悪魔の国『プレデコーク』
アバン様の転移魔法で悪魔の国『プレデコーク』に移動する。
転移した先は街の外門であったようで、門兵による簡単なチェックを受けたあと、そのまま街の中に入る。
「悪魔の国といっても地上の街とあまり変わらないのね」
「歩いている人たちも普通のヒトばかりですね」
サクヤやミントが口にしたように、街の様子は地上のそれとほとんど違いがない。
もちろん細かい点でみればいろいろと違いはあるのだが……僕たちは悪魔の国という言葉から、もっと奇抜な街並みをイメージしていたのだ。
だが―――
「お前らがそういう感想を抱くのもわからなくはないんだが、この国は少し特殊でな。なにしろ、建国した初代魔王が人間を夫として迎えているんだ。影響を受けるのは当然だろ」
「そう言われると確かにそうですね」
「ここ以外のところだともう少し違う感じではあるんだが、それもそこまでってわけでもねーしな。最近は悪魔たちの間でもかなり『人化』の波が押し寄せてきているようだぞ」
「『人化』の波?」
「この世界は元人間の俺と世界樹であるマリサが作り出した世界だからな。自然と人間が暮らしやすい世界が出来上がるんだ。『人化』をすれば、本来、子供が出来ないような種族とでも子供を作れたりするだろ?個としてみれば人間よりも優れた種族はいくらでもいるが、種族単位でみれば他のどんな種族とも子孫を残せる人間が優秀って事になる。そうなりゃ、あとはわかるよな?流れそのものはこの国のそれと同じわけだしよ」
「なるほど。人である方が暮らしやすいのなら、誰だってそっちを選ぶでしょうね」
「そういう人が多くなれば、街の方もそれにあわせたものになるというのが自然ですね」
アバン様の説明を受けて、僕たちも納得する。
そして、人の街と変わらない悪魔たちの街をそのまま進む。
悪魔の国『プレデコーク』はいわゆる都市国家であり、街の規模は僕たちの住む『シーケ』よりも少し大きいぐらい。
水が豊かな土地なのか、街のいたるところに水路が張り巡らされているのが特徴で、整備された街並みを上空から眺めるものでもいれば、そこに雪の結晶を見つけることが出来たかもしれない。
そんな街の中心部で、僕たちは二手に分かれる。
もともとリサたちの主目的は街の見物や買い物の方であったし、いきなり大人数でお城に押し寄せると迷惑になりかねないという判断である。
「それじゃあ、俺たちは城の方に向かうから―――」
「私たちはこの辺りでお買い物しているね~」
「なにかあったらすぐに呼ぶんだぞ」
「うん、わかったよ~」
初めて訪れた異国の街ということで、女のコだけで行動させることに不安がないわけではない。だが、街の治安に問題はないようであるし、過剰に心配する必要はないだろう。
そんなわけで、僕・カズキ君・アバン様という面子でお城に向かう。
もちろん国王の住まう城なので、一般人がおいそれと立ち入れるような場所ではない。
だが、アバン様はVIPに近い待遇であるらしく、ほとんど顔パスで城内に案内される。
まあ、リーヴァちゃんの地上訪問の案内役がアバン様であったので、ある意味、当然ではあるのだが―――
「すみません。女王陛下は体調が優れないとのことでして……」
「そうか……」
応接室に通された僕たちであるが、リーヴァちゃんとの面会は果たせなかった。
「あ、あの……それは―――」
「―――こちらの話はお伝えしてもらえたのかな?」
「はい」
「……そうか」
メイドさんの返事を聞き、アバン様はしばし考える素振りを見せる。
僕たちは面会を申し込んだときに、ある程度事情を説明し、それをリーヴァちゃんへ伝えてもらうように頼んでいた。しかし、それでも会ってもらえないとなると……かなりお手上げな状態となる。
なにしろ相手は一国の女王様。強引な手段はとれない。
とはいえ、簡単に引き返すわけにもいかない。
この手の問題というのは、時間が経てば経つほどややこしくなるというのが定番なのだ。
ただ……それを踏まえたとしても、この場は一旦引き上げる方が賢明と思えた。
ぶっちゃけ、今の状態で居座っても、メイドさんたちに迷惑をかけるだけである。
「そういうことなら仕方ない。陛下の体調が戻られるのを待つ事にしよう。その時は―――」
アバン様も同じ考えであったようで、そう言いながら席を立とうとする。
しかし、そんなタイミングで、コンコンとドアがノックされる。
そして―――
「お久しぶりにございますな、アバン様」
「おや、バンサー殿ではないか」
現れた老紳士は僕たちも良く知る人物。
「え?バンサーさん?」
「バンサーさんが何でここに?」
「お二人もお元気そうですな」
『ナイト・ガーデン』の管理者であるバンサーさんであった。
4章が終わるまでは毎日投稿予定です。