表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様たちの冒険  作者: くずす
9章 Bランク冒険者、クラン指名の依頼を受ける
151/155

コウベキオ防衛戦・その5

 僕とホルスさんの戦いに終止符が打たれた頃、コウベキオ近海でもひとつの戦いが終幕を迎えようとしていた。

 もっとも、それを戦いと呼んでいいものか、些か疑問はあるが……


種船(シードシップ)の試運転には丁度良かったね~」

「そ、そうですね……」


 種船(シードシップ)の艦橋でリサを補佐していたルシウスは、引きつった笑みを浮かべながら、内心とは裏腹の言葉を返す。


(十分予想できたことですけど、完全に戦力過多でしたね……)


 海上に浮かぶ幽霊船(ゴーストシップ)は三隻。

 幽霊船(ゴーストシップ)がアンデッドたちの集合体である事を考慮すれば、小国の一師団にも匹敵するような戦力である。

 しかし、相手が神ではどうしようもない。


「【ウィンド・ストーム】」

「【ウォーター・スピア】」

「【ダーク・バレット】」


 種船(シードシップ)の前方に展開したリフス、ネイン、エドの3人が魔法を行使するたびに、幽霊船(ゴーストシップ)は大きく損傷し、大量のアンデッドが霧散してゆく。


(ギルスさんの事もありますし、ルドナ様たちが警戒するのも当然なのですが、今のリフスちゃんたちが()()で戦えばこうもなりますよ……)


 一時神化したリフスたちと幽霊船(ゴーストシップ)では、そもそも保有するマナの桁がひとつふたつ違うのだ。

 本気で戦えばどうなるかなんて、火を見るよりも明らかである。

 もっとも、神クラスの存在が本気で戦える状況というのが滅多にないわけであるが……今回の戦場は海の上。それも見渡す限り海霧に覆われた、人の目が全くない場所。多少派手な事をしても周りに被害を出す恐れは少ないし、誤魔化すのも比較的容易だと思われた。

 だとしても、種船(シードシップ)まで引っ張りだしたのは、明らかにやりすぎだったわけだが……


 細かい事はともかく、コウベキオ近海に陣取っていた幽霊船はリサたちの手で人知れず壊滅させられた。

 そして、それを知らないホルスさんはというと―――




★★★




「くっ、まさか、私がここまで追いつめられるとは……」


 僕に吹き飛ばされたホルスさんは、戦場を放棄し、逃走に移っていた。


(予定通り―――というわけではないけれど、なんとかこちらの望んだ展開に持ち込めそうね)

(際どいところだったけどね。私が力をセーブしていなかったら、あの人、多分、消し飛んでいたわよ)

(うぐっ……た、助かったよ、サリア)

(まあ、仮に消し飛ばしていたとしても、何とかなったと思うけどね。ホルスさんは人造素体(ホムンクルス)なんだから、コアやその中核となる魂さえ無事なら修理が出来るもの。むしろ、そうなっていた方が、話が早く済んで良かったのかもしれないわね)


 もちろん逃げるホルスさんをそのままにはしておけない。

 僕とサクヤ(あと、剣に宿ったサリアもいるが……)は、カズキ君たちにその場を任せ、追撃にはいる。

 もっともホルスさんを海の上に追い立てるのが僕たちの狙いなので、ある程度の距離を保ちながら追走する事になるのだが……


(え?それってどういう事?)

(防衛戦とはいえ、撤退する敵の大将をみすみす見逃すなんてこと、普通はしないでしょ。もちろん追撃するだけの戦力があればという話だけどね)

(でも、こっちにそんな戦力は……あ、いや、1人いるか……)

(竜騎士のアリューさんにはうってつけのシチュエーションでしょ)


 コウベキオ陣営でおそらく最強クラスの騎士であるアリューさん。

 そんな彼が海岸の防衛戦には参加していなかった。

 ただ、それにはそれなりの理由がある。

 竜に騎乗する竜騎士というのはそれだけでも相当な強さを持つが、彼らの最大の強みは空を自由に飛ぶ高い機動性にある。よって、陣地を形成し、集団で守りを固めるという戦い方はあまり適さない。

 竜騎士という特性を最大限に活かす為、ユフィー王女はアリューさんを遊撃部隊として後方に配置し、いざという時の予備戦力の役目も担わせていたのだろう。

 故に、このタイミングでのアリューさんの投入は十分にあり得る事。


(その場合、僕たちはどうするの?)

(やる事そのものは変わらないわよ。ただ、アリューさんが参戦するとなると少し面倒な事にはなるわね。同じ活躍をするなら、他国からやってきた冒険者よりも自国の兵士の方が喜ばれると思うし、ユフィー王女に手柄を立てさせるというのも依頼のうちに含まれていたでしょ?)

(あ~……)

(だから、るーに聞くんだけど……アリューさんとホルスさん、二人が戦ったらどちらが勝つと思う?)

(アリューさんの戦っているところを直接見ていないから確かなことは言えないけど、正面切ってまともに戦うなら、アリューさんに分があるじゃないかな?ホルスさんのメインは死霊魔術師(ネクロマンサー)だと思うし、やっぱり前に出て戦うタイプではないんだよ)

(そうなると問題はホルスさんの【リバース・フィールド】が有効かどうかね……)

(確かにそうなるね。でも、その時は僕たちのフォローに廻ってもらえばいいんじゃないの?)

(その場合はそうね。それで問題ないわよ。だけど、この場合、問題なのは、アリューさんの攻撃がホルスさんに通じた時よ)

(え……?)

(ホルスさん的に言うなら、【リバース・フィ-ルド】は『持たざる者』に効果を及ぼさないんでしょ?)

(あ~……でも、アリューさんもいい歳なんだし、流石にそんな事は―――)

(普通に考えるならそのとおりだけど、アリューさんって、ユフィー王女に子供の頃から好意を寄せられて、何の進展のないまま今に至っているわけでしょ?そうだとすると、彼女と呼べるような存在がずっといなかった可能性もそれなりにあるわよね?自分の仕える主の好意を無視して、女遊びに興じるようなタイプとは思えないし、彼女やそれに近しい存在がいたとしたら、王女様にはっきりと告げているはずよ)

(そう言われると確かに……)

(そこで改めてさっきの問題なんだけど……仮に、アリューさんがホルスさんを倒したとして、私たちは王女様にこの情報を伝えるべきなのかしら?)

(……そ、それは―――)


 サクヤの問いかけに僕は答えを返せないでいた。

 男としては絶対に触れられたくない類の話であるし、出来れば報告はナシとしておきたい。だが、雇い主である王女様に虚偽の報告をするわけにもいかない。

 となると、なんとか当たり障りのない内容に収めて報告するしかないのだが……


(まあ、無難に報告して、あとは成り行きに任せるしかないとは思うんだけどね)

(……それじゃあ、ダメなの……?)

(これが二人にとっての()()()になりそうな気がしてね。仮にそうなったとしても問題があるわけじゃないし、私たちが気をつかう事でもないとは思うんだけど……アリューさんからすると()()()以外のなにものでもないでしょ?)

(あぁ、なるほど。そういう読みなんだ。確かにその流れなら、そんな感じになりそうだし……男としては避けたい展開でもあるね。とはいえそれも、アリューさんの自業自得だと思うけど……)

(そう?私としてはアリューさんに同情するんだけど。あの王女様に狙われた時点で、アリューさんは詰んでいた気がするし……王女様が成人するまでお預けを喰らっていただけでしょ)

(え……?)

(私の勝手な憶測だけど、王女様はるーと似たようなタイプなのよ。だから、自分の欲しいと思ったものは絶対に手放さない。まあ、るーほど欲深くはないし、るーよりもはるかに善良だとは思うけど)

(……なにそれ、悪口?)

(惚れさせるだけ惚れさせておいて、次々と新しい彼女を作るるーが良い彼氏だと思っているの?)

(ゴメンナサイ)

(自覚があるのに改める気がないっていうのもサイテーよね。まあ、それでも嫌いになれないあたり、私も処置ナシなんだけど……そんな私からすると、アリューさんの方に同情しちゃうのよ。絶対に苦労するのがわかりきっている相手に惚れて、そのせいで苦労していると考えるとね……)

(な、なるほど……)


 同じものでも見る角度によって見え方は違う。

 男の僕からすると、立場などいろいろと問題があったとはいえ、答えを先延ばしにしてきたアリューさんの方に非があると思うのだが、サクヤの言う事もわからないわけではない。

 だが―――


(どちらにしても私たちがやるべきことは変わらないわけだし、最初に言ったように、後の事は成り行きに任せるしかないんだけど……)

(ま、まあ、アリューさんにとっても悪い事ばかりじゃないし、そこは諦めてもらうしかないと思うよ。なにより、もう遅いみたいだし―――)


 ―――僕たちが話あっている間に、事態が先に進む。

 波打ち際に到達したホルスさんが足を止め、魔法陣を展開。

 5体のエンヴィーシャークを召喚し、その内の4体を僕たちへ差し向ける。

 向かってきたエンヴィーシャークは明らかに足止め。

 残ったエンヴィーシャークにゲートを展開させ、撤退する腹づもりであったのだろう。

 しかし、その裏をかくように、騎竜(ファム)に跨ったアリューさんが空から強襲。

 魔法を行使した直後であった為か、ホルスさんはわずかばかり反応が遅れる。

 そして―――


(あっ……)

(……ダメージ入ったみたいね……)


 僕とサクヤは揃って、なんとも言い難い表情を浮かべてしまうのだった。





新年あけましておめでとうございます。

年末年始を挟んだ事もあり、ずいぶんと投稿が遅くなってしまいましたが、執筆の方は続けているので、よろしければ今年もお付き合いください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ