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神様たちの冒険  作者: くずす
4章 Dランク冒険者、勇者と魔王の仲を取り持つために策を弄する
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転移する前に

 アバン様と共に悪魔の国『プレデコーク』に赴く事になった僕たちであるが、すぐさま出発とはならなかった。

 これは誰が同行するか話し合う必要があったからである。

 今回の騒動の中心であるカズキ君はもちろん外せない。

 カズキ君と共にリーヴァちゃんに誤解を与えた僕も一緒の方がいいだろうと、同行が決定している。

 問題はそこからで―――


 実の弟であるカズキ君に関わる事なので、ソニアさんは当然自分も同行したいと申し出た。

 カズキ君の告白の練習にはソニアさんも関わっていたので、その分の責任も感じていたのだろう。

 だが、これは叶わなかった。

 悪魔の国『プレデコーク』は『混沌の大迷宮』にある国であり、魔素の濃度が恐ろしく高い。

 普通の人間であれば即座に魔物化しかねないような危険な場所であるし、多少、魔素に慣れている程度では激しく体調を崩すことになる。

 一応、ソニアさんはCランクでも上位の実力者であるし、魔術師ということで魔素に対する抵抗も高いので、絶対に無理という事ではないらしいのだが―――そこまでして付き添わなければいけないのかと問われると、是とは言い辛い。

 それにカズキ君の立場から考えると、保護者役のソニアさんは一番頼りづらい相手でもある。

 喧嘩をした女のコと話をするのに、いきなり親が出張ってくるようなものなので、男のコとしては少々恰好がつかない。加えて、身内であるソニアさんが弁明しても、身内の擁護としか映らない可能性もある。

 そんなわけで、ソニアさんには辞退してもらう。



 次はリサ・ミント・サクヤ。

 三人も今回の騒動には関わっていたので、同行すること自体はそれほどおかしくはない。

 ただ、必ずしも全員が行かなくてはいけないというものでもない。事情を説明するだけなら、カズキ君と僕が行けば十分である。

 実のところ、リサたち(主にサクヤであるが……)には、少々別の思惑があった。

 というのも―――

 悪魔の国『プレデコーク』は『混沌の大迷宮』にある国なので、地上の人間が簡単に足を運べる場所ではない。だからこそ、地上では滅多に手に入らないような品々が多数ある。

 そういった珍しい品々を手に入れる事がサクヤの目的であった。

 もちろん一番の目的はカズキ君の問題を解決することであるが……僕たちは僕たちで『世界渡り』という大きな課題があるし、滅多にない機会を有効に使うという意味ではサクヤの考えも間違ってはいない。


「―――というか、さっきのアバン様の話で出てきた魔王シアンって、元素魔法の開祖の1人なのよ。そんな人が建国した王国とか、魔術師なら誰だって一度は訪れてみたいと考えるものじゃない?それに錬金術や魔導工学の分野でも、悪魔たちの技術は重要なものだし……」

「あぁ、なるほど」


 もともと元素魔法というのは、悪魔たちが開発し、世に広めた魔法であると言われている。

 そして、そんな偉大な先駆者の一人が魔王シアンであるらしい。

 だとすれば、サクヤが興味を示すのも納得である。

 ちなみに―――元素魔法には名前に『色』がつけられたものが多いのだが、これはその術式を編み出した開発者の『名前(通称なども含む)』を表わしているとされている。とはいえ、これは元素魔法の黎明期においての話であるので、後に開発された術式などの場合は、この法則に当てはまらない事もあるのだが……

 現代でも『色』ごとの術式の違いで体系づけがなされていたり、新しい術式を開発した者が新たな『色』を名前につけたりしているので、言ってみれば、昔から続く伝統のようなもの。

 そういう事を踏まえると、悪魔の国『プレデコーク』は魔術師たちの『聖地』の一つといっても過言ではない。

 それに―――


「丁度いい機会だし、普段手に入らないようなものを買いそろえておこうかと……」


 僕たちが『ナイト・ガーデン』に探索に行っている間、サクヤとミントは『銀のゆりかご亭』で子供たちの世話をしながら、アイテムを売り出す計画を進めていた。

 これは『銀の七星盾(クラン)』や『銀のゆりかご亭』の経営再建計画の一端でもあり、僕たちが作ったポーションや魔法の道具(マジックアイテム)などを、『銀のゆりかご亭』で販売してもらうというもの。

 もっとも、この販売計画自体はそこまで大層なものでもない。

 他のクランでも同じような事はしているし、それほど多くはないが個人で露店などを出す冒険者というのもいたりする。まあ、知識も経験もなく商いに手を出すのは危険であるし、いろいろと手間がかかるわりに見返りはそれほど多くなかったりするので、普通はしないという話なのだが―――

 僕たちもそこまで本格的に商売をするつもりはない。

 せいぜいお店のカウンターに置かせてもらう程度で、売り上げは二の次。

 サクヤの狙いは自作のポーションや魔法の道具(マジックアイテム)を通じて、『銀のゆりかご亭』や『銀の七星盾』にいる冒険者たちの腕前を街の人たちに知ってもらうという事にあったので、馬鹿みたいな赤字でも出さない限り問題ないとの事。

 『銀のゆりかご亭』はサービスの一環として冒険者に商売するスペースを貸しているだけなので直接的な収益は関係ないし、毎夜『神層世界』で荒稼ぎをしている僕たちからすると、これぐらいの規模の商売がもたらす損得は影響が皆無。アイテム作成の労力は多少あるかもしれないが、それで店の名が売れるのならば万々歳である。

 というか……僕たちが苦心したのは、『銀のゆりかご亭』の名声をあげつつ、自分たちの存在をなるだけ目立たせない事にあり、そのあたりを考慮しなければ、お金を稼ぐこと自体はわりと容易だったりする。

 なにしろ今の僕たちは曲がりなりにも神様なわけで……

 神の力を行使すれば、普通に売っているような材料を用いても、途方もなく高性能なアイテムを作り出す事ができる。

 いや、まあ、実際にどの程度の事が出来るのか、きちんと確かめたわけではないのだが……錬金術に詳しいサクヤの話によると、材料さえ揃えばSランクのアイテムでも問題なく作れるらしい。

 だからこそ、サクヤたちもこの機会を逃したくないのだろう。

 ということで、3人が付いてくることは決定。

 あとは―――ノアさんである。



 ノアさんに関しては最初から答えは出ていた。


「カズキ君には悪いけど、あんまりお店を開けるわけにもいかないし……」


 ナナエさんに代わり、『銀のゆりかご亭』を預かる立場にあるノアさんなので、この言い分はもっともである。故に、そのこと自体は問題ではないのだが……


(るーくん、完全に避けられているね~)

(まあ、ノアさんにも考える時間は必要でしょうし……)

(私たちが口を挟むことじゃないわよ。少なくとも今は、ね)


 問題はノアさんの本心。

 ノアさんを『一時神化』させた事で、僕とノアさんの関係は微妙なものとなっていた。

 とはいえ、今の僕には動きようがない。

 事情を話してからまだ数日しか経っていないし、簡単に決められる問題でもないと思うので、こればかりは仕方がない。

 そんなわけで―――


 最終的に僕たちと同行するメンバーはリサ・ミント・サクヤの三人となった。





4章が終わるまでは毎日投稿予定です。

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