ちょっとした過去話・その1
模擬戦をした次の日、僕とサクヤはサクヤの親友のもとへと向かう事にした。
具体的には『リノタ帝国』の『コウベキオ』が目的地で、一泊二日の旅。
もちろん移動はサクヤの転移魔法である。
『リノタ帝国』の『コウベキオ』は帝国の南方に位置する港町。
交易が盛んで、僕たちの住む『ユナニア王国』だと『ジョイヨーク』や『クコ』といった海沿いの街には定期船なんかも出ている。
街の規模は僕たちの住む『シーケ』よりも少し大きい程度だが、商業が盛んなだけに人の往来は活発。
いや、『シーケ』も活気のある街ではあるのだが……
冒険者を中心に成り立つ『シーケ』と商人を中心に成り立つ『コウベキオ』では賑やかさの質が違っていて、都会的なイメージが強い『コウベキオ』の方がなんとなく人が多いように感じられたのだ。
―――で、そんな街中をサクヤと二人で歩く。
「結構かかったね」
「転移魔法による入国は審査が厳しいもの。日帰りにしなくて良かったでしょ」
「確かにね。それで今日の宿は?」
「衛士さんからおすすめの宿を聞いておいたわ。東街の大通りにある赤い屋根の建物で―――」
時刻はお昼過ぎといったところで、今晩の宿を確保したあと、食事も済ませる。
その後は再び街に出て少し買い物。
準備を整えた後は馬車を手配し、街外れの丘へ。
海と港町を一望できる小高い丘の上……そこが彼女との待ち合わせ場所だった。
◆◆◆
ルドナたちを見送った後、ノアはいつものように『銀のゆりかご亭』で働いていた。
すると、食堂の片隅でなにやら話こんでいる一団を見かける。
メンバーはリサ・ミント・サヨ・イエリス・イレーナの5人。
当然、何を話しているのか気になったノアであるが、仕事の手を止めてまで聞きに行くというのも気が咎めたので、そのままそこを通り過ぎようとした。
しかし―――
「本当に良かったの?二人きりで旅行なんて」
「まあ、約束は約束ですし……」
「サヨさんたちも?」
「……私も別に……」「別に気にしない」
「でも、それはおかしいわよね?いくらサヨさんがサクヤちゃんの系統神でも、二人きりの旅行を認めるなんて。サヨさんやイエリスさんも一緒というのならまだわからなくもないけど」
「そ、それは……」
「何か隠しているでしょ?」
「え、ええと……」
―――なんて話が聞こえてくると、やはり足を止めてしまう。
だからノアも「どうしたの?」と声をかける。
すると、分かり易く狼狽えていたサヨが一瞬助かったという顔をする。
ノアの登場で話を有耶無耶にできるのではないかと期待したのだろう。
だが、そこはイレーナ。
即断即決で生きるイレーナはこういうところで躊躇したりしない。
それ故、サヨは追い込まれるのだが……
「仕方がないですね、私がお話しますよ」
そんなサヨを見かねて、ミントがやれやれといった態度で肩をすくめる。
「……いいんですか?」
「もともと隠すような事でもありませんからね。ただ、それほど楽しいお話……というわけでもないですよ」
そこから始まったのは昔語り。
ルドナ、ミント、サクヤ、リサ―――四人の幼なじみが幼なじみになるまでの……そして、その間を繋いだ『女のコ』と『子犬』の物語。
この章が終わるまで、毎日投稿する予定です。