邪竜討伐のその後
邪竜を倒した僕らは、神様たちに報告を入れた後、それぞれの家に戻る。
いつもの訓練とは違い、邪竜と戦っていたのは通常世界の出来事なので、戻ってきたのは夜が明ける頃であった。
故に―――僕はそのままベッドで眠る。
後のことはマリサ様やアバン様に任せた形である。
本来であれば、邪竜を討伐したことを冒険者ギルドに報告するべきなのだろうが、それをするとリサや神様たちの事も話さなくてはならなくなるので今回はナシ。マリサ様たちから父さんたちに話はいくかもしれないが、それも表に出る事はないと思うので、僕らの活躍は闇に葬り去られるのだろう。
大量発生していた魔物がどこに消えたのか?とか、多少は疑問に思われる事もあるのだろうが……実害のない謎は忙しない日常に埋もれていくというのが世の常なのだ。
そんなわけで、布団の中で眠っていた僕であるが―――
ドンっ!
衝撃が僕の腹部を襲う。
そして―――
「るー!るー!遊ぼっ!遊ぼっ!」
僕の眠る布団の上で元気に飛び跳ねる幼女。
「ごめんね、るーくん。このコがどうしてもって聞かなくて……」
「リサ、それに……ニーズ……」
そんな幼女の背後には少し困った顔のリサ。
「ニーズはホントに元気だね……」
「きゃははっ!にーは元気だよ!だから、遊ぶっ!るーも一緒に遊ぶの!」
「やれやれ、しょうがないな……」
遊びたい盛りの子供には勝てないと、僕は苦笑と共に身体を起こした。
ニーズは僕らが倒した邪竜の転生体である。
保持していたエネルギーを全て使い尽くした邪竜は、捕らわれていた意志から解放され、その身の大半を光り輝くマナに変化させ、大気へ溶けた。
残ったのは『魔石』という魔素の一部が結晶化したものだけ。
僕らはそれをリサに持っていてもらうことにした。
邪竜の核となっていた意志―――魂はリサの心が生み出したものである。
そう考えると、邪竜の残した魔石はリサが持っているのが一番いいと思ったからだ。
だが―――リサが魔石に触れたところで、奇跡が起きる。
紫色の魔石が弱々しいながらも光を放ちはじめたのだ。
それを見たリサは気づく。
「え?た、魂が……意志の一部がまだ残っているの……?」
邪竜の核となっていた意志の一部が魔石には残っていた。
あくまで一部……だが、だからこそ、狂気というほど魔素には染まっていない。
「まだまだ遊び足りないみたいですね」
「そういえばリサも大概しつこかったわよね」
「出会った当初は特にね。帰ろうとするとすぐに泣きそうになるし、全然帰してくれないもんだから、母さんに滅茶苦茶怒られることになったんだよなぁ」
そうなるとリサが何を望むのかなんて言うまでもない。
幼なじみである僕らからすれば、なおさらである。
なにしろ、リサはこの世界を作り出した神様の娘。魂さえ残っていれば、それに身体を与えることなど容易い。
邪竜がそのまま復活するとなると問題であるが、魔素の狂気から解放された今ならば教育も可能であるし、リサを止める理由もなかった。
そんなわけで―――リサが自身のマナを分け与える事で邪竜は転生した。
転生した姿は人間の子供に近いが、ギザギザの歯、小さな羽、太い尻尾など、竜の特徴を一部持つ半竜半人である。
ニーズという名前もリサがつけた。
なんでも、どこかの世界のユグドラシルが竜と一緒に暮らしているらしく、その竜の名前から拝借したのだとかなんとか……
ニーズの身柄はリサが預かる事になったので、丁度良かったのかもしれない。
ただ―――
「あははっ。そうしているとまるで本当の親子みたいですね~」
ニーズの身体を抱きかかえた僕にそんな声がかかる。
「リフスもいたんだ……」
「るー様を護るのが私たちの役目だもの、いるのは当然でしょ~?」
「いや、そうなんだけど―――」
声をかけてきたのは、いつのまにかベッドに腰かけていたリフスである。
ただ、リフスは精霊であるから、突然、姿を現した事もそこまで驚くような事ではない。
それが本来の姿なら―――
「……その姿のリフスが突然現れるとやっぱり落ち着かないんだよ……」
「そうなんです?」
「……だって、完全に人間じゃない……」
「まあ、今の私は神人なんだから、姿だけみれば人間ですよね~」
リサの手により『一時神化』したリフスは、未だ元の姿には戻っていなかった。
というのも……
『一時神化』は僕たちを神人にしたパートナーの契約の前段階……仮契約のようなもの。
仮とはいえ、契約は契約なので、リサと契約者の双方の同意がないと執行されないし、一方的に解除もできない。一応、契約にはいくつかの条件があるので、それらが守られないと契約破棄という事もありえるのだが……
リサが『一時神化』を切り札とし、安易に使用しなかった理由がコレ。
一時と言いながら、譲渡したマナを回収するのが容易ではないからである。
もっとも、リサが本当に気にしていたのは、そこから派生する問題にあったのだが……
「るー様はこの姿が気に入らないのです?」
「い、いや、気にいるとか、気にいらないとかじゃなくて―――」
「今までだって四六時中一緒だったのに、やはり人の姿になると意識しちゃうものなんですかね~」
「うぐっ……」
「だとしたら、私は嬉しいですけどね~。るー様の第四夫人の座がグッと近づいてきた感じですし」
「だ、第四夫人って何だよ……」
「いや~、流石の私もリサちゃんたちの間に割り込むつもりはないですよ?」
「そ、そういうことじゃなくてね……」
「……まさか、るー様……ニーズちゃんを第四夫人にするつもりなんですか~?流石にそれは―――」
「そういう事でもないよっ!」
自由気ままな風の精霊らしく、リフスはわりと普段からハチャメチャな言動をするのだが、今回ばかりは聞き流せない。
なにしろ、この場には生まれたばかりの無垢な子供もいるのである。
「はにゃ?だいよんふじん?だいよんふじんって、なーに?」
「あ~、もう!ニーズが変な言葉を覚えちゃったじゃないかっ!」
「ニーズちゃん、第四夫人というのはね。るーくんの四番目のお嫁さんってことで―――」
「リサも何普通に教えようとしているのっ!」
とはいえそれも僕たちらしいといえばらしいのかもしれない。
朝っぱらから騒がしい事この上ないが、それが楽しいというのもまた事実なのである。
もっとも―――
「リサちゃん!抜け駆けはダメですよ!」
「生身で押しかけるのは反則だったはずでしょ!おかげで夢の中で待ちぼうけしちゃったじゃないっ!」
「先に神化したからって、リフスは調子に乗り過ぎっス!アネさんたちの次にご主人様と結婚するのはあたいッスよ!」
……頭を抱えたくなるくらい大変であるというのも、別に間違ってはいないのだが……
1章終了です。あとはデータ的なおまけを投稿します。
2章以降は投稿ペースが落ちると思いますが、週一くらいで投稿できるようにはしたいと考えてます。