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神様たちの冒険  作者: くずす
2章 Eランク冒険者、クランを再建する
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隔離空間と剣の声

 リサからのSOSを受けて、僕たちは『銀のゆりかご亭』に急ぐ。

 そして、そんな僕たちの後をマブオクさんたちが続く。


「オイっ!どういうことだっ!コナンのやつがなんで襲撃なんか―――」

「わかりませんよっ!でも、堕天使と一緒に襲ってきたという話ですから、その堕天使に操られているとかじゃないんですか!?」

「マブオクさん。コナンさんにここ最近、変わった様子とかはなかったんですか?怪しげな人物と接触していたとか?」

「い、いや、特にはなかったと思うぜ。大きな商談が迫っていたから、それで疲れているみたいだったけどよ……」


 『銀のゆりかご亭』に襲撃をかけてきたのは、コナンさんと堕天使の二人組。

 そして、その狙いはナナエさんであるとの事。

 だとすれば、マブオクさんたちも放っておく事などできない。


「るー!他に情報はっ!?」

「今のところそれだけだよ!リサの方もナナエさんや子供たちを守るのに精いっぱいで、話をしている余裕もないみたいっ!」

「リサが苦戦するほどの相手だって事ね!じゃあ、メビンスさん!コナンさんの以前の冒険者ランクはっ!?」

「ああっ!?なんだって!?」

「コナンさんの実力はどれくらいかって聞いているのよっ!?」

「コナンも俺たちと同じCランクだ。ただ、アイツの実力はCランクでも上の方だったよっ!」


 街中を全力疾走しながらの会話なので、それだけでも難易度は高い。

 サクヤの声を聞き逃したメビンスさんのかわりに、並走するソーンさんが問いかけに答える。


「それじゃあコナンさんが堕天使を使役しているって線は消しても良さそうね。だとすると―――」

「二人を守護していたキューピッドが『堕落』したんじゃないですか?それなら、二人を狙ったのも頷けます。神のしもべである天使は神の定めた『規律』に従うもの。『堕落』し魔物と化す事で、堕天使はその『規律』から解き放たれるのですが……長年、従っていた『規律』だからこそ、そこに何らかの『拘り』を持つというのも、わからなくはありません」

「……その可能性は十分にありそうね」

「まさかっ!あの羽根が原因だっていうのかよっ!?」

「コナンさんが凶行に走ったというよりは、まだマシな推測でしょ?それに問題はそこじゃないわ。キューピッドがいつ・どこで・どんな理由があって『堕落』したのか、そっちの方が問題なのよ」

「え?」

「だって、ソイツ、リサが苦戦するような相手なんでしょ?ただの堕天使なら多少のハンデがあろうとリサならなんとかなるはずよ。でも、そうじゃないって事は、よほどの『力』を得たという事になるわ。それも―――ここ最近に……」

「……ハガイ洞窟の……『アレ』ですか……」

「あっ……」


 サクヤやミントの言葉に、僕は思わず足を止めそうになるが、それはなんとか回避した。


「何か知っているのか?」

「い、いや、それは―――」

「少し前にハガイ洞窟で魔素のエアポケットを見つけたのよ。それが原因で天使が堕落したのか、堕天使が別の力を手に入れただけなのか、あるいは全く関係ないのか、それは私たちにもわからないけどね」

「詳しい話は後にしましょう。そろそろ見えてきましたよ」


 メビンスさんは僕の反応が気になっていたようであるが、悠長に説明している時間はない。

 タイミングよく『銀のゆりかご亭』に到着した事もあり、僕たちはそのまま中へと突入した。




◆◆◆




「おい、どうなっている?」

「誰もいないみたいだぞ?」


 『銀のゆりかご亭』に突入した僕たちは、とても襲撃を受けているとは思えない静けさに包まれたフロアで足を止めた。

 だが―――


「建物ごと『隔離空間』に飲み込まれているのよ。解除は不可能のようだから、強引に割り込むわよ」

「何が起きてもいいように警戒してください。ここは敵地のど真ん中です」


 サクヤとミントが魔法陣を展開させると、僕たちの目にしていた光景が一転する。

 それは『神層世界』とよく似た空間で、床も壁も天井も全てが白いドーム状の空間である。


「こ、これは―――」

「驚いている暇はないわよ!」

「敵が来ますっ!」


 そして、白一色の空間の至る所で、黒いシミがポツポツと浮かび上がる。

 それらは床や天井から染み出すように増え続け、やがて異様な姿をとる。


影の獣(シャドゥ・ビースト)……か?」

「でも、あれは獣というより……ぬいぐるみ……なんじゃないか?」


 現れたのは影の獣(シャドゥ・ビースト)という闇で象られた異形の魔獣によく似ていたが、その姿は何故かやたらとデフォルメされたおかしな姿をしていた。

 そして、そんな中に数体、人の姿を模したようなものも混じっている。

 だから、影の人形(シャドゥ・ドール)と言った方が正しいのかもしれない。

 ちなみに、サイズはバラバラで、大きなものだと僕らの倍以上の背丈があるし、小さなものだとそれこそ手の平に乗るようなものもいる。

 そして、その数は―――およそ100。


「突破するよっ!ミントとサクヤはマブオクさんたちに支援魔法を!リフスは案内を頼むっ!」

「ええっ!」

「わかりましたっ!」


 僕は皆に指示を出しつつ、大きな爪を振り上げて飛び掛かってきた影の人形(シャドゥ・ドール)を切り捨てる。


「マブオク!しっかりついて来いよっ!」

「俺とメビンスで左右を固めるから、お前は嬢ちゃんたちを守ってやれ!」

「わかりやしたぜ、ソーンのアニキ」


 マブオクさんたちの方も似たようなやり取りがあり、即席パーティーでの戦闘が始まる。

 だが―――



「るー様!これは罠です!ここにリサちゃんたちはいません!」

「何?罠だって?」

「この隔離空間はリサちゃんたちが捉えられている隔離空間とは別の場所です!ここをいくら探してもリサちゃんたちのところにはたどり着けないんですよ!」


 隔離空間を先行調査していたリフスの出した結論がそれだった。


「まさか、ダミーだったの?」

「いえ、そうじゃありません!リサちゃんの気配はこの空間でも感じとれます!だから―――」

「隔離空間の中に更に隔離空間を作った?」

「なるほど。小細工を―――」


 そう口にしたサクヤが魔法陣を展開し、隔離空間に干渉する。

 そして、僕たちはこの空間に来た時と同じように視界が一転し―――


「嘘……」

「……これは厄介ですね……」


 ―――最初のドーム状の空間に戻っていた。


「お、おい、どうなっている?」

「ここは最初の―――」

「……『無限回廊』……」

「え?」

「隔離空間に干渉すると、隔離した世界そのものが再構築される仕組みよ」


 沈痛な面持ちでサクヤが告げる。


「どういうこと?」

「隔離空間を作り出す術式に、空間干渉が行われるとリセットされるように別の術式を組み込んでいるのよ。だから大本の術式もろとも破壊するか、その術式を見つけ出して解除するしかないんだけど―――」

「―――それが簡単に出来るのなら苦労はしないという事です」

「じゃあ、どうすれば……」

「……今は時間をかけて調べていくしかないわ」

「でも、そんな時間は―――」

「他に方法があるならとっくにやっているわよ。それとも、るーに何かいい考えがあるの?あるのなら聞くわよ?」

「くっ……」


 時間がない事はサクヤも重々承知している。

 だが、それ以外の方法がないのだから仕方がない。

 いや、正確にいうと一つだけ方法はある。

 だが―――


(リサをこちら側に召喚することは多分出来る。リサがいればこの空間も突破できるかもしれない。だけど、それをするとノアさんやナナエさんたちが一気に危なくなる)


 リサと契約をしている僕は、リサを自分の元へと呼びだすことが出来る。

 だが、そのリサがあちら側の守りの要。

 流石にノアさん一人でナナエさんや子供たちを守ることは難しいと思えた。


(リサっ!こっちはもう少し時間がかかりそうだ。それまで持ちこたえられる?)

(あう、結構厳しいけど……ノアさんとニーズちゃんがいるから、まだ、なんとか……あっ!でも、ルシウスちゃん!ルシウスちゃんを貸して!そうすれば少しは楽になるし、隙を見て『一時神化』させられないか試してみるから!)

(わかった!でも、無理はしないでよ!必ず助けに行くから!)

(うん!)


 リサとの心話を一旦終えて、僕は思考を切り替える。

 やっぱり、リサの方にも余裕はない。

 だとすると―――


「オイっ!ぼうっとする―――」

「邪魔するなよ」


 死角から飛び掛かってきた大きなハサミを持った影の人形(シャドゥ・ドール)を無造作に切り捨てる。


「マジかよ……」


 メビンスさんが何やら驚きの声を漏らしていたが、それは僕の思考の外。


(何か他に方法はないのか?このままじゃ皆が危ないんだ。だったら考えろ。考えて、考えて、考えて―――)


(―――隔離空間を破壊すればいいんじゃない?)


 ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。


(いや、いや、いや、それが出来たら苦労はしないだろ。サクヤやミントもそれが出来ないから困っているんだし―――)


(―――でも、それは『封印』のせいでエネルギーが足りないからだよね?)


(……ん?あ、そうか。エネルギーが足りないから、術式を完全に破壊することが出来ないんだ。それなら―――)


(そうそう。だから、空間に干渉できるものにエネルギーを与えればいいんだよ。あ、右手から敵が来ているから気を付けてね)


(ああ、わかった―――ってぇぇぇっ!?)


「―――お前は誰だぁっ!!」


 僕はそんな言葉と共に再び剣を振る。

 もちろんそこには影の人形(シャドゥ・ドール)がいたわけだが、そんなことはどうでもいい。


「は?」

「え?」

「ど、どうしたっ!?」


 突如、奇声をあげた僕に、僕以外の全員の視線が集まる。


「あ、いやっ、あの―――」


 だが、それにかまわず、頭の中の声は続けた。


(私?私はマスターの剣。剣に宿った心だよ。そして、マスターの敵を全て斬り倒す者。だから―――空間だろうが、術式だろうが、私が斬るっ!)


(え?)


(でも、そのためにはマスターの協力がいるの。ありったけの力を私に貸して欲しいの。そうすれば―――)


(わかった!)


「ミント、サクヤ、メビンスさんたちも!皆でしばらく時間を稼いでっ!僕がこの空間を―――斬るっ!」


 僕はそう宣言すると、ありったけの闘気(オーラ)を正眼にかまえた剣に注ぎ込む。


(もっと!もっとです!マスター!)


「オイ、お前、一体何を―――」

「メビンスさん!今はるーの言う通りに!」

「マブオクさん、右手後方をお願いします!円陣でルドナちゃんとサクヤちゃんを守りますよ」

「あ、ああっ!」


 メビンスさんとソーンさんが僕の前に出て、ミントとマブオクさんが後ろを固める。

 だが、それすらも僕の意識の中にはない。

 持てる闘気(オーラ)の全てを剣に送り込んでいるのだ。周りに気をかけているような余裕などない。

 というか―――


(あっ……)


 一瞬、僕の意識が途切れる。

 だが―――


(マスター!意識をしっかりもって!闘気(オーラ)の制御に集中して!)


 自称・剣の心が僕を鼓舞する。


(ああっ!わかっているよっ!)


 その声に応え、なんとか意識を立て直す。

 しかし―――


(マスター!そろそろ次の『即時復活』が来るよ!気をつけてっ!)

(はぁっ?『即時復活』?それって―――)

(マスター!闘気(オーラ)を制御して!)

(って!待て!待て、待てっ!僕、今、死んだよなっ!?死んで復活したんだよなっ!?)

(そうだよ!今のマスターの扱えるエネルギーじゃ足りないんだよ!だったら、足りるまでエネルギーを充填すればいいんだよ!)

(ふ、ふざけんなぁっ!!)


 心の中で思わず叫ぶが、だからといって止めるわけにもいかない。

 生命力の全てを注ぎ込み、『即時復活』で復活した瞬間から、再びエネルギーを送り込む。

 それを10回ほど繰り返し―――


(マスター!いけるよっ!)


「よし!いくぞっ!」


 十人分の僕の全ての生命力を注ぎ込んだ剣を大きく振りかぶる。

 何をどうすればいいのかは剣の声が教えてくれた。


「「【ディメンション・ブレード】っ!!」」


 それはあらゆる次元を切り裂く光の刃となり、『無限回廊』ごと、隔離空間を切り裂いた。





1章で出ていたルドナをパワーアップさせる為の伏線がようやく回収できました。

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