悪ノリの果てに
「うわっ、本当に女のコにしか見えないわね」
「すごく嬉しくないです」
青を基調としたヒラヒラのエプロンドレスに身を包んだ僕は、若干引き気味のソニアさんにそう返す。
「え~、でも、カワイイよ~」
「こうしてみると、るーって生まれてくる性別を完全に間違えたわよね」
「あははっ。ま、まあ、ちょっとの間だけですから、我慢してください」
続いて口を開いたのは僕をコーディネートしたリサたち。
生真面目なミントは多少やりすぎたと思っているようであるが、リサやサクヤは完全に調子に乗っていた。
とはいえ、この程度の事で機嫌を良くしてくれるのなら、僕としてもありがたい。
(最終防衛ラインは守れたし、これで許してくれるというなら上出来だよね)
ちなみに最終防衛ラインとはパンツである。
悪ノリしたリサたちは女性用の下着まで用意していて、それを身につけるように僕へと迫ったのだ。
まあ、これは本当に悪ふざけというか、リサたちも本気ではなかったようであるが―――本気であったとしたら、かなりマズイ事になっていた。なにしろ、リサたちが用意した下着というのは自分たちのもっていた下着の中から選んだもので、下手をすると中々にマニアックなプレイに突入しかねない危険な代物であったからだ。
というか、サクヤあたりはそれを狙ったアピールだったのではないかと思うのだが……
これ以上考えると、いろんな意味でヤバそうなので、僕は意識を切り替える。
「それで、カズキ君は?」
「裏庭で待っているはずよ。告白する為に呼び出したっていうシチュエーションだからね」
告白の練習ということであったが、どうせやるのならリアルに徹した方がいいという判断がなされたようで、僕はこの後の流れを聞かされていない。
それはカズキ君も似たようなもの。
あらかじめ決めたやり取りをこなすのではなく、アドリブで上手く告白の流れにもっていくという練習であったからだ。
故に―――カズキ君のもとに移動するのは僕一人。
ソニアさんやリサたちは、視界に入らない場所で様子を窺うとの事だった。
そんなわけで僕は裏庭に移動する。
そこにはもちろんカズキ君がいたわけであるが―――
「本当に兄ちゃ―――ルドナさんなの?」
「ま、まあね……」
女装した僕を目の当たりにして、カズキ君は心底驚いていた。
僕が女装してくることは聞いていたカズキ君ではあるが、その出来栄えまでは予想できなかったらしい。
リサたちの手で変身させられた今の僕は、自分の目から見ても女のコとしか見えないぐらい完璧なものであったので、ある意味では当然の反応なのかもしれないが―――
だからといって、このまま固まっていても仕方がない。
なので、僕は先を促す意味も込めて、話を進める。
「それよりカズキ君。お話っていうのはなんなのかな?」
カズキ君には申し訳ないが、さっさと終わらして、とっとと着替えたかったからだ。
「あ、うん。ええと―――」
そんな僕の言葉に、カズキ君は慌てたように言葉を探す。
少し天然気味なところのあるカズキ君であるが、リーヴァちゃんに向ける想いは本物である。
たとえ練習であろうと、その想いを口にするというのは変わらないわけであるし、緊張してしまうのも仕方がないのかもしれない。
だが―――
「あ、あのっ!」
「う、うん、何―――って……?」
カズキ君が意を決し口を開いた、まさにその時……
僕の視界―――カズキ君の斜め後方に見知らぬ女のコが映る。
「あっ、カズキ君、まっ―――」
「好きですっ!付き合って下さいっ!」
緊張していたカズキ君はその存在に気が付かなかった。
勢いのまま僕に告白し、『ネオエインの花』を差し出す。
それを見て―――少女は固まった。
(えっ……?ま、まさか――――)
この時、僕は盛大に嫌な予感に襲われたのだが……得てして、そういう予感は当たるモノ。
「カ、カズキ君……?」
「……え……?」
少女が呆然とした様子でカズキ君の名前を呟くと、カズキ君もようやく彼女の存在に気づいたようで、半ば硬直した身体でゆっくりと後ろに振り返り―――
「リ、リーヴァちゃん……?」
カズキ君はどこか信じられないといった面持ちで少女に声をかけた。
(やっぱりかぁっ!!)
それを聞いた僕は思わず頭を抱えてしまう。
だが、それこそが致命的なミス。
僕たちが呆然としている間に少女の青い瞳が涙で潤み―――決壊する。
「カ、カズキ君の浮気者~~~~~っ!!」
「ち、違うんだよ、リーヴァ―――」
カズキ君の言葉よりも少女の批難の声の方が早かった。
同時に青い光を放つ魔法陣が浮かび上がる。
「え?」
「……え?」
次の瞬間には僕もカズキ君も魔法陣から生まれた激流に飲み込まれていた。
「うわっ!」
「わわわっ!」
地上で津波に襲われるという思いもしなかった事態に虚を突かれたこともあり、僕たちは圧倒的な水量になすすべなく押し流される。
その間に―――
「うわぁ~~~~~~んっ!!」
号泣した少女は何処かに逃走していた。
◆◆◆
「カズキ君っ!追いかけてっ!」
「うんっ!!」
突然の事で不覚をとった僕たちであるが、魔法で引き起こされた津波は本物の津波ほど脅威ではない。だから、体勢を立て直したところで、カズキ君は少女―――リーヴァちゃんの後を追った。
「どうしたのっ!?」
「何があったの!?」
僕がその場に残ったのは、騒ぎを聞きつけてやって来たソニアさんやリサたちに状況を説明するためだ。
「いや、それが―――」
しかし、僕が説明を始めようとしたところで、突如現れる神様。
「オイ!ここに女のコが来なかったかっ!?」
「えっ!?アバン様っ!?」
空間を転移して現れたのはアバン様であった。
「いや、待て。まずは何があったのかを説明しろ」
アバン様は、ずぶ濡れになった僕や水浸しとなった周りの様子から何かを察したらしく、質問を変えた。
「な、何があったと言われても、僕にもよくわからないのですが―――」
急に姿を現したアバン様に面食らいつつも、僕は先程の出来事をなんとか説明する。
アバン様の慌てようからとんでもない事が起こっているのではないかと考えたからだ。
そして―――
「ちっ、また面倒なことを―――」
話を聞き終えたアバン様は顔をしかめながら舌打ちをした。
やはり何かが起こっているのだろう。
だが、僕たちにはそれがわからない。
なので、今度は僕たちが質問をするわけであるが―――
「あ、あの……あの女のコは何者なんですか?」
そんな僕の問いかけにアバン様は疲れた表情でただ一言。
「彼女は……『魔王』だ」
確かにそう告げた。
3章はここで終了です。
読んでの通り『次回に続く』という感じですし、次の4章は半ば3章(後半)のような位置づけではあるのですが……
次はいつものおまけです。
それを投稿したらしばらくお時間をもらうことになると思います。
(なんとか今月中には投稿したいのですが、話の構成を少し変えたいと考えているのでちょっと微妙な感じです)