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神様たちの冒険  作者: くずす
4章 Dランク冒険者、勇者と魔王の仲を取り持つために策を弄する
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待ち伏せ

「あれ?」

「ん?どうしたの?」

「いや……転移魔法が発動できなくなっているのよね。ゲートが潰されたのかしら?」


 目的の花を手に入れた僕たちは、サクヤの転移魔法で街まで戻ろうとしたのだが……それは叶わなかった。

 ただ、転移魔法にこの手の事故はつきものというか……まれにあることなので、そこまで気にしない。

 サクヤが口にした『ゲートが潰された』状態とは、ゲートを設置した空間に()()があり、ゲートを展開できない状態を指しているのだが―――そもそも勝手に設置したゲートなので、そこに何を置かれても文句など言えない。

 というか、普通の人には空間に打ち込んだ魔力の楔(マーカー)など見えないので、そこにゲートがあるかどうかもわからない。専用の魔法陣などが設置してあれば別だが、無許可で魔法陣なんて設置すれば、普通は撤去されるので、この場合は意味がない。

 つまり―――この手の事故が起こるのは仕方がない。

 偶々運が悪かったと諦めるしかないのだ。

 だから、僕たちは普通に来た道を歩いて戻ることにしたのだが―――



「人がたくさんいる?」

「はい、るー様」

「何人くらいかわかる?」

「30人くらいですね」


 いつものように先行偵察をしていたリフスの報告を受けて、僕たちは足を止める。

 『飛竜の谷』は地上に繋がる別のダンジョンと一本道の洞窟で繋がっていたのだが、その洞窟の前に30人ほどの人が集まっているらしい。


「緊急クエストでも発動したのかな?」

「もしくはクラン総出で出稼ぎに来たのでしょうか?」

「う~ん。その可能性も0ではないけど……盗賊か密猟者じゃない?確か、街の方でもそんな話があったし」

「あぁ、幻獣専門の密猟団がいるとか、ギルド職員も言っていたね」


 最初は同業者ではないかと考えた僕たちであるが、それは即座に否定する。

 冒険者が10人以上のグループで行動する事は滅多にないし、盗賊や密猟者の類と考えた方がしっくりくるからだ。


「でも、密猟団が冒険者を襲うんですか?」

「凶悪な幻獣と直接戦うより、幻獣たちとの戦いで消耗した冒険者を狙って、獲物を横取りした方が楽とか考えているんじゃない?それによくよく考えれば、絶好の襲撃ポイントなのよね、ココ。地上に戻るためにはあの洞窟を通らないといけないし、犯行の痕跡も時間が経てば自然となくなる……ダンジョンから冒険者が戻らなくても、魔物にやられたと思うだけだしね」

「な、なるほど……」


 冒険者としては経験が浅い(というか、訓練さえ碌にしていない)カズキ君はピンと来ていないようであったが、盗賊や密猟者への対応は基礎中の基礎。絶対に身につけなければいけないものである。


「それで、どうするの?」

「どうするもなにも……見つけた以上、倒すしかないでしょ。勝てそうにないっていうなら、別の手を考えるけど……」

「冒険者としては当然の対応ね。でも、本当に密猟者なのか確認しないわけにもいかないし、奇襲とかは難しいわよ?」

「いや、奇襲とかする必要がある?」

「……ないわね」

「じゃあ、連中との接触は僕とミントでするから、ノアさんたちは少し離れたところで待機してください」

「え、ええ……」


 盗賊や密猟者と対峙する時、一番難しいのが最初の接触。

 いや、相手が明らかに盗賊や密猟者だとわかっていれば、問答無用で討ち倒すだけなのだが……万が一にも間違いがあってはならないし、確証を得るまではこちらからは手を出せない。

 故に、どうしても後手に回ることになる。

 もちろん、相手の出方にもよるのだが―――



 ダンジョンの接続部である洞窟の手前には、確かに30人ほどの武装した男たちが陣取っていた。

 その半数は戦士(ファイター)風の装いで、次に多いのが斥候(スカウト)風、あとは弓を手にした弓兵(アーチャー)らしき者とローブを着た魔術師らしき者が数名。見た目だけなら冒険者といえなくもない感じ。

 そんな集団に、僕とミントは無造作に近づいていく。

 すると、


「おっ、やっと来たな。だが、二人だけっていうのはどういうことだ?勇者様のパーティーは確か6人だろ?」


 多くの者が武器を構える中、それを押しのけるようにして、無精ひげを生やした三十代くらいの精悍な男が前に出てくる。

 おそらくはこの男がリーダーなのだろう。


「その質問に答える前にこっちも質問したいんだけど……あなたたちは同業者じゃないよね?」

「同業者っていうのが何を指すかによるが、冒険者じゃないのは確かだぜ」

「……意外だね。密猟者って認めるの?」

「個人的には否定したいが、世間の枠組みじゃそうなってしまうからな。金をもらって魔物を狩るのは同じなのによ」

「密猟者扱いが嫌なら冒険者になればいいだけでしょ?」

「まあ、正論だな。だけど、そんな正論だけじゃ世の中はまわらねーんだよ。勇者様たちにはわからないかもしれないがな」


 言いながら、男が腰の剣に手をかける。


「そんなわけで……俺たちも仕事なんでな。手に入れたモノを全て置いていってもらおうか。大人しく差し出せば、命までは取らねーよ」

「偉そうな事を言っておいて、していることはただの恐喝ですか……」

「ハハッ。なかなか言うね、お嬢ちゃん。でも、言っただろ。これは『仕事』だって。立場が立場なんでな。スポンサー様には逆らえねえのさ」


 ミントの挑発に男はチラリと仲間の1人―――黒いフードを目深に被った魔術師風の男に視線を向ける。

 おそらくはその男がスポンサーという事なのだろうが……


「……ミント、いざって時はお願いね」

「はい」


 僕はミントにそう声をかけた後、剣に手をかける。


「……少しは痛い目をみないと、わかってくれねーか?」

「痛い目を見るのはそっちだと思うけど……『仕事』って事なら、簡単には引き下がれないでしょ?」

「ガキが言ってくれるっ!」


 言い捨てると同時、斬りかかってくる男。

 僕はその剣を正面から受け止める。


「チッ!ガキのクセに中々やるじゃねーか」

「おじさんこそ、密猟者にしておくのがもったいないくらいの腕前じゃないですか」

「けっ!言ってくれる!」


 そこから始まる一騎討ち。

 リーダーの男の腕前は中々のもので、()()()()()()()勝負は長引きそうな感じであったが……そこには互いの計算もある。

 一騎討ちという形であれば、敵も味方もおいそれと手出しが出来ない。

 そして、傷つく者も最小で済む。

 だが、リーダーの男にはもう一つ二つ思惑があったようで―――


「……オイ、もう少し合わせてくれねーか……?」

「合わせる……?」

「冒険者のお前らに頼むことじゃねぇが、やばいヤマに巻き込まれたみたいでな。このままだと俺たち全員始末されそうなんだ」

「―――っ!?」


 鍔迫り合いを行いながら、男は小声でそんな事を伝えてきた。


「ちなみに、狙われているのは勇者みたいだぜ」

「カズキ君が……?」

「とりあえず、あの黒フードをなんとか出来ないか?監視役がいたんじゃ、話もできないしな……」

「……わかった……」


 男の話を全面的に信じたわけではないが、話に乗ったところで、僕たちに損はない。

 そもそも様子を伺うために、剣のみで戦っていたわけだし……


(リフス、やれる?)

(任せて~)


 僕は『心話』でリフスに指示を出しつつ、密猟団のリーダーと一騎討ちを続ける。

 すると―――


 ザシュッ!!


 遥か上空から放たれた風の刃が、音もなく舞い降り、黒フードの男を両断した。


「へっ……?」

「うわっ!なんだっ!」

「どうしたっ!?何があったっ!?」


 突然の惨劇に密猟団の面々が恐慌状態になる。


「……オイオイ……マジかよ……」


 リーダーの男はなんとか体裁を保っていたが、信じられない思いは同じようである。


「一体何をしたんだ……?」

「【エアリアル・ブレイド】……風の精霊による遠距離攻撃だけど―――」


 まあ、僕も内心では驚いている。

 というのも……


(風切り音さえしない見えない風の刃とか避けようがないよね?しかも魔力探知外からの不意打ちだし……)


 攻撃が来ることを知っていた僕でさえ、直前までそれを感じることができなかったのだ。

 黒フードの男は攻撃されたことさえ気づかずに絶命したのかもしれない。

 そう考えると、先ほどの一撃がいかに恐ろしいものなのかよくわかる。

 ただ、今はそれを気にしている時ではない。


「それより詳しい話が聞きたいんだけど……」

「あ、ああ……」


 監視役を始末したとはいえ、それで安全が保たれたわけではないのだ。

 それに―――


「お、お頭……」

「落ち着け、お前ら。こいつは俺が頼んだことだ」

「え?それはどういう……?」

「最初から胡散臭い仕事だと思っていたんだが、どうやらマジでやばいらしくな。コイツらに協力してもらった方がいいと判断したんだ」

「いや、協力するかどうかは話を聞いてみないと―――」


 ドゴォオオオオオオオン!


 僕の言葉を遮るように、突如として爆発音が響く。

 そして、洞窟の奥から爆風と土埃が吐き出される。


「ちっ!やっぱり罠だったかっ!」

「罠?」

「退路を断って、お前らもろとも皆殺しにするつもりなんだろ!そうすりゃ全部、俺たちの仕業に出来るしな!」

「おじさんたちはスケープゴートってわけですか」

「『ドラゴンハンター』―――竜狩人の俺たちを羊扱いとか、舐めた話だがな!どこぞの貴族様からすれば、いつでも叩き潰せる羽虫とでも考えているんだろ!」


 忌々しそうに吐き捨てる密猟団のリーダー。

 気になる事をいくつか口走っているが、それを悠長に聞いている暇はない。


 ドゴォオオオオオオオン!


 再び爆音が鳴り響く。

 ただし、それは洞窟からではなく―――遠く離れた山の頂から。

 それも一度や二度ではなく、何度も何度も……


「……まさか、ヤツら―――」

「……ワイバーンを追い立てて、こちらにけしかける作戦……とか……?」


 そんな僕の予想を肯定するように、リフスから『心話』が届く。


(るー様、山の方から多数のワイバーンが飛び立ったよ。一部はそちらに向かっているみたいだけど、迎撃した方がいいかな?)

(いや、それはいい。それよりも山の中で暴れているヤツを探してくれないか?)

(了解~)


 それに続き、リサからも『心話』。


(それならヌーモちゃんも出すね)

(え?でも―――)

(相手は転移魔法で移動しているみたいだから、リフスちゃん一人だと追いきれないかもしれないよ。でも、ヌーモちゃんの『地脈探査』なら、転移魔法の痕跡を終えるはず。まあ、その為には『一時神化』させないとダメだけど……)

(わかった、お願いするよ。あと―――)

(合流でしょ。わかってるよ~)


 状況は混沌としているが、だからこそ慌ててはいけない。

 ワイバーンの一部がこちらに向かっているらしいが、流石に今すぐ襲い掛かってくるわけでもない。

 だから僕は、密猟団のリーダーに改めて問いかける。


「ところで、おじさん。名前はなんていうの?」

「あ?」

「今更と言えば今更だけど、共闘するのに名前も知らないんじゃ、やり辛いでしょ?」

「あ、ああ。俺の名はドレク。そういうお前は―――」




冒頭の転移魔法失敗についての捕捉説明。

ゲートの『使用不可』は、ゲートを展開する空間の『安全が保てない時』に発生します。転移先に人がいた時や大きな物が置かれた時などがこれにあたります。小動物程度の大きさのものなら、空間にゲートを展開する時に弾き飛ばすこともできますが、これは魔法の設定(組み込んだ術式)で変化します。一般的な転移魔法だと『生命探知ライフ・サーチ』を組み込み、それに反応するものは全て弾くという感じ。弾けないものがあるとゲートの使用不可という判定になります。



※4章が終わるまでは毎日投稿予定です。

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