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神様たちの冒険  作者: くずす
3章 Dランク冒険者、勇者の師匠となる
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ダンジョンの管理者

「冒険者の方々よ、ようこそいらっしゃいました」


 白い霧の中から姿を現したのは、高級そうな燕尾服に身を包んだ老紳士。


「私はこの『ナイト・ガーデン』を管理する、バンサーと申す者でございます。もしよろしければ、貴殿らのお名前を伺ってもよろしいですか?」


 バンサーと名乗った老紳士がそう問いかけたことで、僕たちは警戒しながらも名前を告げる。


「私はノア。『銀の七星盾』というクランのクランマスターをしています。それで―――」

「私はソニア=ユウノよ。こっちは弟のカズキ」

「僕はルドナ=エンタヤです。それでこっちが僕の契約した樹精霊(ドライアド)の―――」

「―――リサです」

「なるほど、なるほど。ありがとうございます」


 その場に姿を見せていた全員が名前を告げると、バンサーさんは丁寧に頭をさげる。


「それで、バンサーさんは私たちに何か用があるのでしょうか?」

「ダンジョンの管理者が出てきたとなると―――何かマズイ事でもしてしまいましたか?」


 ノアさんと僕は恐る恐るといった感じでバンサーさんに問いかける。

 それはバンサーさんがこの『ナイト・ガーデン』の『管理者』だと名乗ったからである。

 真っ当な冒険者であれば、『管理者』ともめ事を起こす愚かしさを知らないわけがないのだ。

 ただ―――そんな僕たちにバンサーさんは少し苦笑し、告げる。


「いえ、そういうわけではございません。ただ……神々の力を有するお方々がこの地を訪れたとなれば、管理者である私もご挨拶に伺わないわけにはいきませんのでな」

「え?」

「我らは協定を結んでいるはずです。そして、それらを破った覚えもございません。事前の報告もなく査察を受ける謂れはないと思われますが―――」

「協定……?」

「やはり、気が付いておられませんでしたか。ならば、ご忠告させてもらいますが―――我らが領土を訪れる際には事前に報告を入れておいてもらいたいものですな。勇者というだけでも我らは警戒せざるを得ないのに、それを神自らが率いてきたとなると、とてもただ事だとは思えませぬ。よくて示威行為、下手をすればそれだけで宣戦布告とみなされますぞ」

「宣戦布告っ!?」

「勇者とは神の代わりとなって魔を討つ者ですからな。魔を克服したとはいえ、我らも元は魔に属するもの。突然勇者を差し向けられれば、神々に敵とみなされたと捉えたとしても致し方ありますまい」

「い、いえ!僕たちはそんな気は……そもそもそんな話も知らなかったぐらいで―――」

「わかっておりますとも。皆様方のご様子はずっと伺っていましたのでな。申し訳ないとは思いましたが、こちらも状況を把握せぬことには動きようがなかった故の事。その点はどうかご容赦願いたい」


 話を聞き慌てる僕たちであったが、バンサーさんがそれを押しとどめる。


「皆様方はただの冒険者としてこの地を訪れたのだと推測しましたが、その認識でよろしいですかな?」

「はい」

「では、私の方からも同じ質問をさせてもらいますが……本日はどのようなご用件でこちらにいらしたのでしょうか?見ての通り、この地には財宝のようなものはいっさいありませぬが―――」


 今度はバンサーさんの方が僕たちに問いかけてきた。


「ああ、それは―――」

「この庭園の中には『ネオエインの花』が咲いている場所があると聞いてきたんです。本来はキルト地方の限られた地域でしか見られない幻の花なんだけど……」


 それに答えたのはカズキ君である。

 もともと彼が望んだものであるわけだし、本人の口から伝えるのが一番良いだろうという判断だった。

 しかし―――


「ううむ……ネオエイン―――時凍(ときこお)りの花ですか……」


 それを聞いたバンサーさんは途端にしぶい顔をする。


「ど、どうかしましたか?」

「いえ……普通の草花であれば、それをお渡しする程度の事は容易いのです。ですが、『ネオエインの花』となると簡単には差し上げる事ができないのですよ。私が王より賜りし責務が、正に『ネオエインの花』の守護でありますからなぁ……」

「え?」

「この庭園の維持管理も私の仕事ではありますが、本来の任務は『ネオエインの花』を求めし者に『試練』を課す事でしてな。試練を乗り越えた者であれば、それを差し上げる事にも問題はないのですが―――」

「じゃあ、その試練を―――」

「いえ、その試練をどうするのかというのが問題でしてな。ただの冒険者用の試練を貴殿らに与えたところで意味はないでしょう?形ばかりの試練を与えて体裁を整えることはできますが、それでは王の信頼を裏切ってしまいますし……神と勇者の前に何もせずに屈したと評されても文句は言えませんからな」

「なるほど……」


 バンサーさんの話を聞き、僕はある程度事情を理解する。

 だから、僕は安易な解決策を提示する。


「それなら僕たち向けに試練を調整することはできないのでしょうか?」

「いえ、出来なくもないのですが……よろしいのですか?『ネオエインの花』は貴重な品ではありますが、とてもそれに見合うような試練とはなりませぬぞ。『己の全てを賭けて挑む価値をこの花に見出せるか?』というのも試練の一部でありますが故に……最悪の場合、命を落とす事もあるのですが―――」

「その言葉で怯むようなら、冒険者などやっていませんよ」

「ううむ……確かにそうでしたな。そうであるならば、貴殿らに試練を与えましょう」


 それにバンサーさんも答える。

 ただし―――


「ですが、リサ様の参加はご遠慮願いたいのですがよろしいか?いくら同意のもととはいえ、彼の者の娘に傷のひとつでも追わせてしまうと、我ら全ての首が飛びかねませんので……」


 リサの方に目を向けたバンサーさんがそんな言葉を付け加えた。

 これはあれだ……リサの正体はもちろん、親バカな主神(アバン)様の事も知っているという事なのだろう。


「ええ、それで構いませんよ」


 僕としてもそういう事なら文句はない。

 そして、ノアさんやソニアさんたちも同意を示す。


「では、今から3つの試練を与えます。それらを全てクリアした暁にはお求めの『ネオエインの花』を授けましょう。ですが、ゆめゆめご油断なさいませぬように……花を求めて己の命を散らしてしまうなど愚かとしか言いようがありませんからな」


 バンサーさんは最後にそう言うと、僕たちの足元に転移の魔法陣を展開させる。

 こうして僕たちは試練に挑むこととなった。





しばらくの間は三日に一回くらいの更新です。

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