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神様たちの冒険  作者: くずす
9章 Bランク冒険者、クラン指名の依頼を受ける
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リノタ帝国のお家事情

新章、開始……と言いたいところですが、実はいろいろな事情から執筆が滞っています。

ですが、初投稿から1年という節目であったので、何かしらは投稿したいと考え、とりあえず書き上げていた分だけでも投稿する事にしました。

なるだけ早く続きを投稿する予定ですが、暫くの間は更新が不定期になると思います。

「まさかお前が一番に離脱することになるとはな……」


 豪奢の衣装をまとった壮年の男性が蓄えた口ひげを弄りながら告げる。

 男の名はイルトカ=シユ=リノタ。

 アシリア大陸の中央を押さえるリノタ帝国の現皇帝である。


「何をおっしゃるかと思えば、父上もとうに分かっていたことでしょうに。私は皇帝にはなりませんよ、向いていませんしね」


 その皇帝に答えたのは、いかにも貴公子という装いの若い男。

 リノタ帝国第三王子、ザイオン=シユ=リノタ。

 やや芝居がかった仕草であるものの、それすらユーモアと思えてしまう当たり、自分の見せ方を心得ているのだろう。血の繋がる父親とはいえ、皇帝を前に堂々とした振舞いは見事としか言いようがない。

 まあ、二人がいる場所は皇帝の私室であるし、今は親子として向かい合っているので許されているだけなのだが……


「お前が向いていないのであれば、儂などどうなる」

「いえいえ、父上はたいした御方ですよ。この30余年、立派に皇帝としてつとめていらっしゃるのですから。私でしたらとっくに投げ出しております」

「まあの。決断力は皇帝には欠かせん資質だが、ギャンブラーには決して任せられんわな」

「私の才は王の補佐にて輝く類のものでしょう。切れすぎる刃にはそれを抑える鞘が必要です」

「ヨナン(第一王子)やショーン(第二王子)では不足だと?」

「不足ですね。もちろん今の段階であればということですが」

「だから、国を出ると……」

「そういうことになりますが、私もこの国で生まれ育った皇族です。最低限の義務は果たすつもりですよ」

「レスファリアが身内となれば、その益は確かに多いが……それでもお前を差し出す程か?というと疑問もあるのだがな」

「ははっ。父上にそう言わせただけでも、此度の話を進めた甲斐がありますよ」

「それも仕方なかろう。儂は皇帝で、お前たちは皇帝の子供だ。そう易々と褒めることはできん」

「わかっておりますよ。皇帝の孤独は。だからこそ、私には務まらないと悟ったわけですしね。やはり、私は誰かの補佐役が精一杯なのでしょう。ということで、『陛下』にひとつ献策を致したいのですが―――よろしいですか?」

「ふん。何をいまさら。もとよりそのつもりであったのだろうが。よい、言ってみろ」


 息子の言葉に皇帝は一度外した仮面をつけなおす。

 帝位争いから自ら身を引いたとはいえ、王子は王子。皇帝の『臣下』の1人というのは変わらない。

 その献策に耳を貸す以上、父親のままではいられないのだ。


「では、御恐れながら……私が抜けた帝位争いですが、後3年は続けられますよう……」

「何?」

「もちろん最終的に『決』を出すのは陛下でございます。そこに口出しをするつもりはありません。ですが……今の段階で慌てて決断を下せば、必ずや後悔致しましょう」

「……ヨナンやショーンはそこまで足りぬか?」

「いえ、そうではありません。兄上たちも父上のコ。帝位を継ぐだけの技量は持ち合わせていると思われます。ただ、それは他の弟妹も同じ。そして、私が()()()()帝位争いから離脱できるのは、私以上に皇帝の素質を持つ者がいるからでございます」

「ほう。お前が認めるものが下の中にもいると?それは誰だ?」

「第三王女、ユフィーです」

「……ぬ……」


 その言葉に皇帝は思わず眉間に皺を寄せる。

 それほどザイオンのあげた名は意外なものであった。

 だが―――


「あれはまだ15になったばかり。それに女であるぞ」

「年齢も性別も問わないのが帝国の帝位争いであったはずですが……」

「そんな事はわかっておるわ。だが、あれに皇帝が務まるはずが―――」

「―――ない……というのは早計かと。いえ、『並』の皇帝をお求めであれば、それもあながち間違ってはおりませんが……」

「何ぃ?」

「父上もおっしゃったではありませんか。私は生粋のギャンブラーですよ。ほどほどの勝負では熱くなれません」

「ちっ、生意気なヤツめ……で、その真意は何だ?」


 完全に思慮の外の名。

 皇帝としては自分に見る目がないと言われたも同然で、やはり面白くはない。

 だが、だからこそ、その真意を確かめずにはいられない。


「無難な皇帝をお求めならば、ヨナン兄上で十分でしょう。あの人は父上に最も近い。多少、甘いところはありますが、そこは仕方がありません。長子として生まれた分、帝位争いでは常に優位を築いてきたのですから。それで物足りぬというのなら、ショーン兄上という選択肢もあります。ですが、いささか武に偏重しすぎる悪癖があります。そこを矯正しておかねば、一時は版図が拡大しても、最終的にはそれ以上を失うことになるでしょう」

「……ユフィーであればどうなのだ?」

「それはこれからにもよりますが……最上はユフィーであると確信しております。少なくとも、私はソレに賭けて、此度の事を決めましたから」

「なんだと……?」

「ユフィーのあの性格では領土拡大は望めないでしょう。ですが、あのコであれば、帝国を今以上に強き国に導くことができるはず。100年……いえ、500年後も名を残すような強靭な国家に……です」

「……なるほど。それが出来るのであれば、確かに最上であろう。だが、その根拠はなんだ?兄としての贔屓目などではないのであろう?」

「根拠と言えるほど確かなものはありません。ただ、ユフィーの諦めの悪さは父上もご存じでしょう?あのコは一度心に決めた事を決して諦めたりしません。で、あるならば……『兄弟姉妹、皆で仲良く帝国を盛り立てる』という子供じみた夢も同じではないですか?」

「な……に……?」

「血で血を洗う帝位争いにおいて、これほど馬鹿げた理想論はありません。ですが、それを成し遂げたとしたらどうです?ヨナン兄上であれ、ショーン兄上であれ、もちろん弟や妹も、時が時なら皇帝になれる器です。それらを全てまとめあげる至高の女帝……出来ることなら見てみたい……そう思うのも仕方がないでしょう?」

「………」


 ザイオンの言葉に皇帝は暫し言葉を無くす。

 それほどまでに、ザイオンの―――ユフィーの理想は馬鹿げたものであった。


「……ユフィーの甘さに染まったわけではあるまいな……?」

「影響は受けましたし、甘くなったと言われればそれも否定しづらいですね。ですが、必ず負ける勝負を受けるギャンブラーはいません。リスクとリターンを天秤にかけ、勝負に行く価値があると判断したから、賭けに挑むわけですしね」

「なるほど、な。しかし、帝位争いは帝国の未来を決めるもの。博打など軽々に出来るはずもない」

「もちろんそれはわかっております。だから3年と申し上げたのです。3年でユフィーに芽が出ないようであれば、大人しくどこぞの騎士にでも嫁がせてください」

「……むっ……あやつはあれでも皇族なのだがな……」

「ユフィーを諦めさせることが出来るのなら、そうすればいいと思いますよ。ですが、説得は父上が行ってください。皇帝にも出来ないような無理難題を押し付けられてはその者が不憫ですからね」

「ぐっ……」


 だが、ユフィーの『一度心に決めた事を決して諦めたりしない』という点も皇帝はよく知っている。

 というか……


「いくら命を助けられたとはいえ、6歳の娘が9年間も一途に思い続けるとか、果たしてどうなのだ?」

「純愛といえば純愛ですが、いささか狂気も感じますね。歳も17離れていますし、身分差もあります。普通であれば、繋ぎ止めておくことなどできないでしょう」


 それはそれで頭の痛い問題である。

 ただ―――


「それも根拠のひとつということか……」

「近衛から降格したアリューを自分専属の竜騎士にした手腕は見事なものでしたからね」

「……褒めるな。あれは子供の我儘に過ぎん。だが、資質は資質……か……」

「そうですね。欲しいものを手に入れる『力』。それも皇帝には必要なものでしょう。そして、当代一の竜騎士をユフィーが手にしているというのも事実です。もちろんそれだけで何が為せるのかと言われてしまえばそれまでではありますが―――」

「わかった。いずれここを去るお前の最後の願いだ。一応、気にかけておくとしよう」


 皇帝はそう結論づけて、第三王子との会談を終えた。





前書きでも記した通り、暫くの間は更新が不定期になります。

(少しずつ書き進めているので、そこまで間があくようなことにはならないと思いますが、定期更新を確約するのが難しい状況です)

とりあえず、書き溜めている分がある間は3日に一度くらいで投稿しようかと思っています。

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