提案
僕やカズキ君からすれば唐突であったバンサーさんとの再会であるが、事情を聞けばなんてことはない。
バンサーさんはもとからプレデコークに所属する超克者で、シアン王家と深い関りも持っていたというだけ。
つまり―――今回の事を耳にした先代の魔王(リーヴァちゃんの母親)から、事情を聞いてくるようにお願いされた……というのが、バンサーさんがここにいる理由である。
「なるほど。そういう事でしたか。お嬢―――陛下にも困ったものでございますな」
「いえ、勘違いさせた原因は僕たちの方にあるわけですし……」
「とはいえ、事情も聞かずに部屋に閉じこもるというのはなんとも……まあ、あの方らしいといえば、らしいのですが―――」
一通りの事情を話し終えたところで、バンサーさんはそんな感想を漏らす。
バンサーさんは事態の収拾の為に派遣されたプレデコーク側の人であったが、立場的には中立……心情的には僕たちよりといった感じ。
それが少々引っかかっていたが、その理由はすぐに判明する。
「それで、念の為にもう一度確認しておきたいのだが……こちらの話は陛下の耳には届いておられるのかな?」
「扉越しとはいえ、会話もなされたそうですからな。話は全て伝わっておると思われます」
「ということは……そういう事だと解釈して間違いないな?」
「はい。それでよろしいかと」
「ちっ、厄介な……」
バンサーさんと幾度かのやりとりを交わした後、アバン様は露骨に舌打ちし、毒づく。
「ええ、まったくです」
そんなアバン様に同意するバンサーさん。
「あ、あの……どういう事です?」
そんな二人のやりとりが理解できなかったようで、カズキ君は怪訝な表情で尋ねる。
まあ、はたで聞いているだけだと意味不明なので、仕方がないのだが……
「あぁ、なるほど。そういうわけですか……」
「え?兄ちゃん?」
「こっちの話は全て伝わっているって話だし、誤解はおそらく解けていると思うよ。ただ、だからこそ、カズキ君に合わせる顔がないとか考えているんじゃないかな?」
「……合わせる顔がない……?」
「言っただろ。シアン王家の女は恐ろしく面倒だって。『嫉妬』という大罪を生まれた時から背負っているから、ソレを見せることを極端に恐れるし……馬鹿みたいに恥じ入るんだよ」
「正しくそのとおりですな。それに陛下はまだお若い……不遜な物言いではありますが、子供といっていい年齢です。己の恥を簡単には認められぬでしょう。わりと強情なお方ですしな」
「身もふたもない言い方になるけど、リーヴァちゃんはヤキモチをやいたのが恥ずかしくて、部屋に閉じこもっているんだよ」
「……え?そうなの?」
「多分、ね」
僕の勝手な推測ではあったが、アバン様もバンサーさんも特に否定しないので、そういう解釈で間違っていないのだろう。
それに―――
「というか、こっちの話が全部伝えられているというのなら、カズキ君がリーヴァちゃんに告白しようとしていた事も伝わっていると思うんだけど?」
「……えっ?」
「いや、だって……『リーヴァちゃんに告白しようと練習していただけ』って、さっきも口にしていたよね?」
「そうですな。ご自分でおっしゃっていましたな」
「あっ……」
バンサーさんに説明する時もそうであったが、メイドさんたちにも同じように話をしていたので、全ての話が伝えられているのなら、それも伝わっているはずである。
だとすると……
「お前の気持ちは図らずとも彼女のもとに届けられた。だが、それでも出てこないというのが問題なんだよ」
「陛下が素直にお認めになれば、それだけで全て片付く問題ですからな」
「誤解をさせた僕たちが言うことではないと思うけど、リーヴァちゃんにヤキモチをやいたことを認めさせて、それを謝ってもらわないといけないって状況だからね。アバン様が厄介だとおっしゃっていた意味がよくわかりましたよ」
「ぶっちゃけ、ただの痴話喧嘩だからな。正直、勝手にやっていろと言いたいんだが……」
「そういうわけにもいかないというのが本当に厄介ですな。アリア様(リーヴァちゃんの母親)もそれがわかっているだけに、私に押し付けてきたのでしょうし……」
「あっ、実の母親でも介入したくないレベルなんですね……」
「……え、ええと……」
現状を確認したところで、カズキ君以外のメンバーが深いため息をつく。
アバン様が言っていたとおり、これはただの痴話喧嘩。巻き込まれた側からすれば、ただただ面倒なだけなのだ。
とはいえ、このままというわけにもいかない。いかないが―――
「それで、どうします?」
「相手は魔王陛下だからな。強行策はとれないぞ」
「ですが、このまま放置するのも問題ですし……」
すぐに解決策を思いつくのなら、アバン様もバンサーさんも頭を悩ませたりしない。
なので、僕の方から提案する。
「そうなると、現状、打てる手はひとつしかないですね」
「うん?何かいい策があるのか?」
「それはどのような方法ですかな?」
「そんなたいしたものではないですが……今回の件は誤解をさせてしまった僕たちの方にも非があります。それに、カズキ君の告白もとても成功したとは言えない状況です。なので、そこからやり直すというのはどうですか?」
「何?」
「やり直す、というと?」
「カズキ君にはもう一度―――いえ、リーヴァちゃんが許してくれるまで、何度でも告白してもらいましょう」
「……は?」
「……は?」
「はい……?」
僕の提案に三人は間の抜けた声をあげる。
しかし、それにかまわず僕は続ける。
「強行策も放置することもできないとなると、時間をかけて攻略していくしかないでしょう?」
「い、いや、それはそうかもしれねぇが……相手が許すまで何度も押しかけるっていうのは、十分、強行策なんじゃねーか?」
「別に無理に押しかける必要はないですよ。こっちは許しを請う立場なんですから、帰れと言われれば帰るだけです」
「ですが、それでは陛下の立場がなくなってしまうのでは?」
「確かにそうですけど、追い詰められる理由が『告白から逃げまわっている』という事であれば、問題ないと思いますよ。いや、まあ、別の意味で立つ瀬はなくなるかもしれませんが、そこまで責任は持てませんし……」
「………」
「………」
アバン様やバンサーさんからいくつか質問が飛ぶが、それらは僕の想定内のもの。
そこがクリア出来ていないのなら、初めからこんな事は言い出さない。
そして―――
「え、ええと……具体的にはどうすればいいの……?」
「カズキ君はリーヴァちゃんに告白する為に『ネオエインの花』を用意したでしょ?でも、それは失敗しちゃったわけだから―――『次』を用意しようか」
「次……?」
「『ネオエインの花』でなくても、珍しい花はいくらでもあるよね?」
「あっ!そうか!」
カズキ君が納得したことで、今後の方針が決まった。
4章が終わるまでは毎日投稿予定です。