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神様たちの冒険  作者: くずす
1章 Fランク冒険者、神様になる
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宴と告白

 妖精や小精霊が加わったことで、宴は賑やかさを増していく。

 まあ、妖精はともかくとして、小精霊は会話などが出来ないので、僕たちの周りをふわふわと飛び回っているだけなのだが、それでも楽しげな雰囲気というのは伝わってくるものである。

 そんな空気であったからか、僕たちもいささかハメを外す。


「じゃ~ん!」


 そんな声と共に皆の前に包装紙に包まれたワインボトルを差し出したのはサクヤ。


「え?何、それ?」

「何って、お酒よ、お酒。私たち全員15歳になったんだもの。いい機会だから皆で飲みましょうよ」


 真っ昼間からお酒を飲むのもどうかと思ったが、祝いの席でもあるし、僕はそれを止めなかった。

 最初は難色を示していた生真面目なミントも結局はしょうがないという事で落ち着く。

 なにしろ僕らの国では15歳で成人扱いであるし、お酒を飲むのも許される。そこまで咎める理由もないのだ。

 それに―――


「冒険者とお酒は切っても切れないものでしょ。だから今の内に慣れておいた方がいいと思うわよ。もちろん無理に飲めとは言わないけど、最低限、自分がどれくらい飲めるのかだけでも把握しておかないと、いざという時に醜態を晒す事になるわよ?」

「そう言われると……」

「まあ、少しくらいならいいんじゃない。幸い今日は創世祭だし、昼間から飲んでいる人たちもちらほらいるしね」


 そんな理由もあって、サクヤが持ち込んだお酒も無事に解禁となった。


 ちなみに―――

 僕・ミント・サクヤの3人は、つい最近ライセンスを取得したばかりの新米冒険者である。

 僕がファイターで、ミントがプリースト、サクヤがメイジ。

 3人でパーティーを組み、活動していく約束も交わしている。

 そうなると、一人仲間外れのようなリサであるが、別にそんなことはない。

 僕と契約をしているリサは、僕が召喚することで一緒に冒険することができるからだ。

 まあ、逆に言うと、そういう形でしか一緒に冒険出来ないという事でもあるのだが……

 ドライアドであるリサは長時間森を離れることが出来ないし、そもそも僕ら以外の人の前に姿を現す事が滅多にない。

 子供の頃から僕らと一緒に遊んでいたからか、リサはなにかと人間らしい振舞いをするのだが、精霊はやはり精霊なのである。




「あははっ!お酒っておいしいんれすね~」

「あっ、だから、それ以上はダメだって!」

「ほら、ミントちゃん、こっちを飲んでください。こっちも美味しいですから」

「やっぱりお子様のミントには早かったかな?」


 アルコールが入って一刻も経たないうちに、場はすっかり混沌としていた。

 その最たる原因はミント。

 おそらく初めて飲んだであろうお酒に完全に酔っぱらっており、言動がすっかりおかしくなっている。しかも質の悪い事に、速攻で酔っぱらうが量は飲めるタイプのようで、ワインボトルから手を放そうとしない。

 加えて―――結構な絡み酒。


「や~!ルドナちゃん、邪魔しないでぇ!」

「いや、邪魔しないでって言われても、これ以上は飲ませられないよ」

「う~!ルドナちゃんはいつもそう!私の気持ちなんて全然知らないでぇ~!反省っ!反省しなしゃ~いっ!」

「は、反省って、あのね―――」

「いいから、はんせ~いっ!」


 普段から真面目過ぎるミントであるし、ストレスが溜まっていたのかもしれない。

 ミントは『聖樹教会』という女神マリサを崇める教団の司祭の娘で、自らも神官になったくらい信仰心に厚い。故に、他の信者たちの模範となるべく、教団の規律を頑なに厳守しようとし、自分にも他人にも厳しいところが見受けられた。

 だが、彼女はまだ15歳になったばかりの女のコ。教義に人生の全てを捧げられるほど悟りきってもいない。

 だからなのか、普段はしっかりしているクセに、時々、変な方向に弾けるときがあった。

 まあ、今回はお酒が原因ではあるのだが……これも彼女の一面であることは間違いない。


 そんなミントと対照的に、リサは全く酔う気配がなかった。

 ミントに絡まれている僕やそんな僕らをつまみに酒を飲むサクヤでもほんのり顔が赤くなっていたりするのだが、リサにはそういう変化さえない。

 もちろんお酒を飲んでいないわけではない。僕らと同じくらいリサも飲んでいる。


「リサは大丈夫そうだね?ひょっとして、前から飲んでいたりする?」


 だから、僕はそんな事を聞いてみたのだが―――


「ううん、お酒を飲んだのはこれが初めてだよ。でも、ホラ、私の身体って、マナや魔素で実体化したものだから、お酒で酔うことはないみたい」

「あっ、そうか。でも、それじゃあ、ただの水と変わらないんじゃない?」

「う~ん、そんな事はないと思うよ。味がわからないわけじゃないし、このお酒がすごく美味しいってことはわかるもの」

「ああ、なるほど。それなら良かったよ」


 精霊であるリサにアルコールは効果がないようである。

 しかし、味の方はきちんと把握できているらしい。

 よくよく考えてみれば、料理やお菓子を美味しそうに食べているところを今まで何度も見てきたわけであるし、言われてみれば納得の答えではあるが……


「それなりにいいお値段のお酒を持ってきたんだから、水と同じように飲まれたらたまらないわよ」


 リサとそんな会話をしていると、それまで少し距離を取っていたサクヤも話に加わってくる。


「それなりにいいお値段?」

「そっ。それなりにいいお値段」


 それがいくらなのか気になったが、それ以上は踏み込まない。

 こういう反応をする時のサクヤは絶対に答えてくれないからだ。

 それに、言われなくても高価なものであるというのは十分察せられる。


 サクヤは街でも有数の商家の娘であり、その金銭感覚はちょっと独特。

 いや、商人の考え方としては、それほどおかしくないのかもしれないが……

『お金を無駄に使ってはならない。だが、必要な時にお金を使う事を惜しんでもならない』

 子供の頃からそんな教えを叩きこまれたサクヤのお金の使い方は、庶民の僕らからすると理解が及ばないところがあるのだ。

 とはいえ―――


「まあ、景気づけよ、景気づけ。これから一旗揚げようって時に、安酒なんて飲んでちゃダメなのよ。これぐらいのお酒、いつでも飲めるぐらいにならないとね」

「ああ、そうだね」


 今日のパーティーはリサの誕生日を祝うものであったが、同時に僕らが冒険者として本格的に活動を始める門出を祝うものでもあった。

 そういう意味からすると、サクヤの言う事も理解できる。

 少なくともこの時の僕はそう思っていたし、サクヤの心意気を無下にはできないと、飲みなれていないお酒を一気に煽る。


「よーし、今日は飲もう!徹底的に飲もう!」

「うん、そうこなくっちゃ!」

「わーい、私も飲む~」

「るーくんがそういうなら私も~」


 だから、それがサクヤたちの仕掛けた()であると僕は気が付かなかった。

 そして、気が付いた時には―――



「るーはこの中で誰が一番好きなの?」

「ルドナちゃんは誰を選ぶの~?」

「るーくんは誰が好きなんですか?」


 僕は3人の幼なじみに詰め寄られていた。




◆◆◆




(どうしてこうなった!?)


 当初、僕の頭の中はそんな意味のない疑問でいっぱいだった。


「るーくんは誰が好きなんですか?」

「いっ、いや、急にそんな事を言われてもね……」


 再度の問いかけにも言葉を濁す。


「また、そうやって誤魔化して~。男のコなんだから、はっきりしなしゃい~」

「はっきりしろって言われても……」


 いつも僕の味方をしてくれるミントも今回ばかりは追及する側に回っている。


「ミントの言うとおりね。いい機会だし、そろそろはっきりさせたらどう?るーがいくら鈍くても、私たちの好意に気が付いていなかった……なんて事はないわよね?」

「……うっ……」


 まあ、そうなのだ。

 僕だって、そこまで馬鹿ではない。ずっと一緒にいた大切な幼なじみたちの好意に気が付かないわけがないのだ。

 しかし、だからこそ僕はそれに気が付かない振りをした。

 僕にとって3人は本当に大切な幼馴染であり、そこに順番なんてものはつけたくなかったからである。

 だから―――


「……僕は3人とも大切な幼なじみだと思っているし……3人とも好きだよ」


 僕の答えはそれしかない。

 しかし、3人は納得しない。


「ふ~ん……幼なじみ、ね」

「そんな事はわかっているよ~。でも、今はそういう事を聞いているわけじゃないの~」

「るーくんは……それ以上の関係を求めていないの?」


 なので、僕も覚悟を決める。

 普段ならもう少し慎重になっていたと思うのだが、お酒も入っていたし、少しばかり思考が短絡的になっていたのだ。


「あ~、もうっ!そこまで言うんならはっきり言うよっ!僕は皆が好きだっ!ミントもサクヤもリサも好きだ!だから3人と付き合いたいし、結婚もしたいって、そう考えているよ!」


 半ばキレ気味に3人に告げる。

 少々情けない話ではあるのだが、勢いに任せないとこんな事は言えない。

 だが、僕の紛れもない本心からの言葉。


「………」

「………」

「………」


 それを聞いた3人は暫し言葉を無くしていた。

 だから、僕も急速に冷静になる。


(や、やっちゃった!?)


 思わずそんな事を考えた僕であるが―――


「……やっと言ったわね……」

「え?」

「何年、るーの幼馴染をしていると思っているのよ。るーの考えそうなことぐらい、私たちにもわかるわよ」

「えっと……」

「るーくんならそう言うと思っていたよ。それでも口にしてもらえて嬉しかったけどね」

「まあ、そうね。ミントなんて魂抜けちゃっているし……」


 そんな返事でも3人は喜んでくれたらしい。


「え?いいの……?」


 それが信じられなくて、僕はそう問いかえす。

 すると、サクヤがそれに答える。


「良いか悪いかで言われれば、良くはないわよ。私だって自分一人を選んで欲しいって思いはあるわけだし。でも、るーの気持ちもわからなくはないし、絶対にダメってものでもないのよ」

「そ、そうなんだ……」

「というか……るーが冒険者になろうって思ったのもそのためでしょ?世間に認められるような一流の冒険者になれば、奥さんが3人いても暮らしていけるだけの稼ぎがあるって」

「そ、そこまで読まれていたの?」

「当然よ。そうでなきゃ、私やミントが冒険者になる理由なんてないじゃない」

「そ、そうか……」


 両親が共に元冒険者であった事もあり、僕は子供の頃から冒険者という職業に憧れていた。

 だが、実際に冒険者になろうと思った一番の理由は、誰でも富と名声を手にするチャンスがあるからだ。

 富と名声―――しっかりとしたバックボーンさえあれば、嫁が何人いたとしても世間的には認められる。

 様々な種族が混在しているこの世界には多種多様な文化があり、結婚の在り方もいろいろとあるのだが、僕たちが暮らす『ユナニア王国』はそのあたりが割と寛容で、『当事者同士が納得しているのなら、それでいいんじゃないか?』という風潮であった。

 もっとも、寛容だからと全てが許されるわけではないし、周りからちゃんと認められるかどうかはまた別の話となるのだが…… 


「るーとしてはFランク―――見習いになったばかりで大口は叩けないって考えていたんでしょうけど、少しは待つ方の事も考えて欲しかったわよね。たとえ口約束であったとしても、それがあれば私たちは十分だったのに」

「……ごめん」


 サクヤの言葉に思わず頭を下げる。

 僕としてはもう少し目処が立ってからと考えていたが、よくよく考えればそれも僕のつまらない見栄である。

 責任も取れないのに軽々しく口にできないと、責任を負うことから逃げていただけ。それも自分の都合のいいもっともらしい理由で誤魔化して……

 そんなふうに密かに一人落ち込む僕であったが―――


「でも、結果的には良かったのかもね。おかげでリサの秘密も守られてきたわけだし―――」

「え……?リサの……秘密……?」


 続けられたサクヤの言葉に意識が浮上する。

 もっともその言葉の意味はよくわからないのだが……


「だから、るーの考えている事ぐらいすぐにわかるって言ったでしょ?じゃあ、それがわかっているのになんで私たちが今までなにもしてこなかったと思う?」

「え……ええと……」

「その方が私たちにとっても都合良かったからよ」

「……都合が……良かった……?」

「サクヤちゃん。そこから先は私が自分で言うよ」


 首を傾げる僕の肩にリサが手を置く。


「えっとね。私、本当は―――世界樹なの」

「……え?」

「世界樹……ユグドラシルって言えばわかるかな?」

「ユグ……ドラシル……?ユ、ユグドラシル~~~~~~っ!?」


 驚きのあまり思わず大声で叫んでしまった僕であるが、それぐらい衝撃的な内容だったのだから仕方がないと思う。





1章の終わりまでは毎日更新していく予定です。

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