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神様たちの冒険  作者: くずす
3章 Dランク冒険者、勇者の師匠となる
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ユウノ姉弟の事情

「なるほどね。それでナナエさんがいないんだ」

「うん」

「でも、あのマブオクさんがクランメンバーになるとはね。世の中、本当に何が起こるかわからないものね」

「そうだよね」


 3ヶ月ぶりにこの街に戻ってきたソニアさんは、食堂の一角でノアさんと互いの近況について語り合っていた。

 そして、その席に何故か僕も参加していた。

 いや、『何故か』というのは、薄々はわかっている。

 今はこの場にいないが、ソニアさんは実家から弟を連れて戻ってきたのだ。

 単に冒険者として戻ってきただけなら、カズキ君を連れてくる必要はないわけで、そこには何らかの『事情』があると思われた。

 それを聞かせるために、二人は僕にも同席するように告げたのだ。


「それでそっちの話はどうなったの?」

「あ~、うん。その話はぼちぼちといったところかな?」

「その話?」


 ただ、その『事情』というのが、事前情報がない僕には全く予想がつかないわけで―――


「ソニアちゃんはお見合いをするために実家に戻っていたんだよ」

「まあ、親の顔を立てて、会っただけなんだけどね。しがない騎士爵の当家としましては、本物の貴族である子爵家様の面子を潰すわけにもいかなかったし……」

「相手の人はどんな感じだったの?」

「ん~。良くも悪くもぼんぼんって感じだったわね。悪い人ではなかったけど、世間知らず、苦労知らずのいかにも貴族の子弟って感じで……そうでもないと、冒険者なんてやっている女との縁談なんて乗らなかったと思うけどね」

「へぇ~。確かに変わっているね」


 しばらくはノアさんとソニアさんの会話が続き、僕はほとんど空気となる。

 ただ、だからといって変に急かしたりはしない。

 女のコの話というのは得てして長くなるものであるし、『事情』をうちあけるタイミングを計っているのだとしたら、それを邪魔するのも良くないと思ったからだ。

 そして―――いよいよソニアさんも本題に入る。


「―――ただ、そんな話が持ち上がっている時に、少し厄介なことが起きてね」

「厄介なこと?」

「今年の『創世祭』でカズキにある『加護』が与えられたのよ」

「え?加護ですか?でも、カズキ君って、まだ13歳ですよね?」

「王族なんかもそうだけど、昔から続く貴族なんかだと12歳で『神授の儀』を受けるのよ。ウチは騎士爵だけど、それなりに歴史のある家だから―――」

「ソニアの家はかつて『勇者』を輩出した事もある武家の名門なんだよ」

「……正に『それ』よ」

「え?」

「……え?」

「『勇者の加護』がカズキに与えられたのよ」


 それは僕たちが全く予期しない『事情』であった。




◆◆◆




 ソニアさんの語った話をまとめるとだいたい以下のとおり。

 カズキ君が『勇者の加護』を授かったことは王都を中心に一気に広まった。

 与えられた加護が『勇者の加護』という特別なものであったので、それが公になるのはある意味当然の事。神より力を与えられた本物の勇者というのは、神の代わりに力を振るう事を許された人類の守り手であり、国の枠組みさえ超えるような存在となるからだ。その存在を秘匿することなど国王でさえ許されない。

 だが―――当の本人がそれを望んでいなかったとしたらどうだろう?

 カズキ君は見た目通り大人しい性格で、剣を握るよりも本を読む事が好きな男のコであった。

 また、花を育てたり、庭木の世話をしたりするのが大好きであるらしく、将来は植物学者になりたいと言っていたらしい。

 そんなカズキ君が、突然、勇者に選ばれてしまったのだ。

 それに反発するのも無理もない。

 無理もないが―――


「私たちとしてもカズキに無理強いなんてしたくないわ。でも、こればっかりは、ね」


 ソニアさんが深くため息をつきながら、己の心情を吐露する。

 神より授けられた『勇者の加護』は、人類の守り手と呼ばれるに相応しい絶大な力を与えてくれる。だが、それは逆に『それだけの力が必要とされる途方もない危機が迫っている』という神託ともとれるのだ。

 本人がやりたくないと言っても、『はい、そうですか』とはいかない。

 まして、ソニアさんの家は準貴族―――国に仕える立場なのだから、カズキ君の側に立つことも難しい。


 そして、そんな立場であるからこそ、余計に厄介な事もある。

 一応、カズキ君は13歳であるし、今現在、世界に目に見えるような大きな危機も起こっていないという事で、勇者になったからといって今すぐに何かをしなければいけないわけではなかった。

 しかし、勇者という存在はその名前だけでも十分に目立つわけで―――カズキ君を取り巻く環境は一気に激変した。

 その事が彼を益々追い詰める。

 分かり易い事例としては、王都中のありとあらゆる学校がカズキ君のスカウトに走った事だろうか。

 勇者を輩出した学校となれば、それだけで一躍有名になるだろうし、その気持ちもわからなくはないのだが……本人にやる気がないだけに、熱心な勧誘は逆効果にしかならない。

 これは何も学校関係者だけではなく、王国軍の幹部や王侯貴族、大商人、さらには他国の者でさえも、あらゆるつてを使ってユウノ家に接触を図ろうと企てていて―――カズキ君は遂に、家にもいられなくなったのだとか。


 つまり―――


「そういうわけで、しばらくの間、あのコをここで匿って欲しいのよ」

「えええっ……」


 ソニアさんにお願いをされ、ノアさんが激しく困惑する。


「なによ、ダメなの?」

「い、いや、ダメというわけじゃないけど。ここで匿ったとしてもすぐにバレちゃうでしょ?ソニアちゃんがここにいるんだし。それに、そんな人たちが大勢押し寄せてくるとなると、こっちも困るんだけど……」

「ああ、その点なら大丈夫よ。私がカズキの修行をつけるって事で話はつけてきたから。修行の邪魔をしたり、ここの迷惑になるような事をしたりすれば、自分たちの評価が下がるだけだし、そうそう無茶なことはしてこないと思うわよ。そもそもカズキが家に引きこもっているから、勧誘合戦が酷くなったというのもあるしね」

「う~ん……」

「それに王都とこの街は結構離れているでしょ。私やカズキの事を知る人なんてほとんどいないと思うし、遅まきながら、勇者の事に関しては箝口令も強いてもらったから、そうそうバレる事はないと思うわよ。冒険者ライセンスも特例で発行してもらったしね」


 そんな事を言いながら、ソニアさんは自分のライセンスカードとは別のライセンスカードを僕たちに提示する。

 そこに書かれていたのは、カズキ君の名前と各種情報なのであるが―――


「うわっ、Cランクなんだ」

「勇者なら特例でAランクまではいけたんだけどね。Cランクの冒険者がAランクの冒険者を指導するというのも無理があるから、私と同じランクにしてもらったのよ」

「年齢は特例措置で通るとして……ファイターとメイジのデュアルクラスなのは?」

「いや、一応うちは武を尊ぶ騎士爵だからね。カズキもそれなりの訓練は受けているのよ。今回の事がなければ、そのままうちの家督を継ぐはずだったわけだし。むしろ、だからこそというのもあったのよね。剣も魔法も全く使えないようなら、加護を貰った所で無理だって、突っぱねる事も出来たのかもしれないけど……」

「下手に使えたことが、カズキ君にとっては災いとなったわけですか」

「そうね。他人からみたら、カズキがやる気のないだけに見えたとしても、仕方がないと思うわ」

「なるほど……」


 これでおおまかな事情は把握できた。

 そして―――


「そういうことなら仕方がないかなぁ」


 人の良いノアさんである。

 親友であり、クランメンバーでもあるソニアさんのお願いを断わるはずもなかった。





暫くの間は投稿速度が遅くなると思われます。

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