イレギュラー登場
バンサーさんとの話し合いを終え、僕たちは城を後にする。
しかし、城門を出た直後―――アバン様に声がかかった。
「おや、アバン様ではないですか」
「げっ……トリーシャ=イウス……」
声をかけてきたのは、ドレス姿の御令嬢。
腰まで伸びた綺麗な黒髪と深い紫色の瞳を持つかなりの美少女であった。
ただ、アバン様からすると、あまり会いたくなかった人物のようであるが―――
「アバン様のお知り合いの方ですか?」
「いや、まあ、知り合いといえば、知り合いなんだがな……」
僕の問いかけに、アバン様は微妙な答えを返す。
そうすると、少女の方も僕たちに興味をもったようで、アバン様に問いかける。
「あら、そちらの方達は?」
「あ~。まあ、知り合いだよ。知り合い。こっちがルドナで、こっちがカズキ」
「そうでしたか。私はトリーシャ=イウス。この国のお世話になっている者ですわ」
「ええと……ルドナ=エンタヤです」
「カズキ=ユウノです」
そんなわけで、互いに自己紹介をすることになったものの、ここはただの道すがら。
故に、それ以上、話が膨らむようなことはなかった。
「それで、アバン様たちはどのような用件でこちらに?」
「隠しても意味がないから教えといてやるが……こっちのカズキが女王陛下とちょっとあってな。その仲裁にきたってわけだ」
「ああ、なるほど。そのコが―――」
「そういうわけだから、お前は余計な事すんなよ。もしなにかするっていうのなら―――」
「ハイハイ、わかっていますよ。私もこの国のお世話になっている身ですし、リーヴァちゃんを怒らせるようなことはしたくありませんからね」
別れ際にアバン様とそんなやりとりを交わしていたが、言ってしまえばそれだけ。
とはいえ、いろいろと気にならないわけがない。
「あの、アバン様?」
「言いたい事はわかるが、今はこの場を離れるぞ。話はその後だ」
そんなわけで、僕たちは場所を変えることにした。
◆◆◆
僕たちは手近な喫茶店に入り、アバン様の話を聞く。
しかし―――
「まあ、一言でいうと厄介なヤツなんだよ、あの女は―――」
「厄介……?」
「アイツの正体は『邪神』でな。この世界の外から来た『来訪者』の1人なんだ」
「え?邪神……ですか?それって、あの―――」
「ああ。神話の中で語られている神の敵のひとつだな」
「………」
「………」
あまりにも予想外な言葉が飛び出した為、僕やカズキ君は思考を停止させてしまう。
いきなり神話クラスの話を持ち出されても、理解が追い付かないのだ。
とはいえ、ずっと呆けているわけにもいかないわけで―――
「い、いや、でも、邪神って、神様たちに討ち滅ぼされたんじゃ……?」
「まあ、そうなんだがな。だが、それはあくまで俺たちと敵対した邪神ってことで、こっち側に寝返った奴らまでは含まれてねーんだよ。寝返った時点で神様扱いってヤツも多いからな」
「え?あ、じゃあ……」
「ああ、あの女……トリーシャ=イウスは、他の邪神を裏切った邪神なのさ」
「なるほど。でも、それなら―――」
「邪神と共に戦った仲間なんじゃねーかって言いたいんだろ?けど、よく考えろよ。一時共闘したとしても、そいつがずっと味方とは限らねえだろ?」
「あっ……」
「言っちまうとな。あの女は特大のトラブルメーカーなんだよ。それも、いろんな厄介ごとに首をつっこんでは、騒ぎを大きくして楽しむっていう質の悪いヤツでな。アイツが面白半分で関わったせいで、世界レベルの危機まで発展した……なんていうのも一度や二度じゃねぇ。まあ、同じくらい世界の危機も救っていたりするがな……」
「……ああ、それで彼女に釘を刺したんですね……」
アバン様の話を受けて、僕はそんなふうに納得した。
もっとも―――
(そういうコに釘をさすとか、藪蛇になりかねないと思うんだけどな……)
なんてことを思っていたりもする。
とはいえ、隠しようのない事であるし、仕方がないのかもしれないが……
「こっちの言う事を素直に聞くとは思えねぇが、アイツにとってもこの国ほど住みやすい場所はねえからな。早々追い出されるようなマネはしないだろ……」
「……それ、期待していいんです?面白半分で世界レベルの危機を作り出すような人なんですよね?」
「……言うなよ。考えただけで頭が痛いんだからよ……」
アバン様がこめかみを押さえながら告げる。
出会った時の反応からわかっていたことであるが、アバン様はトリーシャという元邪神の少女を心底苦手としているようであった。
「ただでさえ面倒なのに、アイツが絡んでくるとか勘弁して欲しいんだが……」
そう願うアバン様であるが、その願いはおそらく叶わない。
厄介な面倒事とは、来て欲しくない時に思いもしない形でやって来るから面倒なのだ。
新キャラ登場。トリーシャは話をひっかきまわすポジションのキャラクター(の予定)です。
あと、作中では単に神の敵とされた『邪神』ですが、もう少し詳しく説明すると……
『邪神』は他の世界で生まれた神人相当の力をもつ存在で、知能は高いが、人間らしい感性は(当初は)なく、個よりも群れを優先する。単純な生態だけみると虫に近い。
自分たちの世界群の世界樹が枯れはじめた事で、生き残りをかけて、他の世界に移住を開始。その一部がマリサの創り出した世界にたどり着いたが、人間らしい感性を持っていなかったので、そのまま神々との戦争に突入した。(そもそも『邪神』たちからすると、地上に生きる『力』のない人間とかエサにしか見えていなかったので、衝突は不可避だった)
もともと知能は高いので、人や神々と戦ううちにその思考を理解するものが出始め、一部が裏切るというのが大まかな流れです。
※4章が終わるまでは毎日投稿予定です。