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神様たちの冒険  作者: くずす
3章 Dランク冒険者、勇者の師匠となる
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ナイト・ガーデンの魔物たち

 翌日、僕たちは『ナイト・ガーデン』に突入する。

 そこは事前の情報通り、月明りに照らされた美しい庭園ではあったのだが―――


「これはなかなか厄介そうね」

「確かに……」


 それは緑の壁で仕切られた巨大な迷路というべきもの。

 しかし、本当に厄介なのは迷路ではない。


「でも、迷路なら空から見れば楽勝なんじゃないの?」

「いや、その手の反則は使えないと思うよ。この空間は次元が歪んでいて、正しい手順どおりに進まないと、行きたいところに行けないようになっているんだ」


 厄介なのは迷路を見た目以上に複雑にする空間の歪みであった。


「この幾何学模様を描いている花壇なんかが一種の魔法陣になっているのよ。だから、これらを破壊すれば空間の歪みは解消されると思うけど―――」

「それはダメだよ」


 植物をこよなく愛するカズキ君は慌ててソニアさんの言葉を遮っていたが、僕たちもそれを行う気はない。

 なにしろ庭園の景観を損ねるような行為は冒険者ギルドから禁止されている。

 よほどの事情があれば別かもしれないが、この手のルールを破れば、当然、それなりのペナルティーを受ける事になる。

 そして、そんな制約が設けられている理由はひとつ。

 この『ナイト・ガーデン』には『管理者』と呼ばれる存在がいるからだ。


 通常、ダンジョンの管理は冒険者ギルドに一任されている。

 しかし、全てのダンジョンが冒険者ギルドの手で管理できているかというと、決してそうではない。『混沌の大迷宮』を始め、ギルドでも手に余るようなダンジョンなどいくらでもあるからだ。

 そして、それらと同じくらい、既に誰かのものとなっているダンジョンというのもある。

 地下に広がる空間とはいえ、それが土地である事には変わりはなく、土地の所有権を主張する者もそれなりにいたりするのだ。

 ただ、それが地上で暮らす者ならさして問題はない。

 一般人がギルドを介さずにダンジョンから利益を得るのは難しいので、大抵の場合は委託という形でギルドの管轄に収まってしまうからだ。

 逆にいえば、地上で暮らさない者がダンジョンの所有権を主張したりすると話は難しくなる。

 何故ならそのほとんどは、『超克者(もしくは超克存在)』と呼ばれる魔素の狂気を克服した強者であるからだ。

 彼らは様々な理由から地上の人間と距離を置き、ダンジョンで生活する事を選んでいるだけなので、その住処を力づくで奪ったりすれば、当然のように問題となる。

 超克者たちの中には人と同じように徒党を組んでいるものもいるし、それこそ国家のようなものを形成している場合もある。

 有名なのは『混沌の大迷宮』に存在すると言われる悪魔たちの王国であるが、もしそこに所属する超克者に余計なちょっかいでも出して、悪魔たちと全面戦争にでもなったりしたら洒落にもならない。

 故に、冒険者ギルドは出来るだけ超克者とのもめ事を避ける傾向にあり、冒険者にもそれを徹底させていた。

 ただ、これは冒険者にとっても悪い事ではない。

 超克者は中立的な魔物の代表のような存在であり、多くの場合、交渉が可能。時と場合によっては自分たちの助けとなってくれることもある。

 そして、そんな超克者の中には、自分の支配地域をダンジョンとして公開する者もいる。

 それが俗にいう『管理者』なのであるが―――言ってみれば、冒険者ギルドにダンジョンを貸しているオーナーのような存在であるので、これを怒らせるような真似は出来るだけ避けるというのが正解なのだ。




◆◆◆




 目的の『ネオエインの花』は『ナイト・ガーデン』の最深部に近い『月と星の園』に咲いているらしいと事前に情報を得ていたので、僕たちはひとまずそこを目指す事にした。

 その道中は―――今までとさほど変わらない。

 いくら管理者がいると言っても、ダンジョンの本質は変わらないからである。

 ただ……


「それじゃあ、こっちの道でいいんだね?」

「ハイ」


 問答無用で襲い掛かってくる魔物もいないわけではないが、大半は僕たちを遠巻きに見ているだけの大人しいものが多く、中には交渉が可能なものもいる。

 今、リサが話しかけている樹人(トレント)なんかがその最たる例であるが―――世界樹(ユグドラシル)()樹精霊(ドライアド)であるリサは種族的に彼らに近しい存在なので、わりと普通に意思の疎通が出来るのだ。

 そして、『ナイト・ガーデン』で生まれてくる魔物の大半が植物系の魔物であるから、よほど魔素の狂気に染まっていない限り、交渉でなんとかなってしまう。

 これはまれに姿を現す魔精霊や邪妖精なんかも同じ。

 唯一交渉が難しいのが昆虫系の魔物であるが、彼らも自分のテリトリーを無闇に荒らしたりしなければ襲い掛かってくるような事は少ないので、そこまで問題とはならない。

 もっとも、強さそのものはギリノス遺跡の魔物よりワンランク上という感じなので、決して油断はできない。とはいえ、それは知恵あるものの怖さであり、ギルドの定める等級などではなかなか計れない部分の話ではあるのだが……

 とにかく、探索の方は順調だった。

 だが、あまりに順調すぎて、僕はかえって不安を感じていた。


「なんか、順調すぎない?」

「え?」

「思っていた以上に順調だからかな?何か、嫌な予感がするんだけど―――」


 だから、僕はそれを口にした。


「どうしたの?お兄さん」

「カズキ君は何か感じない?」

「え?何かってナニ?」

「それはわからないんだけど……なんか、ねばつくような視線をときおり感じるというか……」

「ねばつくような視線?確かにたくさんの魔物の気配がするし、そういうのも感じないわけじゃないけど」

「う~ん……」


 声をかけてきたカズキ君に問い返すものの、彼はそこまでの違和感を持ってはいないようである。

 続けて声をかけてきたのはリサ。


「ここは思った以上に『意志あるもの』が多いから、そのせいじゃないのかな?」

「そう言われると、確かにそうなんだけどね」


 リサが口にしたように『ナイト・ガーデン』には無数の『意志あるもの』がいる。

 『ナイト・ガーデン』が植物系の魔物の天国になった原因は大量の魔素を含んだ土壌にあり、だからこそ『ナイト・ガーデン』に生息する全ての植物は『意志』を宿す可能性を秘めていた。

 もちろん、その『意志』がどの程度のものであるかは別問題であるのだが―――明確な自我こそ持たないものの『意志』を持った魔樹や魔草はそこらかしこにいるという事である。

 そして、それらの魔の気配が人を不安に誘うというのはよくあること。

 魔素の中核となる意志は理性から切り離された断片的なものであり、寄り集まる事で狂気となる。そんな狂気を宿し、心のバランスを崩した者が傍にいれば、警戒するのが当然の反応なのだ。

 だが、それも程度による。


「るーはさっきの樹人(トレント)さんたちが信じられないの?」

「ううん、そういうわけじゃないよ。むしろ、さっきの樹人(トレント)さんに関してはいい人っぽい印象だったしね」


 魔素から生まれたものや魔素の影響を受けて変異したものは、一般的に『魔物』と一括りにされている。しかし、魔物という言葉の本来の意味は『魔素に侵され、正気をなくしたもの』の総称であり、ギルドの定める魔物の定義となると、更に『人類と敵対している』という条件まで付属する。

 これは歴史と共に言葉の意味が移り変わっていった証拠なのだが、同時に魔物の定義の難しさを表わしてもいる。

 なにしろ、心のありようの問題なだけに明確な線引きが難しい。

 魔素の影響を受けつつも知性を持つ魔物もいるし、その中には今回のように交渉が成り立つ者もいる。

 超克者のように魔素の影響を克服した者というのもいるが、それは『魔素』を完全に制御できる者が魔素の暴走に飲まれているはずがないという理論がもとになっていて、個々の心のありようまで確かめたわけではない。

 ともすれば、人間だって魔素の影響を全く受けていないわけではないし、そもそも何をもって『正気』とするのかという問題もある。

 まあ、それを言うと、正気の人が必ずしも悪事をしないというわけでもないし、自分たちと敵対したからといって、相手が正気じゃないと言うのも傲慢すぎる。

 結局のところ、重要なのは敵か味方か。

 全ては自分たちで判断するしかない。

 だから―――


 僕は先程の樹人(トレント)さんたちの言葉を疑っていたわけではなかった。


「う~ん。別に特定の誰かを疑っているわけじゃないんだよ」

「うん?」

「ただ、気になっている事があってね。ここまでの間、かなり友好的な魔物が多かったでしょ?なら、もうちょっと人がいてもおかしくはないのかなって。もちろんいろいろと事情があるだけなのかもしれないけど」


 僕の疑問にリサとカズキ君は首を傾げたが、冒険者として経験を積んでいるノアさんとソニアさんはそれだけで理解を示した。


「なるほどね」

「え?どういう事?」

「これだけ条件がそろっているにも関わらず『安全地帯』となっていないのは何故かって事ね」

「単に『管理者』の意向って言ってしまえばそれまでなんだけど……友好的な魔物が多いこの地をわざわざ『ダンジョン』と銘打って公開するのには、何かしらの目的があるんじゃないかってことだよね?」

「ええ。とはいえ、それ以上の事はなにも言えないので、精々油断しないで行きましょう、というだけなんですが―――」


 だが、だからどうするという話でもない。

 自分でも口にしたとおり、今まで以上に警戒をする事ぐらいしか僕たちに出来ることはない。


 そして―――


「目的の場所はもうすぐみたいだけど―――」

「―――なんか妖しい霧が出てきたね」


 探していた『月と星の園』に近づくと、周囲に白い霧がかかりだし、視界を遮り始める。

 それは奥へ進むほど深くなり、やがて自分の数歩先の視界も見えなくなる。


「どうやらお出ましのようだね」


 そんな霧の向こう側に―――魔人が待ち構えていた。





いわゆる中立派の魔物についての解説回です。

捕捉をすると、地上で人と共に暮らすようになった者たちは『魔物』とは呼ばれません。ゴブリンならゴブリン族、オークならオーク族と言った感じで呼ばれます。

ただ、地上に出た魔物は『人化』の能力を使って人の姿を取ることが多く、魔物らしい姿のままでいる者はあまりいなかったりします。


しばらくの間は3日に1回くらいの投稿です。


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