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神様たちの冒険  作者: くずす
3章 Dランク冒険者、勇者の師匠となる
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心の試練・その2

 僕がルネとゴタゴタしている間に、カズキ君とソニアさんは心の試練を突破し合流を果たしていた。


「姉ちゃんって、アクシアさんの前だとあんな感じなんだね」

「う、うるさいわねっ!アレは忘れなさいっ!」


 ちなみに心の試練を最初に突破したのはカズキ君。

 カズキ君は勇者の加護のおかげで状態異常に対して高い抵抗力を持っていた。

 しかし、それ以上に有効だったのは子供ゆえの純粋さ。

 カズキ君の相手をしたのは、ルネの三人の姉の1人でララという魔妖花(アルラウネ)

 彼女たちは種族的な本能として、強い男性の精を求める傾向があり、僕たちが試練に失敗した場合、手を出してもいいという約束をバンサーさんと交わしていた。

 積極的に人と敵対しない中立派であっても、彼女たちが魔物であるというのはかわりなく、その根幹にあるのは強い者が弱い者を従える弱肉強食のルールだったのだ。

 ただし―――ララには少年愛の趣味はなかったらしく、最初からそれほどやる気はなかった。

 だから、ヨメミスの花の幻覚が破られた時点であっさりと負けを認めた。

 むしろ姿を現したララの方に植物マニアのカズキ君が興味を示したぐらいで、過剰に褒められた彼女は完全に毒気を抜かれ、希少な植物を自ら与えたぐらいである。


 そんな感じで試練を突破したカズキ君はソニアさんのもとに向かう。

 とはいえ、これは偶々そうなっただけ。

 カズキ君が転移した庭園からは南と西に道が伸びていて、南の道を進んだらソニアさんがいたというだけである。

 そして―――


 その時のソニアさんはヨメミスの花の幻覚に捕らわれており、アクシアさんというお見合い相手の幻影となにやら話し込んでいる様子であった。

 しかし、ソニアさんは魔術師であり、幻術系の魔法やアイテムなどの知識も深い。

 カズキ君が助けるまでもなく、ソニアさんは幻影を解除し、見事に試練を乗り越えた。

 まあ、幻影と語り合うところをカズキ君に見られていたという時点で、ソニアさんからすれば不覚であったのかもしれないが……


 二人はかなり順調に試練を突破した。

 だからこそソニアさんは僕やノアさんを心配していた。

 特に問題なのはノアさんである。

 なにしろノアさんは純粋な戦士系で、魔法は生活魔法ぐらいしか使えない。罠なども苦手であり、特に今回のような人を欺き陥れるようなものには騙されやすい傾向があった。

 しかし、二人はノアさんの元に行くことは出来なかった。

 ソニアさんが転移した庭園は北と西に道が伸びていたのだが、西に延びた道は門が閉ざされており、封鎖されていた。これはカズキがいた北側の庭園も同じで、唯一のルートは南北の道に新しく現れた西へ続く道だけ。

 ただし、そこは二番目の試練―――知の試練が待ち構えていた。

 つまり、ノアさんを助けに行けるのは僕だけだった。




◆◆◆




 ノアさんの元に赴いた魔妖花(アルラウネ)もルネの姉であり、名前をルナと言った。

 ルナは他の姉妹と同じようにヨメミスの花を用いてノアさんに幻術をしかけた。

 しかし、効果はいまひとつ。

 その理由は簡単で、ノアさんには特定の想い人がいなかったからである。

 だからルナは、少しやりかたを変えた。

 ヨメミスの花の幻影は『周囲の者の願望を読みとき、幻影として映し出す』というものであったので、そのカラクリを知る者であれば、幻影をコントロールするのも難しくない。自分の望む光景を映し出して欲しいと願うだけで済んでしまうので、幻術などの触媒としては最高に便利なアイテムであったのだ。

 そして、実際にルナがとった方法というのが―――『幻影の魔獣にノアさんを襲わせて、そのピンチに幻影の僕が駆けつける』というベタなシチュエーションを作り出すというもの。

 特定の相手がいないのならば、その場で作りあげればいいという発想である。

 強い男性の精を求めるという点を考慮すると、ルナの本命は僕かカズキ君であり、女性であるノアさんは前座。上手く捕獲できたら、男を呼び込むエサに使えるかもしれないという程度の認識しかなかったのだ。まあ、このあたりの事は女性しかいない魔妖花(アルラウネ)独特の価値観に基づくものなので、どうこう言っても仕方がないのだが……

 そんなルナの作戦は半ばまで上手くいく。

 素直なノアさんは二重の罠とは思わず、自分の危機に駆けつけた僕の幻影を偽物だなんて疑いもしなかった。

 これは周囲に立ち込める霧のせいで判断能力が鈍っていたというのもある。

 魔妖花(アルラウネ)四姉妹が仕掛けた幻術はヨメミスの花の幻影をメインとしていたが、周囲の霧にも思考能力を低下させる補助的な効果があったのだ。

 あとはもう簡単。

 ノアさんが幻術におちたところで、ルナは蔓状の触手を伸ばし、その身体を拘束する。

 もちろんノアさんの視覚にはそれらは見えていない。


「あ、あれ……?」

「どうやらさっきの魔獣の血には相手を麻痺させる効果があったようだね。もうちょっと気を付けて倒すべきだったよ」

「ううん。とっさの事だし仕方がないよ」


 ふらつくノアさんを抱き留める僕の幻影。

 ノアさんの身体が麻痺しているのは、ルナの伸ばした蔓の触手に麻痺を付与する粘液が分泌されていたからである。

 しかし、幻術に捕らわれているノアさんは、僕の幻影の言葉をそのまま信じ、魔獣の返り血を浴びてしまったせいだと思い込んでしまった。

 更に、麻痺を治療するポーションという名目で『アルラウネの蜜』まで飲まされてしまう。

 『アルラウネの蜜』は精製することで様々な薬になるのだが、精製前のそれは幻覚作用と興奮作用のある一種の媚薬のようなもの。皮膚に塗り込むだけでも効果はあるが、経口摂取することで効き目が強くなるというものだった。


「着替えはあるよね?」

「うん、カバンの中にあるはずだけど……」

「自分で着替えられる?」

「……ちょっと……無理かも……」

「じゃあ、僕が着替えさせるけど……いいよね?」

「……き、緊急事態だし……助けてくれた人に文句なんて言わないよ……」


 幻影の言葉に頷くノアさん。

 その頬は流石に赤くなってはいたが、状況が状況だけに幻影の言葉を受け入れる。

 そして、幻影の手がノアさんの鎧の留め具を外しにかかった、丁度、そのタイミングで―――


「ノアさんっ!」


「えっ……?」


 ―――僕はノアさんを拘束する怪しい触手を幻影ごと切り払った。




「ノアさん、大丈夫!?」

「……え?あれ……?ルドナ君……なの……?」


 幻影に捕らわれていたノアさんは、新たに現れた僕の姿に困惑した。

 しかし、それもほんのわずかな間だけ。


「あらら。バレちゃいましたか」


 触手を切り落とされたことで幻術も解けたのか、ルネとよく似た魔妖花(アルラウネ)が姿を現したからである。

 もっとも―――


「思った以上に早かったですね」

「そう?僕としてはだいぶ遅れた感じなんだけど」

「……しょうがないです。ここは諦めるとしましょう」

「諦める……?」

「ええ。後は任せました」

「えっ?任せたって……?」


 ルナは僕と対峙した時点で早々に逃走に移る。

 それは移動が苦手な魔妖花(アルラウネ)とは思えない見事なもので、僕はあっさりと彼女を逃がしてしまう。

 地面に倒れているノアさんを残して追いかけるわけにもいかないので、この判断はそれほど間違っていたわけではないのだが―――問題はその後に発覚する。


「あぅ……」

「やっぱりすぐには動けないみたいですね」

「ご、ごめんね」


 麻痺を治療するポーションを飲ませたものの、ノアさんの身体はすぐには回復しなかった。

 だから、幻影の僕が行おうとしていた行為を、本物の僕が引き継ぐことになった。

 少なくとも鎧くらいは脱がさないと、横になるだけでも負担となりかねない。それに、触手の粘液に麻痺させる効果があったとするならば、服も着替えさせたほうが良い。

 判断としては別に間違っているわけではないのだ。

 そして、それをこの場で行えるのは僕一人。

 バンサーさんに転移させられた時から、リサはもちろん、リフスやサリアでさえ呼びだすことが出来なくなっていた。なので、僕がするしかなかったのだ。


「ええと、それでなんだけど……」

「さっきも言ったんだけど、緊急事態なんだからルドナ君に全部任せるわ」

「そ、そう……」


 ノアさんも状況はきちんと把握している。

 恥ずかしさがないわけではないのだろうが、二度目のやりとりでもあったので、その言葉には若干の余裕が伺えた。

 ただ―――その余裕が余計な一言も付け加える。


「まあ、私なんかを脱がしても、ルドナ君はなんとも思わないだろうし……」

「え?」

「私みたいな子供体型の女のコを脱がしても面白くないでしょ?」

「いや、そんな事はないですけど……」


 ノアさんは僕に気をつかわせないように口にしたのかもしれないが、誤解をそのままにしておくというのもマズイ気がして、僕は思わず否定してしまう。


「え……?」

「なんか誤解されているみたいですけど、ノアさんだってカワイイじゃないですか」

「カ、カワイイって……ど、どうせ子供みたいって事でしょ?」

「確かにそれも否定はしませんけど。ノアさんが大人だっていうのはわかっていますし、そもそも容姿に関しては僕もあまり人の事が言える方じゃないですから」

「あっ……」


 しかし、このタイミングでノアさんの言葉を否定してしまったのも問題がある。

 緊急事態であるから仕方がないという前提はあるものの、だからこそ、男女の意識は極力持ち込まないというのがこの場合のマナーだろう。

 とはいえ言ってしまったものは仕方がない。


「え、ええと―――」

「なるだけ見ないようにしますけど、少しくらいは助けた者の役得って事で勘弁してくださいね」

「あぅ……」


 変に気まずくなるのも避けたかったので、あえておどけた感じで許しを請うと、ノアさんは顔を真っ赤にして小さく呻く。

 そういう反応がノアさんの可愛いところだと思うのだが―――だからこそ少々マズい。

 何しろこれから碌に動けないノアさんの着替えを手伝わないといけないのだ。

 ルナの残していった後始末は、心の試練などよりよほど精神を試されるものとなった。





この章が終わるまでは三日に一度の投稿予定です。

次の章の投稿は一日一回の更新にしたいので、その目処が立つまで時間を頂きます。


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