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神様たちの冒険  作者: くずす
1章 Fランク冒険者、神様になる
3/155

世界樹の樹精霊

 世界樹(ユグドラシル)―――それは数多の世界を支えていると言われる聖樹である。

 そして、その存在は創世の女神マリサと同一視されている。

 女神マリサを信仰する教団が聖樹教会と称しているのもその為だ。


 端的に言ってしまうと、世界樹とは数多の世界を内包する超次元生命体。

 次元の狭間に根を張り、膨大なマナを吸い上げることで成長し、世界という実を成すことで次代の種を残す。規模はともかくとして、その生態は普通の樹木と大差はない。

 では、何故、女神は人の姿をしているのか……

 この理由は簡単。

 普通の樹木でも自我に目覚め、精霊と呼ばれる精神で構築した別の身体を生み出すことがある。

 世界よりも遥かに長い寿命を持ち、数多の世界を生み出すようなエネルギーを保有する世界樹に同じような事が出来たとしても不思議ではない。

 もっとも、それは可能か不可能かという話であり、人の姿を模している本当の理由とはいえないのかもしれないが……



「今まで黙っていて、ごめんね」

「いや、それはいいんだけどね。事情が事情だし……」


 長年、自分の正体を偽ってきたことを気にしているのだろう。

 リサは申し訳なさそうに頭を下げる。

 そんなリサに頭を上げるように促しながら、サクヤに目を向け、助けを求める。


 リサが世界樹―――正確には世界樹(ユグドラシル)()樹精霊(ドライアド)だと聞かされた後、僕は何故それを秘密にしていたのかも聞かされた。

 とはいえ、これはそれほど難しい話ではない。

 リサが世界樹であることを隠す為に万全を期しただけ。

 世界樹は数多の世界を内包するようなエネルギーをその身に宿しているため、その力を求めるものたちにより、争いの火種となることが多々あった。

 その最たるが、神々がマリサ様を護るためにさまざまな神敵と戦ったとされる神話。

 そして、神ならざる者たちの間でも、世界樹を巡った争いは度々起こっている。もっとも、この場合、『世界樹の枝』や『世界樹の葉』といった世界樹の力の一端を宿したものが話の中心となるわけだが……

 そんな世界樹が新たに発見されたとなると、とんでもない騒ぎになるのは必然。

 故に―――それを望まない者たちが、その存在を隠そうとするのも当然であった。


「るーは隠し事とか下手だからね。だからリサには秘密にするようにお願いしたのよ」

「そう言われると文句は言えないよ。知らないのが一番なのは確かだしね」

「とはいえ、ここまでバレないというのも予想外だったけどね。私からすると、『何で今まで気が付かなかったの?』という感じなんだけど……」

「うぐっ……」

「まあ、るーに内緒にしていたのはそういう理由よ。そして、それをなんで今になって明かしたのかという事なんだけど……るーも世界樹の『世界渡り』の話ぐらいは知っているわよね?」

「世界渡り?それって確か……」

「新たに生まれた世界樹は成長すると、生まれ育った世界から飛び出して新天地を探すの。動物に置き換えれば巣立ちのようなものね。でも、それって……リサがこの世界からいなくなるって事よね?」

「あっ……」


 サクヤの言葉に僕は全てを悟る。


「世界樹にとって、世界渡りは避けられないものよ。生まれた世界から離れずにいれば、次元の狭間に根を張る事ができず、成長する前に枯れ果ててしまうんだから」

「………」

「それに、世界渡りには『パートナー』と呼ばれる存在が必要不可欠らしいわよ。世界樹にとって世界渡りは、巣立ちであるとともに子供を作るための準備でもあるみたいで……パートナーを得られなかった世界樹は上手く成長することができず、次元の狭間で一人孤独に朽ち果てるらしいんだけど―――」

「………」

「―――それを聞いて、るーは放っておける?」


 サクヤも答えはわかっているんだろう。どこか悪戯気な笑みを浮かべて僕に問いかた。


「出来るわけないよ」


「でも、それじゃあ、私やミントは困っちゃうのよね。私たちだって、るーの事が好きなんだし……じゃあ、どうすればいいかって言うと―――」


「……二人も一緒に連れて行けって事だよね……」


 そう、これは最初から答えが決まった問いかけであった。




◆◆◆




「あら、ずいぶんあっさり納得したわね」


 僕の返事にサクヤがそんな感想を口にする。

 だが、僕からすれば何を今更というもの。


「それはいろいろと聞きたい事はあるよ。でも、僕の答えはさっき言った通りだし……サクヤもミントも既にその気なんでしょ?」

「まあ、そうね」


 僕は既に3人全員と付き合いたいと胸の内を明かしている。

 今更それを撤回する気はないし、その為ならなんだってする覚悟がある。


「皆がそれで納得してくれているなら僕に否はないよ」


 なにより僕に損はない。

 3人全員と付き合いたいと考えていた僕としては、皆にそれをどう受け入れてもらうかというところで一番頭を悩ませていたわけで……それが労せず解決してしまったのだから十分であるといえる。

 まあ、あくまで今のところは……という話ではあるのだが……

 そんな事を考えていたからだろうか。

 サクヤが余計な茶々をいれる。


「るーからすれば、一番頭を悩ましていた問題が勝手に解決しちゃったわけだものね。でも、るー、本当にいいの?」

「え?いいのって、何が?」

「貴方って、花屋のパルちゃんと仲良かったでしょ?あのコ、今度、告白するつもりだって言っていたんだけど―――」

「え?嘘っ!?マジで!?」

「嘘よ」

「……は?嘘?嘘って、お前、何でそんな嘘を―――って……」


 サクヤの罠に見事に引っかかった僕は、3人の冷めた視線に気づき、冷や汗が止まらない。


「るーくん……」

「ルドナちゃん……」

「わ、罠だ。これはコーメイの罠だ……」


 そんな言い訳が通じるはずもなく、僕は3人にボコボコにされた。




「あのね、ルドナちゃん。勘違いして欲しくないんだけど、私たちもこれしか方法がないと思うから受け入れているだけなんだよ?」

「……はい、すいません……」

「るーくんが女のコが好きなのは知っているし、他のコと仲良くなるなとは言わないけど……私たちの事もちゃんと考えてね?」

「調子に乗って、ホント、ごめんなさい」

「ちなみにパルちゃんには他に好きな人がいるって話よ。今日、その人に告白するつもりだって言っていたわ」

「そ、そう……貴重な情報、どうもありがとう……」


 土下座を慣行することでなんとか許しを得た僕であるが、それで立場が回復するわけではない。

 自分でもあのタイミングでアレはないと思うし、ミントやリサが怒るのも当然なので仕方がないのだが……


「それじゃあ、るーに釘もさせた事だし、話を進めるけど……いいわよね?」

「はい、お願いします」


 レジャーシートの上で正座をした僕に異論などあるはずもない。


「とはいえ、今できる話はそれほど多くはないんだけどね。世界渡りはリサも初めてするものだし、詳しい話も聞かされていないようだから……」

「え?そうなの?」

「うん。ごめんね」


 自分の事ではあるのだが、上手く説明できる自信がないのか、リサはサクヤに説明を任せる事にしたようである。

 まあ、僕たち四人の中で一番参謀に向くタイプがサクヤなので、こういう事はわりとしょっちゅうなのだが……


「一応、世界渡りは今すぐしなくてはいけないってものでもないみたいだしね。私の計画では1年後を目標にしているけど、それも絶対のものでもないし……」

「その1年っていう根拠は?」

「私たちがリサの存在を隠しておける時間がそれぐらいじゃないかって事。本当はもう少し余裕を見てもいいんだけど、そうするとバレるリスクが高くなるわ」

「え?でも……今までリサの事はバレてないんでしょ?なのに1年ぐらいでバレちゃうの?」

「それは世界渡りの準備をしなくちゃいけないからよ。リサが内に抱く世界はまだその形さえ碌に定まっていないような何もない世界。そんな世界を私たち四人で一から開拓していくんだもの。持って行けるものは出来るだけ多く持って行きたいでしょ?」

「それは……確かに……」

「そのためにも最低Aランクの『異空間収納装置』が10コは欲しいの。本音を言えばSランクオーバーの『異空間収納装置』を手に入るだけ揃えたいんだけど―――」

「……は……はい……?え、えっと……それは……本気?Aランクの『異空間収納装置』でも、家が一軒買えるくらいのお値段なんだけど……」

「むしろ、これくらい安いものでしょ。世界を一から作るのに、予算が家10件分とか……」

「そう言われると確かにそうなんだけど……」

「まあ、これも絶対にいるってものでもないし、あくまで目標よ。お金は出来るだけ用意したいって事だしね。だけど、そんな大量のお金を集めていたら、どうしたって周りの注目を集めるものでしょ。そうすると当然、バレるリスクも高くなるわ」

「それなら怪しまれないようにコツコツお金を貯める方がいいんじゃない?」

「10年、20年の計画でいくならそれもありだと思うけど、1年が2年に増えたところでそこまで大差はないと思うわよ。それならさっさと準備して、ぱっと出ていく方がいいと思わない?」

「う~ん……確かにそうかも……」

「納得してくれて嬉しいわ。でも、まだ仮計画もいいところだからね。詳しい事は明日にならないと決められないし―――」


 サクヤから計画の概要を聞かされた僕は概ね納得できた。

 ただ、最後に口にした一言はやっぱり放置できない。


「明日?明日、何かあるの?」


 僕のそんな疑問にサクヤはニヤリと笑う。


「明日、リサのお母さんに世界渡りの事を詳しく聞くことになっているのよ。やっぱりこういう事は経験者に聞くのが一番だし」

「リサは世界渡りの事、よく知らないって言っていたものね。そりゃあ、知っている人に聞いた方がいいに―――」


 ―――いいに決まっている。そう言いかけて僕は固まる。

 何故なら気が付いてしまったからだ。


「い、いや、ちょっと待って……そ、その……リサの……お母さんって―――」


「もちろんこの世界の聖樹、創世の女神マリサ様よ」







1章の終わりまでは毎日更新していく予定です。

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