コウベキオ防衛戦・その2
「なるほど。エンヴィーシャークの瘴気に幽霊を紛れ込ませ、こちらを混乱させる作戦ですか……」
本来であればユフィー王女の傍に控えていなければいけない執事のギルスは、街に漂う不穏な空気を感じ取り、独自に動いていた。
半神半人である彼にとって、幽霊など敵になるはずもなく、逃げる暇さえ与えずにこれらを処理していく。
そうして、5体ほどの幽霊を仕留めたところで―――
「ようやく本命のお出ましですかね?」
街外れの一角で足を止めたギルスは、姿を見せない相手に声をかけた。
「あらら、気づかれちゃったか。いや、でも、そうでなくてはね」
その声に応え、姿を現したのはまだ年若い男。
ぼさぼさの赤い髪のどこか飄々とした顔立ちの青年は、細身の片手剣と軽鎧を身につけており、一見すると普通の冒険者のように見えた。
しかし、半神半人であるギルスは、青年が身に纏う尋常ではない空気をひしひしと感じ取っていた。
「貴方は何者ですか?幽霊たちを操っていた術者―――というわけではないようですが……」
「ああ、俺はただの雇われ者でね。幽霊たちを排除しにきた精鋭を始末するのが仕事なんだ。まあ、些か個人的な趣味も含まれているけどね」
「個人的な趣味……ですか?」
「アンタ、半神半人なんだって」
「……なに……?」
「軍神と謳われるギルメウスの血を引く半神半人だって聞いているんだけど?」
「……貴様、どこでそれを―――」
ギルスの正体を知る者は当然ながら少ない。
それを知る相手という事で、ギルスの警戒が数段あがる。
半神半人とはいえ、ギルスも神々の一柱であることは違いなく、そんな相手と敵対しようという者が常人であるはずがないと考えたからだ。
だが―――
「ん~。別に教えてやってもいいんだけど、意味ないと思うぜ。どうせ、アンタはここで死ぬんだし。ああ、でも、誰に殺されたぐらいは知らねーと化けて出るかもしれないからな。神様とかそのあたりしつこそうだし、それぐらいはいいか。俺はロイ。神殺しのロイだ」
「なっ!神殺しだと―――」
警戒していたギルスの視界から青年の姿が消える。
男が名乗った『神殺し』という言葉に多少の動揺があったのは事実である。しかし、軍神の血を引くギルスとしては、それでも本来はあり得ない事。
「ぐはっ!」
気が付いた時には青年は自分の懐に潜り込んでおり、その次の瞬間には細身の刀身が自身の身体を袈裟切りにしていた。
「バ、バカな……私の目をもってしても見えなかっただと……」
ギルスは正面に立つ青年を驚愕の眼差しで見つめながら、膝から崩れ落ちる。
「なんだ、意外と呆気なかったな。まあ、でも、半神半人だしな。こんなものなのかもしれないな」
「くっ……」
地に伏したギルスへ青年は無造作に近づき、手にした細身の片手剣を再び掲げる。
血塗られた凶刃が神を打ち倒す喜びに打ち震え、禍々しい輝きを放つ。
「……そうか、お前のその剣が―――」
「あっ、気付いたんだ。軍神の血を引くってのは伊達ではないね」
自身の肉体から血と力が急速に失われる感覚にギルスは思わず歯噛みするも、今の彼にはそれ以外に出来ることがない。
半神半人であるギルスは、その名が示すように神と人間の中間のような存在である。普通の人間と比べればはるかに強靭な肉体を有しているものの、他の神々と比べると肉体への依存度が高い傾向にあり、肉体の消失は自身の存在に大きな影響を及ぼす可能性が高かった。
まして、青年が手にしている細身の片手剣は普通の武器ではない。
「そう、コイツが俺の相棒、神滅剣・コガミ。アンタら『神』の天敵だ」
神を滅ぼす刃はギルスの魂さえも蝕み、その存在を消失させた。
書き溜めていた分がなくなったので、今後の更新は不定期となります。