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神様たちの冒険  作者: くずす
2章 Eランク冒険者、クランを再建する
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ノアの実力

 ニーズが思っていた以上にナナエさんや子供たちと打ち解けてくれたので、僕たちは冒険者の活動を再開することにした。

 ノアさんの方も僕たちと同じ―――あるいは僕たち以上に活動の再開を願っていたところなので、話はすんなりとまとまる。

 唯一、問題となったのが、どのクエストを受けるかであるが―――


 冒険者ギルドは基本的に冒険者ランクと同じ等級のクエストを受けるように推奨している。

 ただ、あくまで推奨しているだけなので、いくつかの例外もある。

 上のランクの者が何かしらの事情で下のランクのクエストを受けるという事はよくある事であるし、S級以上のクエストなんていうのはギルド側もそうそう用意できないので、S級以上の冒険者はAランク以上のクエストなら問題ないとされている。

 そして、異なるランクの冒険者がパーティーを組んだ場合も、そんな例外のひとつ。

 この場合、基準となるのはパーティーメンバーの一番低いランクの者で、それと同じランクか、一つ上のランクまでクエストを受注できることになっていた。

 僕たちでいえば、僕・ミント・サクヤの三人がEランク、ノアさんがCランクなので、Eランクの一つ上―――Dランクまで受注できるという事になる。

 ただし、Dランクのクエストは当然ながらEランクのクエストよりも難易度は高い。

 僕らは急造パーティーであるし、Eランクが3人もいるという事を考えると、普通ならEランクのクエストを受ける方が無難である。

 だが―――


「今は少しでもお金が必要な時でしょ。それにDランク程度なら楽勝よ」


 そう告げたのはサクヤであるが、僕やミントの意見も全く同じ。

 Aランクの魔物が平気で闊歩するような『神層世界』のダンジョンで毎日探索している僕らからすると、そう思うのも仕方がない。

 ただし、ノアさんの懸念も理解できる。

 なにしろ、僕たちの表の実績というのは、ミミナ遺跡の冒険が1回のみ。

 普通に考えたら、『Fランクを簡単に突破したから調子にのっている』と捉えられてもおかしくはないし、僕もノアさんの立場ならそう考えたはずである。

 それに今回のクエストは『銀の七星盾』というクランの名義で受ける予定であったため、クランマスターとしては万が一にも失敗は許されない。クエスト失敗のペナルティーは、クエストランクがあがるほど冒険者たちの請け負う比重も重くなる傾向があるので、慎重になるというのも当然なのだ。

 とはいえ―――結果的に僕らの意見は通る。


「ノアさんも心配もわかるけど、僕らが毎晩探索している異世界のダンジョンの出てくる敵が最低でもこれぐらいなんだよね」


 僕らの所有する大量のCランクの魔石を見せると、ノアさんとしても納得するしかなかったのだ。




 そんなわけで―――僕たちはDランクのクエストを6つほど受けることにした。

 普通、ひとつのパーティーで受けられるクエストというのは、多くても4つぐらいなのだが、クラン単位で受注する場合、それ以上のクエストを一度に引き受けることが可能となる。今回はそれを最大限利用させてもらった形。

 まあ、所属するクランメンバーが6人(内二人は不在)の消滅寸前だったクランなので、複数受注は最大でも6つまでしか受けられなかったわけであるが……

 その中でメインとなるのは、ハガイ洞窟のBエリアに発生したアンデット群の掃討と原因の調査。あとはおまけのようなもの。

 それでも移動と調査にある程度の時間を取られると考えると、普通であれば3日はみなくてはいけないような探索となるのだが―――


「……ホントに慣れているんですね……」


 少し呆れたように告げるノアさん。


「僕らはスカウトがいないんで、魔法による探知に重点をおいているんですよ」


 探索は前回同様に順調だった。

 このランクのダンジョンでは、リサ・ミント・サクヤの3人の魔法で探知できない事などまずないので、そうなるのも当然。

 というか―――風の神に『一時神化』しているリフスの先行偵察は、もはや制圧といっていいぐらいで、僕らは倒れた魔物と破壊された罠のあとを辿っていくだけである。


「これでは私の出番がありませんね」

「ま、まあ、こんな方法が通じるのもこのあたりまでですし、そこからが本番ということで―――」


 ノアさんの言葉にはそう答えたものの、僕の顔はおそらくひきつっている。

 よくよく考えればわかりそうな事であるが、『一時神化』しているリフスの力をもってすれば、Dランクの魔物たちがいくら束になろうとも問題となるはずがない。

 なにしろ、力の大半を封印された僕たちでも、大量発生したCランクのダーク・ヴァイパーを蹂躙できたくらいである。

 与えられたマナの総量でいえば僕たちに大きく劣るリフスであるが、封印という制約がない以上、瞬時に発揮できるエネルギーの総量は彼女の方が上。これでは事故もおこりようがない。正に『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?』状態なのだ。

 もっとも、それをするとノアさんに疑問を抱かせることになりかねない。

 だから僕は適当なところで切り上げるようにリサへと伝える。


 ちなみにノアさんは『ナイト』という『ファイター』の上位職で、魔法などはほとんど使えない。

 Cランクでもわりと上位の実力者ではあるのだが、スカウト技能を持たない彼女はソロでの活動は難しく、『銀の七星盾』が開店休業状態だったのもその為である。

 そもそもノアさんの戦闘スタイルが徹底的な守備重視。堅い守備で前線を支えることで、後衛が安心して力を発揮できるようにするというもの。

 武装の方もそれに合わせていて、槍としては取り回しが効くショート・スピアと『銀の七星盾』の看板ともいえる魔法の大盾、小柄なノアさんにはあまり似つかわしくない武骨なプレート・メイルである。

 ノアさん本人は苦も無く着こなしているが、重装備であることは間違いなく、あきらかに戦闘専門といった感じなのだ。




 探索は問題なく進み、夕方にはアンデットが多数目撃されているB-7エリアに到着する。

 そこは鬱蒼とした森林地帯で、どちらかといえば魔獣などが多く出現していたエリアなのであるが―――


「魔素が思ったよりも濃くない?」

「確かに不浄なモノの気配があちこちに漂っていますね」

「う~ん。なんだか心がざわつく感じ……」


 魔力探知を行っていた三人がそれぞれ思い思いの感想を告げる。


「アンデッドが急に湧くようになった原因は、やっぱり魔素の濃度が変化したからですよね?そうなると、魔素の濃度が濃い方に向かっていくというのが一番わかりやすい……かな?」

「そうですね。ゾンビ・ドッグやゴースト・ホースじゃ、交渉もなにもないと思いますし……リサたちはどのあたりの魔素が濃いかわかる?」

「魔力探知に集中すれば出来なくもないといった感じかしら」

「なんだか魔素が安定してないようで、少し時間がかかるかもしれません」

「………」

「それじゃあ、周囲の警戒は僕とノアさんでするから、そっちは任せたよ」


 リサたちにそんな指示を出し、僕らは森の奥へと進む。

 今回の冒険には、僕たちとノアさんの双方でお互いの力量を確かめあい、組織だった行動が出来るようにするという狙いもある。なので、ダーク・ヴァイパーの時のような、広範囲魔法で圧殺するという戦い方は却下。

 そういう点でいうと、魔力探知に集中しなければいけないというのは上手い言い訳ではあったのだが―――それは嘘というわけではなく、リサたちは本当に魔素の流れを読み解くのに苦労しているようであった。

 とはいえ、戦闘そのものに特に支障はない。


「流石ですね。ゴースト・ホース程度では相手にもなりませんか」

闘気(オーラ)がある程度使えるなら、低ランクのアンデッドは楽に倒せますからね」

「確かにそうですけど。ゴースト・ホースの突撃を真正面から受け止めるとか、なかなかできる事ではないと思うんですが……」

「そこは腕ですよ……と言いたいところですが、私の授かった『守護星の加護』の力が大きいですね。この加護のおかげで結構、無茶が効くんで―――」


 守備に重きを置くノアさんであるが、槍の腕はかなりのものであるし、闘気(オーラ)を操る能力も一流。

 相性の良さというのも確かにあったのかもしれないが、Dランクのゴースト・ホースを苦もなく仕留めているぐらいであるし、攻撃能力も決して低いというわけではない。

 ただ、それ以上に圧巻なのが―――やはり守備力。

 『守護星の加護』という、防御に特化した加護を得ていることもあり、彼女の守りは正に鉄壁。

 更に、初代のクランマスターから引き継がれてきた七つ星が描かれた大盾は魔法の武具(マジック・ウェポン)であり、味方の防御魔法の効果を増幅させるという効果まで持っている。

 正直にいえば―――ノアさんが大盾ひとつで3体のゴースト・ホースの突撃を受け止めた時は、自分の目を疑ったものだ。

 ゴーストという冠のとおり、ゴースト・ホースは幽体の馬なのだが、突撃の瞬間には半実体化―――つまり、物理的な衝撃を伴って襲い掛かってくるわけで……ゴースト・ホース3体の同時突撃とか、破城槌をぶちかましたのと変わらないような威力があるのだ。

 それを一歩も後ずさることもなく完璧に受け止められては驚かざるをえないというもの。


(これ、ノアさん一人で大丈夫なんじゃないかな?)


 少し前までは出番がないと嘆いたノアさんであるが、僕たちも今は同じ気持ちであった。




 そして―――


「ねえ、これって、もうないんじゃない?」

「ああ、やっぱりそうですよね……」


 ざっと森を探索した僕たちであるが、アンデッドが急増した原因を見つけることはできなかった。

 それというのも―――ないものは見つけることができないからである。


「なにかわかったの?」

「おそらくだけど……ここが今回の異変の発生地点だと思うわよ」

「え?そうなの?でも、特に変わったところはないような―――」

「うん。何もないわよ。今は、ね」

「今は……?」

「この場所に魔素を集める『何か』があったのよ。でも、今はそれがないの。新たな魔物の核となって移動したのか、核になる寸前で他の誰かに持ち去られたのか、そのあたりは謎だけどね」

「この場所だけ極端に魔素が薄いのは、周辺の魔素を集めていた核が急になくなってしまったからです。でも、核がなくなったからといって、集められた魔素がすぐに消えるわけではないですし……別の核をみつければ、そのまま集まり、別の魔物を生み出すこともありえるわけです」

「魔素のエアポケットですか。珍しい事象ではあるけど、過去にはいくつか報告があげられていましたね」


 サクヤとミントの説明を受けて、ノアさんは納得したように頷く。

 このあたりは先輩冒険者だけあって、探索に関わるような情報は僕たち以上のものを持っているようであった。


「だとすると……この現象は放っておけばそのうち収まるということですね」

「ええ、そのはずよ。ただ―――」

「ただ?」

「その『何か』がどうなったのか、気になるところではあるけれど……」

「ああ、それは確かにそうですね。でも―――」

「これ以上探索を続けるなら、ここでキャンプを張らないとダメでしょうね。まあ、そこまでしても成果を得られるとは限らないし、今切り上げたとしても、クエストは十分達成したと言えるんだから、ムリをする必要はないと思うけど」

「う、う~ん……」


 一応の答えが出たからこそ、僕たちは新たな問題に突き当たる。

 冒険者の習性として、謎を謎のままで放置するというのは収まりが悪いのだ。

 しかし―――


「冷静に判断するなら、一旦報告に戻って、改めて追加調査のクエストを受注するのが正解でしょうね。その方が報酬も増えるでしょうし」

「あっ、そ、そうですね」

「そうだね。いろいろと気になる事はあるけど、今日はここらできりあげようか」


 僕とノアさんがそう決めたことで、この日の冒険はここで切り上げる事となった。





クランに参加して初めての冒険です。

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