戦いの後
ククルや夢幻の神が倒されたことで隔離空間は解除された。
そして、現世に戻ってきた僕たちが最初に行ったのは、子供たちを布団に寝かせる事。
ククルに操られていたコナンさんも意識を失っていたので、こちらは別の部屋に運び込む。
「ニーズ、少しの間、皆を見ていてくれる?」
「あいっ!お姉ちゃんにお任せだぞっ!」
「リフスもよろしくね」
「はい」
子供たちを二人に任せ、僕たちはコナンさんの寝かされた部屋の方に移動する。
ミントの診察で大事はないと言われていたが、だからといって安心はできない。
彼がククルに操られていたのは確かであるが、それがどの程度影響を与えていたか不明であるし、意識を取り戻した時にどんな行動に出るかわからないので、警戒は怠れないのだ。
もっとも―――
「コナン……」
ベッドに寝かされたコナンさんの手を取り、声をかけ続けるナナエさんを見ていると、いらない心配だとは思うのだが……
コナンさんはしばらくすると目を覚ました。
最初は何があったのかわからずに混乱していたようであるが、ククルに操られていた時の記憶も残っていたみたいで、すぐにナナエさんに頭を下げた。
「すまない、ナナエ!俺はなんて事を―――」
「ううん、いいの。いいのよ、コナン。あなたが無事だっただけで、私は―――」
そんなやりとりを交わす二人を見ていれば、これ以上の警戒が必要ないのは一目瞭然。
むしろ、それ以上居続けるのは野暮というものである。
「僕たちは子供たちを見てきますから」
「お姉ちゃんはコナンさんを見ていてあげて」
そう言って、僕たちは部屋を出る。
ただ、少しばかりお節介をやいておく。
「いい機会ですし、二人でじっくりと話あってくださいね」
「話し合えば何でも分かり合える―――なんて、都合のいい世界じゃないというのは確かだけど、話し合うだけで解決する問題というのも世の中には結構あると思うわよ」
「あと、もう少しわがままになってもいいと思いますよ。一人で抱えられるものというのはそんなに多くはないのですし、苦しい時に他人に頼るのは恥ずかしいことではありませんから」
お互い思いあっていたのに、数年間も距離をとっていた二人である。
それくらい言っても問題はないだろう。
ただし、その言葉はブーメランでもあった。
「―――で、だ。話をしたいっていうのは俺たちもなんだが……」
「いくら期待のルーキーだからって、あの異次元の強さはなぁ……」
そう口にしたのはメビンスさんとソーンさん。
まあ、あれだけの事をしておいて、疑問に持たれないわけがない。
「あ、いや、あれは―――」
「ええと、その―――」
「……あなたたち、隠す気ないでしょ……」
状況が状況だっただけに仕方がないのだが、サクヤが呆れたように愚痴るのもムリもない。
ただ、話し合う必要があるのは、メビンスさんたちにも言える事。
「私としては、マブオクさんが何でここにいるのかとか、この人たちが誰なのかとか、まずはそこから話してもらいたいのですが―――」
「あっ……」
「いや……」
「す、すいませんでしたぁっ!!」
ノアさんの言葉に、マブオクさんがとても綺麗な土下座を敢行する。
まあ、話をするならそちらから先にする方がいいだろう。
とはいえ、廊下のど真ん中でするような話でもない。
そんなわけで、僕たちは食堂に移動して、いろいろと話し合うこととなった。
◆◆◆
僕たちが話し合った結果。
マブオクさんたちの謝罪は受け入れられた。
メビンスさんやソーンさんはミントを襲撃した件にしか関わっていなかったので、ミントが『折檻もしましたし、反省しているならいいですよ』と言っただけで終わった。
というか、僕からすると三人が心の傷を負っていないかと心配していたぐらいなのだが……ミントは神でさえ撲殺するような女のコなのだから、それも仕方がないと思う。
次はマブオクさん。
こちらは数年にわたりノアさんやナナエさんたちに嫌がらせをしてきたので、そう簡単にはいかないかと思われたのだが―――そこは人の良いノアさんである。事情を全て知ると、あっさりとマブオクさんを許した。
マブオクさんが目に余るような酷い嫌がらせをしていなかったというのもあるが、ここでマブオクさんの謝罪を受け入れないと、ナナエさんやコナンさんまで、それを気にするだろうという配慮である。
とはいえ一番の理由は、マブオクさんが本気で謝っているのが伝わっているからなのだろうが……
そんなわけで、マブオクさんたちの話は終わり。
次は僕たちの話になるが―――これはノアさんに話した話をほとんどそのまま伝えることにした。
ただ、そこに加えてもうひとつ。
「実はリサは神様の子供なんですよ」
「神様の……子供……?」
「そんなリサを守るために僕たちは神様から力を与えられたんです」
「ということは……『勇者』……みたいなモノか?」
「そうですね。そんな感じでしょうか」
「オイオイ、マジかよ……」
「あ、でも、神様のかわりに神の敵を倒す本物の『勇者』とは違うんで、そのあたりは勘違いしないでくださいね。僕らはあくまでリサの護衛というか、リサを守るために力を与えられただけなんで、変に騒がれると困るというか―――」
僕たちはかなり核心に迫る部分まで打ち明けた。
というよりも、ここまで話すと察しのいい人はリサの正体に勘づくだろう。
マブオクさんやソーンさんはそうでもなかったようであるが、メビンスさんは『まさか……?』みたいな表情を一瞬浮かべていた。まあ、それもすぐに笑顔と変わったが……
「そういうことなら安心しな。俺もコイツらも別に言いふらしたりしないからよ。コナンの恩人に仇を返すわけにはいかないしな」
「そうだな。神様の加護っていうんなら、絶対にないというわけじゃないし、王都の方にも最近『勇者』が現れたって話だから、そこまで珍しいことでもないのかもな」
「ああ、噂の『勇者』ですかい?でも、『勇者』が現れたとなると、『魔王』も現れるって事なんじゃ―――」
僕の勘だと、メビンスさんはわかっていて気が付かない振りをしてくれているのだと思うが、それならなおの事問題はない。
むしろ、問題となったのはその後。
とはいえ、それは特にもめるような話ではなく―――
「ところでノアさんに相談した事があるんだが……俺たちがここに泊まることは出来るかい?俺たちがやった事を考えればダメだと言われても仕方がないんだが、いろいろと迷惑をかけた分、その償いをしたいんだ」
「え?償いだなんてそんな―――」
「コナンのヤツがある程度落ち着くまで、俺たちも見届けないといけないからな。しばらくの間、この街で暮らすつもりなんだが……そうすると、ここに泊まるのが一番いいと思うんだ。もちろん金はきちんと払うからさ」
「え、ええと、それは―――」
「いいんじゃない。長期滞在の冒険者なんだから、断る理由もないでしょ」
「もともと決めるのはノアさんやナナエさんですからね」
そんなわけで、メビンスさんたちはしばらくの間、『銀のゆりかご亭』に滞在することとなった。
しかし、話はそれだけで終わらない。
「マブオク、お前も鍛えなおしてやるからな。覚悟しておけよ」
「あと、お嬢ちゃんたちに迷惑かけた分、ここで無料奉仕な」
「え、そ、それは……あ、いや、もちろんそれで許してもらえるというのなら、何でもしやすが―――」
「コナンやあのコに頭を下げる時は俺たちも付き合ってやるからよ。逃げんじゃねーぞ」
「へ、へい……」
この時の僕は知らない事であるが―――マブオクさんたち三人はこれをきっかけにして『銀の七星盾』に加入する事となり、『新星・七つ星』と称される7人のクランメンバーとして、後に名を残す事となる。
2章もあと1話(+おまけ)で終わりです。