ちょっとした過去話・その4
サクヤの元にユウナの訃報が届けられたのは冬の最中であったという。
だが―――
「私たちがそれを聞かされたのはもっと後の事でしたけどね」
「え?」
「サクヤちゃんは意地っ張りですし、弱ったところを簡単に見せる人でもないですから……」
「あ~、なんとなくわかるわ」
ミントの言葉に一度は疑問を抱いたイレーナであるが、続いた言葉に即座に納得する。
「あと、私やルドナちゃんはそのコと面識があったわけではないですし、伝える必要があるかといわれると……」
「……なるほど」
当時のサクヤは表面上繕っていたが、ルドナもミントもサクヤの覇気の無さにすぐに気づいた。
子供であったルドナたちに何が出来たかと問われると難しいところではあるが……身近な者を亡くし、落ち込むサクヤを二人はなんとか元気づけようとした。
そして、それが功を奏しだした頃―――最後の幼なじみとなるリサが三人の前に現れる。
「私が今のような人の姿を得たのもその頃だね。だから、サクヤちゃんも色々と複雑だったと思うんだ」
「複雑?」
「だって、私は世界樹だよ。それにパパとママはこの世界を作り出した神様。言い伝えにあった精霊の王も多分―――」
「あっ……」
「もう少し早くリサさんと出会えていたら、そのコを助けられていたかもしれない……ですか……」
「……たられば、ね……そもそも神の慈悲は気まぐれ……当てにしてはいけない……でも―――」
「それで納得出来るようなら、誰も苦しんだりしないでしょうね」
◆◆◆
海と港町を一望できる小高い丘の上の公園。
そこから少し離れたところに目的の墓地はあった。
いくつか並ぶ墓標の中から墓守さんに教えられたお墓の前に。
花を供え、黙祷する。
僕は墓標に刻まれたユウナ=ヤシノという女のコの事をほとんど知らない。
知っているのはサクヤの親友であった事と、あの『子犬』―――アオと呼んでいたブルーウルフの子供の飼い主であったことぐらい。
だから、彼女に話すことも少ない。
自己紹介とサクヤとの関係……あとは『アオが今どうしているのか?』と問いかけたぐらい。
目を開けるとサクヤはまだ黙祷中。
親友同士だったわけだし、なにより数年ぶりの対面である。
話すことは尽きないのだろう。
サクヤの隣で二人の語らいが終わるのを待つ。
「……お待たせ」
「もういいの?」
「ええ」
その時間は思ったよりも短かった。
「言いたい事は言ったし……これ以上挑発すると化けてでてくるかもしれないものね」
「化けて出るって……」
「彼氏を見せつけて、散々自慢したところだもの。あのコなら化けて出てきてもおかしくないわ」
そう言って、サクヤは僕の腕に抱き着いて来た。
「なるほど」
「じゃあ、行きましょう。貴重な二人きりの時間なんだから、目一杯楽しまないといけないわ」
湿っぽい時間は終わりとばかりに宣言するサクヤ。
「……ああ、それが狙いだったのね……」
そんなサクヤのらしい姿に、僕は再度頷く。
サクヤがサクヤらしくあろうとするなら、僕もそれに答えるべきだと思ったのだ。
もっとも、『どこまで答えるか?』という難しい問題もつきまとうわけだが……
◆◆◆
「むぅ~~~~」
「あれ?ニーズちゃん、どうしたの?」
食堂で話し込んでいたノアたちは、厨房から顔を出したふくれっ面のニーズに気がつき、声をかけた。
すると―――
「なんだか嫌な予感がするのだ」
「嫌な予感?」
「サクヤがまた抜け駆けしているのだ……」
「い、いや、あのね……」
「サクヤちゃんはルドナちゃんと友達のお墓参りに行っているだけだから―――」
「お墓参りなんてすぐに終わるのだ!るーとお泊りする必要なんてないのだ!だから絶対抜け駆けだと思うのだ!」
「えっ……」
「あれ……?」
「それは……」
「転移ですぐに行けるなら、転移ですぐに帰って来られるのだ!皆、サクヤに騙されているのだっ!」
「騙されているって……」
「……あはは……まさか、そんな……」
「いや……サクヤちゃんならありえるかも……」
ニーズの言葉に全員が流され始める。
ただ、ニーズの言う事もあながち外れてはいない。
出発前の神妙な態度とそれを生み出した背景を考えれば、ニーズの言葉は邪推ととれるかもしれないが……賭けを持ち出した時のサクヤの様子を思い出すと、ニーズの言っている事の方が正しいように思えてくる。
というよりも―――どちらも正解というのがこの場合は正しい。
サクヤはそれぐらい強かな女のコなのだ。
この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。