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神様たちの冒険  作者: くずす
2章 Eランク冒険者、クランを再建する
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サクヤからの提案

「え?クランに入るの?」


 ニーズと共に森に帰ってきた僕は、サクヤから思ってもいなかった提案を受ける事となった。

 それがクランへの参加であったわけだが……


「まあ、突然こんな事を言われても訳が分からないわよね。でも、まずは私の話を聞いてほしいの」

「あ、うん……」


 僕はとりあえず話を聞くことにする。

 頭の回転が速いサクヤの話は、順序立てて説明してもらわないと理解が追い付かないからである。


「とりあえず、今、私たちが一番に解決しなくちゃいけない問題はニーズちゃんの事なんだけど……これは今のままでもなんとかなりそうなの。マリサ様たちやアンさん(ミントのお母さん)が預かってもいいって言ってくれているしね。ただ、親に甘えてばかりというわけにもいかないでしょ?私たちもいい大人なんだし、ニーズちゃんの保護者になるというのならなおさらね」

「うん」

「だから、他の方法も考えてみたんだけど……そうしたらひとつ思い当たる事があって……るーは『銀のゆりかご亭』って宿屋を知っている?」

「『銀のゆりかご亭』?う~ん……どこかで聞いた事がある気はするんだけど……」

「北の外門近くにある冒険者専門の宿屋なんだけど、ここは昔から託児所のようなこともやっていてね。ウチのお店で働いている人たちも結構利用しているのよ」

「あ~、あれだ。前にヨヨちゃんが話してくれた、冒険者がたくさんいるちょっと変わった託児所が確かそんな名前だった気が―――」

「託児所じゃなくて宿屋なんだけどね。本業は……」


 サクヤが苦笑しながら続ける。


「『銀のゆりかご亭』は結構な老舗の宿屋なんだけど、ひとつ面白い逸話が残っていてね。今から60年ほど前、この街に魔物の大群が押し寄せてきた時に、『銀のゆりかご亭』を常宿にしていたクランのメンバーが、逃げ遅れた住人たちを宿に避難させて、全員を守り抜いたって話があるの。その時、逃げ遅れた住人というのが、子供や赤ちゃんを抱えた母親が大半だったから、いざという時に子供たちを守ってくれる冒険者がいるって有名になって、託児所みたいな事も請け負うようになっていったらしいわ」

「その冒険者たちは、よっぽど子供好きだったんだろうね」

「まあ、お人好しっていうのは確かでしょうね。で、それはともかくとして……そういう経緯があるから『銀のゆりかご亭』の看板クランは『子供たちの守り手であるべし』というのが一番のモットーなの。だから―――」

「そのクランに入れば、僕らが冒険に出ている間、ニーズを預かってもらえると……」


 そこまで言われれば、僕も流石に察しが付く。

 ただ、サクヤには他にも理由があったようで……


「そうね。それが一番の理由ね。まあ、他にもいろいろと理由はあるけど……いい加減、他のクランの勧誘がウザいとか―――」

「あぁ……」

「でも、個人的に大きいのは、一人暮らしが出来るかも知れないって事ね」

「え?一人暮らし?」

「『銀のゆりかご亭』の看板クラン『銀の七星盾』は、当然『銀のゆりかご亭』を活動拠点(ホーム)にしているんだけど、クランメンバーになれば、格安で部屋を借りられるようになるのよ」

「ああ。冒険者専門の宿屋で、クランの活動拠点(ホーム)となっているのなら、そういう契約も結んでいるよね」

「実際は単なる家族経営の延長のようだけどね。現在の『銀のゆりかご亭』の経営者と『銀の七星盾』のクランマスターは姉妹だし……」

「で、そのクランに入ったら、サクヤは一人暮らしをすると……」

「いや、私一人だけ家を出てどうするのよ。そこは皆も一緒に、でしょ?」

「……え?」

「えっ……て、あのね……さっきも言ったけど、るーだって一人前の大人でしょ?いつまでも親元で甘えているのはどうかと思うわよ?」

「あ~……」

「一年後にはどうせ家を出るんだし、その予行練習もかねて、今から一人暮らしをしておくというのも悪くないと思うけど?」

「なるほど、ね……」


 僕としては、『どうせ一年後には家を出るんだし、今、家を出るのは二度手間になるのではないか』と考えていたのだが、サクヤの意見もひとつの考え方ではある。

 だから、ある程度は納得する事が出来た。

 しかし―――即座にOKとはいかない。

 なにしろ、話しておかなくてはいけないことはまだまだ沢山ある。


「でも、さ。これって一人暮らしって言うのかな?皆で一斉に家を出て、一緒の場所で暮らすとか……ほとんど同棲と変わらないんじゃ―――」

「私は最初からそのつもりよ。たとえニーズちゃんの件がなかったとしても、近いうちに同じような事を提案するつもりでいたし……実は密かにいい物件がないか探したりもしていたのよね。そんな都合のいいところはなかなかないけど」

「そ、そうなんだ……」

「というか……るーは私たちと一緒に暮らすのに、何か不満でもあるの?」

「い、いや、不満なんてないよ。ただ……いくつか不安があるんだけど―――」

「不安?」

「まずはリサの事だね。ミントやサクヤと一緒に暮らすとなると、リサも黙っていないと思うんだけど、そのあたりはどうするの?」

「そこはもちろんリサも一緒に暮らしてもらうつもりよ。ただ、るーの言いたい事もわかるわ。でも、いい機会だし、リサにも街で暮らしてもらえばいいんじゃない?普通の樹精霊(ドライアド)って事にしておけばギリギリ通るでしょ?」

「え?ええと―――」

「リサが今まで街に出てこなかったのは正体がバレるのを恐れていたからよ。でも、隠し通すのは後1年で済むわけだし、今なら多少のリスクは許容できるでしょ。もともとるーの契約した精霊という事になっていたし、樹精霊(ドライアド)は自然の精霊の中では珍しく肉体を持つこともありえる精霊だから、るーの成長に伴い、街の中ぐらいであれば自由に行動できるようになった……とでも言ってもおけば十分通じるんじゃない?」

「あ~……」

「あとは錬金術で生み出した『人造素体(ホムンクルス)』を用意したとか、精霊を実体化させる魔導具を手に入れたとか、それこそ、そういう『加護』を授かったとか、言い訳なんていくらでもあるでしょ?」

「た、確かに……」

「秘密を守るために慎重になるというのもわかるけど、結局はリスクとメリットを天秤にかけて、どちらを選ぶのかって話よ。クランに入れば、それだけ他の人との接触も増えるし、私たちの秘密がバレる恐れはあるわ。でも、それを気にしすぎて、人と接触を避け続けていたら何も出来なくなるし……それはそれで不自然でしょ。それに、秘密だって、絶対にバレちゃいけないってわけではないのよ?」

「え……?」

「私たちにとって最悪なのは、リサの正体が世間に広まり、その力を狙うろくでもない人たちがこの街に押し寄せてくることだけど……秘密がバレても、私たちに協力してくれるっていうのなら、そこまで問題ないじゃない。実際、私たちの身内にはバレていたわけだし」

「ああ、なるほど。それはそうだよね。じゃあ―――」

「『銀の七星盾』のクランマスター、ノア=オ=デイツはいい人よ。仮に私たちの秘密がバレたとしても、それを他人に漏らしたりはしないと思うわ」

「……その人、サクヤの知り合いなの?」


 僕たち幼なじみの付き合いは長いので、大抵の交友関係は互いに把握している。

 ただ、流石に全てを把握しているなんて事はない。


「デイツさんたちはウチの仕事の関係で知り合ったのよ」

「……担保はその人の人柄だけ?」

「当然、そんなことはないわよ。ひとつやふたつぐらい弱みは知っているわ。でも、そのカードを切る事はないと思うわよ」

「なるほど……」


 商人の娘だけあって、サクヤは人を見る目に優れている。

 そのうえで、人柄だけで相手を信用したりはしない。

 たとえ信頼する相手であっても、いざという時の為に交渉の材料を用意しておくというのが、サクヤの基本的なスタンスなのである。


「ちなみに、その弱みっていうのは?」

「善意だけが先行するような事業は先細りしていくって典型ね。るーもずっとこの街に住んでいるのに、『銀のゆりかご亭』も『銀の七星盾』もほとんど知らなかったでしょ?『銀のゆりかご亭』は経営が上手くいってないし、『銀の七星盾』は活動休止状態で消滅寸前なのよ」

「……サクヤのところに借金があるの?」

「ん~……ウチにもあるって言う方が正しいわね」

「それ、大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないから、私たちにとっては都合がいいのよ。『銀のゆりかご亭』は『銀の七星盾』という看板クランがあったから、これまでギリギリやってこられたの。でも、今やその看板まで消滅の危機。そんな追い詰められた状況で手を貸したいって言ってきた人を、るーなら断れる?」

「そんな状況なら、こっちの事を下手に詮索したりしないし、何かあっても見て見ぬ振りをするか……」

「困っている者同士、助け合うのも悪くないと思うけど?」


 どこか悪戯めいた微笑を浮かべながら、サクヤが決断を求めてくる。

 答えなどわかっているのだろうが、参謀役のサクヤは答えを決めたりしないのだ。


「とりあえず、そのノアさんって人と話がしてみたいかな?サクヤの方からコンタクトをお願いできる?」

「うん。任せて」


 こうして、その日の話し合いは終わった。




冒険者たちの集まりを『ギルド』とするか『クラン』とするかで迷いましたが、冒険者たちを統括する組織を『冒険者ギルド』としていたので、『クラン』を採用しました。

『ギルド』と『クラン』で呼び分けられる分、こっちの方が便利だというのもあります。

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