共闘
密猟団―――いや、竜狩人たちとの唐突な共闘が始まる。
「ドレクさん!僕たちが前に出ます!」
「一番槍は竜狩人の誉れなんだが、そうも言ってられねぇか。オイ、お前ら、円陣組んで防御を固めろ!無理に前に出る必要はねぇ!ただし、警戒は緩めるな!後ろの洞窟もちゃんと見張っておけよ!」
ドレクさんの指示が飛び、竜狩人たちは後方に下がる。
そして、そんな彼らの前に並び立つ僕たち。
(ねぇ、ホントに背中を預けるつもりなの?)
(うん。そのつもりだけど、何か問題ある?)
(いいえ、るーが信用できるというのならそれでいいわ。いくら落ちぶれたと言っても、誇り高き竜狩人を名乗っているくらいだし、後ろから矢を射るようなマネはしてこないでしょ)
(うん?サクヤは竜狩人の事、何か知っているの?)
(私もそこまで詳しくはないんだけど……『ガロンド竜公国』は名前のとおり竜と繋がりの深い国でね。竜を狩る狩人がずっと昔からいたのよ。それこそ冒険者ギルドが出来る前からね。だからこそ、いろいろと揉めているようなんだけど……要は地元に根付いた伝統産業を他所から来た大商人がお金の力で買い占めたって感じかしら。それで、時代の流れに取り残された人たちが、闇で商売を始めた、と……)
(あ~……それはなんというか……下手に関わると面倒そうだね……)
(まあ、他所様の国の問題だからね。冒険者としては多少問題があるかもしれないけど、あまり関わらない方がいいと思うわよ)
(……でも、それで済むと思う……?)
(さあ、それは黒幕次第じゃない?)
(……そっちについては何か思い当たる事はある?)
(いいえ、流石に情報が少なすぎるわ。カズキ君が狙いで、貴族が関わってくるとなると、ユナニア王国かプレデコークのどっちかだとは思うけど―――)
ワイバーンたちを迎え撃つまでの僅かな間に、僕とサクヤは『心話』を利用して話し合う。
少し前まではリサや精霊たちとしかできなかった『心話』であるが、神の力の行使に慣れてきた事で、サクヤやミントとも交信できるようになっていた。
ただ、この能力も万全ではない。
「ルドナちゃん、来るよっ!」
「うん、わかってる!」
ミントに言われるまでもなく、僕の目もこちらへ向かってくるワイバーンを捉えていた。
だが、意識をそちらに向けたことで、サクヤとの『心話』が途切れる。
使い慣れていない『心話』は、少し意識が乱れただけで使用できなくなってしまうのだ。
◆◆◆
二度目のワイバーン迎撃戦。
当初はまったく問題がなかった。
一度目の迎撃戦がそうであったように、散発的に襲い掛かってくるワイバーンであれば、僕たちの敵ではない。
だが―――
「まずいな……いよいよ集まってきやがったぞ」
「ワイバーンたちからすれば、自分たちの住処で暴れているのも、ここで仲間を撃ち倒しているのも、同じ敵って事だろうね」
「人数が集まっている分、こっちの方が目立つのかしら?」
住処から追い立てられたワイバーンが、怒り狂った状態でこちらに押し寄せてくる。
「お、お頭!このままじゃマズイですぜ!ここは一旦―――」
「バカ野郎っ!これぐらいの事でビビってんじゃねぇ!冒険者の前なんだぞ!お前も竜狩人なら、気合いれろっ!」
「へ、へい!」
部下の進言を一蹴し、ドレクさんが檄を飛ばす。
状況が悪化している事は百も承知しているが、元より退路が立たれている。
無茶でも何でも踏み留まらせるしかない。
ただ、それがいつまでもつかは、ドレクさんにもわからない。
竜を狩ることを仕事としている竜狩人であるが、彼らはひとつの集団で一匹の竜を相手にするというスタイルなので、個人個人の能力はそこまで高くない。リーダーであるドレクさんは、冒険者でいえばCランク相当の腕前を持っていたが、部下たちはそれより一つか二つは落ちる。
そもそも彼らは狩人であって、冒険者でも騎士でも傭兵でもない。
群れをなして襲ってくる魔物を正面から迎えうつ……なんて戦いは専門外なのだ。
しかし―――
「悪いな。情けないところを見せちまって」
「いえ、ドレクさんが居てくれて良かったですよ。さすがにバラバラに動かれたんじゃ、守りきれませんからね」
「すまんな。ウチの奴らは馬鹿ばっかりで、状況がこれっぽっちも読めてねえもんだからよ」
戦いの最中、軽い口調に紛らせて、そんな事を告げてくるドレクさん。
隊の統率を保つためにも、余裕のない態度は見せられないのだろう。
「あら?あなたは状況が読めているの?それなら聞くけど、この後、どうなると思う?」
そんなドレクさんに、魔法を撃ち終えたサクヤが話かける。
「俺たちに仕事を持ってきた奴らの本当の狙いは、勇者の身柄を確保することらしいからな。ワイバーンを全て撃退しても終わりとはならねえだろ。本命が必ず来ると思うぜ」
「まあ、そうでしょうね。でも、らしいっていうのは、どういう事?あなたは相手の目的を直接聞いたわけじゃないの?」
「ああ、タレコミがあったんだよ。そっちはそっちで胡散臭い感じだったが……もとの依頼が明らかに怪しいものだったからよ。裏の裏は表なんじゃねえかと考えたのさ」
「じゃあ、なんで、そんな怪しい依頼を受けたのよ?」
「受けなきゃ殺される、受けても後で殺される。それならとりあえず、受けたフリするしかねえだろ」
「……それはご愁傷様ね。ちなみにその依頼っていうのはいつ受けたの?」
「昨日の夜だ。俺たちと普段取引しているやつの紹介で持ち込まれたんだが、それを辿っても無駄だと思うぜ。下手に探りをいれたら消されるのが目に見えているからな。金だけ受け取って他所に流すのが正解だ。他所に流せるところがあれば……って話だがな」
「……となると、交渉した相手はかなりの実力者ね?私たちよりも強そうだった?」
「どっちが強いかはわかんねぇが、俺やあいつら程度なら一人残さず殲滅する程度の力は持っていたはずだぜ。仕事柄、闇の世界の住人と知り合う機会は多いんだが、アレは今まであった中で一番ヤバかった。まず、間違いなく、プロの暗殺者だ」
「貴族お抱えのプロの暗殺者ね……となると、やっぱりアッチかしら」
「あん?」
「いいえ、なんでもないわ」
ドレクさんから必要な情報を聞き出すと、サクヤは一方的に話を終える。
ワイバーンの迎撃に戻っただけなので、ドレクさんもそれを咎めたりはしない。
(ねえ、やっぱり、これって―――)
(可能性としてはプレデコーク……リーヴァちゃん絡みと考える方が自然でしょうね。これだけ大きなヤマとなると、それぐらいの大物狙いじゃないと割が合わないと思うし……多分、シンプルに考えていいんじゃない?戴冠直後に行動を起こすとか、どんだけバカなのってツッコミたいけど……)
(普通に考えたら、一番警戒している時期だよね。よっぽど王位―――魔王位に執着があったのかな?)
(あの……ルドナちゃんもサクヤちゃんも、考察するのはいいんですけど、サボらないでくれます?リサちゃんが索敵に集中しているから、二人のしわ寄せが全部こっちに来るのですが―――)
(おっと)
(ごめん、ごめん)
ミントに軽く窘められ、僕とサクヤは迎撃に集中する。
事の起こりを推察するのも大事であるが、それは今しなければいけない事でもない。
それに―――
「転移魔法っ!皆、来るよっ!気をつけて!」
転移魔法の気配を感じ取り、リサが全員に警戒を促す。
視界内などの短い距離の空間転移は、直接空間に干渉してゲートを開くので、長距離転移のような事前準備は必要ない。だが、空間と空間をゲートで繋ぎ、移動するという点は全く同じなので、空間に干渉する魔力さえ読み取ることができれば、転移魔法による奇襲は防ぐことができる。
もっとも―――明確な弱点を抱える魔法を、何の対策もなく使用するのは、三流魔導士のする事。
僕らの背後に現れた魔法陣から出てきたのは、拳ぐらいの大きさの丸い珠。
ボンっ!
そんな音と共に煙が一気に広がり、視界を奪う。
「【スモーク・ボム】かっ!?ミントっ!!」
「ええっ!」
そして、煙がはれた後―――僕たちはその『悪魔』たちと対峙することとなった。
※4章が終わるまでは毎日投稿予定です。