だが―――


(るーくん、追跡させる?)

(……いや、やめておこう。アレは間違いなく化け物だ。下手に手を出すとこっちがヤバい……)


 去ってくれるというのなら、無理に追いかける必要もない。

 魔神王の呪血宝珠(ブラッドオーブ)を奪っていたのは気になるところではあるが、奪われたのは僕たちではないし、藪蛇となっても困る。

 それに―――襲いかかってきた刺客たちは一応残されたままなのだ。


(それで……この人、どうするの?)

(ど、どうすると言われても……捕まえないわけにもいかないでしょ?いろいろと聞きたいこともあるし……)

(うん、でも……このままだと弱い者いじめにならないかな?)

(あ~……そこは運がなかったということで―――)


 まあ、残されたアサシン・リーダーを倒すのに苦労はしなかったが……





投稿する段階で気が付いたのですが、なんか腕が飛ぶシーン多いような……

いや、戦闘描写(強敵の演出)としては分かり易いので多用してしまうのでしょうが、少し気を付けないといけませんね。


※4章が終わるまでは毎日投稿予定です。

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