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神様たちの冒険  作者: くずす
2章 Eランク冒険者、クランを再建する
22/155

神層世界のダンジョン

 冒険者としての活動は小休止していた僕たちであるが、『神層世界』の訓練は続けられていた。

 ただ、邪竜を討伐したことで、訓練の内容は一段階進んでおり、今は『神層世界』に設けられた特設ダンジョンを制限時間がくるまで生き抜くというサバイバル訓練になっていた。

 これはマリサ様たちの都合もある。

 数多の世界を管理するマリサ様たちは、本来なら多忙で、僕らにばかり構ってもいられない。

 人間からすれば気まぐれに思える神様たちであるが、実際はそんなことはなく、神様たちも忙しなく働いている。

 ただ、超常の存在ではあるが、全知全能ではない神様たちに、全てを等しく救うような力はない。だから、自分たちが助けたいと思った者を自分の出来る範囲で助けるだけ。

 出来ることに差はあっても、人と神の心にそれほど大きな差はないという証明である。

 そして、それこそがもうひとつの理由。

 神様たちは基本的に地上に長く留まる事を避けていた。

 というのも―――


「邪竜の件でも分かる通り、あまりに強い力を持つ者の意志は、強力な魔物を生み出す切っ掛けとなる。それはリサだけでなく、俺たちも同じだ」

「リサやあなたたちがいるこの地に、私たちまで留まることになると、マナの魔素化のスピードが格段に跳ね上がってしまいますからね。そうすると前回のような事態が頻発することになりかねないのです」


 リサがそうであったように、神様たちにも意志はある。

 そして、その意志が善か悪かは関係ない。

 どのような意思も理性から切り離されて暴走すれば狂気となるからだ。

 まして―――


(オイ、わかっているとは思うが、俺がいないからって、リサに手を出すんじゃねーぞっ!)


 心話で念を押してくる親バカな神(アバン)様を見ていれば、その危険性が良くわかるというもの。

 正直、これが原因で、アバン様の意志を宿した魔物が生まれたと言われても、僕は欠片も驚かない自信がある。もちろん全く嬉しくはないが……




◆◆◆




 マリサ様たちが不在でも訓練はなくならない。

 『試練の加護』が午前0時になると、僕たちを自動的に『神層世界』に転移させるからである。

 故に、僕たちは現在、『神層世界』に設けられた特設ダンジョンを探索中なわけであるが―――


「くそっ!スペル・ジャマーがもう一体っ!?ミントっ!そっちは頼むっ!!」

「ええっ!任せてっ!」


 これが馬鹿みたいに、難易度が高い。

 流石にハイエンシェント・エレメンタルスライムのような神クラスの敵が出てくるわけではないが……

 今相手にしているスペル・ジャマーは、一見すると身長3メートルほどのミスリル・ゴーレムであるが、『アンチ・マジック・フィールド』を常時周囲に展開しているために、魔法がほとんど通じない。

 『アンチ・マジック・フィールド』は周囲の魔素に干渉して魔法の発動を防ぐものなので、それ以上の魔力をもって魔法を発動させれば効果は発揮されるのだが、今の僕たちの力量ではそれは不可能と言ってよく、よしんば発動に成功してもたいした効果は得られない。


「サーマっ!リフスと交代して!」

「ちょっ!またっスかっ!」

「るー様の命令よ~。どきなさい~」


 ただし、そんな『アンチ・マジック・フィールド』にも弱点はある。

 フィールドはあくまで周囲に展開しているだけなので、その内側からの攻撃に対しては効果を発揮しないのだ。

 つまり―――剣に魔法を宿し、接触と共に発動させる魔法剣は有効。

 『一時神化』しているリフスを宿した僕の剣は、ミスリル製のゴーレムの身体を紙のように切断する。

 手、足、胴と三刃でゴーレムを切り伏せ、もう一体を任せたミントの方に振り返ると―――


「【シャイニング・スピア】」


 スペル・ジャマーの足を手にした杖で払いのけたミントが、バランスを崩したゴーレムの胸部に手を押しあてて、魔法を発動させていた。

 接触した状態であれば魔法も有効なので、ミントの手から放たれた光の槍は、問題なくスペル・ジャマーの胸部を貫く。


「相変わらず見事な手際ね」

「……まあ、心配はいらないよね……」

「そうでもないですよ。マナを上乗せして威力をあげているからなんとか一撃で倒せましたけど、それがなかったらと考えると―――」

「いや、それはそうなんだけど……」


 楽に倒したように見えるが、スペル・ジャマーの強さは推定A(-)。

 『アンチ・マジック・フィールド』が厄介なのは言うまでもないが、ミスリル製の身体はとてつもなく頑丈であるし、重量を活かした攻撃は圧倒的な破壊力を持つ。それに巨体のわりに意外とスピードもある。あえて弱点をあげるなら、遠距離からの攻撃を持たないことと旋回性能に若干の難があることであるが……一般的な冒険者(Cランク相当)からすれば、だからどうしたと匙をなげるレベル。

 A(-)の魔物とか、王国騎士団が一師団総がかりで相手にするような化け物なのだ。

 もっとも、そんな魔物であるからこそ、得るものも多い。


「こいつのコアって、アダマンタイトなんだよね……」

「アダマンタイトならこのサイズでも500ゴールドは下らないでしょうね」

「金銭感覚が壊れてしまいますね……」


 この前大量に手に入れたダーク・ヴァイパー(Cランク)の魔石の買い取り価格が、ひとつ50シルバー(0.5ゴールド)、全て換金すれば30ゴールド程となるのだが―――それだって、そこそこ大金なのである。

 なのに、スペル・ジャマーのコアはアダマンタイトという希少な金属でできていて、売り払えば500ゴールドは下らないという。ちなみにこれは一般的な家庭の平均年収の倍に近い。

 まあ、魔石は魔力を抽出して魔道具などの動力として活用するぐらいしか使い道がないので、買い取り価格は安めに設定されているし、Aランクの魔石でも精々10ゴールドぐらいなので、希少なアイテムと比べるというのが間違っていたりするのだが……


「ここで一年も魔物を狩り続ければ、一生遊んで暮らせるお金が手に入るよね?」

「それを換金できるルートがあれば、だけどね」

「それに、ここで一年生き残れるような冒険者なら、普通のダンジョンでもそれなりに稼げると思いますよ」

「確かに……」


 そんな感じで沈黙したスペル・ジャマーを剥ぎ取り(解体)していると―――


「るー様っ!」

「えっ?」


 突如、衝撃波が僕を襲い……右手が宙を飛ぶ。


「るーくん!」

「ぼ、僕なら大丈夫……それよりもアイツは……スカイ・フィッシュだ!急いで体勢を立て直すよ!」


 肘から先を失った腕を押さえ、僕はミントとサクヤに指示を出す。

 この場にはリサもいるが、これは僕たちの修行であるため、リサは極力手を出さないということになっていた。

 だからこそ、これは僕の失態である。


「すいません、油断しました……」

「いや、リフスのせいじゃないよ。剣に宿れと命じたのは僕だしね……」


 普段は僕らの周りを警戒してくれているリフスであるが、剣に宿った状態では感知能力が大幅に落ちる。それを知っていながら魔法剣を解除しなかった僕が悪いのだ。


「それに、今は反省会をしている場合じゃないよ。アイツの速さは半端ないんだから。魔法剣は解除するから、ミントたちのサポートにまわってくれ」


 宙を泳ぐ魚、スカイ・フィッシュは速度に特化した魔物。

 総合的な強さでいえばBランク程度なのだが、一点に特化した魔物は時として非常に厄介な相手となる。


「これ、スペル・ジャマーと連携されていたら、わりと致命的だったかも……」


 僕が真っ先に思い至ったのはソレであり、その点でいえば、僕らは幸運だった。


「【セイクリッド・フィールド】」

「【ブラック・ブリザード】」


 ミントが物理障壁を展開して僕らの身を護り、サクヤが範囲攻撃型の魔法でスカイ・フィッシュを追い詰める。

 速度特化のスカイ・フィッシュは『面』で対応するのが有効であり、広域に展開する魔法が使えるなら比較的対処はしやすい。衝撃波を発生させる超高速の突撃は脅威ではあるのだが、攻撃パターンがそれひとつなので、落ち着いて対処すれば意外となんとかなったりするのだ。


「るーくん、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫だよ。痛いのは痛いけど、もう慣れたし……」


 まあ、それも『神人』の不死性があるから言える事。

 普通の冒険者なら腕が切り飛ばされた時点で大惨事であるし、こんなふうに落ち着いていられない。

 しかし―――


「ルドナちゃん、回復する?」

「いや、『肉体再生』の練習をするから今はいいよ」


 僕らの場合、即死するよりも半端なダメージを負う方が戦闘能力の低下に繋がるという摩訶不思議な状況になっているので仕方がない。

 即死級のダメージを受けた時は魂の方が半ば自動的に『肉体再生』を発動させるので瞬時に復活できるのだが、怪我などを治すために自分の意志で『肉体再生』を発動させるのは難しく、片腕の再生となると5分くらいの時間が必要。いや、5分で腕が生えるというのも常人からすれば十分におかしな話ではあるのだが……


 スカイ・フィッシュとの戦闘は僕の腕が再生する前に終わる。

 ミントの『セイクリッド・フィールド』を抜けなかった時点でスカイ・フィッシュに勝ち目などなく、サクヤの発生させた黒い吹雪がスカイ・フィッシュの体力を徐々に奪い、唯一の武器である速度も奪う。

 最後には市場で見かける冷凍マグロのように床に横たわる大魚が一匹。


「スカイ・フィッシュは煮ても焼いても美味しいって話だけど……」

「流石にこれを持って行くのは無理だと思うよ」

「もったいないですが、魔石だけ取り出して、マナに還元されるのを待ちましょうか……」


 今、この場で食べるというのなら、解体して切り身にしても良かったのだが、Aランクの魔物が平気で闊歩するようなダンジョンで暢気に料理ができるほど、僕たちも豪胆ではない。

 死んでいるのを確認する意味でも、魔石だけ取り出して、マナに還元されるのを見守る。

 そして―――ダンジョン探索を再開する。





神層世界の訓練が次の段階に進みました。


※お金に関する捕捉。

1ゴールド=100シルバーで、だいたい1万円くらいの価値があります。

貨幣は国ごとで様々ですが、ルドナたちの暮らすユナニア王国では、金貨と銀貨の他にそれぞれ10枚分の価値がある大金貨と大銀貨があります。


あと、流通が現代のように発展していないので、希少品の価値がレア度に比例して跳ね上がる傾向があります。

街から街へ輸送するだけでも結構な時間とコストがかかるため、地産地消できない品物の価値は結構乱高下します。


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